第2章 主要地域の経済動向と構造変化(第4節)
第4節 アジア経済
1.中国経済の動向
中国では、景気は持ち直しの動きが続いている。実質経済成長率は、17年に前年比6.9%となった後、18年1~3月期には同6.8%となり、政府目標(17年、18年とも6.5%前後)を上回る成長が続いている(第2-4-1図)。世界経済の緩やかな回復に伴い、輸出が増加したため、17年10~12月期には純輸出の寄与が大きく拡大し、17年全体でも3年ぶりにプラス寄与に転じた。また、内需については、雇用・所得環境が改善する中で、消費の伸びが堅調に推移する一方、投資(資本形成)は17年後半以降伸びが低下傾向にある。
本節では、中国経済の最近の動向について、18年の経済運営を概観した後、個人消費や生産等の動向を振り返り、最後に18年の見通しとリスク要因について整理する。
(1)18年の経済運営
18年3月に開催された、第2期習近平政権で初となる全国人民代表大会(全人代)1において、中国政府は18年の主要な目標として、実質経済成長率を6.5%前後、都市部新規就業者数を1,100万人以上、都市部調査失業率2を5.5%以内、都市部登録失業率を4.5%以内とすることなどを掲げた。実質経済成長率の目標値は、17年と同じであるが、「我が国の経済が既に高速成長の段階から質の高い発展を目指す段階へと切り替わっている実情に即している。経済のファンダメンタルズと雇用吸収力からみて、6.5%前後の成長率であれば比較的十分な雇用を確保できる」としている。
財政政策については、「積極的な財政政策」を維持するとされたものの、財政赤字・GDP比(国と地方の合計)については、17年の3.0%から2.6%に引き下げられた。
金融政策については、「穏健な金融政策の中立性を維持する」と昨年と同様のスタンスが示されたが、一方で、これまで数値目標が掲げられていたM2等の数値目標は示されず、「通貨供給量をしっかりと管理し、M2、貸出、社会融資規模の合理的増加を保ち、流動性の合理的安定を維持する」とされた。
また、18年の重点課題として9項目が挙げられ、従来から重点課題とされていた供給側構造改革等に加えて、新たに「三大堅塁攻略戦」(3つの最も困難な課題の克服)への取組が盛り込まれた(第2-4-2表)。「三大堅塁攻略戦」は、17年10月に開催された共産党大会において、20年までの「小康社会」(ややゆとりのある社会)の実現に向け、3つの最も困難な課題である「重大リスク(金融リスク)の防止・解消」、「的確な貧困脱却」、「汚染対策」に取り組むとされたものであり、これが18年の重点課題としても位置付けられた。なお、全人代における国家発展改革委員会の報告には、17年の政策目標とされた65の主要指標について、それらの達成状況が示されているが、19の拘束性指標3のうち未達成となった3つの指標は、いずれも環境汚染に関連するものであった4。
以下では、18年の重点課題のうち、供給側構造改革の動向について簡単に触れた後、「三大堅塁攻略戦」として挙げられた3つの課題について概観する。
まず、供給側構造改革についてみると、新たな成長の原動力として、ビッグデータ、次世代人工知能(AI:Artificial Intelligence)等への取組を推進するとともに、引き続き過剰生産能力の解消にも取り組んでいくとされ、鉄鋼で3,000万トン前後、石炭で1.5億トン前後の追加削減目標が示された。鉄鋼については、第13次5か年計画中(16~20年)に、1~1.5億トンの生産能力を削減するとされているが、17年までに1.2億トンを削減しており、18年の目標を達成すれば、目標を最大まで達成することとなる。石炭については、16年からの3~5年間で5億トン前後の生産能力を削減するほか、企業再編により5億トン前後を減量するとされており、17年までに5.4億トンが削減された。なお、国家発展改革委員会は、こうした鉄鋼、石炭での取組は、板ガラス、セメント、電解アルミニウム等においても参考になるであろうと述べており5、今後、他分野での取組も進められていくものとみられる。
(重大リスクの防止・解消)
17年12月に開催された中央経済工作会議では、「重大リスクの防止・解消」の重点は、金融リスクの防止・コントロールであるとされ、18年3月の全人代では、「金融監督管理の統一的な調整を強め、シャドーバンキング、インターネット金融、金融持株会社等に対する監督管理を万全にし、金融監督管理を更に充実させる」とされた。17年11月には、規制当局間の連携強化を目的とした国務院金融安定発展委員会が設立されたが、これに続き、18年の全人代で承認された国務院の機構改革の一環として、銀行業監督管理委員会と保険業監督管理委員会を統合し、銀行保険監督管理委員会が新設された。この趣旨としては、従来の体制下では監督管理の職責が不明瞭で、権限の重複や空白等の問題があったことから、その解消を図り、総合的な監督監視を強化する必要があるためとされている。金融監督管理体制が分散し、縦割りとなっていた中で、シャドーバンキングが業態をまたいで複雑化するなど、より総合的な管理体制の必要性が高まっていたことが背景の1つとみられる。また、これまで銀行業監督管理委員会と保険業監督管理委員会が有していた機能のうち重要法律・法規とプルーデンス政策の立案機能は中国人民銀行に移管され、規制制定と実施のための組織を分離する体制となった。
政府が、17年以降、金融リスクの防止に向けた動きを強める中、シャドーバンキングの代表的な存在である理財商品の残高は、11~15年は年平均50%を超える高い伸びを示していたが、17年には前年比1.7%となり、増勢が急速に鈍化した(第2-4-3図)。この要因を元本保証型と非保証型の理財商品に分けてみると、元本非保証型が17年に減少に転じ、理財商品全体に占める割合も低下している(第2-4-4図)。理財商品の問題の1つに、その多くがオフバランスであり、元利非保証とされているにもかかわらず、販売元である銀行が事実上元利を保証する、暗黙の元本保証(「剛性兌付」)が浸透している点が挙げられる。16年に金融リスク防止の観点から商業銀行の財務状況を査定するマクロプルーデンス評価が導入されたが、17年にはオフバランスの理財商品の販売で調達した運用資金もこの評価対象に含める規制強化が行われた。この影響もあり、17年に元本非保証型の理財商品が減少に転じたものとみられる。また、理財商品の販売先をみると、金融機関向けの構成比が低下している(第2-4-5図)。理財商品の組成の複雑化が進む中、金融機関間の理財商品の取引の増加は、デフォルトの影響が広範囲に波及する可能性を高くするなど、金融リスクを高めると考えられ、17年3、4月を中心に銀行業監督管理委員会は、相次いで理財商品の業務運営や資産運用の適正化等を目的とした規制強化を行った。これには、理財商品の設計・運用の透明性確保等の内容が含まれており、金融機関向け理財商品の構成比の低下は、そうした規制強化の効果の現れとみられる。
さらに、18年4月には、17年11月にパブリックコメントのため草稿が示されていた「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」が、人民銀行、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会、外為管理局の連名で正式に公表され、即日実施された。本意見は、銀行、信託、証券等、金融機関の資産管理業務を統一的に規制するものであり、資産管理業務における元本・収益保証(暗黙の保証を含む)の禁止等を含むほか、資産管理商品による他の資産管理商品への投資を一階層までとする規定も設けられている。なお、本意見の全面的な実施までに移行期間が設けられており、意見公表後に新たに発行される資産管理商品に係る業務については、新規定に適合させなければならないとされているが、既存の業務については、調整のための猶予が与えられている。草稿段階では、この移行期間について、19年6月までとしていたが、20年末に延長され、新規制への移行を慎重に進めていく様子がうかがえる。
このような理財商品等のシャドーバンキングへの規制強化により、流動性に対する需給が幾分引き締まってきており、17年に入り上海銀行間取引金利(SHIBOR)や国債等の市場金利が上昇している(第2-4-6図)。特に、中小銀行は理財商品等を通じた資金調達や運用を積極的に行ってきたとみられ、規制強化の影響を受けやすいと考えられる。一方で、資金需給の引締まりに配慮した対応もみられる。人民銀行は、18年1月から小企業・農家等に対する融資が一定割合以上等の条件を満たした金融機関の預金準備率を引き下げ(引下げ幅は0.5%又は1.5%ポイント)、更に4月には大型商業銀行、株式制商業銀行等の預金準備率を1%ポイント引き下げた。後者については、準備率引下げで生じた超過準備をまず中期貸出ファシリティー(MLF)を通じた借入の返済に充て、残額を小規模・零細企業への融資に用いることを求めている。続いて7月にも、大型国有商業銀行、株式制商業銀行、都市商業銀行等の預金準備率を0.5%ポイント引き下げ、中小銀行に対しては、準備率引下げで生じた超過準備を小規模・零細企業への融資に用いるよう求めた。さらに、18年7月2日には、18年における第1回国務院金融安定発展委員会が開催され、重大リスク防止・解消に向けた取組について審議されるとともに、金融市場の流動性については合理的に十分な状況に維持することとされた。これらにより流動性に対する需給が緩和され、銀行の資金調達コストの軽減が期待される。なお、7月の引下げでは、大型国有商業銀行と株式制商業銀行に対しては、超過準備と市場から調達した資金を用いて債務の株式化を実施することを促しており、企業の過剰債務問題の改善を後押しするものともなっている(企業の過剰債務問題については第1章参照)。
このように、金融リスク防止への取組については、具体的な進捗もみられており、今後も実体経済への影響を考慮しながら、更なる取組が進められることが期待される。
(的確な貧困脱却)
中国では、90年時点で総人口の3分の2が、世界銀行が定義する国際貧困ライン、すなわち1日1.90ドル未満6で生活する貧困人口に当たり、農村部を中心に政府による貧困削減に向けた取組が進められてきた。中国経済の高成長に加え、貧困削減への取組もあり、総人口に占める貧困人口の比率である貧困率は急速なペースで低下してきた。世界銀行によれば、世界全体の貧困率は90年の35.3%から13年には10.7%に低下したが、中国では66.6%から1.9%に大幅に低下している。
中国政府は、80年代半ばから、貧困削減を重要課題と位置付け、貧困地域を指定し、重点的な支援を行っており、「国家八七貧困対策攻堅計画(94~2000年)」、「中国農村貧困対策開発要綱(01~10年、11~20年)」等の計画を策定し、インフラ整備、義務教育や基本医療の普及等、様々な取組を実施してきた。86年には独自の貧困ラインを定め、数次にわたる引上げを経て、現行基準では一人当たり年間収入2,300元未満(10年固定価格)を貧困人口と定義し7、20年までに農村部の貧困人口を解消するとの目標を掲げている8。本基準による農村部の貧困人口の推移をみると、10年の1億6,567万人(貧困率17.2%)から、17年には3,046万人(貧困率3.1%)にまで削減されている(第2-4-7図)。ただし、17年の貧困人口を地域別にみると、東部地域では300万人(貧困人口の9.8%)、中部地域では1,112万人(同36.5%)、西部地域では1,634万人(同53.6%)となっており、地域間で格差がみられる。
このように、一定の貧困ライン以下の絶対的貧困人口の削減は急速なペースで進んでおり、このペースが継続すれば、目標達成は不可能ではないとみられる。しかし、中国国内における相対的所得格差を示すジニ係数9(可処分所得ベース)をみると、08年をピークにやや低下しているものの、16年時点でも0.465と高く、相対的な所得格差は大きい10(第2-4-8図)。今後の安定的な経済成長のためには、相対的貧困の解消にも取り組んでいくことが必要と考えられ、これには中長期的な対応が求められる。
(汚染対策)
中国では、第11次5か年計画(06~10年)以来、二酸化硫黄等の環境汚染物質の削減を拘束性指標に設定するなど環境改善に取り組んでおり、これまで一定の成果を挙げてきた。第13次5か年計画(16~20年)では、PM2.5等の大気汚染改善の目標が新たに拘束性指標として追加されている。また、別途設けられていた「大気汚染防止行動計画」(「大気十条」)の計画終了年が17年であったこともあり、17年以降、大気汚染対策を中心により急速なペースで環境汚染対策を進める姿勢がみられる。
大気汚染が深刻な北京のPM2.5の状況をみると、例年大気汚染が深刻化する冬季においても、17年は濃度が上昇しておらず、対策の成果がみてとれる(第2-4-9図)。また、18年7月には、「大気十条」に続く、新たな大気汚染対策の総合的な計画として「青空を守る戦い」3か年計画が発表され、PM2.5の濃度引下げ等の数値目標について、第13次5か年計画の目標を既に達成している省はその成果を維持し、未達成の省は目標を全面的に実現し、北京市については目標より更に高い改善を目指すこととされた。
他方、さきにも触れたとおり、17年の拘束性指標のうち未達成となった3指標は、いずれも環境汚染に関するものであり、目標達成に向けて引き続き汚染対策への取組が進められていくものとみられる。
また、大気汚染の大きな要因の1つとして、大量の石炭使用が挙げられる。中国は、世界の石炭消費量の約5割を占め、世界最大の石炭消費国となっている。政府は、第13次5か年計画終了年の20年までにエネルギー消費に占める石炭消費の比率を58%以下に引き下げるとしている。中国のエネルギー消費の内訳をみると、近年、石炭のシェアは低下傾向にあり、06年の72.4%から16年には62.0%に低下している(第2-4-10図)。また、政府は、石炭から天然ガスへの移行を推進しており、17年以降、液化天然ガスの輸入が急増するなどの変化もみられる(第2-4-11図)。
このように、汚染対策は環境汚染改善の目標達成に一定の効果を奏しているものの、一方で、石炭消費の制限や汚染源となる業種への厳しい生産制限等も行われ、鉄金属加工業(鉄鋼等)、非鉄金属加工業(アルミニウム等)等の一部業種を中心に生産活動を下押しているとみられることから、短期的な経済への悪影響には留意が必要である。
(2)個人消費は堅調に推移
(i)最近の個人消費の動向
(小売総額)
次に、最近の個人消費の動向をみると、小売総額(実質値)の伸びは、おおむね横ばいとなっており、堅調に推移している(第2-4-12図)。小売総額のうちインターネット小売が前年比30%を超える高い伸びで推移し、シェアも16%前後まで高まりつつある(第2-4-13図)。
品目別の小売の動向を、データが公表されている一定規模以上の企業11における商品小売総額(名目値)でみると、衣類等などでやや伸びが高まる一方、自動車や不動産関連(家電、家具、建築及び塗装材料)では17年後半に伸びに鈍化傾向がみられた(第2-4-14図)。自動車については、16年末が小型乗用車の減税期限12と当初されたことから、16年後半に駆込み需要が生じたため、17年後半にその反動が現れたものと考えられる(詳細は後述)。また、不動産関連については、16年後半以降実施されてきた不動産価格抑制策を受けて、不動産販売面積の伸びが鈍化したことが影響したものとみられる(後掲第2-4-35図)。
(自動車販売台数)
自動車販売の詳細を自動車販売台数(乗用車・商用車の合計、出荷ベース)でみると、小型乗用車減税に伴う駆込み需要の反動により17年後半に、乗用車の伸びが低下したことから、自動車全体の伸びも低下した(第2-4-15図)。しかし、減税終了後の18年以降、自動車販売台数は乗用車・商用車ともに再び堅調に推移している。
排気量別にみると、減税対象であった排気量1.6L以下の乗用車は、17年3月から18年初にかけて前年比マイナスで推移していたが、18年3月以降、前年の低い水準の反動もあるものの、持ち直している(第2-4-16図)。また、車種別にみると、SUV(Sport Utility Vehicle:スポーツ用多目的車)の人気が高まっており、17年は乗用車全体の販売台数が前年比1.4%であったのに対し、SUVは同13.3%となり、乗用車に占めるシェアも13年の16.7%から17年には41.5%に高まるなど、乗用車市場の構造に変化もみられ、政策効果だけではなく、所得の向上が販売の拡大に寄与していることがうかがえる(第2-4-17図)。なお、自動車保有台数は、16年時点で都市部でも100世帯当たり35.5台と低く、今後も、所得の増加に伴い、乗用車は着実に普及していくものと見込まれる(後掲第2-4-20図)。
また、中国自主ブランドメーカーを中心とした自動車産業の発展や大気汚染の改善を促すため、中国政府は「新エネルギー車」13の普及を推進しており、新エネルギー車に対し車両購入税の免除や補助金の給付等の支援策を講じてきた。こうした政策効果もあり、新エネルギー車の販売台数は急増し、17年は年間約78万台となった(第2-4-18図)。新エネルギー車のうちEV(電気自動車)の新車登録台数の動向をみると、中国は世界の62.4%(17年)のシェアを占めており、世界最大の市場となっている14。さらに、17年末で終了予定だった新エネルギー車に対する車両購入税の免除が、20年末まで延長されることが17年12月末に公表された。自動車販売台数に対する新エネルギー車のシェアは17年時点で2.7%に過ぎないが、車両購入税免除の延長に加え、19年より各自動車メーカーに一定比率の新エネルギー車の生産又は輸入・販売が義務付けられることなどから、今後、これらが新エネルギー車の市場拡大を下支えしていくものとみられる。
(当面の個人消費)
当面の個人消費の動向を占うため、将来の所得や雇用に対する消費者マインドをみると、「将来の所得状況に対する期待」、「将来の雇用情勢に対する期待」ともに16年末から17年初に改善の基準である50を上回り、その後も改善傾向が続いている(第2-4-19図)。
さらに、18年の全人代における政府活動報告では、個人所得税の基礎控除額を7年ぶりに引き上げるとともに、教育費や重大疾患医療費等の特別控除額を拡大するとの方針が示されている。
このように、消費者による将来の所得と雇用に対する期待の改善が続いていること、政策による所得水準の引上げが行われる見込みであることから、今後も消費の堅調さが維持されるものと期待される。
(ii)個人消費の構造
次にやや長い視点から個人消費の動向を捉えるため、耐久消費財の普及状況と家計の消費支出の構造を概観する。
(耐久消費財の普及拡大)
耐久消費財の普及状況をみると、自家用車については、100世帯当たり保有台数が、16年に都市部で35.5台、農村部で17.4台となっており、13年に都市部で22.3台、農村部で9.9台であったのに対し急速に普及が進んでいる。しかし、例えば17年の日本の保有台数は125.2台であり、依然として中国における普及の余地は大きい(第2-4-20図)。
自動車以外の主要耐久消費財の保有台数をみると、冷蔵庫やカラーテレビは、都市部、農村部ともに1世帯に約1台が既に保有されているが、エアコンは農村部での普及が遅れており、また、バイクは都市部に比べ所得の低い農村部で普及している。
このように、冷蔵庫やカラーテレビの普及は進んでいるものの、自動車や農村部におけるエアコンの普及にはいまだ拡大余地が残っており、所得の上昇に伴いそれらが普及することで、今後の消費が拡大していくことが期待される。
(サービス消費の拡大)
次に、家計の消費支出の構造について、13年と17年を比較すると「医療保健」、「交通・通信」、「文化・教育・娯楽」といったサービスへの支出割合が上昇している(第2-4-21図)。これら3項目の合計が17年には全体の3割を超えており、「モノ」消費から「コト」消費への移行が進んでいる様子がうかがえる。
以上のとおり、中長期的にみて、耐久消費財の普及やサービス消費の拡大が、今後の中国の個人消費をけん引していくものと期待される。
(3)生産は伸びがおおむね横ばい
鉱工業生産は、伸びがおおむね横ばいで推移している。内訳を業種別にみると、鉱業については、過剰生産能力の削減や環境保護対策の強化の影響もあり、低調な伸びが続いている(第2-4-22図)。製造業については、全体としては堅調に推移しているが、コンピュータ・通信等、一般設備製造業等で高い伸びが続く一方、過剰生産業種とされる鉄金属加工業(鉄鋼等)、非鉄金属加工業(アルミニウム等)等では伸びが低く、業種によりばらつきがみられる。ただし、後者についても、前年が低水準だったこともあり、17年末頃から持ち直してきている(第2-4-23図)。自動車については、17年半ばから伸びが低下傾向にあったが、これは、小型乗用車減税の終了期限とされた16年末に向け駆込み需要が生じたため、16年後半に生産が大幅に増加した反動とみられる。減税終了後の18年には、さきにみた堅調な自動車需要を受け、自動車生産は4月に再び前年比2桁台の伸びに回復している。
また、品目別(数量ベース)の特徴をみると、中国政府が進める「中国製造2025」等の製造業の高度化への取組も背景に(詳細は後述)、新エネルギー車、産業用ロボット、集積回路といった高付加価値品の生産が活発となっており、18年に入ってからも、新エネルギー車が前年比80%以上、産業用ロボットが同20~30%台、集積回路が同10~30%台と高い伸びを示している(第2-4-24図)。このうち、集積回路については、14年に策定された「国家IC産業発展推進綱要」により国産化を推進することとされ、また「中国製造2025」の重点産業の1つともされており、集積回路への設備投資が活発化していることが、生産拡大の背景にある。半導体製造装置の地域別売上高をみると、16年半ばから世界的に増加基調となる中、中国における売上高も増加傾向となっている(第2-4-25図)(新エネルギー車は前述(2)(i)最近の個人消費の動向を参照、産業用ロボットは後述(4)(ii)製造業投資を参照)。
今後については、過剰生産能力の削減や環境汚染対策への取組が、引き続き一部業種の生産に下押し圧力となる一方で、こうした新たな産業が生産をけん引していくものと見込まれる。
(4)固定資産投資は伸びが低下
本節冒頭でみたとおり、中国経済は、輸出や消費が堅調に推移する一方で、投資は17年後半以降伸びが低下傾向にある。そのため、ここでは固定資産投資の動向をやや詳細にみていきたい。
固定資産投資(年初来累計)は、17年後半以降、伸びが低下傾向となっており、内訳をみると、不動産開発投資が、比較的堅調に推移している一方、固定資産投資をけん引してきたインフラ関連投資は、17年半ばまでは前年比20%台で推移してきたが、その後徐々に伸びが低下し、17年12月以降、同10%台の推移となっている。また、製造業投資は、4%前後と低調な伸びが続いている(第2-4-26図)。以下では、インフラ関連投資、製造業投資、不動産開発投資それぞれの動向を確認していく。
(i)インフラ関連投資
インフラ関連投資は、17年の固定資産投資総額の約2割を占めており、高い伸びで固定資産投資を支えてきたが、17年半ばに前年比(年初来累計)20%を割り込み、その後も伸びの鈍化が続いている(前掲第2-4-26図)。
18年の政府活動報告では、インフラ関連投資について「鉄道投資7,320億元、道路・水運投資1兆8,000億元前後を達成し、建設中の水利プロジェクトへの投資規模が1兆元に達するようにする」とされている。鉄道投資は、昨年の8,000億元からやや減額されたものの、道路・水運投資は、昨年と同規模となっている。水利投資については、16年、17年には重要水利プロジェクトに新たに着工するとされていたが、18年は建設中のプロジェクトに対する投資規模が示されており、着工から建設段階へとプロジェクトが進展している様子がうかがえる。
以上のとおり、目標からみると、18年のインフラ関連投資は、17年と同程度の水準は維持されるものとみられる。また、予算面では、中央政府のインフラ関連投資については、昨年より300億元多い5,376億元とされたほか、地方政府の投資に関して、地方債務リスクの防止・解消に努める一方で、地方特別債15を昨年より5,500億元増額し1.35兆元とし、建設中のプロジェクトが円滑に進むよう優先的に支援するとされているが、他方で、17年後半に官民連携(PPP:Public Private Partnership)を通じた違法な資金調達を防止するための措置が強化され、その影響が現れ始めている点には、留意が必要である16。
コラム2-3:中国のインフラ関連投資の動向
中国のインフラ関連投資(注1)について、18年の政府活動報告において数値目標が示されている、鉄道や道路等の交通運輸関連投資及びダムや堤防等の水利関連投資の動向を確認していく。
(1)交通運輸関連投資
交通運輸関連投資は、鉄道建設等の鉄道輸送業による投資と道路建設等の道路輸送業による投資が中心となる。鉄道輸送業の固定資産投資をみると、4兆元の景気対策が打ち出された後の09年と10年に増加したが、14年以降は8,000億元程度で横ばいの状況が続いている(図1)。他方、道路輸送業の固定資産投資は、毎年着実に増加しており、17年には4兆元に達し、活発な状況がうかがえる(図2)。
道路輸送業の投資が堅調に推移している背景として、中国における輸送の中心が道路に大きくシフトしている点が挙げられる(図3)。貨物輸送量をみると、鉄道が05年の約27億トンから17年の約37億トンに増加したのに対し、道路は05年の約134億トンから17年の約368億トンへと大きく増加し、17年時点で貨物輸送量の約8割を道路輸送が担っている。このところのインターネット小売の急拡大等も背景にあり(注2)、道路への強いインフラ需要が生じているものとみられる。
中国政府は、17年2月の国務院「第13次5か年計画現代総合交通運輸体系発展計画通知」において、第13次5か年計画の最終年である20年までに、道路総距離を15年の458万kmから500万kmに、うち高速道路を15年の12万kmから15万kmに延長することを目標に掲げている(表4)。進捗率をみると、計画2年目の17年時点で道路総距離、高速道路共に47%となっており、着実な進捗をみせている。
他方、鉄道については、同通知において、15年の鉄道営業距離12万kmを20年に15万kmに、うち高速鉄道を2万kmから3万kmに延長し、主要都市の80%をカバーするとの目標を掲げている。17年時点の鉄道営業距離は13万km(目標の21%)、うち高速鉄道は2.5万km(目標の55%)と進捗のペースは緩やかとなっている(表5)。
このように道路建設は積極的に進められているが、道路輸送については、排気ガスの問題から、特にディーゼル・トラック等が規制対象となっており、17年12月に環境保護部より「自動車等による汚染防止についての技術政策」が公表され、自動車や自動二輪車の排気ガス規制の水準を今後段階的に引き上げるとともに、新たに生産・販売される車両が環境基準を満たすよう、大型ディーゼル車を中心に監督管理を強化するとの方針が示された。また、18年の政府活動報告においては、環境汚染対策として「交通運輸構造の調整を推進し、複合一貫輸送の発展を速め、鉄道輸送の割合を高める」との方針が示されている。道路輸送に対する需要は高く、道路建設が抑制されることはないとみられるが、環境汚染対策の観点から、鉄道への投資が後押しされる可能性も考えられる。
(2)水利関連投資
ダムや堤防等の水利管理業の投資は、毎年着実に増加しており、17年には1兆元に達し、活発な投資が行われている。
この背景には、中国における深刻な水資源不足の問題等がある。中国では水資源が偏在しており、北部地域を中心に水不足が深刻となっている。これを緩和する取組の1つとして、02年より水資源の比較的豊かな南部から北部へ新たに3本の水路を建設する「南水北調」プロジェクトが進められており、現在、一部ルートが完成している。しかし、16年時点においても水資源のひっ迫度を示す一人当たり年間水資源量は、北部地域を中心に日常生活に不便を感じる「水ストレス」(一人当たり年間水資源量1,700㎥未満)の状況にある(図7)。
「南水北調」プロジェクトの完成は50年頃が予定されているなど、水資源不足の解消に向けた取組は長期間を要することから、今後とも水利関連投資が着実に進められていくものと見込まれる。
(注1)中国国家統計局は、インフラ関連投資を「社会的生産と生活のため、基本的・一般的なサービスを提供するプロジェクトや設備への建設・投資のための支出」と定義している(「2017年国民経済及び社会発展統計公報」(18年2月))。
(注2)インターネット小売の拡大についての詳細は、「世界経済の潮流2017年II」第2章第4節参照。
(ii)製造業投資
製造業投資については、16年半ばに前年比(年初来累計)で3%以下にまで伸びが低下したが、16年後半にはやや回復し、17年以降は伸びがおおむね横ばいで推移している(前掲第2-4-26図)。
製造業投資の内訳をみると、鉄金属加工、化学原料・製品の伸びが環境規制や過剰生産規制等の影響を受け低調である一方、コンピュータ・通信等や自動車等が好調に推移している(第2-4-27図)。この背景には、国内外の需要の好調さと中国政府が進める製造業の高度化の動きが後押ししているためと考えられる。
中国は、特に2000年代以降、安価な労働力を背景に世界の工場として成長してきた。製造業の付加価値額(名目、ドルベース)は、10年にアメリカを抜くまでに拡大している(第2-4-28図)。しかし、近年、人件費の上昇や生産年齢人口の減少に直面しており、生産の効率化・省力化が求められる状況にある(第2-4-29図、第2-4-30図)。
こうした中、中国政府は、これまでの安価で豊富な労働力を基盤とする労働集約型の産業から、新たな経済成長の原動力となるより高度な産業を育成することを国家の戦略目標として打ち出しており、10年に7つの「戦略的新興産業」17の育成計画を策定したのに続き、15年5月には「中国製造2025」を策定した。「中国製造2025」では、中国の製造業の現状について、世界の先進レベルと比べ規模は大きいが強いとは言えず、イノベーション能力、品質等で大きく後れを取っているとの認識の下、製造大国から製造強国への転換を目指すとして、その実現に向けて、次の3つのステップが示されている。第一段階として、25年までに世界の製造強国の仲間入りを果たすとし、国際競争力のある多国籍企業と産業クラスターを形成し、グローバルバリューチェーンにおける地位を高めるなどとしている。第二段階として、35年までに国内製造業の全体水準を世界の製造強国の中程度のレベルにまで引き上げるとし、強みのある産業分野において、世界のイノベーションをリードする能力を形成し、全面的な工業化を実現するなどとしている。第三段階として、49年(中華人民共和国設立100周年)までに総合的な実力で製造強国の上位に入るとし、製造業の主要分野でイノベーションをリードする能力と競争優位を確立し、世界をリードする技術体系と産業体系を構築するなどとしている。また、イノベーション能力の向上等9つの重点戦略を掲げるとともに、重点的に推進する分野として、次世代情報技術やロボット等の10の産業を挙げ(第2-4-31表)、それらの支援策を示している。また、それらの産業に対して、個別の行動計画が策定されており、より具体的な目標等が示されている。
これらの産業の中で、中国の全般的な労働生産性向上のために、重要と考えられるのがロボット産業である。ロボット産業については、16年に個別の行動計画として公表された「ロボット産業発展計画」において、20年までにロボット密度(雇用者1万人に対するロボット数)を150台とすることなどが目標として掲げられている。国際ロボティクス連盟(IFR:International Federation of Robotics)によれば、中国におけるロボット密度は16年時点で68台と目標の半分以下であり、国際的にみても世界平均の74台を下回っている(第2-4-32図)。しかし、中国への産業用ロボットの出荷台数は、10年の約1.5万台から17年には約11.5万台(実績見込み)と世界の出荷台数の約3割を占めるに至っており、目標達成に向け急速な導入が進められている(第2-4-33図、第2-4-34図)。
また、中国政府は、産業用ロボットの国内生産比率の引上げも目指しており、国内製造ロボットの国内市場シェアを20年までに50%、25年までに70%にすること、基幹部品の国産化率を20年までに50%、30年までに80%とすることなどの目標も掲げている18。国内製造ロボットのシェアは毎年着実な上昇を続けており、15年には30%台にまで上昇している。これらを背景に、さきにみたとおり産業用ロボットの生産が活発化しているものと考えられる(前掲第2-4-24図)。
中国における産業用ロボットの主な導入分野としては、中国の自動車市場の拡大を背景に、まず自動車産業で進み、11~16年の間に10万台以上が導入され、年平均18%の成長を続けてきた。最近では、けん引役が電気・電子産業に交替し、16年の同産業へのロボットの販売量は3万台、前年比75%となっており、半導体等の電子デバイス製造や電気・ハイブリッド自動車向けの電池製造等で導入が進んでいる19。自動車やコンピュータ・通信等で固定資産投資の高い伸びが続いている背景には、一部にこのような省力化投資があるものと考えられる。今後、他の産業にも、こうした動きが拡大していくことが見込まれ、製造業投資の拡大に一定の寄与を果たしていくものと見込まれる。
(iii)不動産開発投資
不動産開発投資は、17年に前年比(年初来累計)7%程度で堅調に推移した後、18年に入りやや伸びを高めている(前掲第2-4-26図)。
不動産開発投資の先行指標とされる不動産販売面積をみると、16年後半以降、各地域で実施されてきた不動産価格抑制策を背景に前年比伸び率は低下に転じ、18年1~3月期には前年比3.6%にまで低下した(第2-4-35図(1))。これを地域別にみると、一級都市が含まれる東部地域の不動産販売面積が、17年半ばから前年比マイナスで推移している。ただし、中部及び西部地域については、一旦伸びが低下したものの、17年末から再び高まりをみせており、需要が比較的強い様子もうかがえる(第2-4-35図(2))。
不動産販売価格をみると、東部地域の販売面積が前年割れとなっている状況を反映して、一級都市の不動産価格は、16年秋頃からおおむね横ばいでの推移となっている。しかし、二級、三級都市では、伸びはやや鈍化しているものの、引き続き緩やかな上昇が続いている(第2-4-36図)。
また、18年の全人代では、「各都市・地区の実情に即した対策をとり、居住目的の住宅購入の需要を満たし、投機・投資目的の需要を断固抑制する」と、引き続き不動産市場の安定化に取り組む姿勢が示された。その後、3月後半には、遼寧省大連市や江蘇省南京市等の二級都市で、新たな不動産価格抑制策も公表されている。
さらに、不動産開発企業の資金調達額をみると、16年4~6月期をピークに伸びが低下傾向にあり、18年1~3月期には前年比3.1%となっている(第2-4-37図)。これには、シャドーバンキングへの規制強化等が資金調達環境に影響している可能性も考えられる。
以上から、不動産開発投資は18年に入り伸びにやや高まりがみられるものの、現時点では、大きく拡大する方向にはないと考えられる。また、不動産販売価格については、二級、三級都市で緩やかな上昇が続いており、新たな価格抑制策を導入した都市もみられ、今後も一定程度の価格調整が行われていくものと見込まれる。
(5)輸出は増加
中国の貿易動向をみると、輸出額(ドルベース)は、世界経済の緩やかな回復に伴い、17年初に伸びが前年比プラスに転じ、17年末頃からは増加ペースを速め、17年10~12月期には前年比9.6%、17年全体でも3年ぶりにプラスに転じた。その後、18年1~3月期には同14.1%と伸びを更に高めている(第2-4-38図)。一方、輸入額(ドルベース)も、増加傾向が続いており、17年10~12月期同12.7%、18年1~3月期同19.0%と内需の堅調さにも支えられ、輸出の伸びを上回って推移している。
輸出を品目別にみると、17年後半以降、シェアの大きい電気機器・一般機器を中心に伸びが高まっている(第2-4-39図)。
このように、輸出入は好調に推移しているものの、アメリカとの貿易摩擦の行方によっては、今後大きな影響を受ける可能性がある。17年の輸出額に占めるアメリカのシェアは19%と最大の輸出相手先となっている(第2-4-40図)。中国政府は、アメリカによる通商拡大法第232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限措置に対し、18年4月2日、アメリカ産の果物、豚肉等128品目の輸入品に対する関税譲許義務20を停止し、15%あるいは25%の追加関税を課すとの措置を実施した。また、4月3日にアメリカ政府が、通商法第301条に基づき機械・産業用ロボット、航空・宇宙機器等の中国からの輸入品約1,300品目に25%の追加関税を課すとの案を示したのに対し、中国政府は、4月4日、大豆や自動車等106品目に25%の追加関税を課す用意がある旨を表明した。その後、5月に米中間で貿易協議が行われ、5月19日には共同声明が発表され、一旦緊張は緩和されたかにみえたが、6月にアメリカ政府が通商法第301条に基づき、500億ドル相当の中国からの輸入品に25%の追加関税を課すとの措置を公表すると、中国政府も同規模の追加関税を課す旨を公表し、7月6日にはそのうちの340億ドル相当分が発動されるなど、応酬が続いており、今後の行方は依然不透明な状況にある。
2.中国経済の見通しと主なリスク要因
(持ち直しの動きが続く)
中国経済は、当面は持ち直しの動きが続くものと見込まれる。好調な外需に支えられるとともに、内需についても、雇用・所得環境の改善もあり、民間消費を中心に底堅く推移することが見込まれる。ただし、「質の高い成長」を目指していく中で、経済の安定を重視しつつも、政策の重点がより構造改革に移されていくとみられ、成長率はやや鈍化すると見込まれる。
国際機関の見通しをみると、18年の実質経済成長率は、6%台半ばへと幾分鈍化が見込まれている(第2-4-41表)。
(主なリスク要因)
(1)通商政策の動向
中国経済の主なリスク要因としては、まず米中間の貿易政策の動向がある。中国経済は、堅調な外需に支えられ、17年には3年ぶりに純輸出がプラス寄与となるなど、輸出が一定の成長のけん引役となっている。中国の最大の輸出先はアメリカであり、貿易制限措置が更に講ぜられた場合には、景気が相当程度下押しされるものと見込まれる。
(2)不動産価格、過剰債務問題を含む金融市場の動向
不動産価格や過剰債務問題を含む金融市場の動向によっては、景気が下振れするリスクがある。不動産価格については、一級都市ではおおむね横ばいとなっているものの、二級や三級都市では緩やかな上昇が続いており、今後も状況に応じて、価格抑制策等が行われていくものと見込まれる。また、過剰債務問題については、今後も政府によるデレバレッジの取組が進められていくとみられるが、その解消には中長期的な時間を要するとの指摘もある。万が一、不動産価格の大幅な変動や過剰債務問題の深刻化が生じた場合には、銀行のバランスシートの毀損や融資態度の慎重化につながるなど、様々な経路を通じて経済成長を阻害する可能性も否定できない。他方、リスクを抑えるべく金融引き締めや金融規制が過剰となった場合には、銀行の融資態度の慎重化や金利上昇等を通じて実体経済を過度に下押しする可能性がある。
このため、通商政策、不動産価格過剰債務問題を含む金融市場の動向等には、注視が必要である。