第1章 力強い景気回復の条件

第1章のポイント

第1節■短命の回復から再び景気後退へ

  • 99年春以降の景気回復は短命に終わり、再び景気悪化:なぜか?
  • 今回の回復の特徴=外需依存+IT依存(好調だった米国・アジア経済/IT依存度は輸出3割、生産6割、機械受注8割)
  • 設備投資の回復は脆弱← IT中心、能力投資増加せず、非製造業伸びず
  • 消費低迷← 所得伸び悩み、雇用情勢悪化(雇用のミスマッチ拡大→5%の失業率のうち4%弱が構造的失業率)
  • 不良債権・過剰債務が日本経済の重しとなっている

第2節■デフレの進行と金融政策

  • 日本経済は、緩やかなデフレの状態にある。CPIでは2年前から、GDPデフレータでは90年代半ばからデフレ状況。日本経済にとっても、他の主要先進国にとっても戦後初めての経験
  • デフレの要因は、(1)安い輸入品増大、IT等の技術革新、流通革命等の「供給面の構造要因」、(2)景気の弱さからくる「需要要因」、(3)銀行の金融仲介機能低下による「金融要因」
  • 企業は過剰債務、銀行は多額の不良債権を抱えている→程度が緩やかであっても、デフレは日本経済に悪い影響
  • 「良いデフレ論」は問題あり。現在発生しているのは、中国からの輸入の拡大、ITによる個別価格の下落(「相対価格」の変化)だけではなく、「一般物価水準」の下落(デフレ)である。デフレは経済に悪影響
  • デフレの悪影響→ (1)過剰債務を抱えた企業の債務負担の増加、(2)実質金利や実質賃金の上昇による企業の収益圧迫、を通じて企業の設備投資を抑制
  • 金融政策は、現在の経済を全快させる万能薬ではあり得ないが、日本銀行はデフレ圧力を和らげるためのさらなる施策を積極的に検討すべき段階にあると考えられる

第3節■景気の先行き

  • 可能性の高いシナリオ=日本経済は2002年度後半にかけて回復への動き、しかし、その回復力は当面弱い
  • 景気回復のきっかけ=(1)輸出の回復、(2)自律回復力(在庫調整の終了、設備投資回復)、(3)「改革先行プログラム」を始めとする構造改革の効果発現
  • 当面回復力が弱いのは=潜在成長率が1%程度と低い+企業や消費者の期待成長率が低迷を脱するまでには時間がかかる
  • 下方リスク=テロの悪影響(米国経済の回復が大幅に遅れる場合、日本経済の回復も2002年度後半より遅くなり、経済停滞が長期化する可能性)

第1章 力強い景気回復の条件

日本経済は、99年春以降緩やかに回復していた。しかし、景気回復力は非常に弱く、その結果回復は短命に終わり、戦後最短の景気回復局面であった可能性が高い。このように景気回復が脆弱で、再び景気悪化に陥っているのは、一体何が原因なのだろうか。今後景気回復を実現するためには、まずこの疑問を解明した上で、成長を阻害する要因を除去するための処方箋を検討する必要がある。第1節では、このような観点から、景気回復から景気悪化に至る99年春以降の日本経済の動きを検証し、その特徴を明らかにして、景気回復が脆弱に終わったメカニズムを解明する。

最近の景気動向における際立った特徴の1つは、デフレの進行である。現在、日本経済は緩やかなデフレの状態にある。これは戦後の先進国において他に例がない極めて特徴的な現象である。デフレはなぜ生じているのか、現状のデフレは「良いデフレ」なのだろうか。また、デフレを解消するための金融政策の課題も検討しなければならない。第2節では、こうしたデフレの諸問題を解明し、金融政策の対応を検討する。

こうした景気動向の詳細な検証を踏まえ、第3節では、経済分析的視点から、経済の先行きについて参考となる情報や考慮すべきポイントを提示する。

政府は、構造改革の断行を掲げ、さまざまな施策を推し進めつつあるが、本章での分析を通じて、なぜ痛みを伴うような構造改革を断行する必要があるのかが明らかになる。