第2章 不良債権問題と日本経済の実力


第2章のポイント

第1節■増え続ける不良債権

  • 新規の不良債権の発生が続き、不良債権残高が増え続けている(推計:年間約10兆円処理、約10兆円新規発生→残高約30兆円強で高止まり)
  • 不良債権処理費が銀行の本業の収益を上回り、銀行収益が実質上の赤字となっていると考えられる。当面、銀行収益の圧迫は続く
  • 不良債権処理費の実績は、計画を大幅に上回る
  • 不良債権の54%が不動産、建設、卸小売の3業種に集中。最近では製造業の不良債権も拡大
  • 新規発生の要因:長期の景気の低迷が背景にある中で、以下の3点が重要。(1)3業種は土地保有多く、地価下落の影響大。(2)景気低迷に加え産業構造調整圧力が強まる中での業績の格差。(3)金融機関による査定厳格化
  • 企業の過剰債務の試算=約70兆円(債務残高全体:約400兆円)

第2節■不良債権・過剰債務は日本経済の重し

  • 不良債権問題は、次のルートで経済成長を押し下げている
  1. 銀行収益圧迫による金融仲介機能の低下(貸出需要の低迷とあいまって、貸出は年率2%減少、貸出態度D.I.は金融緩和局面にもかかわらず低い水準(中小企業は依然マイナス)、不良債権処理に人をとられ、前向きの仕事ができない)
  2. 低生産性の分野に労働力・資本などの経済資源が停滞(90年代、収益低迷が続いた不動産業への貸出は大幅増:85年比で2倍強(90年)→3倍近く(98年)
  3. 金融システムへの信頼の低下による企業・消費者の慎重化(現在、金融機関破綻により預金を不安視する人=5割超、消費を手控える人=2割)
  • 過剰債務問題は、企業の設備投資を減退(90年代後半の設備投資を8%押し下げ)
  • 必要な対応:(1)不良債権の抜本的な処理、銀行の収益基盤の確立。(2)構造改革による経済活性化が不良債権新規発生を抑え、これをサポート

第3節■構造改革で高まる成長

  • 10年間の低成長の結果、日本の潜在成長率は大幅に低下。今後2~3年の日本の潜在成長率は1%程度。非製造業の生産性低下が顕著
  • 構造改革が完了すれば、中長期的な潜在成長率は、2%程度ないしそれ以上達成可能
  • 現在のGDPギャップは3~4%程度(98年不況当時は4%)

構造改革によって、企業の将来展望を拓く(=期待成長率を高める)ことが必要。期待成長率の高まり→設備投資・個人消費の拡大→成長率の高まり(推計:期待成長率1%上昇→現実成長率0.5%程度上昇)

第2章 不良債権問題と日本経済の実力

政府は、本年6月に「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)を閣議決定し、21世紀において日本が目指すべき経済社会の姿とそのための基本方針を明らかにした。「骨太の方針」においては、不良債権問題について今後2~3年以内にオフバランス化することを明らかにした本年4月の緊急経済対策の内容を受け、不良債権問題の解決を経済再生の第一歩と位置付けている。その後、政府は具体化を進めるため、今後の構造改革を進めるための手順・道筋を「改革工程表」としてとりまとめるとともに、そのうち先行して決定・実施すべき施策を盛り込んだ「改革先行プログラム」をとりまとめ、RCCの機能を拡充させるなど不良債権処理の具体的施策を確実に進めている。

本章では、まず第1節で、不良債権問題の現状を分析した後、第2節で、不良債権問題が日本経済の成長の重しとなっているメカニズムを明らかにしたうえで、「骨太の方針」などで示された不良債権の最終処理と企業の再生が、日本経済が10年の低迷から脱却するために不可欠であることを示す。さらに、第3節では、長期低迷の結果として、現在の日本経済の潜在成長力はかなり低下していることを示し、今後不良債権問題を抜本処理し、構造改革で日本経済の実力を開花させた場合、日本経済の潜在成長力がどの程度高まるかを展望する。