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第2章 2008年の経済見通し


第5節 世界経済の見通しと先行きリスク要因

1.2008年の経済見通し

  2008年の世界経済については、全体として07年を下回る2.9%程度の成長が見込まれている。これは、アメリカ経済が減速するとともに、高成長を続けるアジアがやや減速し、ヨーロッパでも成長が緩やかになることによる(第2-5-1表)(2)

  (1)アメリカ

  2008年のアメリカ経済については、住宅投資の減少が引き続き下押し圧力になるとともに、雇用情勢が軟化する中で、個人消費もおおむね横ばいの動きとなっている。また、金融資本市場の緊張も続いている。こうしたことから、景気は弱含んでおり、年前半は低い成長となると見込まれている。一方、年後半はこれまでの財政金融政策の効果が徐々に出てくることなどから、金融機関の資本増強策の効果等により金融資本市場の混乱が落ち着いてくれば、景気は徐々に持ち直すとみられる。このため、仮に後退局面に入る(入っている)としても、緩やかで短い後退局面にとどまるとみられるが、戻し減税による消費の押上げ効果の反動により、消費が停滞するとの懸念もあり、その後の景気回復は緩やかになるとの見方が多い。通年でみれば、08年の実質経済成長率は1.4%程度と、06年の2.9%、07年の2.2%から大きく減速することが見込まれる。
  こうした見方に対しては、世界経済のリスクの項で述べるように、金融資本市場の混乱の長期化・深刻化、一次産品等の価格の高止まりやさらなる高騰等の下方リスクも考えられる。一方で、金融資本市場が早期に落ち着きを取り戻す場合や、物価上昇が早期に抑制されてくる場合には、より力強い回復軌道に乗っていく可能性もあると考えられる。

  (2)ヨーロッパ

   ユーロ圏では、08年に入ってからも輸出や生産が比較的好調である。しかし、アメリカ経済が弱含んでいることなどから外需の先行きに不透明感がみられる。低下してきた失業率はおおむね横ばいとなってきており、物価上昇を受け、消費者マインドは悪化している。また、いくつかの国で住宅市場は調整局面を迎えている。こうした景気の減速を受け、08年のユーロ圏経済は、1.6%程度と潜在成長率(2%程度)をやや下回る程度の成長が見込まれる。
  英国経済については、これまで景気をけん引してきた金融セクターが減速することや、物価上昇等から消費の伸びが抑制されることなどから、08年の成長率は1.8%程度と07年の3.0%から低下することが見込まれる。
  こうした見通しに対しては、アメリカ経済の減速が予想より大きなものとなること、金融資本市場の混乱が長期化・深刻化すること、為替レートのさらなる増価が輸出企業の国際競争力を損なうことなどの下方リスクが挙げられる。一方で、アメリカ景気の回復が着実なものとなったり、金融資本市場が早期に安定化すれば、ヨーロッパの景気の足取りがより力強いものとなることも考えられる。

  (3)アジア

   08年のアジア経済は、世界経済の減速等からやや減速する国もあるものの、全体では引き続き堅調に推移すると見込まれる。ただし、世界経済の減速の大きさによっては、アジア経済の減速も大きくなるおそれもあり、留意が必要である。

  (ア)北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)

   08年の北東アジアの経済成長率は07年の9.8%から8.1%程度に減速するものの、引き続き中国を中心に景気は拡大すると見込まれる。
  ●高成長が続く中国
  中国経済をみると、07年後半以降成長率はやや鈍化している。これは、世界経済の減速等の影響による輸出の伸びの鈍化に加え、経済の過熱防止とインフレ抑制に取り組む政府が、07年後半以降金融政策等の引締めスタンスを強めた結果、一部でその効果が現れたことによると考えられる。そのため、08年については、成長率はやや鈍化し、9.8%程度と見込まれる。こうした見通しに対しては、後述するように、世界経済が予想以上に減速することやそれにより資本ストック調整が行われる場合等には、さらに低い成長率となる下方リスクがある。一方で、世界経済の回復がより着実なものとなる場合や、政府の抑制策の効果が限定的な場合には、より高い成長率となる可能性もあると考えられる。
  ●緩やかな景気拡大が続く韓国、台湾、香港
 韓国では、民間消費及び設備投資の鈍化から内需は伸び悩んでいることから、08年の成長率はやや減速し、4.5%程度の成長になると見込まれる。
 台湾では、輸出の伸びが緩やかになるとみられるものの、民間消費等の内需が下支えすることなどから、08年の成長率は4.2%程度の成長になると見込まれている。
香港の08年の経済成長率は、民間消費等の内需の拡大から、4.9%程度になると見込まれている。

  (イ)ASEAN:シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア

  ASEAN各国は、世界経済の減速の影響を受け、成長率は07年の6.3%から08年は5.4%程度に鈍化すると見込まれる。
 シンガポールでは、内需が堅調な伸びをみせるものの、電子製品等の輸出の減速から外需の伸びは緩やかになっており、物価上昇率も加速していることから、08年の成長率は5.2%程度になると見込まれる。
  タイでは、外需は減速するものの、内需の回復等を受け、08年の成長率は07年と同程度の成長が見込まれる。
  マレーシアでは、内需を中心に景気が拡大しており、08年は5.5%程度の成長が見込まれる。
  フィリピンでは、外需の減速等により、08年の成長率は5.4%程度と見込まれる。
  インドネシアでは、08年は内需が引き続き堅調に推移するとみられることなどから、成長率は5.9%程度と見込まれる。

  (4)世界経済の概観

  以上を総合すると、日本にとって関係の深い世界経済全体では、2008年の経済成長率は2.9%程度と前年を下回ると見込まれる(第2-5-2(1)図)。これは、07年12月に公表した『世界経済の潮流 2007年秋』での見通しと比較すると、アメリカについては2.4%程度から1.4%程度へと下方修正されるとともに、ユーロ圏、北東アジアでも下方修正されており、世界経済全体としても3.4%程度から2.9%程度へと下方修正され、過去10年(1998〜2007年)の平均(3.5%)を下回る見通しとなっている。
  また、消費者物価上昇率は08年には3.5%程度と、07年より伸びが高まるものと見込まれる(第2-5-2(2)図)
  地域別に過去10年間の経済成長率のすう勢と08年の経済成長率を比較してみると、成長達成度(08年の成長率/過去10年の平均成長率)はアメリカでは0.5程度と過去のすう勢を下回る状態が続くのに加え、ヨーロッパ4でも1を下回る0.8程度となる見込みである。他方、北東アジア、ASEANでは、過去のトレンド並みかそれを上回る経済成長率を達成すると見込まれる(第2-5-3図)


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