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第1章 歴史的転換期にある世界経済:「全球一体化」と新興国のプレゼンス拡大

第4節 歴史的転換期にある世界経済

1.「再び勃興する」アジア:新興国のプレゼンス拡大

(1)新興国経済の長期的見通し

  世界の主要国・地域の経済を長期展望すると、特に中国やインドのプレゼンスが高まっていくものと考えられる。
  世界各国の今後の経済成長について、長期的な全要素生産性や投資の伸びについて一定の前提を置いて推計を行う(1)と、中国は1979年からの一人っ子政策の効果もあり出生率が低下し、2015年頃から生産年齢人口割合が減少に転じ、インドでも出生率は緩やかながらも低下し、生産年齢人口の伸びが鈍化するなど、人口構造の変化により成長率の鈍化はみられるものの、先進国に比べて高い成長率が続くことが見込まれる。
  この推計によるGDPの変化をみると、2011年に日本を抜いて世界第2位となった中国は、25年頃にはアメリカを上回るGDP(市場レートベース)となる見込みである(2)。また、インドでも、25年頃にはドイツを追い抜き、日本に迫る見込みである(第1-4-1図)。その結果、中国やインド等の新興国のGDPが世界全体に占めるシェアは、市場レートベースでみると、09年時点で18.9%であったものが30年には36.6%まで拡大し、アメリカ・ヨーロッパ主要国・日本等の先進国と拮抗する。中国は09年時点で8.3%だったものが30年には23.9%となり、また、インドも09年の2.2%から30年には4%まで拡大する見込みである。このシェアの変化をPPPベースでみると、中国は09年時点で12.5%だったものが30年には30.2%に、インドは09年の5.1%から30年には7.9%にまで拡大することが予測される(第1-4-2図)。
  中国やインドは、高い経済成長や人口増加を背景に、これまで「世界の工場」として世界経済をけん引してきたが、今後とも経済成長が続くことで中間層が一層増えることとなり、消費市場、すなわち「世界の市場」としての存在感も一層増すと考えられる。また、豊富な労働力や資源を有する新興国に対し先進国が投資を一層増やし、他方、新興国の企業が経済成長に伴い実力をつけ海外への投資を伸ばすことも推測される。さらには、ヨーロッパ等の先進国の企業は、自国の人口減少による将来的な市場縮小を見据え、一層、活躍の場をこうした新興国に求めることも考えられる。
  アフリカ地域も、近年、資源価格の高騰を背景に全体としては高い成長を続けている。また、人口増加が続くことが見込まれ、レアメタル等の希少資源を豊富に有していることから、既に進出している先進国企業に加え、中国等からも投資が行われている。こうしたことから、アフリカ諸国は、今後、資源輸入国からの所得分配等を梃子に、経済成長を続けていくことも考えられる。
  以上みてきたように、新興国、特に中国やインドでは、高い経済成長が続く見通しとなっており、今後、新興国の存在感はますます高まっていくものとみられる。

(2)アジアのプレゼンス拡大の歴史的文脈

  世界の歴史を振り返れば、アジアのプレゼンス拡大は、決して新しい現象とはいえない。
  中国やインドは、四大文明の発祥の地であり、盛衰と分裂の歴史の変転を繰り返しながらも、世界の歴史の中で大国としての独自の存在感を保ってきた。例えば、紀元1000年頃から19世紀初めの時点においては、農業生産力がある、すなわち人口扶養力がある中国やインド等のGDP(PPPベース)が世界の約6割を占めていたという推計がある(3)。この推計によると、アヘン戦争(1840年)前の1820年において、中国(清)が世界のGDPの約3分の1を占めている一方で、アメリカはわずか1.8%を占めるにすぎなかった。産業革命以降、ヨーロッパやアメリカが技術革新により生産性が飛躍的に向上し経済成長を遂げていく中で、中国等が世界に占める割合は急速に低下し、1950年には2割弱となった(第1-4-3図)。同時期のアメリカと中国の一人当たりGDPの推移をみると、1820年において中国の2倍程度であったアメリカの一人当たりGDPは、1950年には中国の20倍程度にまで急伸した(第1-4-4図)。
  現在、中国では70年代末から開始された改革開放路線を、また、インドでは90年代初頭の経済改革と自由化を契機とし、外国からの直接投資等を促進し、それを通じて伝播した技術により、急速に工業化を進めている。この結果、両国のGDPが世界経済全体に占める割合は拡大しており、また、現在の一人当たりGDPは、90年代と比較して、中国は約13倍、インドは約3倍となっている(4)。2030年における中国の一人当たりGDPはアメリカの3割程度になるものと見込まれるが、中国が大国として存在感を示していた産業革命以前の姿に戻りつつあるともいえる。こうした両国の存在感の高まりは、産業革命後の200年の文脈でみれば「新興」であるが、長い歴史的文脈で見れば「再び勃興する」と呼ぶべきものともいえる。


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