第2章 2024年前半の世界経済の動向(第3節)
第3節 中国の景気動向
本節では、主に2024年前半の中国経済を概観するとともに、家計部門の需要不足の背景や不動産市場の停滞を中心に分析する。
(政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態)
中国の2024年1-3月期の実質GDP成長率は、前年同期比5.3%、前期比年率6.1%と、2023年10-12月期の前年同期比5.2%、前期比年率4.9%と比べて伸び率がわずかに高まり、景気は持ち直しの兆しがみられた(第2-3-1図)。2021年同期比(2022年の感染症拡大の影響を除くための値(年率換算))でも2024年1-3月期は4.9%と2023年10-12月期の4.0%から高まり、潜在成長率120に近い値となった。しかしながら、2024年4-6月期は、前年同期比4.7%、前期比年率2.8%、2021年同期比3.8%と低下し、景気は足踏み状態となっている。
2024年1-3月期に成長率が高まった背景には、政策効果による押上げ効果が考えられる。まず、固定資産投資の内訳をみると、不動産市場の停滞が続く中で、不動産開発投資は大幅な減少が続く一方、2023年10-12月期から1兆元(約20兆円)規模の自然災害対策が実行され、インフラ投資の伸びが高まっている(第2-3-2図)。また、製造業投資の伸びが全体の伸びを大きく上回っている。2021年3月に発表された第14次五か年計画(2021-2025)では「新型インフラ投資」が強調されており、新エネ車の充電インフラの整備促進(2023年6月)等、社会のデジタル化・スマート化・グリーン化を推進する投資の環境整備が進められ、国有企業も含め投資が活発化している。
さらに、自動車販売にも政策による押上げ効果がみられている。2023年8~12月には、各地方で自動車販売のための補助金が企業及び購入者に対して支給され、販売台数が増加した(第2-3-3図)。一方、各企業の販促活動による値引きも活発化したことで、販売額の前年比は、販売台数の前年比を下回った。2024年に入ると、新エネ車減税を除く各地方の支援策はおおむね終了したが、3月の全国人民代表大会(全人代)を受けた新たな支援策(後述)が打ち出されるまでの期間にも、各企業は値下げ販売を続けた。結果として、販売台数は増加しているものの121、販売額は前年比でマイナスが続いている。
財輸出は、2024年に入り、旧正月(春節122)の時期に変動があったものの、6月まで伸び率が高まり、持ち直している(第2-3-4図)。背景の一つには、世界的な半導体需要の持ち直しがあり、集積回路等の増加が顕著になっている。また、中国が新エネ車や太陽光パネルを始めとした品目において、補助金に基づく「過剰生産」により安価な製品の輸出を行っているとの指摘が各国からなされている(本節コラム参照)。鉱工業生産は、こうした自動車販売や輸出の増加を背景に持ち直しており、前年比で高い伸びが続いている(第2-3-5図)。
(家計部門の需要不足が継続)
このように、外需や生産、製造業投資には明るい動きがみられているが、家計の需要はどうだろうか。小売総額(名目)は、2023年は前年のベースの低さから前年比の振れが大きくなっていたが、2021年同月比(年率)では総じて5%以下にとどまった。2024年に入ると、前年比、2021年同月比共に3%前後の低い値123で推移しており、おおむね横ばいとなっている(第2-3-6図)。
消費停滞の背景を確認するため、家計の一人当たり可処分所得・消費支出をみると、トレンド線からの下方乖離が拡大している(第2-3-7図)。消費支出がトレンドに戻る動きにも鈍化がみられるが、可処分所得の伸びは更に鈍い124。このため、24年4-6月期は、消費がおおむね横ばいとなる中でも、消費性向は前年同期よりも高まる形となっている125。結果として、一人当たり貯蓄の増加ペースは停滞している。
一人当たり可処分所得の伸びをみると、感染症拡大の影響が大きかった2020年、2022年に大幅に低下したが、2023年には顕著な回復がみられず、2024年4-6月の伸びは更に低下しており、22年以降続いている不動産市場の停滞を受けてレベルシフト(構造変化)が発生した可能性がある(第2-3-8図)。内訳をみると、給与所得の寄与の縮小に加え、財産所得のプラス寄与がゼロ近傍まで低下しており、不動産市場の停滞の影響がうかがえる。
さらに、給与所得の減少の背景を考察する。雇用環境をみると、都市部調査失業率は、全体では5%台前半でおおむね横ばいとなっている(第2-3-9図)。若年失業率(16-24歳)については、2023年12月値より、学生を除くよう定義を変更して公表が再開されたが、13~15%程度で高止まりしている。新たに公表された25-29歳の値については、6~7%程度と全体を上回る値であり、30歳未満の就業希望者にとって厳しい雇用環境が続いている。
若年失業率の高止まりの背景としては、ミスマッチ失業の増加がある。中国では、急速な経済発展と、いわゆる「一人っ子政策」等の産児制限等の社会的背景の下で、地方部も含め高学歴志向が進み、高等教育機関と入学生の数が急速に増加した。2022年時点では、学士号・修士号取得者比率は44.3%となり、日本と同程度となっている(第2-3-10図)。
こうした高等教育機関の卒業生は、ホワイトカラーの待遇のよい条件での就業を望む傾向がある。しかしながら、製造業の工員や物流等ブルーカラーの労働需要は増加が続いているものの、事務職等のホワイトカラーの労働需要は十分に伸びていないとみられる(第2-3-11図、第2-3-12図)。近年、プラットフォーム企業を含むIT産業、学習塾等の教育産業に対して規制が強化されたことや、不動産業の停滞により、ホワイトカラーの若年就業者を多く吸収していた産業に停滞がみられていることも、若年失業率に影響しているとみられる。
家計の景況感を確認するために家計に対するアンケート調査をみると、雇用・所得実感指数は、感染症分類が引き下げられた2023年1-3月期に上昇したが、同年4-6月期以降は再度低下傾向となっている(第2-3-13図)。特に雇用指数は、2022年の感染症拡大期と同程度まで低下しており、都市部調査失業率の横ばい傾向とはやや乖離した厳しい実感が示されている。同調査における消費・投資・貯蓄意欲をみると、「今後より多く消費する」と回答した家計の割合は、全体の四分の一程度の水準でおおむね横ばい圏内で推移しており、消費意欲に改善はみられない。また、「今後より多く投資する」と回答した家計の割合は、2021年以降低下が続いており、結果として貯蓄意欲の上昇がみられている。
(不動産市場は停滞が続く)
不動産市場の停滞が続く中、1級都市(北京等)、2級都市(重慶等)、3級都市(地方都市)のそれぞれにおいて、住宅価格は下落している(第2-3-14図)。2020年8月の不動産融資規制の導入126を受けて大手不動産企業の信用不安が表面化した2021年9月以降、2級都市、3級都市の住宅価格の下落は顕著となった。2023年前半には不動産融資規制の緩和、感染症拡大の影響の剥落により、各級都市で価格の上昇がみられたが、年央以降は不動産企業の資金繰り難が相次いで報じられる中で、不動産市場支援策の導入127を受けても反転に至らず、低下が続いている。
不動産在庫面積(新築)をみると、2022年以降大幅な増加が続き、24年1-6月にも前年同期比15.2%となり、高水準が続いている(第2-3-15図)。こうした状況を受けて、2024年5月17日には、地方政府が国有企業を通じて住宅在庫の買取りを進め、低所得者向けの住宅に転換する政策が発表された128。
新築住宅の取引件数は大幅な減少が続き、2021年1月比で5割程度の水準となっている(第2-3-16図)。前述の住宅在庫の買取りを含む支援策は、中央政府の発表した抜本的な梃子入れ策として株式市場では好感され、不動産企業の株価の上昇がみられたが、住宅の取引件数の反転は、2024年6月時点ではみられていない。
住宅販売面積は、2022年から大幅な減少が続いており、2024年は1-6月の前年同期比(▲21.9%)を用いて機械的に試算すると、2021年比で半減する(▲47.5%)見込みとなる(第2-3-17図)。不動産企業の利益総額についても、販売面積と連動して減少し、2022年時点で2019年比▲42.0%となった。23年以降の販売面積の減少と住宅価格の下落を基にすると、2024年は更に減少する見込みである。
不動産企業の資産・負債は2021年をピークに減少に転じた。不動産企業はバランスシート調整を行っており、不動産開発投資は2023年まで2年連続で減少し、2024年にも1-6月時点で前年同期比▲10.1%と、大幅な減少が継続している(第2-3-18図)。住宅在庫の買取り政策129は、既存の住宅在庫を「合理的な価格」で地方政府が国有企業を通じて買い取る仕組みであるため、既存の住宅在庫の整理にとどまる。このため、不動産企業の収入を下支えし財務状況を一定程度改善することが期待されるものの、新規の開発投資を促進するまでには至らず、投資の回復には更なる調整期間を要するとみられる。
新規の不動産開発プロジェクトの減少を受けて、地方政府の土地使用権譲渡収入も22年以降減少に転じ、2024年1-6月は前年同期比▲18.3%と、二桁の減少が継続している(第2-3-19図)。2021年のピーク比で4割以上低い水準となっており、税収が少なく土地使用権譲渡収入への依存度が高い地方政府にとっては、歳入面で大きな影響が生じており、歳出面(インフラ投資、公務員給与等)にも影響が出ていると考えられる130。
(金融市場へのリスクの波及)
不動産市場の停滞が続く中で、金融市場のリスクはどのように評価されるだろうか。有利子負債は、2024年3月末時点では、全体で対GDP比294.8%に達した(第2-3-20図)。家計、政府はおおむね横ばいで推移する一方、非金融企業の上昇傾向が続いている。
民間非金融部門(企業、家計)の債務残高は徐々に増加しているものの、金融当局の公表する不良債権比率は低水準で推移している。ただし、銀行の貸倒引当金比率(対融資残高)は、不良債権比率を上回っており、2019年以降はやや低下傾向で推移したものの2023年後半以降は再度上昇し、銀行が貸倒れリスクに備える慎重な姿勢が続いている(第2-3-21図)。
銀行の貸出スタンスはどのような状況だろうか。社会融資総量をみると、2024年1‐3月期には、前年比が統計開始以来初めてマイナスとなり、1‐6月期にもマイナス幅が拡大した(第2-3-22図)。特に新規貸出の減少が大きくなっており、中国人民銀行は、資金需要の不足と、金融機関の貸出姿勢の慎重化を指摘している。
また、都市開発が滞り新規の資金調達が難しくなった地方融資平台は、取り得る資金調達手段の一つとして、オフショア債の発行を増加させているとみられる。地方融資平台のオフショア債発行額(USドル建て)は、2021年までは小規模であったが、感染症拡大の影響と不動産市場の停滞が重なった2022年から増加が顕著になっており、2023年は122.3億ドル、2024年は6月30日時点で170.3億ドルに達した(第2-3-23図)。従来、地方融資平台の国内債券は、地方政府の「暗黙の保証」により安全とされてきたが、地方政府による都市開発と土地使用権譲渡収入に基づく成長モデルが転換点を迎える中、地方融資平台の債務の持続可能性について注視する必要がある。
(物価の下落傾向が継続:内需停滞を示唆)
消費者物価(CPI)は、2024年に入り、豚肉価格の下落による押下げ効果は一巡したものの、前年比は5四半期連続でゼロ近傍となっている(第2-3-24図)。さらに、生産者物価(PPI)の下落が続く中で、GDPデフレーターは5四半期連続でマイナスとなり、内需の停滞が示唆されている。
(短期的な景気対策と中長期の政策方針が示される)
2024年3月の全国人民代表大会(「全人代」)は、2024年の成長率目標を前年に続き「5%程度」と設定し、自動車の買換え促進等の消費促進策を打ち出した。2024年以降数年間にわたり、重要政策の推進のために超長期国債131を発行する方針も示した(第2-3-25表)。
2024年4月末の中央政治局会議は、新興産業の育成や、先端技術を用いた従来型産業の高度化を推進する「新たな質の生産力」を発展させる方針を強調するとともに、「住宅在庫の解消」と住宅の増加を総合的に調整する方針を打ち出した(第2-3-26表)。
これを受けて、2024年5月17日には、何立峰・国務院副総理主宰の全国会議が開催され、関係当局132が記者会見で不動産市場支援策を発表し、地方政府による国有企業を通じた住宅在庫の買取り等の政策を打ち出した(第2-3-27表)。
住宅在庫の買取り政策は、中央政府が発表した新たな梃入れ策として株式市場では好感されたものの、国有企業を通じた買取りである点、金融支援の規模が小さい点133、買取り価格が低めに設定されると考えられる点等から、買取りの規模、不動産企業の財務状況の改善の効果を疑問視する声もある。また、住宅在庫解消の優先、公営住宅を増やす方針から、将来的に新築住宅市場の規模を相当に縮小させ供給を絞ることで、需給を均衡させ、住宅価格の安定化を図るものとする指摘もある。当面は不動産市場の調整が続くとみられるが、政策措置が実効性を上げ、中長期的に望ましい状況に進んでいくかを引き続き注視する必要がある。
経済政策の中長期方針については、従来は、5年に一度の新体制が選出された年の10~11月頃に開催される、中国共産党中央委員会第3回全体会議(「三中全会」)において示される例が多かったが、2023年の秋には開催されず、2024年7月15~18日に開催された(第2-3-28表)。同会議では、重点分野のリスクとして不動産・地方債務が明記され、中央・地方の財政関係を改善し、地方の自主財源を拡充する必要性が強調された。
(まとめ:政策効果は内需の好循環に繋がらず景気は足踏み状態、中長期的な構造調整の局面に移行)
以上のように、中国では、政策支援により自動車販売の増加や、製造業投資・インフラ投資の増加はみられるが、不動産市場の停滞等を背景に家計の所得・雇用環境の実感は厳しく、消費はおおむね横ばいとなるなど内需が停滞し、景気は足踏み状態にある。
こうした足踏み状態の景気が回復へと向かうか否かについては、政策の内容と実効性(予算規模、実施のペース)が重要な決定要素の一つと考えられる。短期的な景気循環のみならず、様々な構造問題に直面する現在の局面においては、政策措置が(1)短期的な需要の創出を目指したものか、(2)中長期的な構造問題の解消を目指すものか、に分けて理解する必要がある134。短期的な需要の創出は、将来的な反動を生み出すリスクがある135。中長期的な構造問題の解消を目指す政策は、不動産市場にみられているように、当面の需要の縮小を甘受せざるを得ないという難しさを抱えている。
過去四半世紀に渡り「世界の工場」として高成長を維持してきた中国経済136は、不動産企業のバランスシート調整を主因とする構造的な需要の停滞に直面して減速しており、「過剰供給」に陥っているとの指摘も増えている(コラム参照)。将来的な成長期待の下方修正が民間の経済主体に広がる中で、当局が今後どのような成長経路を実現していくのかが課題となっている。
これまで高成長が維持されてきたこともあり、中国経済が減速する際には、当局による短期的な景気対策の実施が期待される傾向があるが、中国経済が構造問題に直面している以上、一定期間の減速は必要なプロセスでもある。高成長から中長期的な構造調整の過程へと経済発展の局面が移行したと、中国経済に対する認識が改められる必要がある。
コラム7:中国の「過剰供給」と内外経済への影響について
2024年には、中国では政府の補助金を元に、停滞する内需を大幅に上回る生産が行われ、価格が故意に抑えられた輸出が行われているという、いわゆる「過剰供給」問題に関する指摘が欧米要人から相次ぎ、中国側が反論する状況となった(表1)。
中国における「過剰供給」の傾向の有無は、どのようなデータで確認できるだろうか。まず、中国企業の稼働率をみると、鉱工業企業全体では、2016年以降は70%台半ばから後半程度で横ばいとなっている(図2)。業種別にみると、鉄鋼業は2019年、自動車業は2017年をピークに低下傾向にある。一方で、生産能力(キャパシティ)については、それぞれ2022年まで上昇が続いており、鉄鋼業は2016年比16.2%、自動車業は同22.9%と、供給力が拡大している。
上記のように供給力が拡大する中で、需要側(内需・外需)はどのような状況だろうか。自動車業についてみると、国内販売台数(内需)は、近年はそれ程顕著な増加がみられておらず、2022年(2,685万台)は2016年比▲3.9%、2023年(3,005万台)は同7.5%にとどまっている(図3)。
一方、自動車の輸出台数(外需)は、近年急増がみられており、2023年(522万台)は、(比較可能な統計で遡ることのできる)2020年比で4.8倍、中でも新エネ車(177万台)は同8.0倍と、全体を押し上げている(図4)。このように、自動車の国内販売台数が伸び悩む中で、自動車業の生産能力が堅調に高まってきた背景には、(特に新エネ車の)輸出の増加があったと考えられる137。
輸出は、各国の各産業の比較優位に基づいて行われることであるが、輸出補助金が背景にある場合には、国際的な貿易慣行138に反することとなる。中国本土市場の上場企業は、有価証券報告書において補助金の受取額を示しており、その合計額は、2023年は3,414億元(前年比38.9%、2019年の1.9倍、2015年の2.9倍、2010年の8.9倍)と大幅に増加している(図5)。このうち、新エネ車販売上位企業(5社)の合計は、2023年は105.9億元(前年比13.5%、2019年の0.9倍、2015年の2.3倍、2010年の208倍)となり、2019年までに増加していた。これらはあくまで、各企業が有価証券報告書において公表している、受領した各種補助金の合計値であり、WTO規定との関連は不明であるが、一部は結果的に、各企業の輸出増加に一定程度寄与した可能性がある。このような状況の下、WTOは、2024年7月に発表した貿易政策審査報告書において、中国政府による産業界への支援は全体的に透明性が欠如しており、「過剰供給」問題の議論を惹起していると指摘した139。
アメリカは、2024年5月に、EVや半導体等中国からの輸入品190億ドル相当に対する関税の引上げ(EVは現行の25%から100%)を発表した。2024年7月に欧州委員会も、2023年10月に開始した中国の補助金に関する調査に基づき、中国製のEVに対する現行10%の輸入関税について、最大37.6%の追加関税を暫定的に適用すると発表しており、貿易摩擦が高まっている。こうした貿易制限措置は、双方にとって(自由貿易によって実現可能であるところの)経済厚生を損なう可能性があり、各国は、補助金を始めとした産業政策、追加関税措置のいずれについても、透明性と説明責任を高め、争点の解消に向けた協議を進めることが望まれる。
次に、中国において内需が停滞した中でも財の生産(供給)が続けられた結果、余剰品が低価格の輸出に繋がっているという指摘について確認する。主要品目の生産指数をみると、2018年以降、米中貿易摩擦(2018年~)、感染症の拡大(2020年~)、不動産市場の停滞(2022年~)等、様々な景気の下押し要因がある時期にも、各品目の生産は高い伸び率での増加が続いている(図6)。主要品目の在庫指数をみると、感染症拡大の影響を受けた2020~2022年に各品目の在庫水準が高まった。2023年以降は、感染症の影響は剥落したものの、在庫水準は高止まりし、一部品目は足下で更に高まっている(図7)。輸出数量データが発表されている自動車、鉄鋼について、輸出価格(為替要因を除いた値)と併せてみると、鉄鋼価格は2022年央、自動車価格は2023年央に低下傾向に転じており、同時期の輸出数量はそれぞれ堅調な増加がみられている(図8)。高水準の在庫については、2022年までの供給制約の解消等他の要因もあり得るものの、海外により多く販売するために輸出価格を下げているという仮説についても、これらのデータとの矛盾はみられない。輸出金額(全体)は、輸出価格が低下する中で、低い伸びにとどまっている(図9)。
以上を踏まえると、中国の「過剰供給」問題については、各種データからそうした傾向が示唆されていることは否定できない。中国における補助金の性質がWTO協定に反するものでないか、それを背景として輸出価格を恣意的に下げることが輸出先国における企業の競争条件を不利にしていないかについて、双方の建設的な協議が求められる。