はじめに

長期低迷にあえぐ日本経済

日本経済は、バブル崩壊後の10年間もの長きにわたり低迷を続けている。この間、戦後の日本経済を支えてきた日本的な雇用慣行や企業システムにきしみが目立ち始め、国民の経済社会の先行きに対する見方に閉塞感が広がっている。99年春からの回復は短命に終わり、2001年に入ってから景気の悪化が進行している。9月には、米国で大規模テロ事件が発生し、世界経済の一層の減速が懸念されており、日本経済の先行きに対する不透明感が強まっている。

政府は、90年代の経済低迷に対応して、度重なる景気対策を打って、公共投資などの政府支出を拡大してきた。その結果、低成長や減税で税収が落ち込んだこととあいまって、財政赤字は大幅に拡大した。しかし、民間需要の持続的な回復にはつながらず、停滞する経済を引き上げることはできなかった。

そもそも、なぜ日本経済は低成長に陥っているのであろうか。日本経済の長期低迷には、当然複合的な力が絡み合っているが、なかでも次の2つの下押しの力が重要であると考えられる。

第1に、我が国の銀行は未だに多額の不良債権を抱えている。長期の経済低迷が不良債権問題を悪化させているが、同時に、不良債権問題が日本経済の成長を妨げている。

第2は、経済低迷が長期に続いた結果、企業と消費者が将来展望を開けない状態になっており、そうした企業と消費者の「弱気」が、現実の経済の弱さを生み出している。「不景気が人々の弱気を生み、弱気が不景気を生む」という悪循環に陥っているのである。

このように日本経済がいつまでも停滞から脱出できないでいる中で、我が国財政は、現状のままでは、財政赤字が累積的に拡大して財政破綻に陥るというリスクに直面している。我が国財政のリスクは、日本経済のリスクとして、今後の成長に悪影響を与える。同時に、これまで財政支出は配分が硬直化したまま拡大してきており、経済の貴重な資源が生産的に使われておらず、その面から、我が国財政は既に成長を妨げる要因にもなっている。一方で、社会保障を含む我が国財政の運営に大きなインパクトを与える少子高齢化は、他国に例を見ないスピードで進行している。

構造改革で明るい展望を切り開く

政府は今、構造改革を強力に推し進めている。構造改革は、労働力、資本、技術といった我が国の持てる貴重な資源を、生産性の低い分野から、生産性の高い分野や社会的ニーズの高い分野に移動することによって、日本経済の真の実力を開花させるものである。

1980年代の米国ではレーガン大統領が、英国ではサッチャー首相が、古い規制の撤廃など経済活性化のための構造的な改革を実施し、それがその後の両国の成長基盤となった。また、米国は、80年代から90年代にかけて発生した貯蓄貸付組合や商業銀行の危機を克服し、不良債権問題の重しから開放されて、90年代の長期好況を実現した。欧州は、経済統合に向けて財政再建に取り組み、90年代後半の着実な成長を成し遂げた。我が国も、抜本的な構造改革を推進して、硬直的な経済社会構造を変革すれば、日本経済の持つ潜在力が引き上げられて、将来の明るい展望を切り開くことができる。

本年度報告の構成

本年度の「年次経済財政報告-経済財政政策担当大臣報告-」は、日本経済を再生するためにはどうすれば良いかという観点から、現在の日本の経済と財政が抱える主要な問題を分析する。本報告は、3つの章から構成されている。

第1章は、最近の景気動向のレビューである。特に、99年春からの景気回復が短命に終わり再び景気が悪化しているのはなぜか、日本経済は戦後の先進国経済が経験したことのないデフレになぜ陥っているのか、という疑問に答える。また、現状の景気分析を踏まえて、景気の先行きがどのような展開になるか検討する。ここでの分析で、日本経済の回復力の弱さの背景には、企業と家計のマインドが低下してしまって、日本経済の将来に明るい展望を持てない状況がある、ということが明らかにされる。

第2章では、不良債権問題が日本経済を下押ししているメカニズムを明らかにする。そして、不良債権問題が取り除かれ、同時に日本経済の生産性を引き上げる構造改革を進めた場合、今後日本経済は、どの程度の経済成長を実現できるか検討する。不良債権問題、潜在成長力という構造的・長期的な問題は、第1章で見た短期的な景気動向の底流となっている。

第3章では、経済分析の視点から、我が国財政を分析する。ここでは、?財政赤字を中心としたフロー計数、?資産・負債といったストックの計数、?現在世代と将来世代の受益と負担、という3つの観点から、我が国財政の現状と課題を分析する。さらに、危機的な状況にある地方財政について分析し、地方財政改革の方向性を探る。

本年度報告の3つの特徴

本報告は、戦後54年続いた「年次経済報告(経済白書)」を衣替えしたものである。経済白書の経済分析の蓄積と伝統を引き継いでいるが、その内容は、従来の経済白書とはかなり異なったものとなっている。

内閣府として作成する第1号の今回の報告は、次の3つの基本的な方針の下に作成されている。

(i)「読み手にやさしい(フレンドリーな)」内容

読みやすくメッセージがはっきりした「読み手にやさしい」内容にする。本報告は、経済分析の専門家だけではなく、民間企業や官庁の実務家、中央・地方の議員、学生など、経済や財政の問題に関心のある幅広い国民の各層に読まれることを想定している。従って、本報告の内容は、質の高い分析に裏付けられているが、経済分析の技術的な説明や難解な記述を避け、専門家でない人にも十分読みこなせ、かつ分析の結論がはっきりわかるものにする必要がある。

(ii)経済と財政の総合的分析

日本経済と我が国財政を総合的に分析して、経済財政諮問会議での審議に分析的基礎付けを与える。内閣府は、経済財政政策の基本方針等を審議する経済財政諮問会議の事務局として重要な機能を果たしている。本報告は、経済財政諮問会議による構造改革、マクロ経済政策運営の審議を、客観的な分析でサポートするという役割を果たす。

(iii)「前向きな」分析

今後の経済動向の判断や、新たな政策の企画・立案に役立つ「前向きな」分析を行う。本報告の分析のもとになるデータは、当然、過去から現在までのデータである。しかし、本報告の分析の目的は、単に過去に起こったことを振り返るという「後ろ向きな」ものではなく、将来の日本経済の動向を判断し、また今後の経済財政政策を企画し立案するのに役立つ「前向きな」ものである。

コラム0-1

経済財政諮問会議と構造改革
経済財政諮問会議とは

経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮することを目的として、2001年1月に設置。

現在のメンバー

小泉内閣総理大臣(議長)、福田内閣官房長官、竹中経済財政政策担当大臣、片山総務大臣、塩川財務大臣、平沼経済産業大臣、速水日本銀行総裁、牛尾治朗(ウシオ電機会長)、奥田碩(トヨタ自動車会長)、本間正明(大阪大学教授)、吉川洋(東京大学教授)

2001年6月 「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)の答申(閣議決定(6/26))
2001年8月 「概算要求基準」の審議(閣議了解(8/10))
2001年9月 「改革工程表」の審議(閣議配布(9/25))
2001年9~10月 「改革先行プログラム」の審議(経済対策関係閣僚会議決定(10/26))
2001年11月 「予算編成の基本方針」の審議
2001年11~12月 「中期経済財政計画」の審議(予定)
構造改革に関する主な活動

ホームページで情報公開
経済財政諮問会議
会議配布資料は当日、会議の議事要旨は3日後に掲載