第2章 新興国経済:金融危機の影響と今後の展望 |
第4節 世界金融危機とインド
3.今後のインド経済見通し
今後のインド経済を展望すると、同国の成長の柱である個人消費は、公務員給与引上げや物品税引下げ等の対策に後押しされ、同国の経済成長を下支えしていくものとみられる。また、金融危機発生直後に落ち込んだ投資については、09年に入り建設投資が持ち直しの動きがみられる一方、設備投資については企業の間で投資を手控える動きが広がっており、回復には時間がかかるとみられる。他方で、09年度においても、外需の本格回復は見込めない。こうしたことから、インドは個人消費を中心とする内需が主導しながら成長をしていくとみられる。
以上を踏まえると、インド経済は、実質経済成長率4%を下回るような更なる景気減速の可能性は低いとみられ、09年度は内需に支えられて年後半にかけて徐々に回復し、年全体でも5〜6%の成長率を保つと考えられる。10年度には、世界経済が緩やかに持ち直すにつれて成長率は加速すると考えられることから、7%台の成長が見込まれる(第2-4-30表)。
ただし、インド経済の先行きをみるに当たっては、世界経済情勢のほか、以下の要因にも注意する必要がある。
●上振れリスク要因
追加的な景気刺激策の可能性
インドにおいては、5年の任期満了に伴い、09年4〜5月に下院総選挙(15) が実施され、投票の結果、最大与党の国民会議派が議席数を伸ばして大勝した。同年5月に成立したシン連立政権(第二期)は、本格的な09年度予算案の策定作業を進めており、8月末までには追加的な第四次景気刺激策を打ち出す見通しとなっている(16) 。これにより景気の更なる押上げ効果が期待される。
●下振れリスク要因
(i)財政赤字拡大に伴う国債の格付け引下げや金利高止まり
インドの財政収支は手厚い農業支援等を背景に赤字傾向で推移している。財政赤字(GDP比)の推移をみると、03年度には中央政府で4.5%、地方政府を合わせると8.5%と高水準であったが、04年7月から施行された財政責任・予算管理法により、04年度以降は緩やかな改善に向かっていた(第2-4-31図)。しかし、08年8月までに採られた相次ぐインフレ対策や景気刺激策により08〜09年度の財政収支は急速に悪化する見通しであり、さらには、上述の追加的な景気刺激策を盛り込んだ予算案の策定も今後見込まれている。このため、財政状況が抜本的に改善されるのは数年先になる見通しである。
こうした財政赤字拡大については、(1)国債の格付け引下げ(17) を通じて金融市場の混乱につながるリスクや、(2)金利が高止まりし、民間投資をクラウディングアウトするリスクが指摘されており、注意を要する。
(ii)干ばつ等による農業生産への影響(天候リスク)
インドの農業生産は、実質国内総生産の17%と高いシェアを占めている。灌がい設備が十分に整備されていないことから、インドにおける農業生産は天候に大きく左右され、干ばつ等の被害が深刻化した場合、成長率が大きく押し下げられる可能性がある。
(iii)テロ発生等の影響
インドにおいては、隣国パキスタン等との関係において領土問題等の懸案事項を抱えていることから、政治リスクが存在する。08年11月には、インドのムンバイにおいて同時テロが発生しており、同年12月の訪印者数は前年同月比▲9.2%に落ち込むなどの影響がみられた。仮に今後も同国でテロが頻発するようなことになった場合には、ホテル・観光等のサービス産業に悪影響を与えるとともに、直接投資や証券投資等によるインドへの資金流入が一層滞り、株価や通貨等に影響が出るおそれがある。