第2章 2008年の経済見通し |
第5節 世界経済の見通しと先行きリスク要因
2.世界経済の先行きリスク要因
1.の中心シナリオに対して、世界経済全体に広範な影響を与え、異なる成長経路をもたらしうる幾つかの要因(リスク)が考えられる。例えば、このところ幾分落ち着きを取り戻している国際金融資本市場が早期に一段と安定化する場合、これまで高騰してきた資源・食料等の一次産品価格が安定化・下落する場合等には、上述の中心シナリオよりも世界景気の回復が力強いものとなる可能性がある。
一方、下向きのリスクとしては、相互に関連があるが、前節で述べた世界経済の直面している三つのショックが長期化・深刻化する場合や、世界経済の中で急速にプレゼンスを増している中国経済が調整局面に入る場合等が考えられる。以下、下向きのリスクについて順次述べたい。
●リスク1:国際金融資本市場の混乱の長期化・深刻化
08年春以降国際金融資本市場はある程度安定化してきており、市場の混乱が再燃する可能性はあるものの、これまでの金融緩和策や金融機関の資本増強策の効果等から、徐々に安定化していくことが見込まれている。しかし、サブプライム住宅ローン関連証券等に起因する損失の全体像はいまだ明確ではなく、国際金融資本市場の混乱が長期化・深刻化するリスクは残っている。そうしたリスクが現実のものとなれば、一段の信用収縮により設備投資、消費を萎縮させるなどして、アメリカ、ヨーロッパ等の実体経済を中心シナリオより悪化させるおそれがある。
●リスク2: 一次産品等の価格の高止まり・一層の高騰
原油等の資源や穀物等の食料は、新興国の経済成長に伴う需要拡大に加えて、特にサブプライム住宅ローン問題発生以降は、いわゆる「質への逃避」による投機的資金の流入もあって高騰が続いている。
世界経済の減速が広がる中、こうした一次産品等の価格が高止まりしたり、あるいは、一層高騰したりする場合には、物価上昇につながり、消費や投資を抑制するなどして、一次産品等の輸入依存度が高い国々の実体経済の成長を押し下げる可能性がある(前掲第1-4-29表)。
●リスク3:アメリカ景気の予想以上の下振れ
アメリカの景気は、前述のように中心シナリオでは、当面弱含んだ状態が続き、場合によっては緩やかで短期間の後退局面に入る可能性もあるが、金融政策の効果等から徐々に持ち直していくものとみられてる。しかし、上述のリスク1又は2、あるいはそれ以外の要因により、アメリカ経済が想定されている以上に悪化し、より大幅かつ長期の景気後退に陥ったり、景気は持ち直すとしてもそのテンポがより緩やかなものとなるリスクがある。特に、当面は経済対策により下支えされるとしても、その効果が薄れてくる年後半以降において、経済がどの程度自律的な回復のモメンタムを取り戻しているかが注目される。いずれにしても、このようにアメリカ景気が中心シナリオで想定しているより下振れする場合には、世界経済にも影響が及ぶと考えられる。
前節でみたように、2000年代において世界景気の相互連関は高まっており、世界経済で大きなウェイトを占めるアメリカ経済が大きく減速する場合には、アジアやヨーロッパ等の経済に波及して世界経済全体の減速につながる可能性が大きいと考えられる。
●リスク4:中国経済の調整
08年の中国経済は、世界経済の減速や政府による輸出、投資抑制策により、07年に比べてやや減速すると見込まれている。しかし、世界経済の減速が想定されている以上に大幅なものとなる場合には輸出が、また、国際商品市況の高止まりやインフレ期待の高まりによって物価上昇がさらに加速する場合には国内需要、外需ともに、想定されている以上に抑制されるおそれがある。こうしたリスクが現実のものとなる場合には、中国経済全体の減速が想定されているより大幅なものとなる可能性がある。
また、第3節で述べたように、これまで高水準で推移してきた投資による過剰資本の懸念があるため、上述の理由等により経済全体の減速がより大幅なものとなり、資本ストック調整が開始される場合には、投資が大幅に減少(3) することなどにより、成長率のスパイラル的な一段の減速を招き、投資案件にかかる不良債権の急増や、失業の増加を招くことなども懸念される。
前節でみたアジア地域の国際分業関係の発展を考慮すると、中国経済が顕著に減速する場合には、日本を含むアジア地域を中心に世界経済全体に大きな影響を与える可能性がある。