第2章 主要地域の経済動向(第4節)

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第4節 ヨーロッパ経済

本節では、ヨーロッパ経済の最近の動向を振り返るとともに、英国のEU離脱問題等、ヨーロッパ経済にとって重大な不確実性をもたらしている事象を取り上げ、今後の見通しとリスク要因を整理する。

ユーロ圏では、良好な雇用環境や緩和的な金融政策を背景に、個人消費や設備投資といった内需を中心に景気は緩やかに回復している。輸出や生産については、18年後半からの自動車産業における一時的な押し下げ要因の影響が徐々に弱まる一方、米中貿易摩擦や中国経済の減速に伴う外需の伸びの鈍化が新たな重しとなっている。

英国では、EU離脱に係る不確実性の継続が企業の投資判断を長期にわたり抑制しているとみられるほか、英EU間のサプライチェーンに対する不安が家計の消費行動や企業の生産・財輸出活動に様々な影響を与えている。離脱期日は19年3月29日から19年10月31日に延期されたものの、「合意なき離脱」となる可能性を含め、不確実性はさらに高まっている。

1.ユーロ圏と英国の経済動向

(1)ユーロ圏経済の動向

(一部に弱さがみられるものの、緩やかな回復が続く)

ユーロ圏では、ドイツやイタリアに弱さがみられるものの、全体としては緩やかな回復が続いている。実質経済成長率は、19年1~3月期は前期比年率1.6%と、13年4~6月期以降24四半期連続のプラス成長となった。個人消費が雇用の増加及び賃金上昇等による所得環境の改善を背景に緩やかながら増加を続けているほか、設備投資も高稼働率と緩和的な資金調達環境の下で緩やかに増加するなど、内需がユーロ圏の景気回復を支えている。一方、外需については、18年に入り伸びが鈍化し、18年7~9月期は大幅なマイナスを記録した。その後、19年1~3月期は英国のEU離脱期日を控えた駆込み需要の影響等により若干のプラスの寄与となっている(第2-4-1図)。

主要国別にみると(第2-4-2図)、ドイツでは、乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTP:World harmonized Light vehicles Test Procedure)導入1等の一時的要因により、18年後半は低成長が続いた。19年1~3月期は、外需の伸びの鈍化により輸出や生産に弱さがみられるものの、個人消費や固定資本形成を中心とする堅調な内需が主導し、実質経済成長率は前期比年率1.7%となるなど持ち直しの動きがみられた。

フランスの実質経済成長率は、低・中所得者層向け施策2による個人消費の下支えもあり、19年1~3月期は同1.4%となった。スペインでは、機械設備投資や建設投資の伸びに支えられて19年1~3月期の実質経済成長率は同2.9%となった。フランス、スペインは引き続きユーロ圏の景気回復を下支えする役割を果たしている。

イタリアでは、企業の景況感の悪化や雇用情勢の改善の遅れに加え、企業の資金調達環境の悪化3により投資及び消費がともに減少し、18年後半は2四半期連続でマイナス成長となった。19年1~3月期については、輸入の大幅な減少により外需がプラス寄与となった影響等から、同0.5%とプラス成長となった。

第2-4-1図 ユーロ圏の実質経済成長率
第2-4-2図 ユーロ圏主要国の実質経済成長率
(雇用情勢の改善等から個人消費は緩やかながら増加)

ユーロ圏の個人消費は緩やかながら増加している(第2-4-3図)。これは、雇用情勢の改善が続いていることを受け、賃金上昇率が16年半ば以降2%前後で安定的に推移し、家計の所得環境が引き続き改善していることが大きく寄与しているとみられる(第2-4-4図)。今後も、良好な雇用所得環境や、主要国における拡張的な財政政策4に下支えされ、個人消費はユーロ圏の緩やかな回復を支えていくことが期待される。一方、製造業を中心に企業マインドは悪化しており、将来の雇用の見通しも低下傾向となっている。こうした動きが現実の雇用環境の悪化につながることがあれば、消費者マインドや消費の下押しにつながる可能性もある(第2-4-5図)。

第2-4-3図 ユーロ圏の個人消費・小売売上
第2-4-4図 ユーロ圏の賃金・可処分所得
第2-4-5図 ユーロ圏、ドイツの消費者信頼感指数
(機械設備投資は緩やかに増加)

ユーロ圏の機械設備投資は、高水準の稼働率や労働市場のひっ迫、緩和的な金融政策等を背景に、18年以降は緩やかな増加が続いている。主要国別にみると、19年1~3月期は、ドイツ、フランス、スペインでの機械設備投資の増加がユーロ圏全体のけん引役となった(第2-4-6図)。

また、ユーロ圏の機械設備投資計画をみても、19年は18年に引き続き堅調さが続くとみられ(第2-4-7図)、機械設備投資は引き続きユーロ圏の景気の回復を支えていくことが見込まれる。

第2-4-6図 ユーロ圏の機械設備投資(国別)
第2-4-7図 ユーロ圏の機械設備投資計画

ただし、18年半ば以降、世界的な貿易の伸びの急速な鈍化、米中貿易摩擦や英国のEU離脱等の政治的・政策的不確実性の高まり等もあって企業の景況感が急速に悪化5しており、先行きの不透明感が設備投資を抑制する可能性がある。

建設投資(非住宅及び住宅)6は、緩和的な金融政策に支えられて回復が続いている。国別では、18年以降特にドイツにおける建設投資が堅調に推移しており、19年1~3月期は、ドイツとスペインの伸びがユーロ圏全体の伸びをけん引した(第2-4-8図)。建設業の景況感及び建設受注をみると、世界金融危機直前の水準とほぼ同レベルであり、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)が極めて緩和的な金融政策スタンスを当面維持するとしている中、建設投資は基調としては緩やかな回復が続くと見込まれる(第2-4-9図)。

第2-4-8図 ユーロ圏の建設投資(国別)
第2-4-9図 ユーロ圏の建設業景況感
(外需の伸びの鈍化を背景に輸出はおおむね横ばい)

17年のユーロ圏経済の回復をけん引した輸出は、18年後半以降、おおむね横ばいで推移している。これは、主に、米中貿易摩擦や中国経済の減速に伴い外需の伸びが鈍化したことによる。なお、19年に入り、英国向け輸出が増加しているが、当初3月末とされていた英国のEU離脱期日を控え、英国企業や家計が合意なき離脱に備えて在庫積増しを行ったことによる一時的要因と考えられる7(第2-4-10図)。

また、輸出受注に対する企業の景況感(製造業PMI)をみると、17年11月に史上最高を記録した後、急速に低下し、18年10月には約5年半ぶりに中立水準である50を割り込み、その後も50以下の水準で推移しており(第2-4-11図)、輸出の伸びは今後鈍化する可能性がある。

第2-4-10図 ユーロ圏の財輸出(仕向先)
第2-4-11図 ユーロ圏の製造業PMI新規輸出受注指数
(EU・アメリカ間の貿易摩擦の動向)

EUとアメリカは、18年7月の首脳会談で、自動車を除く工業製品の関税撤廃やアメリカ産の大豆や液化天然ガス(LNG)の輸入拡大に向けた交渉の開始と引換えに、アメリカは自動車関税の発動を棚上げすることで合意していた8。その際には、農産品の扱いについては合意が見送られていたが、アメリカは19年1月に、EUとの貿易交渉で農産品の市場開放を求める方針を発表し、それに対して欧州委員会は同月、工業製品の関税撤廃を目指す一方、農産品は交渉の対象から除く方針を示した。

こうした中、トランプ米大統領は4月8日、EUによるエアバスへの補助金を不当として210億ドル分のEU製品に関税を課す意向を表明した。これに対して、EUは4月17日、アメリカが実際に関税をかけた場合、アメリカ製品200億ドル相当に関税を課す対抗策を発表した。

また、自動車分野については、前述のとおり、18年7月に交渉中は関税を引き上げないことを確認していたが、アメリカ商務省は19年2月17日、安全保障を理由とした自動車の輸入制限をめぐる調査報告書をトランプ大統領に提出し、自動車への追加関税等の輸入制限発動をめぐる判断を求めた。トランプ大統領は5月17日に判断を最大180日先延ばしする旨発表したが、あわせて、180日以内に同分野でEUや日本等の関係国と合意が得られなければ追加的行動を取る意向も明らかにしており、今後の交渉の行方について注視が必要である9

(外需の鈍化により鉱工業生産は弱い動き)

ユーロ圏の鉱工業生産は、17年半ば以降、輸出と連動して持ち直しの基調が続いていたが、18年後半に入りおおむね横ばいとなった後、弱い動きとなっている(第2-4-12図)。この背景には、外需の鈍化に加え、WLTPの導入に伴う混乱等の特殊要因もあったと考えられる。製造業PMI新規受注指数も、新規輸出受注指数と同様、18年10月に中立水準である50を割り込み、その後も50以下の水準で推移しており(第2-4-13(1)図)、当面は鉱工業生産の弱い動きが続く可能性がある。なお、サービス業ではPMI新規受注指数は50を上回り推移している10(第2-4-13(2)図)。

第2-4-12図 ユーロ圏主要国の鉱工業生産
第2-4-13図 ユーロ圏のPMI
(失業率は低下傾向)

ユーロ圏全体の失業率は低下傾向が続き、08年11月以来の低水準となっている(第2-4-14図(1))。ただし、企業の将来的な雇用見通しをみると、18年以降、改善と答える企業の割合が継続的に低下しており、19年5月には0.3と中立水準であるゼロ近傍まで低下している(第2-4-14図(2))。

第2-4-14図 ユーロ圏主要国の雇用情勢
(物価はおおむね横ばい)

ユーロ圏の消費者物価上昇率(総合)は、18年末以降、ECBのインフレ参照値11である2%(前年比)を下回り、低下傾向にある(第2-4-15図)。コア物価上昇率も、原材料価格の高騰や賃金上昇圧力の高まりにもかかわらず、景気の回復のペースが緩やかになっていることに伴い、川下への価格転嫁が進んでおらず、前年比1%台前半でおおむね横ばいで推移している12

第2-4-15図 ユーロ圏の消費者物価上昇率
(ECBは19年3月に緩和的な金融政策を強化)

18年後半から19年初めにかけての経済指標はECBの想定を超えて弱く、19年1月の政策理事会では成長見通しに関するリスクが下方に向かっているとの判断が示された13。さらに、3月の政策理事会では景気・物価見通しを下方修正するとともに14、政策金利のフォワード・ガイダンスを修正し、主要政策金利15を据え置く期間を少なくとも19年夏までとする従来の方針から、19年末までに変更した(第2-4-16図)。その後、6月の政策理事会でも再度フォワード・ガイダンスを修正し、主要政策金利を少なくとも20年前半を通じて据え置くことが決定された。

さらに、3月の政策理事会では、長期流動性供給の手段の一つとして14年9月に導入され、17年3月を最後に実施されていなかった貸出条件付長期資金供給オペ(TLTRO:Targeted Longer Term Refinancing Operation)の再導入が決定され、6月の政策理事会で詳細が明らかにされた(以下、「TLTRO-III」という。)(第2-4-17表)。現時点で公表されているTLTRO-IIIの概要によると、満期が2年とされているほか、適用金利は、ECBが定める貸出基準額を(1)満たさない銀行に対しては政策金利(レポ金利)(現在は0.0%)+10ベーシス・ポイント16、(2)満たした銀行に対しては貸出実績に応じて中銀預金金利(現在-0.4%)+10ベーシス・ポイントまで引き下げられる(第2-4-18表)。16年6月から17年3月まで実施されたTLTRO-IIでは、満期4年、適用金利は貸出基準額を満たさなければ政策金利(当時0.0%)に、満たせば中銀預金金利(当時-0.4%)と同率に固定されていたことと比較すると、TLTRO-IIIでは貸出の際の適用金利がやや引き上げられていると言える。

第2-4-16図 ECBの政策金利とバランスシート
第2-4-17表 ECBによる非伝統的金融政策の変遷
第2-4-18表 TLTROの概要
(財政政策の動向)

ユーロ圏の一般政府財政収支対GDP比は、赤字が10~14年平均の-3.9%から18年には-0.5%にまで縮小した。欧州委員会の春季見通し(19年5月)によると、19、20年の財政赤字は景気減速と拡張的な財政政策により若干拡大することが見込まれている(第2-4-19表)。

財政政策のスタンスを表すとされる構造的財政収支対GDP比については、ユーロ圏全体では赤字が18年-0.7%まで縮小したものの、19年-0.9%、20年-1.2%と緩やかに拡大することが見通されている。

第2-4-19表 ユーロ圏の一般政府財政収支見通し

EU加盟国は、「欧州セメスター17」において、財政の健全性確保やマクロ経済不均衡の是正等に向けた取組について3年間の財政計画である「安定化プログラム18」と、雇用と成長を促進するための構造改革計画である「国家改革プログラム」を欧州委員会に提出することとされており、欧州理事会(The European Council、EU首脳会議)によって承認された19勧告に基づいて予算案を作成することとされている。しかし、18年末に、各国議会における19年度予算案の採択に向けたプロセスを進める中で、イタリア、フランス、スペインで18年6月の欧州理事会において承認された予算の枠組みを超えて財政拡張的な予算編成を行う動きが生じた。特にイタリアは、18年6月に新たに樹立された連立政権の下、拡張的な19年度予算案を欧州委員会に提出したため、欧州委員会との間で激しい対立が生じた20

また、EU加盟国は安定成長協定により、一般政府財政赤字がGDP比3%を上回らず、公的債務残高のGDP比が60%を下回ることが求められており、この基準を大きく逸脱する加盟国に対しては、是正措置として過剰財政赤字是正手続(Excessive Deficit Procedure、以下「EDP」)を適用して、財政規律遵守を求めている21(第2-4-20図、第2-4-21図)。イタリアについては、18年末にイタリア政府と欧州委員会との間で調整が続けられた結果、12月下旬に財政赤字対GDP比を当初の2.4%から2.04%にまで削減することが合意され、EDP適用は回避された。

イタリアの19年1~3月期の実質経済成長率はプラス成長となったものの(第2-4-22図)、19年4月、イタリア政府は19年の実質経済成長率見通しを1.0%から0.1%に大幅に下方改定し、財政赤字対GDP比が2.4%になるとの見通しを示した22。また、5月の欧州委員会の見通しでは、同国の一般政府財政赤字が19年は対GDP比2.5%、20年には3.5%となるとともに、公的債務残高も19年は対GDP比133.7%、20年には135.2%に増加することが見込まれている。こうした財政の状況及び見通しを踏まえ、欧州委員会は19年6月5日にイタリアの財政状況に関する報告書を公表し、過剰財政赤字是正手続き(EDP)の適用が正当化されるとした23。また、6月13日のユーログループ(ユーロ圏財務大臣会合)でも欧州委員会の判断が支持された。

イタリアへのEDP適用については、早ければ7月に開催される閣僚理事会で決定される可能性があったが、イタリア政府が20年度予算においても安定成長協定を遵守する旨表明したことなどからこのタイミングでの決定は見送られた。ただし、10月から始まる欧州委員会による各国の予算原案の審査の過程で、18年と同様の対立が表面化する可能性がある。

イタリアの財政リスクプレミアムの動向をドイツ国債とイタリア国債の利回り格差でみると(第2-4-23図)、18年6月の連立政権発足後、欧州委員会との対立の深まりとともに拡大しており、併せてユーロ安も進行していることがみてとれる。18年12月下旬にEDPの適用が一旦回避されて以降、財政リスクプレミアムは比較的安定して推移していたが、19年5月以降、イタリアの財政問題への懸念が高まる中で再び拡大の動きを示しており、今後の動向に留意が必要である。

第2-4-20図 EU諸国の財政収支・債務残高
第2-4-21図 EU諸国の財政収支
第2-4-22図 イタリアの実質経済成長率(需要項目別)
第2-4-23図 イタリアの国債とユーロの動向
(欧州議会選挙の結果)

欧州議会24の議員を選出する欧州議会選挙が19年5月23~26日に実施された。今回の選挙では、EU加盟各国で反移民や反EUを唱える勢力の存在感が増大する中、EU統合推進の是非が焦点となり、今後のEUの行方を左右するとして注目されていた。選挙の結果、大連立を組み、EU統合を推進してきた最大会派の中道右派「欧州人民党(EPP)」と第二会派の中道左派「社会民主進歩同盟(S&D)」が1979年の選挙開始以降で初めて合計議席で過半数を失ったが、同じく親EU派である「欧州自由民主同盟(ALDE)」と「緑の党・欧州自由連合(Greens/EFA)」が議席を増やし、親EU派全体では約3分の2の議席を有することになった。このため、反移民や反EUを唱える勢力は、主要国であるイギリス(ブレグジット党)、フランス(国民連合)、イタリア(同盟)では第一党となったものの全体では事前予想ほどには支持が広がらず、欧州議会での獲得議席は微増にとどまった25(第2-4-24図)。

欧州では、欧州議会選挙に続き、19年10月末にはユンケル欧州委員長とドラギECB総裁、11月末にはトゥスクEU大統領の任期が終了する。欧州委員長はリスボン条約(改正EU基本条約、2009年12月発効)で欧州議会選挙の結果を考慮して欧州理事会(EU首脳会議)が指名し、欧州議会が承認すると定められており、欧州委員長を含めた主要なEU人事は大国小国、東西南北の地域や男女等のバランスを考慮して決定することとされている26。6月30日~7月2日に開催された特別欧州理事会で、欧州委員長にEPP所属のフォン・デア・ライエン独国防相(女性)を候補として指名するとともに、ECB総裁にフランス出身でEPP所属のラガルド現IMF専務理事(女性)、EU大統領に欧州議会選挙後に発足した新会派リニュー・ヨーロッパ(欧州刷新)所属のミシェル現ベルギー首相(男性)を選出した27。その後、7月16日に欧州議会はフォン・デア・ライエン候補の承認投票を実施し、賛成多数で同氏の欧州委員長就任が承認された。

第2-4-24図 欧州議会選挙前後での各会派の議席数変化

(2)英国経済の動向

(EU離脱問題をめぐる不確実性が続く中、景気は弱い回復)

18年11月25日の特別欧州理事会において、英国を除いたEU27か国が、英国のEU離脱に関する「EU離脱協定案」及び「将来関係に関する政治宣言案」を承認した後、英国では当初の離脱期日であった19年3月29日23時(英国時間)に間に合うよう、英国議会において離脱協定案の承認手続が開始された28。しかし離脱協定案は英国議会で三度にわたり否決されるなど、当初の離脱期日が目前に迫っても可決の見込みが立たない状況にあった。このため、英国の「合意なき離脱」29を避けるべく、19年3月21日の欧州理事会において、EU27か国は(1)英国議会が離脱協定案を可決すれば19年5月22日まで、(2)可決できなければ19年4月12日まで、離脱期限を延期することで合意した。しかしながら、その後も英国議会では離脱協定案の可決に至らず、19年4月10日の特別欧州理事会において、離脱期限を更に19年10月31日まで再延期する旨30決定した。英国のEU離脱までに猶予ができたものの、離脱交渉を率いてきたメイ英首相が19年5月24日に保守党党首辞任を表明し、次期党首に離脱強硬派の候補が立候補し保守党員の高い支持率を得るなど、離脱をめぐる不確実性は更に高まっている。

こうした不確実性が、英国の経済活動に様々な影響を与えている。19年1~3月期の実質経済成長率は、当初の離脱予定日である19年3月29日を控えた企業や個人による在庫積増しの駆込み需要もあり、前期比年率2.0%となった(第2-4-25図)。ただし、外需については、EUとの間で財輸出入ともに当初の離脱期日を控えた駆込み需要による増加がみられたものの、財輸入の増加が財輸出の増加を上回ったことから、全体としては大幅なマイナスとなった(第2-4-26図)。個人消費は、EU離脱を控えた駆込み需要により緩やかに増加した後、増加のテンポが緩やかになっている。民間設備投資は、不確実性の高まりによる企業の投資手控えから、弱い動きとなっている。財輸出は、EU離脱を控えたEU諸国による駆込み需要により増加した後、おおむね横ばいとなっている。生産は、EU離脱を控えた前倒し生産もあり持ち直しの動きがみられた後、おおむね横ばいとなっている。失業率は、1974年以来の低水準でおおむね横ばいとなっている。消費者物価上昇率(総合)は、イングランド銀行(BOE:Bank of England)のインフレ目標である2%近辺で安定しており、コア消費者物価上昇率も2%をわずかに下回る水準で安定的に推移している。

第2-4-25図 英国の実質経済成長率
第2-4-26図 英国の輸出入寄与度分解
(消費は増加のテンポが緩やかに)

個人消費は、良好な雇用所得環境に加え、当初のEU離脱期日を控えた駆込み需要31といった一時的要因もあり増加した後、駆込み需要の影響がはく落したとみられ、増加のテンポは緩やかになっている(前掲第2-4-25図、第2-4-27図)。実質賃金は18年2月に伸び率がプラスに転じた後も増加を続けており、失業率は低水準でおおむね横ばいとなっている(第2-4-28図、後掲第2-4-40図)。これらを背景に、家計の今後12か月の収入見通し指数は中立水準を超えて推移しており(第2-4-29図)、堅調な雇用・所得環境は今後も家計の購買行動を下支えするとみられる。

耐久財消費について新規乗用車登録台数をみると、新規登録される全ての新車に対し18年9月から適用開始となったWLTPによる生産減少(後掲第2-4-36図)等の供給面の問題もあり18年9月は大きく落ち込んだが32、18年末以降は弱含んでいる(第2-4-30図)。

また、EU離脱をめぐる英国経済の先行き不透明感から消費者信頼感の総合値はマイナス圏内で推移しているなど(第2-4-29図)、消費の先行きには留意が必要である。

第2-4-27図 英国の小売売上
第2-4-28図 英国の所得環境
第2-4-29図 英国の消費者信頼感
第2-4-30図 英国の新規乗用車登録台数
(民間設備投資は弱い動き)

民間設備投資は、18年は4四半期連続でマイナス成長を続け、19年1~3月期はわずかに回復したものの弱い動きが続いている(第2-4-31図)。緩和的な金融環境や労働需給の引締り等、設備投資を促進する要素もあるものの、EU離脱に係る不確実性が設備投資を下押ししているとみられる。企業を対象にBOEが実施した将来の設備投資意欲に関する調査結果では、EU離脱期限の延長が決定された後の19年4月は製造業、サービス業ともに9年ぶりの低い値となっており、設備投資は今後も弱い動きが続くと見込まれる(第2-4-32図)。

第2-4-31図 英国の総固定資本形成
第2-4-32図 英国企業の投資意欲
(財輸出はEU離脱を控えた駆込み需要による増加後、おおむね横ばい)

財輸出は、18年後半以降は外需の伸びの鈍化等によりおおむね横ばいで推移してきたが、当初の離脱予定期日を目前とした19年3月に、「合意なき離脱」により英国からの財の供給が滞ることを危惧したEU諸国からの駆込み需要により一時的に急増した。4月には駆込み需要の影響がはく落し、その後は3月以前の水準に戻っている(第2-4-33図、第2-4-34図)。先行きについて製造業PMIの新規輸出受注指数33をみると、離脱期限延期が決まった4月以降は中立水準を下回って推移している(第2-4-35図)。この背景としてEU離脱に係る不確実性の継続やEU企業が英国企業をサプライチェーンから外す動き、積み増した在庫の取り崩し等の要因が指摘されている。

第2-4-33図 英国の財輸出
第2-4-34図 英国の仕向け先別財輸出
第2-4-35図 英国の製造業PMI新規輸出受注指数
(生産はEU離脱を控えた前倒し生産の後、おおむね横ばい)

英国の鉱工業生産は、外需の伸びの鈍化やEU離脱に係る不確実性の継続を受けて、18年8月以降に5か月連続でマイナス成長と弱含んだが、19年初から3月までは当初のEU離脱期日を控えた前倒し生産もあり、持ち直しの動きがみられた。例えば医薬品34においては、「合意なき離脱」の場合の供給確保のために最低でも6週間分の在庫を用意するよう18年12月に英国政府が医薬品メーカーに要請したことや、英国からの供給不安を危惧したEU諸国に向けた輸出が増えたことにより、生産が増加した。

しかし当初の離脱期日直後である4月には、サプライチェーンの混乱を見越して工場休止を実施したメーカー35もあり、例えば乗用車生産台数は前年比-40%超、道路運送車両等の生産も同-25%となるなど大幅なマイナスとなった36。こうした影響もあり、鉱工業生産指数全体も前月比-2.7%と大幅なマイナスとなった(第2-4-36図、第2-4-37図)。

またEU離脱に備えた企業の在庫積増し行動37により、製造業PMI在庫指数は当初の離脱期日である19年3月までは歴史的水準まで増加したものの、4月以降は離脱期限の延期により在庫取り崩しの動きも報告されており、顕著に低下している(第2-4-38図)。

先行きに関して、製造業PMIの新規輸出受注指数、新規受注指数をみると、19年5月には既に在庫が積み上がっていることもあって中立水準を割り込んでおり、生産は再び弱含む可能性がある(前掲第2-4-35図、第2-4-39図)。

第2-4-36図 英国の鉱工業生産
第2-4-37図 英国の道路運送車両等生産
第2-4-38図 英国の製造業PMI在庫指数
第2-4-39図 英国の製造業PMI
(雇用情勢は引き続き改善、賃金上昇率も安定的に推移)

雇用情勢は、引き続き改善している。失業率(ILO基準)は18年2月に均衡失業率(4.25%)38を下回る4.2%にまで低下した後も改善を続け、1974年以来の低水準となる3.8%程度でおおむね横ばいで推移している(第2-4-40図)。

このような労働需給の引締りに伴い、名目賃金(週平均、ボーナス除く)上昇率は17年4月以降伸びを高め、19年入り後は前年比3%程度で安定して推移している。実質賃金(週平均、ボーナス除く)も、消費者物価上昇率が2%近傍で安定推移していることを受けて(後掲第2-4-44図)、19年入り後も堅調に推移している(第2-4-41図)。

ただし各種マインド調査を見ると、PMIの雇用指数は19年に入り、製造業、サービス業ともに中立水準である50を度々割り込んでいる(第2-4-42図)。19年4月のBOEの調査をみても、企業の雇用意欲は中立水準程度まで低下している(第2-4-43図)。景気回復の弱さやEU離脱の不確実性が影響していると指摘もあり、今後のEU離脱等の動向によっては雇用情勢が弱含むおそれがある。

第2-4-40図 英国の失業率
第2-4-41図 英国の名目賃金及び実質賃金
第2-4-42図 英国のPMI雇用指数
第2-4-43図 英国企業の雇用意欲
(コア消費者物価上昇率は安定的に推移)

コア消費者物価上昇率は18年初から低下し、18年9月に2%となった後は、2%をわずかに下回る水準で安定的に推移している(第2-4-44図)。これは、輸入物価や生産者投入価格といった川上の物価上昇率が18年秋以降安定的に推移していることに加え、特にサービス業においては、川下への価格転嫁が困難となっていることが寄与している(第2-4-45図、第2-4-46図)。消費者物価上昇率(総合)は、18年末以降、エネルギー小売価格の低下を受け、19年1月にBOEのインフレ目標(2%)を下回った後、2%近傍で安定的に推移している39(第2-4-44図、第2-4-47図)。

第2-4-44図 英国の消費者物価上昇率
第2-4-45図 英国の輸入物価と生産者価格
第2-4-46図 英国のPMI投入物価・産出物価指数
第2-4-47図 英国の消費者物価(要因別)
(金融政策は政策金利の据置きが続く)

BOEは18年8月の金融政策委員会で政策金利を0.50%から0.75%に引き上げた後は、19年6月の金融政策委員会に至るまで、EU離脱の行く末によっては利上げ・利下げのどちらもあり得るとしながらも、据置きの判断を続けている。また、09年3月に導入された量的緩和政策は、16年8月に資金枠が3,750億ポンドから4,350億ポンドに拡大された後は据え置かれ、BOEのバランスシートは18年以降おおむね横ばいに保たれている(第2-4-48図)。

19年5月のインフレーションレポート40では、エネルギー小売価格の想定の下方修正による物価予測の引下げと、雇用・賃金の伸びの加速が家計の購買力を押し上げるとの想定から、成長率を予測期間にわたって全面的に上方改定した。ただし、この見通しは円滑なEU離脱を想定しており、今後の離脱プロセスによっては、大幅に変わり得るとされている(第2-4-49表)。

19年6月の金融政策委員会では、貿易摩擦の過熱や「合意なき離脱」の可能性の高まりにより5月時点と比較して成長の下方リスクが高まったとされており、19年4~6月期の実質経済成長率の見通しは前期比0.2%から同0.0%に引き下げられた。

第2-4-48図 BOEの金融政策
第2-4-49表 円滑なEU離脱を前提としたBOEの見通し
(英国のEU離脱問題の動向41

英国は、16年6月23日のEU離脱を問う国民投票で離脱賛成票が残留票を上回ったことを受けて、17年3月29日、EUに離脱を通知し、その後の離脱交渉を経て、18年11月に「EU離脱協定案」と「将来関係に関する政治宣言案」が正式に合意された(第2-4-50表)。離脱交渉の過程で、特に懸案となっていた北アイルランドの国境管理問題については、英国は20年末までの移行期間中に具体的解決策がまとまらない場合、「英国全土をEU関税同盟に残すバックストップ」、あるいは「移行期間の延長」42を選択することができることとした。また、バックストップが発動された場合、英国とEU双方が合意しなければ、英国はバックストップからは脱却できないこととなった。一方、将来的な通商関係については、自由貿易圏を創出する包括的な取決めが目指され、サービスについて、英国とEUの双方は野心的で包括的かつバランスのとれた取決めを結ぶべきとされた。

しかし、英国とEUとの間で合意に至った離脱協定案に対しては、主に英国議会の与党・保守党の強硬離脱派から大きな批判を受けることになった。特に北アイルランドのバックストップについて、発動されるとEUとの合意なしには解除することができない取り決めとなっていることやEU関税同盟への残留期間が明確にされていないことから、英国がEUのルールに縛られたまま主権を取り戻すことができなくなるおそれがあると批判された。その結果、離脱協定案は英国議会下院において、19年1月15日、3月12日、3月29日43の3回にわたり否決された。なお、3月29日の英国議会下院での否決を受け、EUは当初3月29日だった英国の離脱日を4月12日(5月23~26日に予定されている欧州議会選挙の告示日)まで延期することを正式に決定するとともに44、英国の離脱問題を協議するため、4月10日に特別欧州理事会(特別EU首脳会議)を開くこととした。

4月10日に開催された特別欧州理事会で、EU27か国は5月の欧州議会選挙への参加を条件に、英国の離脱期日を19年10月31日まで再延期することで合意した。なお、欧州理事会は6月に英国の離脱プロセスの進捗状況を確認する一方、10月31日以前に英国が離脱協定案を批准した場合は早期の離脱も可能とし、また、英国が5月の欧州議会選挙時もEU加盟国であれば、欧州議会選挙を実施する義務があるとされた。

英国は欧州議会選挙を実施し、離脱期日は10月31日まで延長されたが、5月24日、メイ首相は6月7日に保守党党首を辞任し、後任党首が決まるまで首相の職にとどまる意向を表明した。保守党党首選が本格化する中、後任の党首には強硬離脱派の候補が保守党員の高い支持率を得ており、EU離脱をめぐる先行きの不確実性は更に高まっている。

第2-4-50表 英国のEU離脱をめぐる主要な動向
(合意なき離脱がもたらす長期的な経済への影響)

IMF(2019b)では、英国がEUからの「合意なき離脱」に至った場合に、英国、英国を除くEU諸国、及び世界の実質GDPに与える長期的な影響を推計している45。合意なき離脱は、特に英国において、(1)関税障壁及び非関税障壁の高まりによる資本の収益率の低下、(2)より厳格な移民規制による労働力の減少、を通じて潜在成長率が3%近く押し下げられるとしている。他方で、英国を除くEU諸国については、移民の増加による労働力の増加もあり、実質GDPの押し下げ幅は0.3%程度にとどまるとされている。また、世界の実質GDPの押し下げ幅は0.1%程度と極めて小さいとされ、合意なき離脱は英国経済へのマイナスの影響が突出して大きいことが示されている(第2-4-51図)。

第2-4-51図 英国のEU離脱がもたらす長期的な実質GDPへの影響

2.ユーロ圏及び英国経済の見通しと主なリスク要因

(1)ユーロ圏及び英国経済の見通し

ユーロ圏の景気は、雇用情勢の改善による所得の向上に支えられた個人消費及び緩和的な金融政策や企業による能力増強投資への需要等に支えられた設備投資の緩やかな増加により、引き続き内需にけん引されて、一部に弱さがみられるものの、基調としては緩やかな回復傾向で推移することが期待される。

英国では、長期化するEU離脱問題に係る不透明感の影響から、企業の設備投資が抑制され、景気は弱い回復が続くと見込まれる(第2-4-52図)。

国際機関による経済見通しは、19年と20年の成長率として、ユーロ圏でおおむね1.2~1.3%、1.4~1.5%、英国で1.2~1.3%、1.0~1.4%となっている(第2-4-53表)。また、下振れリスクとしてはユーロ圏、英国ともに、(1)英国のEU離脱問題等政治的不確実性(2)通商問題をめぐる緊張の高まりや中国経済の減速等による外需の伸びの鈍化46、(3)金融市場の変動による資金調達環境の悪化等が挙げられている。

第2-4-52図 ユーロ圏及び英国の実質経済成長率
第2-4-53表 ユーロ圏及び英国の国際機関による見通し

(2)ユーロ圏及び英国経済の主なリスク要因

ユーロ圏及び英国における当面のリスク要因としては以下の点が指摘できる。

(通商問題の動向)

ユーロ圏では外需の伸びの鈍化が輸出や生産への重しとなっており、米中貿易摩擦の更なる悪化等、外需を減速させるような通商問題の動向には留意が必要である。また、EU・アメリカ間の貿易交渉をめぐり、アメリカは18年5月17日に自動車への追加関税等の輸入制限発動をめぐる判断を最大180日先延ばしすることを決定しているものの、同期間中にEUや日本等の関係国と合意が得られなければ追加的行動を取る意向を明らかにしている。自動車産業は欧州主要国の主力産業であることから、EU・アメリカ間の貿易交渉の行方にはとりわけ注意が必要である。

(英国のEU離脱問題)

18年11月に英国とEUの間で正式に合意された離脱協定案は、19年に入り英国議会下院で3度否決されており、離脱期日も19年10月31日まで延長されたものの、その後も議会承認を得られる見込みは立っていない。一方、メイ首相の後任首相には強硬離脱派が有力視されており、メイ首相が合意した離脱協定案の再交渉を含め欧州委員会と激しく対立する可能性がある47。英国のEU離脱問題の行方は、合意なき離脱、解散・総選挙実施等様々なシナリオが考えられるなど、不確実性は更に高まっており、設備投資等の実体経済への悪影響が懸念される。特に、合意なき離脱となった場合、英国経済への影響は大きいものとなることが予想されることから、一層の注意が必要である。

(イタリアの財政問題)

イタリアの財政をめぐり、19年6月に欧州委員会は同国に対するEDP適用が正当化できるとの報告書を示し、6月13日のユーログループでは、同報告書への支持とイタリア政府が安定成長協定遵守のために必要な措置を採るべきことが表明された48。今後、10月に始まる欧州委員会による各国の予算原案審査過程等において、EDP適用の是非等をめぐりイタリアと欧州委員会の対立が深まった場合、同国の財政リスクプレミアムの拡大やユーロの大幅な変動が生じ、さらにはこうした金融面の動きが設備投資等の実体経済にも悪影響をもたらす可能性がある。


1 WLTPの影響については内閣府(2019)を参照。
2 マクロン大統領は「黄色いベスト運動」に対処するため、18年12月10日、同運動の契機となった軽油・ガソリンへの燃料税引上げを撤回するとともに、経済社会緊急対策(19年3月末までに支給されるボーナスへの課税、社会保険料免除、残業手当への社会保険料免除(19年9月予定)の19年1月繰り上げ実施、課税免除の追加、月当たり最低賃金100ユーロ引上げ(19年1月分~)等)を発表した。なお、同運動はその後も続いていることから、19年4月25日には、20年から中間所得層以下を対象とした総額50億ユーロ規模の所得減税を実施する旨を発表している。
3 19年度予算案をめぐる欧州委員会との対立を契機に、18年後半にイタリアの財政リスクプレミアムが上昇(国債価格が低下)したことから、同国の国債を大量に保有するイタリアの銀行の財務環境が悪化し、貸出金利の上昇等が生じた。詳細は、内閣府(2019)を参照。
4 例えば、ドイツでは19年度から所得税における控除の拡大や課税最低限の引上げ、児童手当を含む家族向け手当の増額等、低所得者層の社会保障負担の軽減を中心とした拡張的な予算を組んでいる。
5 製造業購買担当者景気指数(PMI)は50を超えると前月と比較して改善、50を割ると悪化を表す。18年10月にはユーロ圏、ドイツ、イタリアが50を割り、その後も50を下回った状況が続いている。
6 ユーロ圏の総固定資本形成(18年)に占める機械設備投資及び建設投資の割合は各々32.5%、47.6%(住宅投資のみでは25.1%)となっている。
7 英国のEU離脱の動向については、本節(2)英国経済の動向を参照。
8 アメリカ政府は18年6月、EUの鉄鋼とアルミニウムに追加関税を発動し、それに対してEUは二輪車や農産品に報復関税を課した。
9 アメリカの自動車に対する追加関税措置の動向については、本章第2節 アメリカ経済を参照。
10 ユーロ圏のGDPに占めるサービス業のシェアは73.0%(18年)。
11 ECBは、消費者物価指数(HICP総合)前年比を、中期的に2%を下回りかつ2%近傍とすることとしている。
12 19年5月の消費者物価上昇率(総合)は前年同月比1.2%(4月同1.7%)、コア物価上昇率は同1.0%(4月同1.4%)と前月から大きく下落した。これは、19年のイースター休暇が4月中旬に集中していた一方、18年は3月と4月にまたがっていたため、19年の4月に物価が大きく上昇し、5月にその影響がはく落したためと考えられる。
13 具体的なリスクとして、地政学的要素のほか、保護主義の脅威、新興国市場のぜい弱性、金融市場の不安定性を挙げている。
14 19年の実質経済成長率について、18年12月時点の1.7%から1.1%に大幅に引き下げたほか、19年の物価上昇率も1.6%から1.2%に引き下げた。
15 主要政策金利は、(1)政策金利(interest rate on the main refinancing operations(レポ金利):市場金利の誘導目安となっているほか、市場流動性を調整するための公開市場操作のための金利)、(2)限界貸出金利(interest rates on the marginal lending facility:民間銀行がユーロシステムから流動性供給として貸出を受ける場合に適用される貸出金利)、(3)中銀預金金利(interest rates on the deposit facility:民間銀行がユーロシステムに余剰資金を一時的に預ける際に適用される預金金利)。
16 1ベーシス・ポイント=0.01%。
17 「欧州セメスター」とは、11年に導入されたEU加盟国の経済政策及び予算に対する事前評価制度。毎年11月から翌6月にかけて実施される。具体的なプロセスは次の通り。(1)欧州委員会が前年の年末に向け、成長と雇用の促進のための戦略を示す年次成長概観を示し、これに基づきEU首脳会議が3月に各国の政策に関しガイドラインを提示する。(2)各国はこれに基づいて中期予算目標や根拠となる経済予測等が盛り込まれた「安定化プログラム」及び「国家改革プログラム」を4月頃に欧州委員会に提出する。(3)欧州委員会において各国のプログラムを評価し作成した勧告案を6月に閣僚理事会にかけ、更に欧州理事会で議論し承認する。なお、ユーロ加盟国は勧告案を踏まえて、10月15日までに次年度の予算原案を欧州委員会に提出するとともに公表しなければならない。また、欧州委員会は同原案の審査を行い、これに対する意見の公表や加盟国に対し予算原案の修正要求を行う場合もある。
18 ユーロ非加盟国の場合には「収れんプログラム」と呼ばれる。
19 欧州理事会による承認後、閣僚理事会(The Council of the EU、EU理事会)において正式に決定される。
20 詳細は内閣府(2019)を参照。
21 2010~11年の欧州債務危機の際には、24か国がEDPの適用対象国となったが、19年6月に最後のスペインが終了したため、現在EDPの適用対象国はない。
22 5月の欧州委員会の成長見通しでも、0.2%から0.1%に引き下げており、さらに、20年の一般政府財政赤字がGDP比3.5%と、ユーロ加盟国の財政規律基準値である3.0%を上回ると予測している。
23 報告書の中で欧州委員会は、イタリアの(1)18年における中期財政目標への調整経路からの逸脱、19年における予防的措置(preventive arm)からの著しい逸脱や20年における一般政府財政赤字を3%以内に抑えるルールからの逸脱のリスク、(2)18年後半の景気減速はEUの債務残高削減基準逸脱の要因の一部でしかないこと、(3)18年の国別勧告で提示された取組への進捗の遅れを指摘している。
24 欧州議会は28の加盟国から5年に1度の直接選挙で選出された議員で構成される機関で、比例代表制(定員は各国の人口に配慮し配分、各国国内選挙法に基づき実施)により選出され、欧州議会議員は、出身国にかかわらず構成される会派に所属して活動する(現在の定数は751。ただし、英国がEUを離脱すれば705)。欧州議会には執行機関である欧州委員会と異なり法案や予算案の提出権はないものの、法案等を承認・否決する権限を有し、欧州委員会委員長の就任を承認するほか、総辞職させることも可能である。また、国際協定の締結等重要決定事項においても欧州議会の同意が必要となる。
25 反移民や反EUを唱える勢力が伸び悩んだ要因として、EUへの支持率が高い若年層の投票率上昇が影響しているとの指摘がある。なお、今回の欧州議会選挙の投票率は過去20年で最も高い50.9%となった。
26 欧州委員長の選出については、欧州議会で最多議席を獲得した会派の候補者をEU首脳が指名する「筆頭候補制」の慣例があったが、欧州議会選挙後の5月28日に開催された特別EU首脳会議では同方式を自動的には採用しないことを確認している。
27 その他、外交安全保障上級代表にS&D所属のボレル元スペイン外相(男性)を選出したほか、7月3日に欧州議会はイタリア出身でS&D所属のサッソリ氏を欧州議会議長に選出した。なお、欧州委員長と外交安全保障上級代表の最終決定には欧州議会の可決が必要である。
28 離脱までの英国側の手続きとしては英国議会による離脱協定案等の可決と、離脱協定の法制化が必要となる。
29 英国議会で離脱協定案が合意されない場合は離脱協定を批准できず、離脱後直ちにEUと第三国の関係になる「合意なき離脱」となる。英EU双方で万一「合意なき離脱」になった場合の備えを進めているものの、英EU間の取り決めがない状態ではWTOルールに従うことになり、関税コストや税関手続きの発生、貿易手続を行うインフラ制度不足に伴う港湾手続の混乱等、サプライチェーンに深刻な影響が及ぶ。
30 この期限より前に離脱協定が批准された場合は、翌月の1日が離脱日となる。
31 定量的な評価はできないものの、離脱後の食料品の高騰や供給不足、医薬品の入手困難を懸念した買いだめ行動があったことが指摘されている。
32 内閣府(2019)を参照。供給面の問題として、WLTPが従来試験法より厳格で検査工数もかかる試験であるため、企業側の対応が遅れて生産が減ったほか、18年9月当初は市場で販売可能なモデルが少なかったことなども指摘されている。また需要面でも、WLTPを満たしていない車の在庫一掃のために18年7~8月にかけて大幅な値引きがされ、需要が先食いされた。
33 製造業PMIの調査期間は、3月値:19年3月12~26日、4月値:4月10~25日、5月値:5月12~28日。
34 基礎薬品の鉱工業生産におけるウェイトは5.5%(16年)。
35 例えば自動車大手メーカー各社では当初の離脱期限後の4月に、物流が混乱して部品供給が滞る可能性がある「合意なき離脱」に備えて、数日から1か月間の工場を休止することを事前に決定していた。
36 道路運送車両等の鉱工業生産におけるウェイトは6.4%(16年)。19年4月の鉱工業生産は前月比-2.7%であり、このうち道路運送車両等は同寄与度-1.4ppと、減産の半分を占めていた。
37 製造業PMIでは、18年11月値から企業の在庫積増し行動が指摘され始めた。BOEの“Agents’ survey”の1月調査(調査期間:18年12月17日~19年1月28日、回答企業:208社)では5割強の、3月調査(調査期間:19年1月29日~3月1日、回答企業:286社)では4割弱の企業が在庫積増しを行っていると回答している。また、BOEの英国企業の最高財務責任者を対象とした“Decision Maker Panel survey”の1月調査(調査期間:18年11月~19年1月、対象企業:約7,300社、回答率:約40%)では、約3割の回答者がEU離脱に備えて在庫を積み増しており、そのうち約4割が在庫を1割以上増やしたと回答している。
38 BOEの推計による長期均衡失業率(Long-term Equilibrium Rate of Unemployment)(BOE “Inflation Report”, February 2019)による。
39 19年4月は、電気・ガス料金の上限値の引上げといった制度的要因が、消費者物価上昇率(総合)の上昇に寄与した。
40 BOE(2019)を参照。
41 英国のEU離脱をめぐる動向の詳細については内閣府(2019)を参照。
42 20年6月末までの間に申請する必要があり、かつ延長は1回限り、最大2年とされている。
43 3月29日の英国議会下院での採決では離脱協定案のみを採決し政治宣言案の採決は実施されていない。
44 3月21日のEU首脳会議で、英国議会下院が3月最終週の採決でEU離脱協定を否決した場合は、離脱期日を4月12日まで無条件に延期することが決定されていた。
45 IMFのマクロ経済モデルであるGIMF(Global Integrated Monetary and Fiscal)モデルを用いた試算。IMF(2019b)では、実質GDPへの短期的な影響についても、通関上の混乱や英国の国債・企業金利の上昇の程度について異なる仮定を置いたシナリオ別の試算結果も併せて示されているが、ここで示した長期的な影響の試算結果と同様、短期的にも英国経済へのマイナスの影響が突出したものとなっている。
46 OECD(2019)によると、世界経済の成長率は、19年は3.3%、20年は3.4%と、18年の3.6%から鈍化する見込み。
47 欧州委員会は離脱協定案の再交渉には一切応じない構えをみせている。
48 前述のとおり、イタリア政府が20年度予算においても安定成長協定を遵守する旨を表明したことなどからこのタイミングでの決定は見送られた。

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