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4.アジア経済の見通しとリスク

 アジア経済は、中国では景気の拡大が続いているものの、拡大テンポが緩やかになる一方、インドでは景気の拡大テンポは鈍化している。また、韓国、台湾、ASEAN地域では景気は一部に持ち直しの動きがみられるが、足踏み状態となっている。以下では、アジア経済の先行きに係るメインシナリオとそれに対するリスク要因についてみていく。

1.経済見通し(メインシナリオ)- 拡大ないし持ち直しに向けた動きが続くことが予想される

 中国では、景気の拡大が続いているものの、拡大テンポが緩やかになっている。12年第1四半期の実質経済成長率は前年比8.1%増となるなど、成長率は低下している。また、3月の全国人民代表大会において12年の経済成長率目標が、11年の前年比8.0%から7.5%に引き下げられた。先行きについては引き続き内需が堅調に推移し、テンポは緩やかになるものの、新たな消費促進策の実施、第12次五か年計画の投資プロジェクトの一部前倒し、預金準備率の引下げの政策効果等に支えられ、景気は拡大傾向が続くと見込まれる(第2-2-75図)27

第2-2-75図 中国:実質経済成長率と需要項目別寄与度
第2-2-75図 中国:実質経済成長率と需要項目別寄与度

 インドでは、景気の拡大テンポは鈍化している。先行きについては、引き続きテンポは鈍化するものの、金融緩和スタンスが維持される中で内需を中心として拡大傾向が続くと見込まれる。

 その他アジア地域は、景気は一部に持ち直しの動きもみられるが、足踏み状態となっている。先行きについても、欧州や中国向け輸出の低迷から、当面、足踏み状態が続くと見込まれる。ただし、アメリカや中国の景気の動きや年末にかけての欧州景気の持ち直しもあり、電気・電子製品を中心とする輸出にけん引され、持ち直しの動きが確かなものになっていくことが期待される。

 国際機関の見通しをみると、12年に中国は8%程度、インドは7%程度、その他のアジア地域についても、韓国、台湾、シンガポールは2~3%台、シンガポールを除くASEAN諸国は4~6%の成長率が見込まれている(第2-2-76表)。こうした見方は、おおむね妥当と考えられる。

第2-2-76表 アジア各国の実質経済成長率の見通し
第2-2-76表 アジア各国の実質経済成長率の見通し

2.経済見通しに係るリスク要因

 アジア経済の先行きに関するリスクに関しては、依然として下方に偏っており、各種リスクが存在する。

(1)欧州向け輸出の低迷と金融資本市場の動向

 これまでみてきたように、中国やその他アジア地域では、欧州政府債務危機の再燃等により輸出額の最大2割程度を占める欧州向け輸出が伸び悩んでいる。中国では、輸出の伸びの鈍化をうけ、沿岸地域を中心に生産活動への影響も出てきている。

 また特に、中国を除くアジア各国・地域では、欧州政府債務危機を巡る緊張が高まると為替の減価を経験してきたが、危機がさらに深刻化すると、為替の一層の減価を通じ輸入物価の上昇や各国・地域が保有する外貨建て債務の返済負担の増加につながる可能性もある。また、株価下落など資産効果を通じて個人消費や、信用収縮に伴う資金調達コストの増加による設備投資の抑制などにより、中国、インド、その他アジア地域の実体経済に更なる影響が出てくるおそれがある。

(2)中国の景気拡大テンポの更なる鈍化とその他アジア地域等への影響

 前述の通り、中国では投資、輸出を中心に伸びの鈍化がみられ、景気拡大テンポが鈍化している。特に投資に関しては、不動産開発を中心に伸びが鈍化傾向となっている。不動産価格は、政府の不動産価格抑制策や金融引き締め政策の実施等によって、11年初めより北京、上海など大都市を中心に不動産価格は高水準ながら横ばいないし低下してきている。

 政府は3月の全国人民代表大会において、不動産価格抑制策の継続を表明28しているが、本政策の継続により、不動産価格の急落や地方政府の財政破たん等が引き起こされ、ひいては内需の急激な冷え込みに陥るリスクが存在している。ただし、旺盛な需要が依然として存在していることから、一部都市でみられる価格抑制政策の緩和29が拡大した場合には、再び不動産市場が過熱するリスクにも留意する必要がある。

 これらの要因によって、中国の景気拡大テンポがさらに鈍化した場合、同国向け輸出割合が高い韓国、台湾、ASEAN地域の景気が減速するおそれがある。

(3)物価上昇の再加速

 中国、インド及びその他アジア地域では、10年から11年にかけて物価上昇率が大きく上昇した。11年10月以降、景気の拡大テンポが緩やかになっている中、物価上昇率は低下ないし横ばい傾向にあり、金融緩和の動きもみられている。しかし、需要増大による物価上昇に加え、金融緩和による過剰流動性を要因とする輸入物価の上昇など、供給面からの物価上昇圧力は依然として存在していることから、引き続き物価の動向に留意が必要である。今後、物価が再び上昇に転じた場合には、実質所得の低下や消費への下押し圧力等を通じ、実体経済面へ影響を及ぼすことが懸念される。


27 5月23日の国務院常務会議(閣議に相当)において、「積極的な財政政策と穏健な金融政策の実施を堅持し、安定成長をさらに重視する」とし、また、「第12次5か年計画の重要プロジェクトを期日通り実施し、とりわけ重要性が高く、経済全体への影響が強いものについては、早急に始動させる」ことが確認されている。
28 3月の全人代後も政府はたびたび同政策の継続を表明している。最近では、5月23日の国務院常務会議(閣議に相当)で、同政策を引続き「厳格に実施」することが確認されている。
29 北京市、上海市、南京市等において、住宅購入時における、減税措置が受けられる住宅の定義拡大、商業銀行に比べ金利の低い住宅共済基金からの住宅ローンの借入額の拡大及び、2軒目の住宅購入する権利をより幅広い層に認める規制緩和の実施等、金融緩和の動きがみられる。
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