第2章 主要地域の経済動向(第3節)
第3節 中国経済
本節では、中国経済の最近の動向を概観した上で、今後の見通しと主なリスク要因を整理する。
中国経済は、2017年以降の政府の過剰債務削減(デレバレッジ)に向けた取組強化に加え、18年半ば以降の米中貿易摩擦の影響もあり、緩やかに減速している。18年12月の米中首脳会談後は、米中貿易協議の進展に対する期待から、製造業の景況感などに一時改善もみられたが、19年5月の米中貿易摩擦の再燃により、景気の先行きに対する不透明感は再び高まっている。
1.中国経済の動向
中国の実質経済成長率は、18年4~6月期以降、前年比でみた伸び率が3四半期連続で低下した後、19年1~3月期に前期から横ばいとなったが、4~6月期には更に伸びが低下し、6.2%増となった(第2-3-1図)。需要項目別にみると、18年半ばから最終消費の寄与の縮小が続いている。資本形成の寄与は18年10~12月期から19年1~3月期にかけてやや大幅に縮小している。他方、純輸出の寄与は18年10~12月期に若干のプラスに転じた後、19年1~3月期にプラス幅が拡大、4~6月期も引き続き成長率を押し上げている。第1章でみたように、米中貿易摩擦を背景に、中国の財輸入が対米向けを中心に大幅に減少していることが、純輸出のプラス寄与の拡大をもたらしていると考えられる。
こうした中、19年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)1では、19年の実質経済成長率の目標が、18年の6.5%前後から6~6.5%へと引き下げられた。この背景には18年の経済情勢への厳しい認識2がある。その他、都市部新規就業者数は1,100万人以上、都市部登録失業率は4.5%以内と、18年と同様の目標が示されたが、都市部調査失業率3については、5.5%前後(18年は5.5%以内)と幅を持たせた目標とされた。また、雇用を一層優先的な位置に据える必要があるとし、今年初めて雇用優先政策を財政・金融政策と並ぶ扱いとすることで、雇用の安定を重視する姿勢が示された。
財政政策及び金融政策については、景気の安定を重視する方向性が示された。財政赤字対GDP比(国と地方の合計)目標は、地方特別債の発行枠拡大に加え、財政収支に配慮しつつ今後生じ得るリスクに対処するための政策余地を残すことを考慮するとして、18年の2.6%から2.8%にやや引き上げられた。また、金融政策については、昨年から「中立」の文言が削除され、「穏健な金融政策」を実施するとし、流動性を適切に確保し、民間企業や小規模・零細企業の資金繰り難、資金調達コスト高の問題の緩和に取り組むなどとした。ただし、世界金融危機後の大規模な景気刺激策により過剰債務問題を生じたことの反省もあるとみられ、「近視眼的になり、長期的発展の妨げとなる短期的な強い刺激策を講じ、新たなリスク要因を生みだすことは許されない」ことなども明記され、景気安定とリスク防止のバランスに配慮する姿勢が示されている。
18年の重点課題としては10項目が掲げられたが、18年の供給側構造改革に代わり、19年は「マクロコントロールを革新・充実させ、経済の動きを合理的な範囲内に確実に保つ」ことが筆頭に挙げられた(第2-3-2表)。これに関する政策措置として、(1)企業に対する減税、社会保険料の引下げ、(2)企業の資金繰り難・資金調達コスト高問題の緩和に向けた取組、(3)地方特別債の発行枠の拡大、(4)雇用の安定・拡大のための措置が示された。(1)については、増値税4の減税や年金保険料の企業負担分の引下げなどの内容となっている。これらにより企業の負担が2兆元弱軽減されるとされ、中国財政部は、今年の財政政策の中で最重要と位置付けている5。増値税の減税については、17年以降段階的に実施されてきたが、最大の税率(製造業などに適用される)について、18年には1%の引下げ(17%から16%へ)であったのに対し、今回は3%と(16%から13%へ)、比較的大きく引き下げられることとなった。年初から実施されていた中小企業向けの減税や地方債の早期発行に加え、全人代後には、4月から増値税の減税、5月から年金保険料率の引下げを始めとして、各種の措置が実施に移されている(第2-3-3表)。
また、全人代では、外国企業や個人等による中国における現地法人の設立や買収等に関する新たな基本法となる「外商投資法」が成立し、20年1月から施行されることとなった。同法には、行政手段による技術移転の強要の禁止が条文に盛り込まれるなど、外資の投資促進、知的財産権を始め権益保護を一層図るものとなっており、米中貿易摩擦の緩和に向けた動きの一環とみられる。
(1)個人消費
(個人消費は伸びがやや低下)
個人消費の動向をみると、主として18年半ば以降の自動車販売の減少により6、鈍化傾向が続いている。小売総額(名目値)をみると、18年は前年比9.0%増と03年以来の一桁台の伸びとなり、19年入り後も同8%台以下の伸びで推移している(第2-3-4図)。
品目別の小売の動向を、データが公表されている一定規模以上の企業7における商品小売総額(名目値)でみると、シェアが最も高い自動車の伸びは、18年5月以降、約1年にわたり前年比マイナスで推移した後、19年5月に若干のプラスとなった(第2-3-5図)。また、シェア3位の石油・関連製品は、世界的な原油価格の上昇を背景に10月まで二桁台の高い伸びで推移していたが、その後、原油価格の下落に伴い、大きく伸びが低下している。
(乗用車販売台数は減少が続く)
乗用車販売を台数ベース(出荷ベース)でみると、18年は、小型乗用車減税の終了8、中国経済の成長鈍化や米中貿易摩擦を受けた消費者マインドの低下の影響等を背景に9、前年比マイナスに転じ(第2-3-6図)、19年に入った後も引き続き前年比マイナスで推移している。中国汽車工業協会は、19年の乗用車販売の見通し(19年1月発表)を、18年実績と同水準の2,370万台前後としており、19年も引き続き低い水準で推移するものと見込まれる。ただし、1月末に発表された消費促進策に自動車関連施策も含まれており、6月には広州市や深セン市でナンバープレート発給数10の拡大が発表されるなど、今後も各地で実施が進んでいくことが期待される11。これに加え、6月6日に発表された消費推進策12にも新エネルギー車の普及に向けた措置等が盛り込まれ、また、7月に施行される車両購入税法13では消費者の税負担の軽減が図られることなどもあり、需要回復が後押しされることが期待される。ただし、5月以降の米中貿易摩擦の再度の高まりやそれに伴う株価の変動などにより再び消費者マインドが低迷し、政策効果が一部相殺される可能性がある。
(インターネット小売のシェアは引き続き上昇)
他方、小売総額のうちインターネット小売は、18年後半以降伸びはやや鈍化しているものの、引き続き高めの伸びを維持している。小売総額に占めるシェアは、19年5月には18.9%と上昇傾向となっており、消費におけるインターネット小売の存在感を着実に増している(第2-3-7図)。
(雇用・所得環境はおおむね堅調)
雇用情勢は、引き続きおおむね堅調となっている。都市部調査失業率は、18年中は5%近傍で推移した後、春節の影響もあり、19年1、2月にやや上昇がみられたが、4月には再び低下している(第2-3-8図)。また、12年以降、生産年齢人口が減少に転じる中、求人倍率は16年半ば以降上昇傾向が続いており、特に17年末以降は過去最高を更新している(第2-3-9図)。
他方、PMIの雇用指数をみると、18年秋頃から低下傾向となっており、19年5月には47ポイントまで低下している(第2-3-10図)。景気が減速する中、19年の全人代において雇用をより一層重視する姿勢が示されるなど、中国政府は雇用情勢の先行きについて警戒感を示しており、先行きについては注視が必要である。
次に、所得をみると、19年1月からの個人所得税減税の実施もあり(一部は18年10月から実施)、一人当たり可処分所得(実質)は、18年に前年比6.5%増となった後、19年1~3月期は同6.8%とやや伸びが高まった(第2-3-11図)。以上のように雇用・所得環境は、おおむね堅調に推移しており、政府による消費促進策の実施とともに、消費を下支えしていくものとみられる。
(消費者マインドは改善傾向)
消費者マインドをみると、消費者信頼感指数14は、17年末頃から18年半ばまで高水準で推移していたが、米中貿易摩擦の影響もあり、一時低下したものの、11月以降は再び上昇基調となっている(第2-3-12図)。18年12月の米中首脳会談以降、米中貿易協議の進展が期待されたことや、19年初から株価が上昇に転じたことがマインドの改善を支えたものと考えられる。しかしながら、米中貿易摩擦が19年5月以降再び高まりを見せ、株価も再び低下したことから、今後の動向については注視が必要である。
以上のとおり、堅調な雇用情勢や、個人所得税減税の実施もあり、所得の伸びにやや改善がみられることに加え、19年1月末に発表された消費促進策等が進捗することにより個人消費が下支えされることが期待される。ただし、19年5月以降の米中貿易摩擦の再燃が消費者マインドの低下を通じて消費に与える影響については注視が必要である。
(2)固定資産投資
固定資産投資(年初来累計)の伸びは、17年後半以降、低下傾向が続いていたが、18年秋頃に下げ止まりの動きがみられ、その後おおむね横ばいで推移している(第2-3-13図)。内訳をみると、中国政府による景気対策を背景にインフラ関連投資が18年秋以降やや持ち直しているほか、不動産市場安定化策が実施される中で伸びが横ばいとなっていた不動産開発投資が19年に入り伸びを高めている。他方、18年には持ち直しが続いていた製造業投資は、米中貿易摩擦による輸出の鈍化や中国経済の減速の影響もあり、19年に入り伸びが急速に低下している。
(製造業投資は伸びが低下)
製造業投資は、18年には持ち直しの動きが続き、通年で前年比9.5%となった後、19年入り後は伸びが急速に低下し、1~5月に年初来累計前年比2.7%となった(前掲第2-3-13図)。
業種別にみると、国内販売の低迷が続く自動車がマイナスに転じた(第2-3-14図)。また、18年は好調であったハイテク分野(電子部品やデバイス製造業等)が含まれるコンピュータ・通信その他電子機器や、産業用機械、汎用機械、電気機械機器など主要分野で伸びが急速に低下している。米中貿易摩擦を背景に、18年末頃から輸出の鈍化が顕在化したことや先行き不透明感が高まっていることなどにより、輸出産業を中心に設備投資の抑制につながっている可能性が考えられる。他方、鉄金属加工(鉄鋼等)は伸びを高めており、この背景として、インフラ関連投資の底入れや不動産開発投資が比較的堅調に推移していることなどもあると考えられる。
また、製造業企業の企業利益をみると、18年半ばから伸びが鈍化し、19年入り後はマイナスに転じ、利益率も大幅に低下している。こうしたことも、設備投資を下押ししているものと考えられる(第2-3-15図)。
(インフラ関連投資は緩やかながら持ち直し)
インフラ関連投資は、18年半ばまで急速に伸びが低下した後、中国政府による景気対策を背景に下げ止まり、18年末頃からやや持ち直している。18年に前年比3.8%となった後、19年1~5月年初来累計前年比4.0%となっている(前掲第2-3-13図)。全体としての持ち直しの動きは緩やかなものにとどまっているが、内訳をみると、鉄道投資では伸びに高まりがみられる(第2-3-16図)。この背景として、鉄道への投資は、敷設のための鋼材等への波及効果も大きいことから、過去にも景気対策として行われてきたこと、また、第13次5か年計画において20年までに主要都市の80%をカバーするとの目標が掲げられているほか、環境汚染対策の観点から鉄道輸送の割合を高めるとの方針が出されている15ことなども考えられる。
中国政府は、18年8月以降、地方特別債16の発行を加速し、インフラプロジェクトの進捗を促している。19年についても、18年12月の全人代常務委員会において、全人代で19年の地方債務限度額が承認される前に、1月から1.39兆元の地方債(うち地方特別債8,100億元)を発行することが認められ、1月9日の国務院常務会議において、発行・使用を加速し、建設中のプロジェクトや重要プロジェクトを推進する方針が示された。また、19年の全人代においては、19年の地方特別債の発行枠を昨年から8,000億元増加し、2.15兆元とすることを決定した。中国財政部は、4月に公表した「地方政府債発行への取組に関する意見」において、上記の前倒しで認められた新規債発行枠については6月末までに発行を完了させ、また9月までに通年の新規債券発行を完了させることを求めており、19年1~4月の発行額は7,297億元(年間発行枠の約3割)となった。さらに、中国政府は、19年6月に、資金需要を満たすことにより投資拡大を図ることを目的とし、条件を満たす収益性のある重大プロジェクトの資本金として地方特別債を一定割合まで充当することを認めることを発表17しており、今後、インフラ関連投資を後押しすることが期待される。
(不動産開発投資は伸びが上昇)
不動産開発投資は、18年に前年比9.5%となった後、19年1~5月年初来累計前年比11.2%と伸びが高まっている(前掲第2-3-13図)。また、不動産販売価格も、18年半ば以降、前月比で上昇した都市が減少傾向にあったが、19年に入り再び増加している(第2-3-17図)。都市別にみると、一級都市18ではおおむね横ばいで推移しているが、二級及び三級都市では、19年も上昇傾向が続いている(第2-3-18図)。こうした中、住宅都市農村建設省は、4月及び5月に、新築及び中古住宅価格の上昇幅が大きい計10都市に対して、住宅市場の過熱について警告を行っている19。
他方、不動産販売面積をみると、18年10~12月期に前年比マイナスに転じた後、19年1~3月期もマイナスとなっている(第2-3-19図)。地域別では、一級都市が含まれる東部地域20ではマイナスでの推移が続いているのに対し、中部及び西部地域では、18年初めをピークとして伸びは低下傾向にあるものの、おおむねプラスで推移しており、需要が底堅い様子もうかがえる(第2-3-20図)。なお、中国政府は、都市化政策の一環として段階的に都市戸籍取得制限の緩和を進めており、19年も人口100万~300万人及び300万~500万人の都市について一層の緩和を進める方針であり、こうした動きは不動産市場を下支えするものとみられる。
以上のとおり、不動産開発投資は不動産販売価格の上昇を背景に伸びが高まっているが、政府の不動産市場安定化の取組は今後も継続が見込まれ、一級都市では動きが落ち着いていることから高めながら安定的に推移することが見込まれる。
固定資産投資全体としては、不動産開発投資及びインフラ関連投資により、一定程度の伸びは維持されていくことが期待されるものの、米中貿易摩擦による輸出の不振及び先行きに係る不確実性の高まりから製造業投資への下押し圧力が更に高まる可能性もあり、今後の動向が注視される。
(3)生産
(生産は伸びがやや低下)
鉱工業生産は、18年末頃から伸びがやや低下している。19年に入ってからも、一時的要因により21、3月に大きく伸びが高まったのを除き、前年比5%前半で推移している(第2-3-21図)。製造業の内訳をみると、国内自動車販売の低迷に伴い、18年後半以降自動車はおおむねマイナスで推移しており、引き続き製造業生産を下押ししている(第2-3-22図)。他方、鉄金属加工業(鉄鋼等)では伸びが上昇傾向にあり、この背景には景気対策の実施に伴うインフラ関連投資の持ち直しの動きや比較的堅調な不動産開発投資があることが考えられる。また、主要輸出産業であるコンピュータ・通信その他電子機器は、18年秋頃から低下傾向にあったが、19年入り後は持ち直している。ただし、産業用ロボットや集積回路の生産(数量ベース)をみると、それぞれ減少及び横ばい傾向が続いており、米中貿易摩擦の影響が考えられる(第2-3-23図)。
今後については、政府によるインフラプロジェクトの推進や消費促進策等の景気安定化に向けた政策対応が生産を下支えしていくことが期待されるが、他方で、米中貿易摩擦の再燃を背景に、製造業の景況感も再び悪化しており(前掲第1-2-24図)、生産への下押し圧力も高まる可能性がある。中国国家統計局も、現在、工業生産は総じて合理的な範囲内で推移しているものの、米中貿易摩擦の高まり等の影響を受けて、輸出の伸びが緩やかになり、自動車、携帯電話等一部の主要製品の生産が低調となっており、今後、更に工業生産への下方圧力が増すことが見込まれるとしている22。
(4)物価
(消費者物価上昇率はこのところおおむね横ばい)
消費者物価上昇率(総合)は、18年10月から19年2月にかけて低下した後、19年3月以降やや高まっているが、総じてみれば横ばい程度となっている。また、19年の全人代で示された目標の3%前後を引き続き下回っている(第2-3-24図)。
内訳をみると、19年3月以降食品価格の伸びが全体を押し上げている。内訳をみると、主に天候要因により生鮮野菜や生鮮果物の価格が上昇していることに加え、アフリカ豚コレラの影響により豚肉価格が上昇している(第2-3-25図)。豚肉価格については、中国国家発展改革委員会は、アフリカ豚コレラの影響により19年後半にかけて更に上昇する可能性があるものの、物価全体への影響は限定的であり19年後半には安定するという見方を示している23。一方で、中国農業農村部はアフリカ豚コレラが養豚産業に深刻な影響を与えているとの認識を示し、19年後半にかけて供給不足から豚肉価格が上昇し、食品は消費者物価に占める比率が高いことから物価全体にも波及すると指摘している24。物価上昇が続けば、個人消費にも影響を及ぼす可能性があり、今後の動向には注視が必要である。
(5)金融政策の動向
中国政府が景気下支えを図る中、金融政策も緩和的な方向に転じている。19年の全人代では、特に、民営企業や小規模・零細企業の資金繰り難、資金調達コスト高の問題の緩和に取り組むことが必要とされた。具体的には、中小銀行を対象とした預金準備率の引下げによる民営企業、小規模・零細企業への融資拡大や、国有大型商業銀行の小企業・零細企業向け融資の30%以上の増加などを実施する方針が示された。
預金準備率は、18年の4月、7月、10月に続き25、19年は、1月、5月に引下げが実施されている(第2-3-26図)。19年1月は、今回の引下げ局面において、流動性供給の規模が約8,000億元と最大となっている。また、5月の引下げ(5、6、7月に3回に分けて11.5%から8%への引下げ)は、一部の中小銀行(所在地の県内のみで営業しているか、他県にも出先機関を設けているが資産規模が100億元未満の農村商業銀行)を対象とし、民営企業、小規模・零細企業への貸出増加を促すことが目的とされた。
金融政策の運営状況を金融政策スタンスに対する市中銀行の評価でみると、18年7~9月調査以降、中立水準である50を上回って推移しており、実際に緩和的なスタンスと受け止められていることが確認できる(第2-3-27図)。また、企業の貸出需要D.I.をみると、当局が政策の重点の一つとしている小規模・零細企業の貸出需要に上昇傾向がみられる(第2-3-28図)。実際、社会融資総量(フロー、年初来累計前年比)をみると、19年に入り、銀行貸出を中心に伸びが高まっていることが確認できる(第2-3-29図)。
なお、こうした緩和的な金融環境が中国の過剰債務問題のリスクを高める可能性があることにも留意が必要である。中国では、08年の4兆元の景気対策により実施された大規模なインフラ関連投資等を契機として、企業の債務が急拡大し、その後の景気減速で過剰債務問題が顕在化することになった経緯がある26。企業部門の債務をみると、16年1~3月期をピークに低下傾向となっているものの、引き続き高水準となっている(第2-3-30図)。
企業部門の債務の多くは、地方融資平台と呼ばれる国有企業によるものとみられる。地方融資平台は、08年当時、地方政府に債務負担が認められていなかったため、インフラ建設等を行うための資金調達を担う事業体として地方政府が出資・債務保証を行う形で設立された。IMFやOECDなどの国際機関では、地方融資平台の債務は予算外(off-budget)であるが、事実上の政府債務であると指摘している。政府統計による予算上の政府債務残高(中央及び地方)規模はそれほど大きくないものの、IMFの推計によると、地方融資平台の債務等を含めた政府債務残高は約2倍の規模となっている(第2-3-31図)27。
19年3月の全人代では、安定成長を図りつつ、金融を含むリスク防止・抑制にも引き続き取り組む方針が示されたものの、米中貿易摩擦の再燃により景気の下振れ圧力が強まる中、景気安定がより優先されることも考えられ、金融安定化に向けた取組の進捗状況には引き続き注視が必要である。
2.中国経済の見通しと主なリスク要因
(1)中国経済の見通し
中国経済は、景気は緩やかに減速しており、先行きについても、当面は緩やかな減速が続くことが見込まれる。ただし、中国政府は、景気の安定をより重視するスタンスの下で各種政策を引き続き実施していくものとみられ、そうした政策の効果が次第に発現していくことが期待される。国際機関の見通しをみると、実質経済成長率は、いずれの機関においても18年の6.6%から、19年は6%台前半に鈍化すると見込まれている(第2-3-32表)。
(2)中国経済の主なリスク要因
(米中貿易摩擦の動向及び影響)
中国経済の主なリスク要因としては、まず米中間の貿易摩擦の激化が挙げられる。18年12月の米中首脳会談において、アメリカ政府による2,000億ドル相当の追加関税の10%から25%への税率引上げは留保されることとなり、その後米中間で協議が継続された。しかしながら、19年5月に、アメリカ政府は追加関税の税率引上げを発表し、中国政府も対米輸入600億ドル相当に対し税率を引き上げる対抗措置を実施するなど、米中貿易摩擦は再び高まりをみせている。6月29日の米中首脳会談において、第4弾の追加関税措置の実施がひとまず見送られ、協議を継続することが合意されたものの、先行きは引き続き不透明となっている。中国の最大の輸出先はアメリカであり、輸出や生産、設備投資への影響等を通じ、景気が相当程度下押しされる可能性もある。
(中国政府による過剰債務問題への対応)
中国政府による過剰債務問題への対応も、リスクとして挙げられる。中国政府は、債務削減の取組を進めているが、18年には、シャドーバンキングの急速な縮小による資金調達環境の引締まりなどにより、当初想定されていた以上に景気に下押し圧力を与えたとみられる。今後も、景気の安定とのバランスをとりつつも、債務削減の取組が進められていくものとみられるが、引き続き実施のペースやタイミングなど難しい舵取りが求められる。実施のペースやタイミングが適切でなかった場合には、景気を下押しするリスクがある。また、債務削減の進捗が大きく遅れた場合には、過剰債務問題のリスクを高める可能性もある。
(金融資本市場の変動の影響)
米中貿易摩擦が高まる中、18年は株価や為替にも大幅な変動がみられ、企業や個人のマインドへの影響などを通じ、投資や消費といった内需にも下押し圧力を与えたとみられる。19年5月以降の米中貿易摩擦の再度の高まりは、株価や為替に再び影響を及ぼしており、今後も、景気下押し要因となるリスクがある。