第2章 主要地域の経済動向と構造変化(第3節)

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第3節 ヨーロッパ経済

ヨーロッパ経済は、英国のEU離脱問題や貿易制限的な通商政策への懸念、政治の不確実性に伴う政策の不透明感がみられる中、ユーロ圏では緩やかな景気回復が続く一方で、英国では景気回復が緩やかになっている。ユーロ圏においては、堅調な世界需要等に支えられ、輸出や設備投資を中心に緩やかな回復が続くことが期待される一方で、英国のEU離脱問題の不透明感や貿易制限措置への懸念、ポピュリズム勢力の台頭懸念の継続等、依然として様々なリスクに直面している。また、英国においては、EU離脱に関する国民投票後のポンド安等による物価上昇や継続する先行き不透明感の影響が、個人消費や設備投資等にみられるなど、回復が更に緩やかになることが見込まれる。

本節では、ヨーロッパ経済の最近の動向を振り返るとともに、今後の見通しとリスク要因を整理する。

1.ユーロ圏と英国の経済動向

(1)ユーロ圏経済の動向

(緩やかな回復が続く)

ユーロ圏の実質経済成長率は、13年4~6月期以降、20四半期連続のプラスを維持し、17年は前年比2.4%となるなど、緩やかな回復が続いている。雇用情勢の改善等を背景に個人消費は堅調に推移しており、外需の持ち直しや設備投資の緩やかな増加とともに景気回復を支えている(第2-3-1図)。

主要国別にみると、18年1~3月期は悪天候等の一時的要因1もあり鈍化がみられたものの、各国ともおおむね堅調に推移している(第2-3-2図)。17年は、ドイツ、フランス共に前年比2%台前半の成長となり、スペインは同3.1%の高い成長となった一方で、イタリアは同1.6%と比較的低い成長にとどまるなど2、国により差異はあるものの幅広い国で緩やかな回復が続いている。

第2-3-1図 ユーロ圏の実質経済成長率(需要項目別寄与度)
第2-3-1図 ユーロ圏の実質経済成長率(需要項目別寄与度)
第2-3-2図 主要国の実質経済成長率
第2-3-2図 主要国の実質経済成長率
(雇用情勢の改善等から個人消費は増加)

雇用情勢の改善(後述)等を背景に、小売売上・サービス売上・自動車登録台数ともに堅調に推移しているほか、消費者信頼感指数も記録的な高水準で推移するなど、個人消費は増加基調を示している(第2-3-3図、第2-3-4図)。また、家計のローン残高(名目GDP比)の減少傾向が続いているほか、16年末以降は財産所得が増加傾向にあることも、個人消費を支える一因となっていると考えられる(第2-3-5図)。

第2-3-3図 ユーロ圏の個人消費・小売売上・サービス売上・自動車登録台数
第2-3-3図 ユーロ圏の個人消費・小売売上・サービス売上・自動車登録台数
第2-3-4図 主要国の消費者信頼感指数
第2-3-4図 主要国の消費者信頼感指数
第2-3-5図 ユーロ圏のローン残高・財産所得
第2-3-5図 ユーロ圏のローン残高・財産所得
(雇用情勢の改善には濃淡)

ユーロ圏全体の失業率は低下傾向が続いている。そのような中、主要国の雇用情勢には大きな違いがみられる。ドイツの失業率は1990年の東西ドイツ統一後の最低水準が継続しており、25歳未満の若年層の失業率も低水準となっている。一方、スペインの失業率は低下傾向にあるものの依然高水準にあり、若年層の失業率も同様に水準の高い状態が続いている。フランス及びイタリアの失業率は、ユーロ圏全体を上回る水準にあり、おおむね横ばいで推移している3(第2-3-6図)。若年層の就業経験の欠如が長期化した場合、人的資本の蓄積を阻害し、長期的に潜在成長力を低下させ得る点が懸念される。

また、ユーロ圏の就業者数は、世界金融危機前の水準にまで回復しており、個人消費を支える背景となっている。なお、若年層の就業者数は、若年人口の減少と高学歴化による労働参加率の低下4により世界金融危機前の水準を大きく下回っている(第2-3-7図)。

第2-3-6図 ユーロ圏主要国の失業率
第2-3-6図 ユーロ圏主要国の失業率
第2-3-7図 ユーロ圏の就業者数と背景
第2-3-7図 ユーロ圏の就業者数と背景
(世界需要の回復を背景に輸出は持ち直しているが、このところ一服感)

ユーロ圏の輸出は、17年初め頃より持ち直しの基調が続いているが、18年には中国を中心に一服感がみられる(第2-3-8図)。

また、輸出受注に対する企業マインド(製造業PMI)をみると、17年11月に史上最高を記録した後、18年入り後は、17年に上昇が続いた反動もあり調整が続いている(第2-3-9図)。17年半ば頃から為替レートがユーロ高傾向で推移しており、18年4月頃からややユーロ安に戻したものの、この輸出への影響には留意が必要である5(第2-3-10図)。

第2-3-8図 ユーロ圏の財輸出(仕向先)
第2-3-8図 ユーロ圏の財輸出(仕向先)
第2-3-9図 ユーロ圏の企業マインド(新規輸出受注)
第2-3-9図 ユーロ圏の企業マインド(新規輸出受注)
第2-3-10図 ユーロの実質実効為替レート
第2-3-10図 ユーロの実質実効為替レート
(内外需にけん引され生産は持ち直しているが、このところ一服感)

ユーロ圏の生産は、17年半ば以降持ち直しの基調が続いている6(第2-3-11図)。製造業の景況感(欧州委員会工業景況感)は、18年1月に過去最高を記録した後、やや一服したものの、依然として高水準を維持している7(第2-3-12図)。こうした動きは、ユーロ圏経済の緩やかな回復による内需の拡大や、世界需要の緩やかな回復を背景とした輸出の増加に支えられている。

また、ドイツ等の一部の国では、生産の制約要因として、需要不足よりも労働力や設備・原材料の不足を挙げる企業の割合が17年後半以降、急速に高まっている(第2-3-13図(1))。加えて、製造業者に対し供給業者からの入荷時間について調査を行い、その結果を指数化した入荷遅延指数をみると、特にドイツにおいて顕著な低下(入荷遅延状況の悪化)を示している一方で、受注残高を指数化した受注残指数は高い水準となっている。これは、原材料や人手の不足等により、入荷までの時間が長期化し、受注残の積上がりが生じたためとみられる。このように、18年入り後の生産活動の鈍化は、供給面の制約が一部に影響を与えたものと考えられる8(第2-3-13図(2))。このほか、18年1~2月にドイツでストライキが行われ9、18年2月末には欧州に大寒波が襲来し、これらの要因も生産活動を一時的に抑制したとみられ、基調としては持ち直しているが、このところ一服感がみられる。

第2-3-11図 ユーロ圏の鉱工業生産(国別)
第2-3-11図 ユーロ圏の鉱工業生産(国別)
第2-3-12図 ユーロ圏製造業の景況感
第2-3-12図 ユーロ圏製造業の景況感
第2-3-13図 ユーロ圏、ドイツの供給制約
第2-3-13図 ユーロ圏、ドイツの供給制約
(機械設備投資は緩やかに増加)

ユーロ圏の機械設備投資は、17年末に世界金融危機直前の水準に回復し、その後も緩やかに増加している。国別にみると、ドイツ、フランス及びスペインはユーロ圏全体を上回る伸びを示しているが、イタリアは増加傾向にあるものの危機前を下回る水準となっている(第2-3-14図)。

ユーロ圏における生産の持ち直しに伴い、設備稼働率は緩やかな上昇が続いていたが、17年後半に急速に稼働率が高まっており(第2-3-15図)、さきにみたとおりドイツ等では設備不足を生産の制約要因とする企業の割合が増加している(前掲第2-3-13図(1))。また、企業収益の増加や良好な企業マインドを背景に(前掲第2-3-12図)、企業の設備投資計画は18年に比較的高い伸びとなっており(第2-3-16図)、緩和的な金融政策により、金融機関の貸出態度も緩和傾向にあることから(第2-3-17図)、今後も機械設備投資の増加が見込まれる。

第2-3-14図 主要国の機械設備投資
第2-3-14図 主要国の機械設備投資
第2-3-15図 ユーロ圏の設備稼働率
第2-3-15図 ユーロ圏の設備稼働率
第2-3-16図 ユーロ圏の設備投資計画
第2-3-16図 ユーロ圏の設備投資計画
第2-3-17図 ユーロ圏の貸出態度・資金需要
第2-3-17図 ユーロ圏の貸出態度・資金需要

建設投資及び建設業の生産は、世界金融危機前の水準を依然大幅に下回っているものの、景気の緩やかな回復や継続する緩和的な金融政策の下支えもあり、増加傾向を示している(第2-3-18図)。建設投資を国別にみると、ドイツが全体をけん引する一方で、フランス、イタリア及びスペインは世界金融危機前の水準を下回っている(第2-3-19図)。

建設業の景況感及び建設受注は、世界金融危機直前の水準に回復しつつあり、建設投資の回復の継続が見込まれる(第2-3-20図)。

また、住宅価格はドイツを中心に上昇傾向にあり、これによる資産効果や財産所得の増加は、個人消費を支える一因となっているとみられる(第2-3-21図、前掲第2-3-5図)。

第2-3-18図 ユーロ圏の建設投資・生産
第2-3-18図 ユーロ圏の建設投資・生産
第2-3-19図 ユーロ圏の主要国建設投資
第2-3-19図 ユーロ圏の主要国建設投資
第2-3-20図 ユーロ圏の建設業景況感
第2-3-20図 ユーロ圏の建設業景況感
第2-3-21図 ユーロ圏の住宅価格
第2-3-21図 ユーロ圏の住宅価格
(財政政策の動向)

ユーロ圏の一般政府財政収支・GDP比は、09~13年平均の-4.7%から17年には-0.9%にまで縮小した。景気の緩やかな回復や低金利等を背景に、財政赤字は19年に向けて今後も徐々に縮小していくことが見込まれている10(第2-3-22図)。

財政政策のスタンスを表すと考えられる構造的財政収支・GDP比は、ユーロ圏では17年-0.6%、18年-0.8%、19年-1.1%と緩やかな拡大が見通されており11、19年にかけて幾分拡張的な財政スタンスが続くと見込まれている。

EU加盟国は「安定・成長協定」(SGP:Stability and Growth Pact)12により、一般政府財政赤字と債務残高のGDP比を規定の範囲内に抑えることが求められている13。ユーロ圏では、スペインが過剰財政赤字是正措置適用国として欧州委員会の監視対象となっている14。なお、金融支援15を受けているギリシャは17年に過剰財政赤字措置の適用が終了している16(第2-3-23図、第2-3-24図)。

また、EU及びその加盟国は、「欧州セメスター」17を通じて、財政の健全性確保やマクロ経済不均衡の是正等に向けた取組を進めている。緩やかな景気回復が続く中で、EU加盟国は、経済成長に資する財政政策を行いつつも、長期の視点に立ち各国の課題に応じた構造改革の実行が求められる。

第2-3-22図 ユーロ圏の財政収支見通し
第2-3-22図 ユーロ圏の財政収支見通し
第2-3-23図 EU諸国の財政収支・債務残高
第2-3-23図 EU諸国の財政収支・債務残高
第2-3-24図 EU諸国の財政収支
第2-3-24図 EU諸国の財政収支
(ECBは金融緩和を継続)

ユーロ圏の消費者物価上昇率(総合)は、16年半ば以降、エネルギー及び食料品価格の上昇により大幅に上昇し、17年初にはECB(欧州中央銀行)のインフレ参照値18である2%(前年比)近辺で推移した(第2-3-25図、第2-3-26図)。その後、主にエネルギー価格の伸びの低下に伴い、消費者物価上昇率も緩やかに低下したが、18年5月には再びエネルギー価格が上昇したことから再度2%付近まで急上昇した。また、コア物価上昇率は、旅行関連価格等の寄与により幾分上昇する場面19もあったものの、総じてみれば前年比1%前後でおおむね横ばいでの推移となっている。

ECBは、17年10月の政策理事会において、資産購入プログラム(APP:Asset Purchase Programme)における資産購入額を18年1月より月額600億ユーロから300億ユーロに減額すること、これを少なくとも18年9月末まで継続することなどの量的緩和政策の変更20を決定した。また、18年6月には、18年10月以降はAPPの資産購入額を150億ユーロに減額の上、これを18年12月末まで実施した後、終了するとの方針21を示した。

資産購入のフォワードガイダンスに関しては、18年6月に、必要に応じ現行の買入期間を超えた資産購入を実施するとの文言を削除するとともに、前述のとおり買入規模を縮小の上、18年12月末まで資産購入を実施するとの方針を示した。一方で、買入期間終了後長期にわたり再投資を行うとのガイダンスについては維持した。また、政策金利のフォワードガイダンスに関しては、資産購入期間を十分上回る期間、現行水準に据え置くことを見込んでいるとしていたが、18年6月には、少なくとも19年夏までは現行水準に据え置くとの方針を示した。ECBはこれらのフォワードガイダンスの変更や、主要政策金利の据え置き22を含め、緩和的な金融政策を維持している。

また、ECBは、18年3月に公表したマクロ経済見通しにおいては、実質経済成長率の見通しを上方修正する一方で、物価上昇率については慎重な見通しを示していたが、18年6月の見通しでは、実質経済成長率を下方修正する一方で、物価上昇率についてはやや強気な見通しを示した。コア物価上昇率に関しては、緩やかな上昇にとどまっているものの、中期的には経済の回復に伴う需給の引締まりと賃金の上昇から、次第に上昇が見込まれるとしている23

ユーロ圏の景気は緩やかな回復が続いており、雇用情勢の改善から賃金上昇圧力が徐々に高まる24一方で、ユーロ高による物価の押下げ効果等からコア物価の上昇が緩やかなものにとどまると見込まれる中、政策金利引上げの時期等、ECBの金融緩和の見直しに向けた動向が注目される。

第2-3-25図 ECB政策金利と消費者物価上昇率
第2-3-25図 ECB政策金利と消費者物価上昇率
第2-3-26図 ユーロ圏の消費者物価(要因別)
第2-3-26図 ユーロ圏の消費者物価(要因別)

(2)英国経済の動向

英国経済は、19年3月末にEU離脱を控え、離脱交渉に係る不透明感が個人消費や企業活動に影響を及ぼしている。ここでは、最近の英国経済の動向と今後の英国経済の行方を左右する離脱交渉の状況をみていく。

(ⅰ)最近の英国経済
(景気回復は緩やかに)

英国経済は、15年末からのポンド安や16年末以降のエネルギー価格上昇に起因する物価上昇が家計の購買力を低下させる中で、16年10~12月期頃から、それまで英国の経済成長をけん引してきた個人消費が伸び悩むなど、景気回復は緩やかになっている。一方、ポンド安の影響のはく落等を受け、輸出はこのところおおむね横ばいで推移し、生産も輸出向けを中心にこのところおおむね横ばいでの推移となっている。設備投資については、EU離脱に対する不透明感から横ばいでの推移となっている。

英国の実質経済成長率は、15年が前年比2.3%、16年が同1.8%であったが、17年は同1.7%と更に低下し、18年1~3月期は前期比年率0.9%にとどまるなど、悪天候等の一時的要因25もみられる中で、EU離脱問題に伴う不透明感等の影響から成長の勢いが鈍化してきている(第2-3-27図)。

第2-3-27図 英国の実質経済成長率(需要項目別)
第2-3-27図 英国の実質経済成長率(需要項目別)
(ポンド安の影響が一服し、消費者物価上昇率はこのところ低下)

15年末以降の大幅なポンド安や16年末以降のエネルギー価格上昇により上昇してきた輸入物価や生産者投入価格は、17年に入りポンド安傾向の落ち着きやエネルギー価格の上昇鈍化から、17年入り後は上昇率が低下傾向となっている(第2-3-28図)。生産者産出価格についてもおおむね同様の動きとなっており、16年中は上昇していたが、17年以降はおおむね横ばいで推移している。こうした動きが波及し、消費者物価上昇率(総合)についても、BOE(イングランド銀行)の物価目標である前年比2%を上回るものの、ポンド安の影響のはく落やエネルギー価格等の低下により、17年11月の前年比3.1%をピークに低下傾向を示している(第2-3-29図、第2-3-30図)。

第2-3-28図 英国の輸入物価と生産者価格
第2-3-28図 英国の輸入物価と生産者価格
第2-3-29図 英国の消費者物価上昇率
第2-3-29図 英国の消費者物価上昇率
第2-3-30図 英国の消費者物価(要因別)
第2-3-30図 英国の消費者物価(要因別)
(雇用情勢は引き続き改善、賃金も上昇の兆し)

雇用情勢は、引き続き改善している。失業率(ILO基準)は18年2月に均衡失業率(4.25%)26を下回る4.2%にまで低下し、75年以来の歴史的な低水準となっている(第2-3-31図)。また、労働需給の引締まりを受け、労働参加率も上昇傾向にある(第2-3-32図)。他方で、EU域外からの移民の純増数(流入-流出)27は年間17~20万人程度でおおむね横ばいで推移しているが、EU離脱交渉に係る不透明感等から、EU諸国からの移民の純増数は16年半ばから減少が続き、年間9万人程度となっている(第2-3-33図)。16歳以上の就業者のうちEU諸国出身者の割合は、17年で約7%を占めており(第2-3-34図)、移民の純増数の減少は労働市場に一定の影響を与えているものと考えられる。

第2-3-31図 英国の失業率
第2-3-31図 英国の失業率
第2-3-32図 英国の労働参加率
第2-3-32図 英国の労働参加率
第2-3-33図 英国への移民の純増数
第2-3-33図 英国への移民の純増数
第2-3-34図 英国の出生国別就業者の割合(2017年)
第2-3-34図 英国の出生国別就業者の割合(2017年)

労働需給の引締まりに伴い、名目賃金(週平均、ボーナス除く)は緩やかに上昇しており、前年比3%程度となっている。他方、実質賃金(週平均、ボーナス除く)については、消費者物価の上昇から17年3月以降マイナスが続き、家計の購買力を低下させてきたが、さきにみたとおり18年入り後の消費者物価上昇率の低下を受け(前掲第2-3-29図)、18年2月には1年ぶりにプラスに転じた(第2-3-35図)。

第2-3-35図 英国の名目賃金及び実質賃金
第2-3-35図 英国の名目賃金及び実質賃金
(物価上昇から消費は増加のテンポが緩やかに)

個人消費は、ポンド安等の影響による物価上昇や、EU離脱交渉に係る先行き不透明感等による消費者マインドの悪化を受け、増加のテンポが緩やかとなっている。

実質個人消費は、16年10~12月期以降、伸び率が低下基調にあり、18年1~3月期には前期比0.2%に低下した(前掲第2-3-27図)。実質小売売上高の伸びも16年末以降、低下基調にあり、18年入り後も2月末から3月初めにかけて欧州を襲った大寒波の影響もあり、低水準にとどまっている28(第2-3-36図)。また、自動車登録台数をみると、17年4月からの自動車税改正29の影響や政府のディーゼル車規制の方針30もあり、17年度31は前年比で大幅に減少した32(第2-3-37図)。

消費者マインドは、17年末頃から持ち直しの動きもみられるものの、EU離脱交渉に係る不透明感が継続していることなどから、いまだマイナス圏内での推移が続いている(第2-3-38図)。

このように、16年後半以降の物価上昇の影響により、17年に実質賃金の伸びがマイナスとなり家計の購買力を低下させたことや消費者マインドが停滞したことなどが、個人消費を抑制している。ただし、18年2月には実質賃金が前年比プラスに転じており、こうした動きが今後の個人消費を下支えしていくものと期待される(前掲第2-3-36図)。

第2-3-36図 英国の実質小売売上と実質賃金
第2-3-36図 英国の実質小売売上と実質賃金
第2-3-37図 英国の自動車登録台数
第2-3-37図 英国の自動車登録台数
第2-3-38図 英国の消費者マインド
第2-3-38図 英国の消費者マインド
(生産、輸出はこのところおおむね横ばい)

英国の企業部門の動向をみると、鉱工業生産は、堅調な世界需要に支えられた輸出向けを中心に持ち直しの動きがみられたが、鉱業が17年12月の北海油田における主要パイプライン停止33の影響から減少したほか、製造業が17年末にかけて主に外需向けに力強く伸びた後、増勢がやや鈍化するなど34、このところおおむね横ばいで推移している(第2-3-39図)。また、企業マインドを製造業PMIでみると、17年末以降やや低下傾向で推移している(第2-3-40図)。

輸出については、ポンド安の落ち着きもあり17年半ば以降横ばいで推移した後、17年末ごろから堅調な世界需要に支えられ、持ち直しの動きがみられたが、ポンド安の影響のはく落等から、このところおおむね横ばいで推移している(第2-3-41図)。また、製造業PMIの新規輸出受注指数をみると、17年末以降やや低下傾向で推移している(第2-3-42図)。

第2-3-39図 英国の鉱工業生産
第2-3-39図 英国の鉱工業生産
第2-3-40図 英国の製造業PMI
第2-3-40図 英国の製造業PMI
第2-3-41図 英国の財輸出
第2-3-41図 英国の財輸出
第2-3-42図 英国製造業PMIの新規輸出受注指数
第2-3-42図 英国製造業PMIの新規輸出受注指数
(設備投資は横ばいで推移)

設備投資は、18年1~3月期に前期比-0.4%となるなど17年半ばごろから横ばいで推移している(第2-3-43図)。設備投資に大きな影響を与える資本利益率35をみると、ポンド安や世界需要の回復による輸出増加を受けて、製造業では上昇基調にある一方で、物価上昇による購買力の低下や英国のEU離脱に伴う先行き不透明感等から家計や企業がサービス購入を抑制したため、サービス業では低下基調にある(第2-3-44図)。また、企業の設備投資意欲についても、製造業では堅調な世界需要等から持ち直しているものの、個人消費の鈍化や先行き不透明感を受けて、サービス業では17年半ばから横ばいの状態が続いており、総じて低水準にとどまっている(第2-3-45図)。英国企業に対する調査36によれば、EU離脱交渉の先行き不透明感から、企業が設備投資を手控えている様子がうかがわれ、今後も企業は設備投資に慎重な姿勢を示すものと考えられる。

第2-3-43図 英国・ユーロ圏の設備投資
第2-3-43図 英国・ユーロ圏の設備投資
第2-3-44図 英国企業の資本利益率
第2-3-44図 英国企業の資本利益率
第2-3-45図 英国企業の投資意欲
第2-3-45図 英国企業の投資意欲
(金融政策は引締め傾向)

BOEは、消費者物価上昇率が目標とする前年比2%を超えて上昇している状況等を踏まえ、17年11月の金融政策委員会で約10年ぶりに政策金利を引き上げ、それまでの0.25%から0.50%とした。その後、18年2月の金融政策委員会では、政策金利を全会一致で据え置く一方で、金融政策の引締めの前倒しと加速を示唆した37。ただし、5、6月の金融政策委員会においては、労働市場のスラック(需給の緩み)は縮小しているものの、ポンド安の一服による消費者物価上昇率の低下が予測より早かったことや、18年1~3月期の実質経済成長率が悪天候の影響もあり予側を下回ったことなどから、政策金利を据え置いた(第2-3-46図)38。また、フォワードガイダンスに関しては、6月の金融政策委員会で、資産買取プログラムで購入した保有資産を政策金利が1.5%近辺39に到達するまで維持し、その縮小については徐々に、予測可能なペースで行う方針を示した。

EU離脱問題に伴う不透明感による影響から、景気回復が更に緩やかになることが見込まれる中、消費者物価上昇率はこのところ低下傾向にあり、今後のBOEの政策運営が注目される。

第2-3-46図 BOEの金融政策
第2-3-46図 BOEの金融政策
(ii)英国のEU離脱をめぐる動向
(英国・EU間の離脱交渉の状況)

16年6月の英国のEU離脱の是非を問う国民投票を受け、英国は17年3月29日、リスボン条約50条に基づき欧州理事会に正式にEU離脱を通告し、原則2年にわたる離脱交渉プロセスが開始された。離脱交渉の進め方については、英国・EU間で二段階のアプローチをとることで合意された。すなわち、第一段階として、(1)EU市民・英国市民の権利保護、(2)未払い分担金等の清算、(3)北アイルランド(英国)とアイルランド共和国の国境管理問題(北アイルランド国境管理問題)の3点を最優先課題として交渉し、これらに十分な進展が認められた場合に、第二段階として、離脱後の通商関係の交渉に移行することとされた。第一段階の最優先課題については、先送りされた部分もあるものの、17年12月には、英国・EU間で十分に進展したとの合意に至り、18年には交渉の第二段階へと進んだ(第2-3-47表)。

最優先課題の交渉状況を欧州委員会が18年3月に公表した英国のEU離脱に関する離脱協定案40により確認すると、EU市民・英国市民の権利保護については、交渉官レベルで合意し、未払い分担金等の清算については、具体的な金額は未定41ながら、20年までのEU予算に係る負担等に関し合意している。北アイルランド国境管理問題については、ベルファスト合意42の遵守等の基本的な方針が確認されたほか、英国・アイルランド間の人の移動の自由の確保43や専門委員会の設置等で合意したが、多くの点が依然として未合意のまま残されている44(詳細はコラム2-2参照)。

また、同協定案によれば、離脱後の激変緩和措置としての移行期間について、EU側の提案に基づき20年12月末までとすることなどが合意されている(第2-3-48表)45

18年3月のEU首脳会議では、今後の交渉のガイドラインとして、英国のEU離脱に伴う将来の枠組みに関する交渉指針が採択された。今後、19年3月29日の離脱期限を踏まえた事実上の合意期限とされる18年10月末まで46に、北アイルランド国境管理問題を始めとする最優先課題の未合意部分ほか、通商等の将来の枠組みに関する交渉が継続される予定である。

第2-3-47表 英国・EUの離脱交渉をめぐる動き(2013~2018年)
第2-3-47表 英国・EUの離脱交渉をめぐる動き(2013~2018年)
第2-3-48表 2018年3月時点の英国とEUの主な合意内容
第2-3-48表 2018年3月時点の英国とEUの主な合意内容
(EU離脱をめぐる英国国内の状況)

英国国内においては、今後のEUからの離脱に伴い、現在国内で適用されているEU法を国内法に置き換える必要から、EU法廃止法案(European Union (Withdrawal) Bill)が、17年7月に政府から英国議会へ提出され、政府と議会との見解の相違により審議は難航したが47、18年6月に上下両院で可決された。議会審議における修正により、英国政府とEUとの離脱に関する合意内容を議会の投票に諮り、合意内容を下院が否決した場合、又は、19年1月21日までにEUと合意に至らなかった場合に、英国政府はEUとの交渉についての新たな行動計画を議会に提出することが規定された。また、この行動計画については、下院議長の判断により政府に修正を指示できることとされている。

英国議会や欧州議会による離脱協定案の承認プロセスに要する時間を見込むと、事実上の合意期限は18年10月とされている。北アイルランド国境管理問題等の困難な課題も残っており、離脱交渉の行方は依然として不透明である。

(今後の英国・EUの通商関係)

EU域内は、人・モノ・資本・サービスの4つの移動が自由な単一市場であり、域内の関税は関税同盟により無税である。英国の貿易においてEUは、輸出の48.8%、輸入の54.8%と大きなシェアを占めており(第2-3-49図)、これまで関税同盟による無税の恩恵を受けてきた。また、英国とEUは互いにサプライチェーンの一部を構成しており、多くの分野において英国・EU間で物品等の移動を伴いながら生産活動が行われている48。何ら合意のない離脱(ハードブレグジット)となれば、人・モノ・資本・サービスの4つの移動の自由が失われ、円滑な生産活動が阻害されるおそれがある。

第2-3-49図 英国の財貿易相手国のシェア(2017年、金額ベース)
第2-3-49図 英国の財貿易相手国のシェア(2017年、金額ベース)

英国は、EUとの新たな通商関係について、従来のFTA(自由貿易協定)に含まれたことのない金融サービス49等を含む広範な内容のFTAを目指すとしている(第2-3-50表)50。これに対しEUは、18年3月にEU首脳会議で採択した交渉方針において、財貿易は全セクターで無関税を目指す一方で、サービス貿易については、離脱後は英国が共通の規制・監督等の枠組みに服さないことから、英国がEUのルールに基づいたサービス供与を行うことを目指すなどとしつつ、英国は権利に応じた義務を負担すべきであり、いわゆる「いいとこ取り」はあり得ないとの基本方針を示している51

金融・保険サービスは、英国のサービス輸出の約30%を占め、英国が特に重視する分野と考えられるが、今後の交渉は難航が予想される。

第2-3-50表 既存の通商モデル
第2-3-50表 既存の通商モデル

コラム2-2:北アイルランド国境管理問題

英国のEU離脱交渉において重要な争点となっている北アイルランド国境管理問題について、経緯及び利害関係者の主張について概観する。

1.アイルランド・北アイルランド間の国境の経緯と貿易

北アイルランドとアイルランドの国境は、アイルランド独立戦争(1919~21年)の勃発後の1920年に英国政府によりアイルランド統治法が制定され、アイルランドを北アイルランドと南アイルランドに分割し、それぞれ独自の議会と自治権が認められたことにより設定された(注1)。また、23年には、北アイルランド・アイルランド間の国境に税関が設置された。

1965年にアイルランド・英国間で自由貿易地域協定が締結され、73年には、アイルランド、英国ともにEEC(欧州経済共同体)(注2)に加盟し、工業製品が自由貿易の対象となった。93年のEU(欧州連合)発足に伴い、EU加盟国間の人・モノ・資本・サービスの4つの自由が保証される単一市場が形成され、北アイルランドとアイルランド間の税関も撤去された。さらに、98年のベルファスト合意以降は、北アイルランド・アイルランド間の国境の検問も廃止された(注3)

英国・アイルランド間の財貿易において、特にアイルランドにとって英国は主要な貿易相手であり、仮にモノの移動の自由が制限された場合、その影響は大きいと考えられる(図1、図2)。また、約1.5万人(2011年)が、北アイルランド・アイルランド間の国境を越えて通勤・通学を行っており(注4)、仮に国境管理が復活した場合、日常生活にも大きな支障が生じると考えられる。

図1 アイルランドの財貿易(2017年、金額ベース)
コラム2-2 図1 アイルランドの財貿易(2017年、金額ベース)
図2 英国の財貿易(2017年、金額ベース)
コラム2-2 図2 英国の財貿易(2017年、金額ベース)

2.北アイルランド国境管理問題に対する関係者の主張

次に、英国のEU離脱交渉に伴い、関係者が北アイルランドの国境管理問題についてどのような主張を行っているかを整理する。

英国与党の保守党は、17年6月の下院総選挙の結果、単独過半数を維持できず、北アイルランドの地域政党で英国との統一を志向するDUP(民主統一党)からの閣外協力を得て過半数を確保している。DUPは、アイルランドとの間では共通旅行区域を維持する一方で、北アイルランドに特例が適用されることで、単一市場と関税同盟からの離脱に伴い厳格な管理を要する事実上の国境がグレートブリテン島・アイルランド島間に導入されること(ハードボーダー)に反対するとの立場を表明している(注5)。他方、アイルランド政府は、北アイルランド和平の根幹を定めたベルファスト合意の当事者として、厳格な国境管理の復活に反対している(注6)。これらはいずれも、EU離脱に伴い単一市場、関税同盟から脱退するとの英国政府の方針と矛盾しており、北アイルランド国境管理問題の解決を極めて困難なものとしている(図3)。

英国とEUは、ベルファスト合意の尊重という基本的な方針では合意しているが、英国政府は、北アイルランド・アイルランド間の厳格な国境管理を回避するための具体案をいまだ示すことができていない。代替案が合意されない場合は、北アイルランドをEU単一市場、関税同盟に残留させることをEUは提案している(注7)。今後、英国において関係者間で納得できる解決策が模索されていくことになるが、その交渉は難航が見込まれる。

図3 北アイルランド国境管理問題各当事者の主張
コラム2-2 図3 北アイルランド国境管理問題各当事者の主張

(注1)北アイルランドは、自治権を有しつつ英国の一部として残った。1922年には、アイルランド独立戦争の休戦条約として締結された英愛条約に基づきアイルランド全島がアイルランド自由国として英国の自治領となったが、北アイルランドはアイルランド自由国からの離脱を決定、英国への再編入を英国に通告した。なお、英愛条約では、北アイルランドには条約発効後1か月以内はアイルランド自由国から離脱する権利が与えられていた。

(注2)1967年にECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)とEuratom(欧州原子力共同体)が統合され、EU(欧州連合)の前身組織であるEC(欧州共同体)が設立された。

(注3)人の移動の自由の確保を目指す「共通旅行区域(CTA:Common Travel Area)」の淵源は1920年代に遡るが、ベルファスト合意後の合意内容の実施において、英国・アイルランド間の人の移動の自由の原則は象徴的な意味を持った(HM Government (2017b))。

(注4)アイルランド中央統計局による。

(注5)DUP(民主統一党)は、ソフトブレグジットでもハードブレグジットでもない「賢明なブレグジット」(sensible Brexit)を主張している。賢明なブレグジットとは、共通旅行区域の維持、十分な移行期間によるビジネスの激変回避、EU移民の経済・社会への貢献に対する評価と強固で実践的な新たな国境政策への支持、英国・EU間の包括的な協定の締結等を意味すると説明する一方で、賢明でないものは、北アイルランドが最大の市場(英国の他地域)から孤立することであると述べている。

(注6)北アイルランド・アイルランド間の厳格な国境管理の導入は、南北協力(北アイルランド・アイルランド間の協力)を保護するベルファスト合意の理念に反する。

(注7)ただし、メイ首相は、18年5月17日のユンカー欧州委員会委員長、トゥスクEU大統領及びバラッカー・アイルランド首相との会合において、アイルランド・北アイルランドの国境に関するEUの提案は受け入れられず、英国独自の提案を行う意向を示した。

2.ユーロ圏及び英国経済の見通しと主なリスク要因

(ユーロ圏では緩やかな回復が続く一方、英国では失業率低下の中、潜在成長率を下回る成長)

ユーロ圏の景気は、雇用情勢の改善に支えられた個人消費の増加、良好な金融環境・企業収益等に支えられた設備投資の緩やかな増加、世界経済の緩やかな回復による輸出の持ち直しにより、引き続き緩やかな回復が続くと期待される。

英国では、継続するEU離脱問題に係る不透明感の影響から、企業の設備投資が抑制されるなど、景気回復が更に緩やかになることが見込まれる。

国際機関等による経済見通しでは、ユーロ圏では緩やかな回復が続き、英国では回復が緩やかになると見込まれている(第2-3-51図、第2-3-52表)。

第2-3-51図 ユーロ圏及び英国の実質経済成長率
第2-3-51図 ユーロ圏及び英国の実質経済成長率
第2-3-52表 ユーロ圏及び英国の国際機関等の見通し
第2-3-52表 ユーロ圏及び英国の国際機関等の見通し

(主なリスク要因)

ユーロ圏及び英国における当面の主なリスク要因として、以下が考えられる。

(1)英国のEU離脱問題

英国のEU離脱については、第二段階の交渉への移行の後、離脱後の移行期間について合意するなど一定の進展もみられたものの、今後のEU・英国間の通商関係やアイルランド国境管理問題等の重要課題が残されており、これらの交渉が不調となる場合や英国議会の対応次第では、いわゆるハードブレグジットの可能性も依然として存在する(前掲第2-3-47表)。EU離脱交渉の不透明感による企業・消費者マインドの悪化や企業の設備投資の抑制等から景気回復は緩やかになっており、また、企業の一部業務の移転52や移民の減少といった動きもみられる。今後の交渉には時間的制約があり、残された課題の性質も踏まえると、EU離脱問題の行方は依然として不透明である。

(2)通商政策の動向

アメリカ政府は18年3月に鉄鋼・アルミニウムの輸入に追加関税を課すとの措置を公表し、EUに対しては6月よりこれを適用した。さらに、5月には自動車輸入がアメリカ国内の安全保障に与える影響について調査を開始した。貿易制限的な通商政策が推し進められた場合には、それに対する報復措置も加わり、貿易・投資の縮小をもたらし、経済にマイナスの影響を与えることから、通商政策の不確実性に留意が必要である53

(3)反移民・反グローバル化の動向

17年9月のドイツ総選挙54では、反移民等を掲げる政党が議席を伸ばした。18年3月のイタリア総選挙55では、EUに懐疑的な政党による政権が発足し、政策の不透明感によりイタリア長期金利は上昇した(第2-3-53図)。財政規律の維持56等EU加盟国としての新政権の対応が注目される。このほか、17年3月のオランダ総選挙、5月のフランス大統領選挙では、EU離脱等を掲げる急進右派候補の得票は伸びず、大きな混乱をもたらす結果には至らなかったものの、10月のオーストリア総選挙57では反移民等を掲げる政党が議席を伸ばした。今後も、政治情勢の変化に伴う経済政策の不確実性の影響に留意する必要がある58

また、スペインのカタルーニャ自治州独立問題59を始めとする分離独立問題60が経済に与える影響にも注意が必要である。

(4)その他のリスク要因

ヨーロッパでは、英国、フランス、ドイツ等で依然としてテロが頻発しており、イスラム過激派組織(ISIL)との関係も指摘されている。テロのリスクは企業・消費者のマインドの悪化、観光客の減少等を通じて、景気を下押しする可能性がある。

外国為替市場の動向、特に、17年半ば頃からのユーロ高が物価や輸出等を通じて経済全体に与える影響に注意が必要である。

また、一部の銀行の不良債権問題等に起因する金融市場の変動に引き続き注意が必要である61

第2-3-53図 イタリアの長期金利
第2-3-53図 イタリアの長期金利

1 18年2月末~3月初めにかけて、欧州全域に大寒波が襲来した(例えば、ドイツ・フランクフルトでは、最低気温が平年0℃のところ-10℃を記録、イタリア・ナポリでは、約60年ぶりに降雪)。その他に一時的な景気下押しの要因として、(1)ストライキ(ドイツの自動車、航空やフランスの航空、鉄道等)、(2)インフルエンザ(例えば、フランスでは18年1~3月の重症患者が例年の約2.5倍)、(3)イースター休暇の時期のずれ(17年4月14~17日、18年3月30日~4月2日)が指摘されている(欧州委員会、ECB等)。
2 スペインとイタリアの経済成長の差については、「世界経済の潮流2017年II」を参照。
3 フランスでは、マクロン大統領の優先課題として労働法典の改正が掲げられ、不当解雇補償額(解雇補償金)の上限設定や解雇不服申し立て期間の短縮等を含む改正労働法典の全ての措置が18年1月に施行(主要部分は17年10月に施行)された。また、職業教育、デュアルシステム(学術的教育と職業教育を同時に進めるシステム)、失業保険の三分野の改革をまとめた法案を、18年夏までに成立させる予定であるなど、雇用の安定化に向けた取組も進めている。
4 ユーロ圏の労働参加率は、05年から17年にかけて、全体(15~64歳)では69.9%から73.1%に上昇したのに対し、若年層(15~24歳)では43.9%から39.8%に低下した。若年層の労働参加率低下の要因としては、高学歴化等が考えられる。ユーロ圏の高等教育(Tertiary Education:短期高等教育、学士、修士及び博士)の学歴保有率は、05年から17年にかけて、全体(15~64歳)では20.1%から27.1%に、15~24歳では13.3%から17.5%に、25~34歳では29.1%から37.6%にそれぞれ上昇した。
5 欧州委員会は、ユーロ圏の輸出は、18年は需要の強さを背景に更に増加するものの、19年には世界貿易の減速と17年におけるユーロ高の時間差を伴った影響から緩やかになると見込んでいる。
6 鉱工業生産は、ドイツでは世界金融危機前の水準に回復したが、ユーロ圏全体では危機前の水準に戻っていない。
7 製造業購買担当者指数(製造業PMI)も同様に、17年12月に過去最高を記録後に鈍化したものの、高水準を維持している。18年入り後の鈍化は、17年の急改善後のスピード調整の要素に加えて、急改善に伴い生じた供給面での制約や、一時的な要因として大寒波等の影響も見込まれる。
8 需要不足を制約要因と考える企業割合は減少傾向であることから、供給面の制約の解消は生産活動の増加につながり得る。
9 18年1月末~2月初めにかけて、ドイツ金属産業労組(IGメタル)に関係する自動車、電機、機械産業等においてストライキが実施された。2月初めには、ドイツの主要自動車メーカーの工場が24時間閉鎖された。この他、イースター休暇に伴う稼働日の減少やインフルエンザの流行が一時的要因として指摘されている。
10 ユーロ圏の一般政府財政収支・GDP比は、欧州委員会の見通しでは、17年-0.9%、18年-0.7%、19年-0.6%(European Commission (2018c))、ECBの見通しでは、17年-0.9%、18年-0.9%、19年-1.0%、20年-0.9%(ECB(18年6月))と見込まれている。
11 他方で、ドイツは17年 1.5%、18年 1.2%、19年 1.0%と見通されている(European Commission (2018c))。ドイツでは、17年9月24日の総選挙の結果、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が第一党となったが、連立協議は難航した。自由民主党(FDP)、緑の党との連立交渉決裂後、社会民主党(SPD)との大連立がSPDの党員投票を経て成立し、18年3月14日に第四次メルケル政権が発足した。大連立に係る合意内容には、公共住宅の建設や、子育て世帯による持ち家の取得促進のための補助金の導入等、財政拡大につながる内容が含まれている。加えて、政府支出に前向きとみられるSPDが財務相ポストを獲得している。OECDは「中間経済見通し」(2018年3月)において、世界経済の見通しを上方修正した要因の一つとして、ドイツの追加的な財政措置を挙げている。
12 欧州連合の経済通貨同盟を維持・促進していくための財政政策の運営に関する協定。欧州委員会及び欧州連合理事会によって加盟国の財政を監視することが定められており、違反国に対する警告や改善がみられない場合の制裁措置の実行も盛り込まれている。
13 単年度の一般政府の財政赤字がGDP比3%を上回らず、債務残高がGDP比60%を下回ることが求められる。
14 フランスの一般政府財政収支・GDP比は、17年に-2.6%となり、18年は-2.3%と見込まれていることから、フランスは2年連続での基準(財政赤字・GDP比3%以下)達成という監視停止条件を満たし、18年6月22日に欧州委員会による監視が終了した。
15 18年6月のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)において、ギリシャへの第三次金融支援の18年8月における終了が決定された。また、欧州金融安定基金(EFSF)による融資の利払い及び元本の返済猶予期間の延長(32年まで)等を含む債務負担軽減措置、欧州安定メカニズム(ESM)を通じた追加融資(150億ユーロ)等についても合意された。
16 欧州委員会は、17年7月12日に加盟国政府に提案を行い、9月25日にギリシャへの過剰財政赤字是正措置の適用が終了した。
17 「欧州セメスター」とは、EU加盟国の経済政策及び予算に対する事前評価制度であり、毎年前半6か月に実施される。欧州委員会により提案され、欧州理事会で採択された国別勧告に応じてEU加盟各国は政策決定を行う。
18 ECBは、消費者物価指数(HICP総合)前年比を、中期的に2%を下回りかつ2%近傍とすることとしている。
19 例えば、18年3月にはイースター休暇の影響から旅行関連のサービス価格が上昇し、コア物価上昇率も上昇した。
20 非伝統的金融政策としての資産購入プログラムについては、17年12月まで月額600億ユーロとしている資産購入額を、18年1月から少なくとも18年9月までは月額300億ユーロとすること、2%の物価上昇率に向けた持続的な物価上昇が確認できるまでは、この期限を超えて資産買入れを行うことを決定した。また、これらのほかに、保有資産の償還分の再投資を、買入れ期間終了後も必要な限りいかなる場合でも実施することなども決定している。
21 ただし、今後の統計が政策理事会の中期インフレ見通しと整合することを条件としている。
22 政策金利(メイン・リファイナンシング・オペレーション金利)を0.00%、限界貸出金利を0.25%、中銀預金金利を-0.40%に据え置いている。
23 他方、ドラギ総裁は、18年2月の欧州議会における証言の際、ユーロ圏経済における需給の緩み(Economic Slack)が想定よりも大きく、物価上昇圧力を弱める可能性があり、これは特に、雇用が力強く増加する一方で賃金が低迷する労働市場に表れている旨言及している。
24 景気の緩やかな回復によりスラックの解消が進む中で、例えば、ドイツ最大労組の金属産業労組(IGメタル)と経営者連盟の労使交渉では、18年2月、(1)18年1~3月は基本給据え置いた上で100ユーロの一時金支給、(2)18年4月の基本給の一律4.3%引上げ、(3)19年1月に月給27.54%相当の上乗せ支給(労働時間短縮で代替可)、(4)19年7月に400ユーロの一時金支給等で妥結している。
25 BOEは、大雪により、エネルギー消費が増加する一方で、流通、建設、外食・宿泊サービス等の活動に影響が出た可能性を指摘し、18年1~3月期実質経済成長率を0.1%ポイント以上押し下げたとしている。また、フォーティーズ・パイプラインの停止(後述)が、17年10~12月期実質経済成長率を0.05%ポイント押し下げたとしている。
26 BOEの推計による長期均衡失業率(Long-term Equilibrium Rate of Unemployment)(BOE「インフレーション・レポート」(18年2月))。
27 ここでの移民は、自身の居住国以外の国に1年以上滞在するために移動した個人である長期国際移民(Long-term International Migrant)を指す。
28 18年4月及び5月は、大寒波の反動や一時的要因(ロイヤルウエディング)の影響もあり、やや復調した。
29 17年4月に自動車税が改正され、二酸化炭素排出量の多い車両に対する課税が強化された。それまで1km当たりの二酸化炭素排出量が100g未満の車両は課税されなかったが、二酸化炭素を排出しないゼロ・エミッション車を除き、排出量に応じて課税されるなどの改正がなされた。
30 英国政府は17年7月26日、大気の改善を目的とした「沿道の二酸化窒素濃度に対する英国の取組計画」(UK plan for tackling roadside nitrogen dioxide concentrations)を公表し、新たに取得するディーゼル車への課税を見直す方針を示した。これを受け、17年11月22日、18年4月1日以降に登録するディーゼル車について、EU規則(Commission Regulation (EU) 2017/1151)に基づく排出ガス基準(RDE2:Real Driving Emissions 2)を満たさない場合、取得年の自動車税を増税するとの措置が導入された。なお、RDE2は、大手自動車メーカーによるディーゼル車排出ガス不正問題を契機に17年9月に導入された基準であり、実路走行における窒素酸化物排出量の上限値を台上試験値(80mg/km)の1.5倍以内としている。
31 英国の会計年度は4月~翌年3月。
32 18年4月及び5月の自動車登録台数は、17年4月の自動車税改正の影響がはく落したことから、プラスに転じた。
33 英国水域の北海油田の原油・ガス生産量の約40%を輸送するフォーティーズ・パイプラインが、配管亀裂の修理のため、17年12月11~30日に稼働を停止したことから、同月の鉱業生産が大幅に減少した(前月比-19.5%)。また、バルブ故障のため、18年2月7日にも稼働を停止している。
34 実質経済成長率のうち外需の寄与度は、17年10~12月期1.4%、18年1~3月期0.3%と鈍化した。一方、内需(在庫投資等を除く)の寄与度は、17年10~12月期1.5%の後、18年1~3月期-0.7%とマイナスに転じた。外需の鈍化に加え、内需(在庫投資等を除く)が減少しており、生産の鈍化につながったと考えらえる。
35 ここでの資本利益率は、生産に使用する資本に対する利益の比率。
36 英国エンジニアリング事業者協会(EEF)による調査(17年10月公表、17年8月2~23日に328社を対象に実施)では、35%の企業が、既に決まっている投資は実施するものの、新たな投資は見送るとの考えを示しており、13.5%の企業が、EU離脱後の事業環境が明らかになるまで投資は行わないとしている。
37 18年2月7日のBOE金融政策委員会の金融政策サマリーには、「金融政策は予測期間にわたり、11月のインフレーション・レポートにおける想定よりも幾分早く、幾分大きく引き締める必要がある」とのフォワードガイダンスが追加された。この背景として、消費者物価上昇率が目標の前年比2%を超えて高水準で推移することが見込まれること、失業率が均衡失業率(4.25%)に近づきつつあること、残された経済のスラックはわずかで労働供給等の伸びも緩やかなことなどが挙げられた。
38 量的緩和政策については、国債買取枠4,350億ポンド、社債買取枠100億ポンドで据え置かれた。
39 BOE「インフレーション・レポート」(15年11月)では、政策金利に大幅な引下げ余地ができるまで保有資産の維持を見込むとし、その政策金利の水準を2%近辺としていた。
40 欧州委員会は、18年3月19日に英国のEU離脱に関する離脱協定案を公表。同協定案は、(1)交渉官レベルで合意し、法技術的な修正を残すのみの条文、(2)政治的目標(political objective)において合意したが、条文案の修正と明確化を必要とする条文、(3)EUが提案した案で議論中の条文に区分されている。
41 英国予算責任庁(OBR)は、EU離脱に係る財政負担(19~64年)を414億ユーロ(371億ポンド)と試算している(Economic and Fiscal Outlook – March 2018)。
42 ベルファスト合意は、1998年4月に北アイルランドのベルファストにて英国政府、アイルランド政府及び北アイルランドの8つの政党間で締結された和平合意で、北アイルランド問題に係る和平プロセスの根底を成している。本合意後のアイルランド及び北アイルランドそれぞれの国民投票により、アイルランドは北アイルランドの領有権主張を放棄し、北アイルランドは、完全に英国の一部であることが確定した。
43 英国とアイルランド共和国間の人の移動の自由を確保するために設定された「共通旅行区域」(CTA:Common Travel Area)を維持するとしている。英国及びアイルランド市民は、「共通旅行区域」内は入管手続なしで自由に移動できる。
44 EUは、アイルランド島に、自由貿易の確保のため島内に国境を設けない「共通規制地域」(Common Regulatory Area)を設定し、事実上、北アイルランドをEUの関税同盟に残すことを提案し、英国側から他の解決策が提示され、合意されない限り、当該案が適用されるとの規定を含む議定書案を示した。これに対し英国側は、英国の一体性を損なうとして反対し、対案を示す意向を示した(コラム2-2(注7)参照)。その後英国は、対案として解決策が合意されない場合には、20年12月末までの移行期間終了後も、英国を21年末までEU関税同盟に残すことなどを求める暫定関税措置案を示したが、EUは難色を示している。
45 ただし、EU側は、「全てが合意されるまでは、何も合意されない」(Nothing is agreed until everything is agreed)との基本原則を有しており(ガイドライン(17年4月29日欧州委員会)等)、移行期間については暫定合意という立場をとっている。このため、英国のEU離脱日(19年3月29日)までに離脱協定全体が合意できなければ、移行期間についての合意も無効となる。
46 18年10月中旬に予定されるEU首脳会議において最終合意し、EU及び英国の議会プロセスに進むことが期待されている。
47 18年1月、英国議会下院は、英国政府とEUとの合意について、英国議会の承認を義務付ける修正案を可決した。18年5月には、上院が、EUとの関税同盟維持に向けた取組の議会への報告を義務付ける修正案や、EEA(European Economic Area:欧州経済地域)への残留交渉を求める修正案等を可決したが、これらは18年6月に下院において否決された。
48 14年の英国の中間財輸出入上位9品目におけるEUのウェイトは、60%を超えている(World Input-Output Database)。
49 現状では金融機関がEU加盟国のいずれか一か国で免許を取得すれば、EU単一市場内で業務を展開できる、いわゆる「単一パスポート制度」が存在するが、EUは、EU離脱に伴い英国は単一パスポートを失うとの立場を採っている。
50 デービス前英国EU離脱相は、17年12月、EU・カナダ間の包括的経済貿易協定(CETA)を念頭に、英国の目指す貿易協定の在り方を「カナダ+++(プラス・プラス・プラス)」と表現し、CETAより広範囲な協定を目指す意向を示した。また、18年3月のメイ首相による将来のEUとの経済連携に係る演説においても同方針が示された。
51 トゥスクEU大統領は、18年3月、「いいとこ取り」(cherry picking)はあり得ない具体例として、ノルウェーモデルとカナダモデル双方の利点のみを、それに対応する義務を負担することなしに同時に得ることはできないという趣旨で、例えば、ノルウェーの権利とカナダの義務を同時に英国に与えることはできないと述べている。
52 英国調達供給協会による2,204社のサプライチェーンマネージャーに対する調査では、英国のEU離脱に伴うリスク回避のため、英国企業と取引のあるEU企業の14%が英国外に一部業務を移転したと報告されている(18年3月20日公表、調査期間は18年2~3月上旬)。
53 EU外輸出(17年)のうちアメリカ向け輸出は国別で1位(シェア20%、EU内を含めた輸出シェアは約7%)。アメリカ向け輸出のうち、鉄鋼・アルミニウムは約2%、自動車は約10%を占める。
54 17年9月24日に実施されたドイツの総選挙では、与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)及び社会民主党(SPD)が得票率を大きく落とした一方で、反移民を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて議席を獲得し、第三党となった。総選挙後、CDU/CSUとSPDとの連立がSPD党員の投票による承認を経て決着するなど連立協議は難航し、総選挙から18年3月14日の連立政権発足までに6か月弱を要したが、最終的には総選挙前と同様のCDU/CSUとSPDの大連立政権となった。なお、SPDとの連立の成立により、AfDが野党第一党となった。
55 18年3月4日に実施されたイタリア総選挙において、得票率は中道右派連合、五つ星運動、中道左派の順となり、いずれの政党・政党グループも過半数に達しない、いわゆるハング・パーラメントとなった。3月24日の上下両院議長選挙では、上院議長は中道右派のフォルツァ・イタリア(FI)、下院議長は五つ星運動から選出され、6月6日、五つ星運動及び同盟による連立政権が発足した。
56 EU加盟国は、単年度の一般政府の財政赤字がGDP比3%を上回らず、債務残高がGDP比60%を下回ることが求められている。イタリア新政権は、所得税減税やベーシックインカムの導入等、財政拡張的な政策を掲げている。
57 オーストリアでは、17年12月18日に中道右派の国民党と反移民を掲げる自由党による連立政権が発足した。
58 ユーロ圏外では、17年10月のチェコ下院選でポピュリズム政党が議席を伸ばしたほか、18年4月のハンガリー国民議会選挙では反移民等を掲げる現首相率いる与党連合が圧勝した。
59 スペインのカタルーニャ自治州は、17年10月1日に独立を問う住民投票を実施し、投票者の約9割が独立に賛成した(投票率は約4割)。同州と中央政府が独立の是非を巡り激しく対立する中、10月27日、カタルーニャ自治州議会が独立宣言を可決したのに対し、中央政府は、憲法第155条に基づく同州の自治権の停止、州首相・閣僚の罷免、州議会の解散及び州議会選挙の実施(12月21日)を発表した。前州首相は、国家反逆罪等で起訴され、ベルギーに出国・滞在していたが、11月8日にスペイン憲法裁判所は州政府による独立宣言を無効とする判決を下した。12月21日の州議会選挙の結果、独立反対派の中道右派政党が第一党となる一方で、独立派の3党が過半数を獲得したが、スペイン憲法裁判所が国外に滞在する前州首相の再任を認めないとの判断を下したため、5月14日、独立派で無所属の議員が次期州首相に選出され、6月2日、カタルーニャ自治州新政府が発足した。
60 潜在的な分離独立問題として、英国のスコットランドや北アイルランド、イタリアの北部イタリア、ベルギーのフランドル地方等が指摘されている。
61 16年7月にEBA(欧州銀行監督機構)が主要51行を対象にストレステストを実施し、EU内の銀行部門全体としては健全であるものの、個別行の結果には大きなばらつきがあるとの結果を公表している。イタリアでは、依然、銀行全体の不良債権比率が高止まりしている。また、ECBは18年3月、17年3月に公表した不良債権ガイドラインの追加として、不良債権の引当金計上に係る監督上の基準を公表した。

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