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第2章 新興国経済:金融危機の影響と今後の展望


第5節 金融危機の影響が深刻化するロシア経済

2.石油価格低下の影響

●石油等エネルギー資源の成長への影響
   ロシアは石油、天然ガスを始めとした豊富な資源を保有しており(石油生産量はサウジアラビアに次いで世界第2位、天然ガス生産量は世界第1位)、こうした資源をめぐる世界的な動向が経済発展に大きな影響を与える。08年夏までの石油価格の高騰はロシア経済の成長に大きく寄与したが、逆に、その後の石油価格の大幅な下落は経済成長率を押し下げる要因となっている(第2-5-7図)。

●石油輸出と貿易収支及び経常収支の黒字
   ロシアは、2000年代に入って以降、世界市場でのエネルギー価格の上昇から、石油、石油製品、天然ガス等の輸出収入の増加を要因として、貿易収支、経常収支ともに大幅な黒字を続けている。08年通年でみると、貿易収支は1,797億ドル(前年比37.3%増)の黒字、経常収支は1,023億ドル(同34.3%増)の黒字となった(第2-5-8図)。
   しかしながら、08年夏以降の原油を始めとするエネルギー価格の大幅な下落により、同年10〜12月期には貿易収支、経常収支の黒字幅は急速に縮小した。まず、貿易黒字は、08年10月に116億ドル(前年同月比▲7.1%)へと縮小した。また、11月以降も大幅な縮小が続いている。次に、経常黒字は、08年7〜9月期には295億ドル(同90.3%増)となり、伸び率も上昇していたが、10〜12月期には世界市場での原油を始めとするエネルギー価格の急速かつ大幅な低下を要因に、86億ドル(同▲64.2%)へと大幅に縮小した。
   ロシアの貿易構造をみると、旧ソ連邦時代にはその構成国であったCIS諸国、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)等との経済関係(旧ソ連邦時代は国内取引)が密接であったため、ロシア連邦成立(91年)当初は貿易もこれら諸国との取引のシェアが高かったが、その後、西側先進諸国との経済関係を深めながらそれら先進諸国との貿易シェアを次第に高め、貿易の規模全体も拡大してきた。特に、地理的に近いヨーロッパ諸国、中でもドイツ、フランス、英国等の西ヨーロッパ諸国との貿易のシェアが高まってきている。また、地理的にはよりロシアに近い旧社会主義圏の中・東欧諸国との経済関係も密接であり、貿易のシェアも比較的高いものとなっている。
   ロシアの相手先別の輸出構造を詳しくみると、約5割が中・東欧諸国の一部を含むEU諸国であり、CIS諸国が約1割、中国が1割弱、アメリカ、日本は併せて1割弱となっている。また、中・東欧諸国への輸出は全体の1割弱と、ロシア側からみればそれほど大きくはないが、輸出のうちパイプラインによる石油、ガスが高い割合を占め、中・東欧諸国の側からみると、ロシアとの経済関係は重要なものとなっている。

●準備基金及び国民福祉基金の蓄積と戦略的利用
   石油を始めとするエネルギー輸出により獲得した資金の一部は、ロシア政府(財務省)及びロシア中央銀行が管理する「準備基金」と「国民福祉基金」に積み上げられた(3)第2-5-9図)。これらの基金は、04年に創設された「安定化基金」を08年2月に分割して設置されたものである。安定化基金は、国家歳入の一つである石油・ガス収入のうちの一部を蓄積したものであり、石油・ガス収入は主に輸出関税と採掘税からなる。例えば、ロシアは国際市場銘柄としてウラル産原油を輸出しているが、その価格が1バレル27ドルを超える場合、その超過額に対する輸出関税と採掘税の一定割合が安定化基金に蓄積される。天然ガスの輸出も同様に、輸出関税と採掘税が国際価格に対して算出されるため、価格の上昇に応じて国家歳入の石油・ガス収入は増大し、その一部が安定化基金に蓄積されていった(4)
   安定化基金が準備基金と国民福祉基金に分割された後も、国際市場における原油価格は上昇を続けたため、準備基金と国民福祉基金の残高は増加していった。
 


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