目次][][][年次リスト

第1章 世界経済の回復とギリシャ財政危機

第4節 ヨーロッパ経済

1.ヨーロッパの景気動向と財政・金融政策

(1)ヨーロッパの景気動向

(i)概況
 ヨーロッパ経済は、07年秋から景気は後退していたが、08年9月の世界金融危機発生後、景気後退の深刻さが増し、09年1〜3月期に、ドイツの実質GDP成長率が前期比年率13.4%減に、フランスが5.6%減に、英国が10.0%減と大幅に減少した(第1-4-1図)。その後、自動車買換え支援策等の政策効果もあり、09年4〜6月期にはドイツが1.8%増に、フランスが0.9%増となり、英国も09年10〜12月期には1.8%増と増加に転じるなど、ヨーロッパ主要国の景気は下げ止まっている。

(ii)消費
●概況
 ユーロ圏の個人消費は、英国ほど落ち込まなかったものの、回復の動きは弱いものとなっている。英国は世界金融危機を契機として個人消費が大幅に悪化したが、自動車買換え支援策等の政策効果により下げ止まった。こうした消費の動向には、以下で述べるように可処分所得や消費者のマインド、自動車買換え支援策等が影響している。

●所得
 ドイツでは、雇用者報酬は09年1〜3月期に前期比で減少に転じ、弱い動きが続いている(第1-4-2図)。こうした動きを受けて、可処分所得は、前期比で減少となった08年10〜12月期以降一進一退が続いている。なお、10年1〜3月期については、雇用者報酬及び社会保障給付は増加となった。
 一方、フランスでは、09年4〜6月期以降、雇用者報酬が前期比で増加している。社会保障給付も前期比で増加を続けており、こうした動きを受けて可処分所得も前期比で増加を続けるなど、消費者をとりまく所得環境は改善したと考えられる。
 英国の雇用者報酬は、09年4〜6月期以降前期比で横ばいとなっている。社会保障給付も前期比で伸びが低下しており、可処分所得は09年10〜12月期には前期比で減少となった。

●消費者マインド
 ドイツの消費者信頼感指数は、09年5月から改善基調が続いている(第1-4-3図)。特に失業見通しは大きく改善しており、経済情勢見通しについても小幅ながら改善がみられ、消費者は先行きについてより楽観的になってきているといえる。フランスでは、10年1月以降、消費者信頼感指数が悪化しており、特に経済情勢見通しは悪化している。一方、英国については、失業見通しは依然として悪化すると考えている消費者が多いものの、その他の項目については改善の見通しを持つ消費者が多い。ただし、3か国とも09年初と比較すると大幅に改善している。
 実際の消費と消費者マインドを示す指標を比べると、例えば、ドイツでは、消費者マインドは改善しているにもかかわらず、実際の消費は減少しているなど、両者の動向には乖離がみられる。その背景には、上記の可処分所得の動向や、下記の自動車買換え支援策の影響がある。

●自動車買換え支援策の反動
 深刻な景気後退への対策として、ヨーロッパ各国では自動車買換え支援策(1)が実施され、消費の下支えに効果をあげてきた。ただし、これらの施策は、ドイツでは09年9月に終了し、英国でも10年3月に終了した。フランスでは、10年1月より1台当たりの補助額が1,000ユーロから700ユーロに、更に7月より500ユーロに減額され、10年中に終了する予定となっている。
 ドイツでは自動車買換え支援策終了後、自動車新規登録台数は09年12月に前年比マイナスとなった。ドイツは個人消費に対する輸送・通信の寄与が大きく、09年末以降自動車買換え支援策の反動により、消費が伸び悩んでおり、今後も伸び悩みが続くことが予想される(第1-4-4図)。
 フランスでも、09年は個人消費に対する自動車販売の寄与が大きい。10年中は自動車買換え支援策は継続する予定であるものの、1台当たりの補助金額は減額されるため、自動車販売台数の伸びが低下し、フランスの個人消費も伸び悩む可能性がある。
 英国では、自動車買換え支援策の効果により、09年10〜12月期は個人消費が前期比ではプラス成長となった。自動車買換え支援策は10年3月で終了したため、その後は反動減により、個人消費が伸び悩む可能性がある。

(iii)輸出・生産
(ア)輸出
 ドイツ、フランス、英国で輸出は増加している(第1-4-5図)。輸出先別にみると、ドイツの輸出は、アジア向け輸出、特に中国向け輸出が増加している。中国向け輸出を財別にみると、自動車を中心として機械類・輸送用機器が増加しており、中国の自動車販売促進策が輸出の増加に寄与したとみられる。また、中国の景気回復を背景として、プラスチックや有機化学品等の原材料を中心とした化学品も増加している。
 フランスは、ユーロ圏内向けの輸出の増加により、10年1月に増加に転じた(第1-4-6図)。財別にみると、化学品や機械類・輸送用機器類の増加が、輸出全体の増加に寄与している。地域別にみると、スペインやベネルクス3か国向け輸出を中心に前年比で増加している。スペイン向け輸出は、同国の自動車買換え支援策により、前年比で減少幅が縮小した後、大幅な増加に転じた。しかしながら、スペインでは10年7月に付加価値税率の引上げが予定されており、今後はフランスからの自動車輸出が伸び悩む可能性がある。ベネルクス3か国向けでは、09年7月から医薬品等を中心に化学品が前年比で大幅に増加した。
 英国は、ユーロ圏向け輸出が大幅に減少し、世界金融危機発生以前は英国の輸出の5割を占めていたのが、09年全体では4割に減少した(第1-4-7図)。しかしながら、09年夏頃から、ヨーロッパ経済の下げ止まりを反映してユーロ圏向け輸出の減少幅が前年同月比で縮小している。ユーロ圏を国別にみると、下落していた原油価格が09年3月以降上昇に転じたことを背景に、ベネルクス3か国向け鉱物性燃料輸出の減少幅が縮小し、09年12月には増加した。また、英国の輸出の約1割を占めるアジア向け輸出は増加に転じた。特に、09年から中国で自動車販売促進策が実施されたこともあり、中国向け自動車輸出が増加した。
 企業の輸出受注判断でも、ドイツ、フランス、英国の3か国とも持ち直しが続いており、輸出の増加はしばらく続くとみられる(第1-4-8図)。
 また、自動車輸出に注目すると、ドイツ、フランス、英国それぞれの国外で実施されている自動車買換え支援策の影響がみられる(第1-4-9図)。乗用車の世界全体の生産台数は07年で5,300万台程度だが、08〜09年にかけて欧米だけでなく中国等のアジアでも実施された自動車買換え支援策の規模は、世界全体で少なく見積もっても約1,000万台(2)となった。
 こうした世界各国で行われた自動車買換え支援策の効果もあり、ドイツの自動車輸出は回復してきており、自動車輸出の好調が輸出全体を押し上げてきた。フランスの自動車輸出もドイツ以上に好調で、既に前年を上回る水準となって輸出全体を押し上げてきた。英国もドイツ及びフランス同様に自動車輸出は好調であり、輸出全体を押し上げてきた。しかし、欧米では自動車買換え支援策は既に終了している国が多く、今後その反動が広がるため、輸出の下押し要因になるとみられる。

(イ)生産
 輸出の増加を背景に、ユーロ圏全体の生産は09年初め頃を底に持ち直しており、英国でもこのところ持ち直している(第1-4-10図)。

●企業の景況感
 企業の生産、受注、在庫に関する判断をみると、09年初に比べ、ドイツ、フランス、英国の3か国とも大幅に改善した(第1-4-11図)。
 ドイツ及び英国は、現在の受注水準は過小と評価する企業が多く、かつ、現在の在庫水準は過大と評価する企業の方が多く、生産を取り巻く環境には依然として満足していないとみられる。しかしながら、受注状況や在庫水準等は徐々に改善してきており、こうした周辺環境を反映し、生産は増加する見通しと考える企業が多い。
 フランスは、適切な在庫水準を下回ったと答える企業が増加しており、在庫調整が進展していることがうかがわれる。受注水準については、09年8月以降改善しているものの、依然として過少と評価する企業が多い。3か月先の生産見通しについては、増加を見通す企業の方が多い。

●受注
 製造業の受注を実績でみると、09年初までは下落が続いたものの、09年春頃から改善が続いている(第1-4-12図)。しかし、ドイツ及び英国は、前述したように在庫調整が続き、受注の改善幅に比べて生産の改善幅が小さい。また、ドイツの鉱工業生産は建設業を含んでいるが、ドイツは09年末から10年初にかけて悪天候が続き、建設業の下押し圧力になっていることも、ドイツの鉱工業生産が弱い動きとなっていた要因とみられる。

●自動車買換え支援策の影響
 自動車買換え支援策の影響は生産にも現れている(第1-4-13図)。自動車買換え支援策は財政負担という観点からすると、公共投資や減税と比べて金額でみた規模は大きくない。しかしながら、一時的にはその生産に与える効果は大きく、自動車関連産業を中心に、ドイツについては09年春頃から、フランス及び英国については同年夏頃から、経済を下支えした。一方で、09年9月に支援策が終了したドイツでは、好調な輸出が生産を下支えしているものの、国内の自動車買換え支援策終了の反動により、09年12月以降自動車生産は減少し、製造業生産全体でも伸び悩んでいる。10年3月に自動車買換え支援策を終了した英国や、徐々に補助額を減額するフランスでも今後支援策の効果がはく落すると考えられる。また、自動車買換え支援策が今後の需要を先取りしてしまい、ヨーロッパでは自動車関連産業がしばらく低迷する懸念もある。

(iv)雇用
●失業率
 ヨーロッパの失業率は、依然として高水準で推移している(第1-4-14図)。ドイツでは操業短縮手当(3)等の政策効果により、09年春頃から7.5%程度で横ばいとなっているものの、ユーロ圏全体では上昇しており、10年初には10%を超えた。特に、スペインの失業率は、07年まではユーロ圏平均並の8%程度だったが、住宅バブルの崩壊もあって(4)07年末以降急激に上昇し、09年秋に19%程度と高水準に達した。ただし、09年9月頃からは、急激な失業率の上昇は一段落している。このため、ユーロ圏全体の失業率の上昇ペースは緩やかになっている。
 ただし、ユーロ圏及び英国ともに、08年頃から労働力人口の伸びが鈍化し始め、特にスペインは09年10〜12月期には前年同期比で減少に転じた。この頃からスペインの失業率の上昇が一段落したが、これは失業者の一部が労働市場から退出したことによるところも大きい。

●長期失業
 スペインでは、労働市場にとどまり続けている失業者について、失業の長期化が進んでいる(第1-4-15図)。スペインの長期失業者(5)が全体の失業者に占める割合は、09年10〜12月期で29.3%であり、ユーロ圏の38.2%に比べてまだ低い。しかしながら、失業率が急上昇を始めた07年末頃に失業した人々が失業状態を継続して長期失業者となり始める08年10〜12月期頃から、長期失業者の割合は上昇し、その後1年間の上昇幅は11.4%ポイントと、ユーロ圏(1.7%ポイント上昇)や英国(4.3%ポイント上昇)に比べて、大きなものとなっている。
 スペインは、労働力人口が前年同期比で低下するなど、労働市場から退出する失業者が多い一方で、労働市場にとどまる者は、他のヨーロッパ主要国に比べて失業が長期化するケースが増えており、スペインの労働市場は表面上の失業率が示すように悪化に歯止めがかかったとは言い難い。

●若年雇用
 若年層の雇用環境も悪化している。スペインの若年失業率は07年1月の時点でもともと17.6%と、他のEU諸国に比べて高水準にあったが、09年末に一時低下した後、10年1月以降再び上昇に転じ、3月には41.2%と、一段と水準を高めている(第1-4-16図)。また、フランス及び英国では、スペインほどではないものの、全体の失業率を10%ポイントほど上回る高い水準で推移している。ドイツでは、若年失業率は全体の失業率に比べて高いものの、スペイン、フランス及び英国ほどの高水準ではない。

(v)信用収縮の状況
 ユーロ圏では、資金の供給側及び需要側の双方から信用収縮が進んでいる。10年4月のユーロ圏の金融機関の貸出態度のD.I.は、09年1月と比べると大幅に低下した(第1-4-17図)。しかし、貸出態度が「変わらない」という回答の金融機関が増えているものの、「緩和した」あるいは「少し緩和した」という回答は少なく、07年末に厳格化してから状況は本質的に変化していない。なお、特に住宅向け貸出については、10年4月は「少し緩和した」が減少し、「少し厳格化した」あるいは「変わらない」が増加し、10年1月より若干厳格化が進んだ。他方、資金需要については、10年4月に公表された調査によると、ユーロ圏においては全体として「大幅に増加した」あるいは「幾分増加した」との回答が減少し、「変わらない」との回答が増加した。また、依然として減少したとの回答の方が多い。この結果、実際の貸出残高については、企業向けは09年初から前月比で減少しており、同年秋頃から前年割れが続いている(第1-4-18図)。ただし、住宅向けの資金需要が増加したことに伴い、家計向け貸出残高は前年同月比で増加した。
 英国について、まず資金の供給側をみると、金融機関の貸出態度のD.I.は、企業向けについては改善傾向にあり、BOEも10年1〜3月期は引き続き緩和しており、同年4〜6月期も更に緩和する見込みとしている(第1-4-19図)。有担保の家計向け貸出態度に関するD.I.については、10年1〜3月期は前期から低下したが、BOEが有担保の家計向け貸出態度は前期から変化していないと分析しており、D.I.の低下は、09年10〜12月期に有担保の家計向け貸出態度が緩和されてから変化がないためとみられる。なお、10年4〜6月期についても、先行き3か月の見通しの調査によれば、有担保の家計向け貸出態度は変化しない見込みである。無担保の家計向け貸出態度については、10年1〜3月期についても依然としてD.I.はマイナスであるもののかなり改善してゼロ(中立)に近づいている。これについて、BOEは、10年1〜3月期においては厳格化の動きは止まっており、先行き3か月の見通しの調査によれば、同年4〜6月期に貸出態度は緩和するとの見込みとしている。
 一方、資金の需要側をみると、10年1〜3月期の家計(有担保)の資金需要に関するD.I.は大幅に低下したが、これについて、BOEは、家計(有担保)の資金需要の低下は天候等一時的要因によるものであるとし、同年4〜6月期には家計(有担保)の資金需要は増加の見込みとしている。家計(無担保)の資金需要も、D.I.が示すとおり10年1〜3月期に低下したが、同年4〜6月期は増加するとの見込みであるとしている。企業の資金需要に関するD.I.については、中小企業及び大企業の10年1〜3月期については改善した。これについて、BOEは、中小企業の資金需要は予想以上に増加したものの、大企業については変化していないとコメントしており、大企業のD.I.の改善は、資金需要が減少してから変化していない大企業が増えたためとみられる。なお、同年4〜6月期については、先行き3か月の見通しの調査によれば、企業の資金需要は増加する見込みである。
 このように、金融機関の貸出態度は緩和する方向に向かっているが、需要側は、企業については増加し、家計については低下した。実際の貸出残高についてみると、企業(非金融機関)向け、家計向け(有担保)、家計向け(無担保)いずれも、09年12月以降おおむね横ばいとなっている(第1-4-20図)。今後については、先行きの調査によれば、家計や企業の貸出は増加していくものと期待される。

(2)ヨーロッパにおける財政政策・金融政策

 景気後退に伴う税収の減少、景気対策等に伴う支出の増加等により、英国、フランス、ドイツ等のヨーロッパ主要国や、ギリシャを含む南欧諸国等で財政収支が悪化しており、多くのEU諸国で安定成長協定で定められた基準(一般政府財政収支の名目GDP比▲3%以内、一般政府債務残高60%以内)を上回っている状態が続いている(第1-4-21表)。こうした事態を受けて、EU経済財務相理事会(以下、ECOFIN)は、英国に対し08年7月に過剰財政赤字是正を勧告した。さらに、09年4月には、ギリシャ、アイルランド、フランス、スペインに対しても過剰財政赤字是正勧告を行った。ただし、世界金融危機発生後の急激な景気後退という特殊な状況にかんがみて、中期的に財政赤字削減に取り組むように勧告した(6)。ECOFINは、09年12月2日に、ドイツ、イタリア、ポルトガル等の9か国(7)にも新たに過剰財政赤字是正勧告を出した。同時に、世界金融危機という特殊状況にかんがみて、通常より長い期間をかけて安定成長協定で定められた基準を満たすように、財政再建の期限を設定した。09年12月10〜11日に開催された欧州理事会(EU首脳会合)は、09年12月2日にECOFINが示した財政再建目標及び時期を承認し、遅くとも11年には財政再建を開始するよう各国に求めた。

(i)財政状況と今後の財政再建に向けた動き
●ドイツ
 ドイツに対しては、09〜11年にかけて一般政府財政収支の名目GDP比が▲3%を上回る状態が継続するとの見通しを欧州委員会が示したことを受け、09年12月にECOFINは過剰財政赤字是正勧告を行った。
 一方、過剰財政赤字是正勧告を受ける前に、ドイツは財政再建のために連邦・州財政関係の現代化合同委員会の提言を踏まえ、09年6月に連邦政府及び州政府の財政ルールを盛り込む形で憲法を改正した。内容は、連邦政府の構造的財政収支を平時には同▲0.35%以内に抑制すること、州政府については、20年以降構造的財政赤字は許容されないというものとなっており、憲法を改正し、与野党ともに財政ルールを遵守する枠組みを策定したものである。しかしながら、「平時」の定義が明確でないため、幅広い解釈が可能であるなど、その効果が限定的となる可能性も否定できない。
 ドイツは10年2月に安定プログラムを公表した。この中で、一般政府財政収支については、10年は同▲5.5%と見込まれているが、13年は安定成長協定で定められている同▲3%の基準まで削減するとしている。また、このため、ドイツ政府は、上記財政ルール及びECOFINからの財政赤字是正勧告において定められた期限(13年までに、一般政府財政収支を同▲3%以内に抑制)を踏まえた財政再建計画を10年夏に作成するとしている。

●フランス
 フランスに対しては、09年3月に、09〜11年まで一般政府財政収支の名目GDP比▲3%を上回る状況が継続するとの財政収支見通しが示されたことを受け、09年4月にECOFINは過剰財政赤字是正勧告を行った。
 フランスは財政赤字に関する検討会を設置し、10年1月に第1回目の会合を開催した。この検討会では、過去の財政の分析及び先行き10年間の財政見通しに基づき、財政再建策が検討されることとなっている。また、財政収支を中期的に均衡させるためのルールを設けるとしている。最終報告は10年6月に取りまとめられ、それに基づき3か年の財政計画が作成される見込みとなっている。
 また、フランスは10年2月に安定プログラムを公表した。経済状況を考慮し、財政再建は11年から開始するとしている。その主な内容は、医療関連支出の増加を前年比3%以内に抑制、税の減免措置を11年以降毎年20億ユーロずつ削減、雇用環境の改善による失業対策関連支出の減少により、09年には同▲7.9%だった一般政府財政収支を13年には同▲3%にまで削減するというものである。これに対し、欧州委員会は、実質GDP成長率の見通しが楽観的であるとし、歳出削減策については更に具体化させることを求めている。

●英国
 英国に対しては、08年7月に、ECOFINは過剰財政赤字是正勧告を行ったが、財政収支改善の努力がみられなかったことから、09年4月に再度英国に対し過剰財政赤字是正勧告を行った。
 10年2月に成立した財政責任法(Fiscal Responsibility Act)では、13年度に財政収支の名目GDP比を09年度の▲11.8%(8)からその半分まで削減することが定められ、これに基づき10年3月に公表されたバジェット・レポートにおいて、英国政府は財政収支を13年度には同▲5.2%、14年度には同▲4.0%とする計画を示した。ただし、経済の回復が依然として十分でないことなどから、10年度までは引き続き企業や家計への支援を続け、本格的な財政再建の開始は11年度になるとしている。
 英国では、09年5月6日に下院の総選挙が行われたが、どの政党も過半数の議席(326議席)を獲得しないハング・パーラメント(hung parliament:宙ぶらりん国会)に、1974年以来36年ぶりに陥った。そこで、第1党となった保守党は第3党の自由民主党との連立政権を発足させ、97年以来13年ぶりの政権交代となった。両党は、連立合意に、財政赤字削減のための緊急予算案について5月11日から50日以内に合意することを盛り込むなど、英国の財政再建に取り組む方針を示している。

 中長期的にみれば、財政再建策への取組は、リスクプレミアムの上昇に伴う金利上昇への歯止め等に資するものではある。一方、景気回復への動きがいまだ緩慢なものであり、雇用の一層の悪化と信用収縮の悪循環といった下方リスク要因もある中で、財政再建を拙速に進めれば、現在下げ止まっている景気が長期低迷に陥る懸念もあり、各国政府は難しい舵取りを迫られている。

(ii)伝統的・非伝統的金融政策の動向
 ECB及びBOEはそれぞれ、金融危機と実体経済の悪化に対応するため、政策金利の引下げに加え、各種資産買取り等の非伝統的金融政策を実施した。
 現在、政策金利についてはECBは09年5月から1.0%に、BOEは09年3月から0.5%に引き下げ、それ以降据え置いている。一方、危機対応として行ってきた各種資産買取り等の政策については、徐々に解除した。
 ECBは、流動性供給策を実施してきたが、09年頃から段階的に解除している。まず、09年5月に導入が決定された12か月物のLTRO(Long Term Refinancing Operation)を09年12月を最後に取りやめた。10年4月以降は、平時の資金供給オペである3か月物のLTROについても、危機対応として行ってきた政策金利による無制限供給方式から、平時の変動金利方式にて行うこととした。他方、09年5月に決定した最大600億ユーロのカバード・ボンド(9)の買取りについては、10年4月末までに合計501億ユーロの買取りを行った。
 BOEは、09年1月から実施していた社債、CP等の買取りに加え、同年3月から中長期国債の買取りを実施した。なお、買取り額のほぼ全額を中長期国債が占めている。BOEは、こうした資産の買取りによる量的緩和によってマネタリーベースを増加させるとともに資産価格を下支えすることを通じて、所得を増加させ、これに伴って消費が増加し、中期的にインフレ目標を達成するとしていた。なお、10年1月末、BOEは、予定していた2,000億ポンドの資産買取り枠を使い切り、その後枠の拡大を行わなかったことから、事実上追加的な量的緩和を行っていない。
 上記のように、ECBやBOEはそれぞれ世界金融危機発生後の措置を段階的に解除あるいは停止してきた。しかしながら、ギリシャ財政危機に対応するため、ECBは、機能不全に陥った国債及び社債の流通市場へ介入することを発表し、固定金利での3か月物LTRO及び6か月物LTROも実施するとした。また、ECBやBOE等各国・地域の中央銀行も米ドルスワップ取極再開を発表するなど、新たな危機に対し、措置を講じているところである。


目次][][][年次リスト