第1章 世界経済の回復とギリシャ財政危機 |
欧米各国では、08年秋以降、各国において打ち出された金融システム安定化策により、金融市場は安定化に向かったが、直接金融と間接金融とでは回復状況に差がみられる。直接金融については、倒産、信用リスクへの懸念の高まりから急拡大したアメリカの社債と国債の利回りのスプレッドをみると、投資適格債(BBB格以上)については09年8月には危機前の水準に戻っている(第1-1-6図)。また、アメリカの社債の新規発行額は、07年の6,725億ドルから08年には5,381億ドルに減少したが、09年には8,546億ドルとなり、再び増加した(2)。しかし、間接金融については、依然として信用収縮が続いている。銀行貸出の動向をみると、銀行のバランスシート調整を背景に、08年末以降、アメリカでは貸出残高の大幅な減少が続いている。ユーロ圏でも減少ないし横ばい程度の弱い動きが続いている(第1-1-7図)。こうした間接金融を中心とする信用収縮が実体経済に影響を与え、景気回復のペースを緩慢なものとする一因となっている。また、証券化商品市場についても、政策効果により下支えされているものの、回復はみられていない。アメリカでは、10年3月末まで実施された連邦準備制度理事会(FRB)によるMBS(3)等の買取りが住宅市場の下支えに寄与したものの、依然として民間機関によるMBSの新規発行はほとんど行われていない。ABS(4)市場についても、09年3月からABS買取りを促進する制度であるTALFが開始され、6月以降買取り範囲の拡大や期間の延長を実施しているものの、新規発行がほとんど行われない状況が続いている(詳細は後述)。
次に、国際的な与信の状況についてみる。主要国・地域のBIS国際与信統計(5)に基づき国・地域間の与信状況をみると、世界の対外与信においては、大手銀行が数多く集まっているヨーロッパの銀行の対外与信残高が大きく、ヨーロッパ域内のみならず、中東、オフショア、アジア諸国においてもプレゼンスは大きい。
世界金融危機の発生により、世界中の金融機関は対外与信残高を大きく削減した。09年末と08年末を比べると、危機発生後削減額が大きかったヨーロッパの銀行は引き続き信用削減を行っている一方で、アメリカの銀行の対外与信残高の回復が目立つ(第1-1-8図)。政府による救済や業界再編もあり、経営状況を急回復させているアメリカの銀行に比べ、景気の回復が遅れ、ギリシャを始めとする域内の信用問題による新たな不良債権発生等の可能性もあるヨーロッパの銀行の回復の鈍さがみられる。
なお、アメリカの銀行の対外与信残高は、08年10〜12月期から09年1〜3月期にかけて急増しているが、これは08年9月にアメリカ政府が一部の投資銀行(ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー)に金融持ち株会社となることを承認し(6)、当該金融機関は商業銀行業務を行うことができるようになったため、統計上商業銀行に分類される銀行の数が増加したことによる影響が大きい。また、その後も09年を通じてアメリカの銀行の対外与信残高は増加傾向にあったが、この背景には、国際与信業務を行う銀行は比較的大手金融機関が多いことも寄与していると考えられる。国内業務を中心に貸出残高を減少させている中小金融機関に比べて、大手金融機関は、経営状況が回復しており、ビジネスチャンスを求めて海外業務を拡大しているとみられる(7)。