第3節 アジア経済
1.成長の安定化を模索する中国経済
中国では、2011年1~3月期から12年7~9月期まで7期にわたり拡大テンポの鈍化が続いており、10~12月期の実質経済成長率は前年比7.9%増と拡大テンポが持ち直す動きが一時的にみられたものの、13年1~3月期は同7.7%増となるなど、拡大テンポは緩やかなものとなっている。その背景としては、12年9月以降の輸出の持ち直しと固定資産投資のうちインフラ関連投資の堅調な伸びの一方で、消費や製造業投資を始めとした投資はむしろ伸びを低下させており、拡大テンポが再び高まるまでには至っていないことが挙げられる。
以下では、中国経済の拡大テンポが引き続き緩やかなものとなっている要因を内外需それぞれから探るとともに、バランスのとれた成長を模索する中国経済の現状について概観する。
(1)新指導部による初の全国人民代表大会の開催と経済政策
中国は、13年3月の第12期全国人民代表大会(以下、全人代:国会に相当)において、12年11月の中国共産党第18回中央委員会で総書記に選出された習近平国家副主席が新たに国家主席に選出されるなど、10年ぶりの政権交代を迎えた。
全人代では、13年のマクロ経済運営の基本方針が決定され、財政政策は生活関連支出の増等による「積極的な財政政策」、金融政策は「穏健な金融政策(中立的金融政策)」をそれぞれ維持することが決定された。また、マクロ経済運営の最優先課題は、12年12月の中央経済工作会議と同様に「経済の持続的で健全な発展」となり、その内容として、都市化の推進や内需(特に消費)の拡大が打ち出されている。加えて、12年の主要目標をみると、物価上昇率目標及びマネーサプライM2の増加目標が引き下げられており、金融面での安定性重視を示唆するものとなっている(第1-3-1表)。
財政政策については、歳入は12兆6,630億元(約189兆円、前年実績比8%増)、歳出は13兆8,246億元(約207兆円、同10%増)となっている。財政赤字は1兆2,000億元(約18兆円、同50%増)と拡大しており、その理由として、構造的減税に伴い財政収入が抑制される一方で医療衛生等の恒常的財政支出の増額が必要であること等を挙げている(第1-3-2図)。
中央財政支出(地方への移転支出含む)は前年比8.4%増となっている。この内訳をみると、生活に直結する教育や医療衛生、社会保障・雇用、住宅保障、文化等の諸分野に振り向ける支出は前年比9.6%増とされる。
以上のように、引き続き積極的な財政政策を維持するとしつつも、全人代で示された経済政策では総じて経済構造の転換や民生の向上が重視されていることから、今後は持続的で健全な発展により重点を置いた経済運営となることがうかがえる。
(2)経済成長率は拡大テンポが緩やかな状態が続く
次に、新指導部が発足した12年10月以降の状況を中心に、中国経済の動向をみていく。
実質経済成長率は、11年1~3月期以降、7期連続で低下してきたものの、12年10~12月期の実質経済成長率は前年比7.9%増となるなど、景気の拡大テンポはやや持ち直した。この背景には、12年5月以降の金融緩和や重要投資プロジェクトの前倒し実施等の経済政策の実施により、インフラ関係投資を中心に成長を下支えしたこと、12年10~12月期以降輸出が持ち直したことが寄与している。しかし、消費の伸びの更なる鈍化や製造業投資の伸び悩み、在庫調整等により、13年1~3月期の実質経済成長率は前年比7.7%増となるなど、景気の拡大テンポは引き続き緩やかなものとなっている(第1-3-3図)。
(3)消費は伸び悩み
消費については、12年10月の党大会において、20年までに国民一人当たり所得を倍増する計画が打ち出された26ほか、前述の13年の全国人民代表大会において、引き続き内需、特に消費の拡大が掲げられている。
こうした中で消費(社会消費品小売総額)の状況をみると、12年6月以降、省エネ家電普及促進政策(恵民工程プロジェクト)による家電製品消費の増勢の回復もあり、12年の半ばから伸びは幾分持ち直した。しかし、13年1~3月期は前年比12.4%増となるなど、四半期の伸びとしては03年4~6月期以来の低い伸びとなった(第1-3-4図)。
伸びの低下の要因として、第1に所得の伸び悩みがあげられる。一人当たり所得は、景気の拡大テンポが緩やかになっていることや成長率の低下を背景とした企業収益の低迷等により、都市部、農村部ともに、12年を通じて伸びが低下し、13年に入っても更に鈍化している(第1-3-5図)。
また、新指導部発足後、綱紀粛正が強化されたことにより、公費による飲食や奢侈品購入を禁止したことも、消費の伸び悩みの背景として考えられる。こうした動きは、社会消費品小売総額のうち飲食の伸びの低下が著しいことからも確認できる(第1-3-4図)。
さらに今後は、農村部への家電普及政策(家電下郷)など、政策の終了による影響も懸念される。家電販売は、同政策の終了した13年1~2月期にかけて「駆け込み需要」の形での増加がみられた(第1-3-6図)。
また5月末には12年6月から開始された省エネ家電普及政策27も終了しており、これら政策の終了により、今後家電販売が再び低調に推移することも予想され、小売販売の伸びの更なる低下につながる可能性がある。
近年、中国政府は所得税課税の対象となる下限所得の引上げや減税等、分配面から消費喚起を図ることをねらっているものの、引き続き消費は意図されるほど伸びていない。投資主導の成長から消費主導への転換のための経済の不均衡の是正(リバランス)は依然として途半ばという状況にある。
(4)投資は伸びが横ばいの中、二極化
(i)全体の伸びは横ばいも、景気対策の実施によりインフラ投資は増加
固定資産投資は、12年5月のインフラ投資を中心とした景気対策の実施が決定して以降、再び投資の促進が図られていることもあり、全体として伸びがおおむね横ばいとなっている中、道路、鉄道等のインフラ関連投資の伸びは高まっている(第1-3-7図)。
ただし、新規着工プロジェクト数の動向をみると、08年11月以降に実施された4兆元のインフラ関連投資を中心とした景気対策には遠く及ばず、固定資産投資全体の伸びを再び高めるには力不足であることは否めない(第1-3-8図)。
(ii)不動産投資の再過熱への懸念
こうした景気対策による重要投資プロジェクトの早期実施や金融緩和策が維持される中、不動産開発投資を始めとして不動産市場に再過熱の動きがみられる。不動産価格(前月比)の動向をみると、12年1月を底に価格が反転しており、13年1月の不動産価格(前月比)は、70都市のうち53都市で上昇した(第1-3-9図)。このような不動産市場の動向を受け、政府は同年2月20日の国務院常務会議において、再度不動産価格抑制策の実施を決定し、3月1日に国務院通知を公布した(第1-3-10表)。
今回発表された不動産抑制策では、不動産の投機的取引の排除や住宅及び用地の供給拡大が改めて記述されている。これらに加え、登記等で住宅取得価格が確認できる場合、その住宅を転売する際、譲渡所得の20%を徴収することが決定された。さらに現在、上海市、重慶市(ともに直轄市)において導入されている不動産税の拡充等も盛り込まれている。
以上のような施策が実施されたものの、13年4月の不動産価格(前月比)は、調査対象となっている70都市のうち67都市で上昇しており、特に北京等主要都市における価格の上昇は顕著となっている(前掲第1-3-9図)。
今後もこうした不動産価格の上昇が続く事態になると、これまでの景気減速から緩和に転じていた金融政策のかじ取りにも影響が及ぶと考えられる。
(iii)製造業投資の伸びは低下、背景には構造的問題も
こうした不動産投資の動きの一方で、製造業投資は12年7月をピークに伸びが緩やかに低下しており、固定資産投資に二極化の動きがみられる(前掲第1-3-7図)。これは、輸出を中心とした景気減速によるものとみられる。
製造業投資の伸びの低下の要因の一つとして、中国への対内直接投資が製造業を中心として11年10~12月期以降、前年比マイナスで推移している影響が考えられる(第1-3-11図)。これは、11年7~9月期以降の外需の落ち込み等による影響を受けたものとみられる。
ただし13年1~3月期には、製造業の対内直接投資も前年並みの水準まで回復するなど持ち直しの動きがみられる。しかし卸・小売業の対内直接投資の伸びに比べると極めて低い伸びにとどまっており、対内直接投資に占めるシェアも徐々に縮小している。これは、中国の産業構造全体の変化と合わせ、第2次産業から第3次産業による投資への比重が高まる動きとも整合的である。こうした背景には、人件費の上昇から製造業が中国に第三国輸出のための生産拠点を求める誘因が徐々に薄れてきた一方、所得上昇による国内マーケットの拡大が卸・小売業進出の誘因を強めていることが考えられる。
(5)輸出は回復傾向も、香港向け輸出の動向に留意が必要
輸出は10年半ばから伸びの低下傾向が続き、12年7~9月期に前年比4.5%増と世界金融危機時の08年10~12月期以来の低い伸びとなった。しかしそれ以降は伸びが持ち直しており、13年1~3月期には同18.4%増となるなど、輸出は回復傾向となっている(第1-3-12図)。
伸びの持ち直しの要因を国・地域別にみると、輸出はほぼ主要な国・地域で持ち直しており、特に香港向け輸出が12年以降急激に伸びていることに加え、EU向け輸出のマイナス幅の縮小とASEAN向けが堅調に増加している点が寄与している。また品目別では、12年10~12月期から電気機器、一般機械等の持ち直しが全体の伸びの押し上げに寄与している(第1-3-13図)。
ただし、特に13年3月以降、香港向け輸出は香港側貿易統計(輸入)を大きく上回っており、資本規制を回避するために中国の輸出額が実態以上に計上されている可能性も指摘される。そこで香港側の中国からの輸入額を用いて上述の香港要因を調整すると、輸出の回復傾向は確認できるものの、その程度は公表系列に比べやや緩やかなものとなり、慎重にみる必要がある(第1-3-14図)。
一方、輸入の国・地域別動向は、アメリカやアジア地域からの輸入が持ち直す中、日本からの輸入は12年1~3月期以来マイナスの伸びが続いている。特に、尖閣諸島をめぐる状況の影響により、12年10~12月期以降は前年比マイナスの幅が拡大しており、日本からの輸入減少が全体の伸びの最大の下押し要因となっている。ただし、月次の動きをみると、このところマイナス幅が縮小してきており尖閣諸島をめぐる状況の影響は収束に向かっているとみられる。
また品目別にみると、輸入額が最も多い鉱物性製品の寄与が低下しているほか、輸送用機器類の寄与が12年9月以降は低下しており、日本からの輸入減少の影響が出ていることがうかがえる(第1-3-15図)。ただし、月次の動きをみると、輸入全体と同様、このところマイナス幅が縮小傾向にある。
(6)生産は伸びがおおむね横ばい、企業業績にばらつき
次に内外需双方からの影響を反映する生産についてみると、13年1~2月期以降、前年比で再び1けた台の伸びに戻っている(第1-3-16図)。生産全体の伸びがおおむね横ばいで推移する中、12年5月以降に開始された重要投資プロジェクトの前倒し実施を主な要因に、鋼材等のインフラ投資財関連の生産には回復がみられる(第1-3-17図)。
業種別では、尖閣諸島の問題の影響により一時的に減少した自動車生産に回復の動きがあるものの、鉄金属加工、電気機械生産等は全体の動きと同様、おおむね横ばいの動きとなっている(第1-3-18図)。生産の伸びがおおむね横ばいとなっている要因としては、主に内需の伸び悩みに加え、在庫調整の影響が挙げられる。そこで品目別の在庫状況をみると、インフラ投資の増加により鉄鋼や銅等の非鉄金属で、12年初から終わりにかけて在庫調整が進展していることがうかがえ、当該産業では生産回復に向けた条件はそろいつつある(第1-3-19図)。ただし13年1~3月期には、鉄鋼業や電気・通信業において、これまでの在庫減少から再度増加の動きがみられ、商品市況では鉄材料の価格は下落傾向にあることから、需要は回復途上にある可能性が指摘できる。
このように生産全体がおおむね横ばいとなっている中、一定規模以上企業の収益(うち工業)の動きをみると、12年10月以降、前年比マイナスの動きから反転している。業種別では、電気機械、コンピュータ・通信機器業では、政策効果等もあり、12年下半期以降収益の改善がみられる。また電力業で石炭価格の下落によるコスト減の恩恵もあり、12年の収益は前年比70%増を超えるなど持ち直しの動きがうかがえる。こうした動きの一方、鉄鋼業では12年は収益の前年割れが続き、13年1~3月期にようやく前年比プラスの伸びを回復した。ただし収益が改善したのも、12年1~3月期(前年同月比)でそれぞれ約▲84%減少の影響が剥落したものであり、鉄鋼業を代表として、企業業績はいまだ厳しい状況が続いていることがうかがえる(第1-3-20図)。
(7)消費者物価は安定しているものの、金融政策は注視していく必要
13年の金融政策スタンスについては、13年3月の全人代において、12年同様「穏健な(中立的)金融政策」を維持していくことが決定された。マネーサプライの伸びは、12年9月以降おおむね横ばいで推移していたが、13年に入り、13年の政府目標である13%を上回る伸びで推移している(第1-3-21図)。
またその背景にある新規銀行貸出額は、12年10月以降前年同月比でマイナスの伸びになっていたが、13年に入り伸びが反転して推移している。新規銀行貸出の内訳をみると、個人向けの貸出が住宅ローンの拡大等により増加する一方、後述する資金調達手段の多様化から非金融向け貸出は低下している(第1-3-22図)。
一方、新規銀行貸出以外の資金調達の項目を含めた社会融資総量をみると、社債等の直接金融取引にけん引され、12年10~12月期の前年比は20%を超え、13年に入ると、さらに高い伸びとなった。特に、銀行貸出と代替的な資金調達方法である委託貸付は前年の約2倍、銀行引受手形や外貨貸出は前年の約3倍の額となっている。前述の新規貸出における非金融向け貸出が低下している中、企業向け新規銀行貸出以外の直接金融によるシフトが進んでいることからみて、企業の資金調達方法の多様化とともに、依然として企業の資金需要は旺盛であると考えられる(第1-3-23図)。しかしこうした貸出増加は、前述の投資の伸びが全体的に横ばいとなっていることからすると、必ずしもそれが企業の設備投資に結びついているとは限らず、一部は不動産投資や地方政府のインフラ整備資金に回っている可能性も考えられる。
前述のマネーサプライが高い伸びを示している中、消費者物価上昇率は春節時期の物価上昇を除けば、前年比2%台で推移している(第1-3-24図)。政府は13年3月の全国人民代表大会において、13年の消費者物価上昇率の目標を3.5%前後と、12年までの4%前後から引き下げた。現状では物価上昇率には比較的落ち着きつきがみられ、この面では金融政策の自由度が高まるものの、一方で不動産価格に再過熱の動きがみられ、これまでの金融緩和のスタンスが変更される可能性も考えられ、そのタイミングや影響を含め注視していく必要がある28。
コラム1-1:12年秋口以降の日系車販売及び日本からの対内直接投資の動き
12年秋口以降の乗用車販売台数の動向をみると、12年9月に一時的にマイナスに落ち込んだものの、その後は伸び率が堅調に推移している(図1)。そのため、同時期の日系車の買控えは、中国における乗用車の需要自体には大きな影響を与えなかったことがうかがえる。また、乗用車販売全体に占める国別のセダンのシェアをみると、12年9月以降、日系セダンのシェアが低下しているものの、12年10月を底として、徐々に回復している(図2)。
加えて、日本からの対内直接投資は12年10月に前年比で大きくマイナスとなったものの、それ以降はおおむね10%を超える高い伸びを示している(図3)。
このように、日系セダンの販売及び対内直接投資が持ち直し傾向にあることから、12年9月の尖閣諸島をめぐる状況の影響は限定的になりつつあるとみられる。
2.景気が足踏み状態となる韓国、台湾
韓国及び台湾の景気の現状はいずれも足踏み状態となっており、12年後半には一時的に景気の現状に違いがみられたものの、13年に入り次第に同調しつつある。以下では、ともに輸出動向で経済が大きく影響を受ける構造となっている韓国、台湾について、景気の足踏みをもたらしている要因も含め概観する。
(1)韓国、台湾の実質経済成長率の基調は次第に同調
韓国では12年1~3月期に実質経済成長率(年率)が3.3%成長となって以降、成長率は低下し、景気は足踏み状態となった。一方、台湾では12年7~9月期、10~12月期にかけて実質経済成長率がそれぞれ3.9%、7.3%と2期連続でプラスとなるなど、景気は持ち直した(第1-3-25図)。
この背景は、輸出の状況に違いがみられたことが挙げられる。ともに電子部品を代表とした電気機械、電気電子製品の輸出が堅調に推移する中、韓国では為替の増価もあり、船舶を含むその他輸送機器の輸出不振が下押しとなった。一方台湾では、電子部品、光学機器等の主力の輸出品が堅調に推移したこと、10~12月期にかけては中国の景気にも持ち直しの動きがみられたことなどの要因があった(第1-3-25図、第1-3-26図)。
この後13年に入り、電子部品の生産が世界的に落ち込んだことなどもあり、台湾では生産、輸出が落ち込み、1~3月期の実質経済成長率はマイナス成長となった。他方、韓国では、輸出品目が台湾等と比較して多様性がある中、船舶を含むその他輸送機器の前年比のマイナス幅が縮小し、為替も10~12月期と比べ1~3月期は減価したこともあり、輸出が前期に比べて回復の動きもみられ、景気の現状は次第に同調する形となっている(第1-3-26図、第1-3-27図)。
(i)低成長が続く韓国
韓国では、09年の世界金融危機以降、成長率は低下基調となっている。特に12年4~6月期以降は、設備投資を中心とした総固定資本形成の不振、輸出の寄与の低下により、実質経済成長率は、前期比年率7~9月期の0.2%増を挟み、1%台の低い成長が続いている。13年1~3月期には同3.5%増の成長となるなど、これまで不振の続いた総固定資本形成に持ち直しの動きもみられるものの、輸出、生産は横ばいの動きが続いており、景気は足踏み状態となっている。
低成長が続いている理由の一つとして、内需の不振が挙げられる。政府は国内経済の低成長に対応し、12年7月及び9月に耐久財購入にかかる個別消費税の減免等やインフラ投資等の実施等の景気対策を打ち出した。しかし、総固定資本形成の内訳項目となる建設投資、設備投資はともに景気対策による増加はみられず、特に設備投資は12年4~6月期以降、3期連続で前期比マイナスの伸びが続いている。13年1~3月期には、ようやく前期比でプラス成長となったものの、世界経済の景気回復の弱さが外需依存度の高い製造業を中心として企業の投資を減退させている状態から本格的に回復している状況とは言い難い。
一方、消費は自動車等の耐久財購入にかかる個別消費税の引下げといった景気対策の実施により12年7~9月期以降も引き続き堅調に増加した。ただし、上述の景気対策は12年末までに終了しており、政策終了の反動から、13年1~3月期には前期比年率▲1.0%となった(第1-3-28図)。
(ii)足踏みに転じた台湾
台湾では、12年7~9月期以降、卸売・小売や国内観光の増加による民間消費の持ち直しや、飛行機等の大型輸送機材投資や半導体産業等による資本形成の増加29を背景に、国内需要は持ち直しの動きがみられた(第1-3-29図)。しかしながら、13年に入り民間消費の伸び悩みや輸出の弱い動きを背景に13年1~3月期の実質経済成長率(前期比年率)は▲3.2%と11年10~12月期以来の3%を超えるマイナス成長となるなど、景気は足踏み状態となっている(前掲第1-3-25図、第1-3-26図)。
(2)電気・電子分野が鍵を握る輸出と生産
韓国の輸出、生産動向を主要生産品である自動車及び半導体からみると、自動車生産は、12年8月に韓国国内のストにより生産が大きく減少し、輸出もこの影響で同年8月から10月にかけて減少したものの、その後13年1月までにスト前の水準を回復している。また、半導体はスマートフォン、タブレット端末の新製品の発売により、12年10月以降、生産、半導体を含む電気機械輸出ともに拡大している。
こうした主要製品の生産及び輸出は拡大している一方、全体の動きは特に輸出の水準が11年4月以降からおおむね横ばいとなっており、生産と比較して大きく伸びていない。この理由としては、造船等その他輸送機械の輸出の減少及び半導体の出荷在庫ギャップの動向が大きく影響している。
特に出荷及び在庫の前年比からみた出荷在庫ギャップは、12年11月以降、生産された財が出荷されず、その結果、在庫として積み上がっている姿がみてとれる。在庫の増加により、13年に入り半導体生産(前月比)は12年8月以来のマイナスとなるなど、生産調整が行われている可能性もある。
一方、台湾では、輸出は12年7月以降、通信関連財、光学用機器類や鉱物性製品の増加を背景に持ち直しの動きがみられた。また生産は、同年5月以降スマートフォン等の新製品需要に支えられ、電子部品等を中心に堅調に増加しており、その結果、台湾における電子部品の出荷在庫ギャップは縮小傾向にある。ただし、13年1~3月期以降は生産が横ばいとなっており、引き続き低調なパソコンの販売状況等により、韓国と同様に出荷が落ち込む動きもみられる(第1-3-30図、第1-3-31図、第1-3-32図)。
韓国、台湾ともに電子部品の生産や輸出については、中国の景気動向に加え、世界的な半導体等の動向に左右される点は共通している。
最近のアジア地域を含む世界の半導体出荷動向は、前述の韓国、台湾における半導体の出荷状況が反映される形で、春節前の時期に当たる12年12月から13年1月をピークに出荷額、前年比ともに減少ないし伸びが低下している。これら韓国、台湾の動向は、日本及びアメリカとともに世界全体の出荷の下押しとなっている(第1-3-33図)。
(3)消費者物価上昇率はともに安定、韓国で13年5月に政策金利を引き下げ
韓国、台湾ともに、消費者物価上昇率は13年4月でともに、前年比1%台の伸びとなっている。台湾では13年の春節の季節ずれもあり、13年2月に一時的に食品価格等が大きく変動したものの、景気が足踏み状態にある現状に加え、供給面が引き続き安定して推移していることもあり、消費者物価上昇率は安定している(第1-3-34図)。
物価の安定による金融緩和余地が大きくなっていることや世界経済の回復の弱さ、自国経済の景気の下振れを受け、韓国では12年10月、13年5月にそれぞれ0.25%の政策金利の引下げを行った。一方、台湾では、11年7月に世界経済のインフレリスクの高まりに起因する国内物価の上昇の懸念を抑制するため、0.125%の政策金利の引上げを行った後、金利は据え置かれている(第1-3-35図)。韓国、台湾ともに、こうした内外の経済情勢からみて、当面、中央銀行による政策金利引上げの可能性は低いと考えられる。
3.総じて持ち直しの動きがみられるASEAN諸国
(1)内需を中心として、総じて持ち直しの動き
ASEAN諸国31では欧州政府債務危機を巡る懸念や中国の景気の拡大テンポの鈍化等の影響を輸出が受け、実質経済成長率は低下傾向となっていたが、12年10~12月期には、投資や消費等の内需の下支えにより、総じて持ち直しの動きがみられた(第1-3-36図)。しかし、13年に入りその傾向にややばらつきがみられている。
国ごとの動向をみると、インドネシアでは、投資の寄与は前年比でみて12年10~12月期には縮小しているものの、堅調な民間消費に支えられ景気は拡大しており、13年1~3月期は、引き続き前年比6%程度の実質経済成長率を維持している。
タイでは、11年秋の洪水の反動から12年に入り景気は持ち直し、世界景気の減速の動きの広がりにより輸出は鈍化したものの、堅調な内需に支えられ12年の実質経済成長率は6.4%増となった。しかし13年に入り、洪水の影響や後述の自動車購入支援策の終了等により、1~3月期の実質経済成長率は前期比年率▲8.4%となるなど、景気の持ち直しの動きに一服感がみられる。
マレーシアでは、インフラ投資等の拡大に伴い内需が下支えしている。実質経済成長率は堅調に推移しており、12年まで前年比6%前後の比較的高い伸びを維持していたが、13年1~3月期には内需は引き続き堅調な中、外需の寄与がマイナスとなり、実質経済成長率は前年比4.1%増まで低下した。
シンガポールでは、11年以降減速傾向が続いていたが、設備投資や建設投資の回復により、12年10~12月期に景気は持ち直しの動きがみられ、13年1~3月期は、製造業は輸出の減少を背景に弱い動きとなる一方で、金融サービス業が好調であったため、実質経済成長率が前期比年率1.8%増と、2期連続でプラス成長を維持している。
(2)国内需要の動向
ASEAN諸国の国内需要の動向をみると、インドネシアやマレーシアが安定的に拡大しているのを始め総じて堅調に推移している(第1-3-37図)。
こうした内需の堅調な動きは、消費の代表的指標である自動車販売台数からも確認できる。インドネシア、タイ、マレーシアでの12年の販売台数は前年比約40%増の約320万台となるなど、消費市場としてのプレゼンスは着実に高まっている。
その背景には、タイにおいて実施されていた、初めての乗用車購入者に対する減税措置の実施による面もあるものの、インドネシアにおける内需を中心とした堅調な経済成長により、所得水準が着実に向上している面も大きく寄与していると考えられる32(前掲第1-3-36図)。さらに、洪水からの復興需要が続くタイや高速道路網等の社会インフラ整備が進むインドネシアやマレーシアを中心として、投資(総固定資本形成)も堅調に推移している(第1-3-38図)。
(3)生産、輸出ともにおおむね横ばい
ASEAN諸国では、内需が堅調に推移しているのに対し、生産は12年半ば以降、輸出は13年以降、おおむね横ばいとなっている。
インドネシアを除く各国の輸出全体の動きを前年比でみると、12年7~9月期には下げ止まり、12年10~12月期以降はプラスに転じていたものの、13年1~3月期に再びマイナスとなるなど足踏み状態となっている。相手国・地域別にみると、中国向けやASEAN域内向けが従来から輸出動向に大きな影響力を持つことがうかがわれると同時に、これら国・地域に加え日本、EU等先進国向けの輸出も伸び悩んでいる。堅調な国内需要にかかわらず、生産がおおむね横ばいとなっている背景には、こうした輸出面の動向が下押し要因となっていることが考えられる(第1-3-39図、第1-3-40図、第1-3-41図)。
(4)消費者物価上昇率と政策金利の動き
消費者物価上昇率は、11年の原油価格等の物価上昇圧力が緩和されたこともあり、12年以降総じて安定的に推移している。その傾向は13年に入っても続いている(第1-3-42図)。
一方、インドネシアでは13年に入り、消費者物価上昇率が高まっている。これは、1月の洪水発生を背景とした食品等の供給制約が生じたことや輸入規制措置が採られたことなどによるものである。
また、ASEAN諸国のドルレートをみると、12年10~12月期にかけて総じて通貨高の傾向にあるものの、輸入超過と物価上昇が続くインドネシアでは通貨安が続いている。
各国とも政策金利はこのところ横ばいとなっているが、インドネシアのように物価上昇圧力が高まっている国もあり、今後金融引締めに向けた動きも出る可能性がある(第1-3-43図)。
4.緩やかに減速するインド経済
インドでは、経済成長率は11年以降鈍化し、12年に入っても低めの成長が続いている。その背景として、08年の世界金融危機後の拡張的な財政措置の結果、慢性的な物価上昇が続いている中で、数次にわたる利上げ33が行われた結果、消費や投資が伸び悩んでいることが挙げられる。また、国内需要が弱まる中、外需も欧州経済等の影響を受けて伸び悩んでおり、内外需ともに鈍化している。
以下では、このようなインド経済の現状について概観する。
(1)製造業に加え、景気のけん引役のサービス産業も鈍化
インドの実質経済成長率は、12年中前年比5%前後と世界金融危機後の09年以来の低い伸びに止まって推移し、12年10~12月期には同4.5%となるなど景気は緩やかに減速している(第1-3-44図(1))。産業別にみると、11年後半以降低迷している製造業に加え、これまでインド経済をけん引役してきた商業・ホテル・運輸・通信34といったサービス業についても低調な経済活動を反映して伸びが鈍化している。また、需要項目別にみても、引き続き消費や投資といった国内需要の伸びが弱まっており、特に総固定資本形成が前年割れする期があるなど低迷している(第1-3-44図(2))。
個人消費についてみると12年4~6月期以降大きく落ち込んでいる。主要耐久消費財である乗用車販売台数の動向をみても弱い動きとなっており、13年1~3月期は前年比▲11.6%と大幅なマイナスとなっている35(第1-3-45図(1))。同様に、財別の生産をみても、耐久消費財の伸びが同▲2.6%とマイナスに転じている(第1-3-45図(2))ことからも消費が振るわない状況が確認できる。
また、固定資本形成の動きを反映するとされる資本財生産の動きをみると、後述する政策金利引き上げの影響から11年後半以降その落ち込みは顕著であったが、低調ではあるものの12年後半から持ち直す動きもみられる。
不振が続く内需に加え、外需も低迷している(第1-3-46図)。財貿易は、主要輸出先である欧米経済の景気の影響を受けるほか、原油等の輸入の拡大から赤字は拡大傾向にある一方、これまで比較的高い伸びを示してきたソフトウェア・サービスの輸出もその黒字幅は縮小傾向にある。
内需低迷の背景として高い物価上昇率と金利の高止まりの影響が考えられる。物価動向をみると、卸売物価上昇率36は、12年後半以降は景気鈍化や国際商品価格の下落等を受けこのところ低下しているものの、それでも13年1~3月期は前年比7%弱の水準にあり、慢性的な物価高にあることが分かる(第1-3-47図)。
金融政策は物価安定を最優先しており、13年に入り景気に配慮する姿勢もみられ始めたが、政策金利であるレポ・レート37は7.25%と依然として高水準にある(第1-3-48図)。
(2)景気減速に対する政策対応
こうした景気の減速に対応するため、前述のようにインド準備銀行(RBI:Reserve Bank of India)は、物価安定を最優先にして12年4月以来据え置いてきた政策金利を、13年に入ると1、3、5月と3回連続して引き下げた(前掲第1-3-48図)。物価上昇率がやや低下していることもあり、より経済成長とのバランスに配慮した結果といえる。しかし今後については、同銀行は、食品等の物価上昇圧力があることから、更なる緩和余地は限定的であるとして慎重姿勢を表明しており、同国の景気刺激を金融政策だけに頼ることには限界がある。
一方、インド政府も成長促進策として、12年秋以降には「ビックバン」と呼ばれる構造改革を推進するための経済政策38を公表するとともに、13年度予算案39では補助金の削減等から生じた歳出余地をインフラ支出に充当するなどの措置を盛り込んでいる。構造改革を推進しながらも、いわゆる双子の赤字のうちの財政赤字の削減を目指す姿勢を示し、市場の信認を得る努力を続けているがその成果が明確にあらわれるには時間がかかるとみられる(第1-3-49図)40。
インド経済の当面の課題として、投資促進等に向けた構造改革を推進し、慢性的な双子の赤字状況からの改善を図ることが重要といえる。減速する景気局面からの脱却には、中長期的な視野を持ち、構造改革を計画どおりに推進できるか否かが鍵となるといえよう。
5.アジア経済の見通しとリスク
(1)経済見通し(メインシナリオ)―持ち直しに向けた動きが徐々に明確化
中国では、12年10~12月期の実質経済成長率は前年比7.9%増の後、13年1~3月期も前年比7.7%増となるなど、拡大テンポは依然緩やかなものとなっている。先行きについては、政府の基本方針に沿ったマクロ経済運営により、こうした拡大テンポの動きが安定化し、緩やかな拡大傾向が続くと見込まれる。
韓国、台湾では、景気は足踏み状態となっている。先行きについては、当面、足踏み状態が続くものの、世界景気の底堅さが増すに従い次第に持ち直していくことが期待される。
ASEAN諸国では、内需を中心として、総じて持ち直しの動きがみられる。先行きについても、比較的堅調な内需とともに、ほかのアジア地域同様、世界景気の底堅さが増すことに従い外需も回復し、全体として持ち直しの動きが続くと見込まれる。
インドでは、景気は緩やかに減速している。先行きについては、政策的な対応の効果はすぐには顕在化せず、当面、低めの成長となることが見込まれる。
国際機関の見通しをみると、13年に中国は8%前後、韓国、台湾は2~3%台、ASEAN諸国は2~6%台、インドは5%台の成長率が見込まれている。
(2)経済見通しに係るリスク要因
経済見通しに係るリスクバランスは下方に偏っており、特に欧州政府債務問題が再び深刻化した場合やアメリカの財政問題による同国経済の下押しの程度が予想を超えるものとなった場合、アジア経済にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
(i)ヨーロッパ等向け輸出の低迷と金融資本市場の動向
アジア地域では、ヨーロッパ各国の最終需要の低迷の影響を受け、欧州向け輸出が引き続き伸び悩んでいる。加えて、アメリカでは緩やかな景気回復が続いているものの、自動歳出削減等財政緊縮による景気下押し圧力が続くことが予想されている。欧州政府債務問題等が深刻化した場合、欧米での需要が縮小し、中国の景気の拡大テンポの更なる鈍化や韓国、台湾等の景気足踏みの長期化が生ずるおそれがある。
また、国際金融市場が再び混乱すると、株価下落等の資産効果を通じた個人消費や、信用収縮に伴う資金調達コストの増加による設備投資の抑制等、内需の縮小を引き起こし、中国経済の失速を始め、韓国、台湾、ASEAN諸国、インドの実体経済に更なる影響が出てくるおそれがある。また、為替についてもリスクオフとなる環境下ではこれら各国・地域の通貨が減価しやすい傾向があることから、輸入を通じた物価上昇にも留意する必要がある。
(ii)中国の不動産価格の再過熱
12年2月以降、不動産価格はこれまでの低下局面から反転し、上昇を続ける中、不動産を始めとした資産価格の上昇等、再び市場が過熱するリスクに留意する必要がある。一方で、政府は引き続き不動産価格抑制策の継続を度々表明しているほか、緩和的な金融政策の方向に変化が生じると、不動産市場だけでなく実体経済にも広く影響が及ぶ可能性がある。逆に不動産価格の急落が生ずる場合には、地方政府の財政悪化等が引き起こされ、ひいては投資等、実体経済が急激に冷え込む可能性もある。
(iii)物価上昇の再加速
アジア地域においては、需給両面の落ち着きにより、物価上昇率は低下ないし横ばい傾向にあり、中国を始め一部の国では、政策金利の引下げを行うなど、金融緩和の動きもみられている。しかし今後、国内における食品価格の上昇や、世界的な金融緩和を背景とした輸入物価の上昇等が原因となって、再び物価上昇が加速する可能性もある。
中国を始め、景気持ち直しの動きが顕在化した場合には、需要の増大による物価上昇圧力が働くことから、引き続き物価の動向に留意が必要である。仮に、物価が再び上昇に転じた場合には、実質所得の低下や消費への下押し圧力等を通じ、実体経済面へ影響を及ぼすことが懸念される。
(iv)成長制約要因の高まりに伴う中国経済の失速
中国は、堅調な労働投入と資本ストックの拡大に支えられ、高い潜在成長率を維持してきた。しかし、今後は人口の高齢化等を要因として労働投入が伸び悩むことに加え、賃金の上昇等を背景として直接投資が伸び悩むことなどを受け投資全体としても緩やかな伸びにとどまり、潜在成長率は低下する傾向にある。こうした中国経済の成長の制約要因の強まりを懸念する動きが高まると、安定的な成長に向けた移行が進まず、景気が失速する可能性もある。