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第2章 減速しつつも回復を続ける世界経済

第1節 景気が弱含み後退局面入りも懸念されるアメリカ

1.サブプライム住宅ローン問題を背景に景気は弱含み

2007年10〜12月期から2四半期連続の低い成長

  アメリカの景気は、2006年半ば以降、住宅投資の減少により減速し、07年に入ってからは、サブプライム住宅ローン問題による金融資本市場の混乱(金融資本市場の動向については、第1章第4節を参照。)を背景に一段と不安定化した。このため、07年の経済成長率は、潜在成長率(1)  を下回る前年比2.2%となり、近年では01年の0.8%、02年の1.6%に次ぐ低い成長率となった。四半期別の動きをみると、海外経済が好調であったことやドル減価の影響等により外需寄与が大幅なプラスとなったことなどから、07年4〜6月期、7〜9月期は高い伸びとなったものの、10〜12月期には内需の寄与が縮小し、前期比年率0.6%と大幅に減速した。さらに、08年1〜3月期は、国内民間最終需要(2)が減少に転じ、外需等のプラス寄与を合わせても前期比年率0.9%(暫定値)と、2四半期連続で1%以下の低い成長率となり、景気は弱含んでいる(第2-1-1図)。以下、項目別に動向を概観しよう。

減少傾向が続いている住宅投資

  住宅市場では、06年以降、住宅着工件数が減少に転じるとともに住宅価格が軟化している(第2-1-2図第2-1-3図)。住宅着工件数は、06年1月の年率227.3万件をピークにその後は減少傾向となり、08年3月には同98.8万件と、16年ぶりに100万件を下回る水準まで低下した。これに伴い住宅投資は、06年4〜6月期以降、8四半期連続で前期比年率二桁台の大幅な減少が続いている。また、住宅価格の低迷に伴い、信用力の低い借手を対象としたサブプライム住宅ローンでは、より良い条件での住宅ローンへの借換えや担保物件の売却による債務返済が困難となったこともあり、06年後半以降、債務返済の延滞や担保物件の差押えが急増している(3)  (第2-1-4図)。

減少している雇用者数

  景気の悪化は、経済全体の雇用者数の動きに端的に反映されている。雇用者数(非農業部門。以下同じ。)は、07年半ば以降増加テンポが緩やかになり、08年に入ってからは減少している(第2-1-5図)。雇用者数の月平均増加数の推移をみると、05年には21.1万人(年末の前年同期比では1.9%増)、06年には17.5万人(同1.6%増)と堅調に増加していたが、07年には9.0万人(同0.8%増)と増加幅が縮小し、08年第1〜5月期は6.5万人(07年末の0.2%)の減少となった。産業別の動きをみると、 06年半ば以降、製造業や建設業といった生産部門における減少をサービス部門の増加が補う形で全体 としては 増加してきたものの、 08年以降は 製造業や建設業の減少 幅が拡大したこと に加え、一部サービス業 に も雇用減少の動きが広がってきている (第2-1-6図)
   特に、住宅部門の調整や金融資本市場の混乱の影響を受けている建設業や一部の製造業、金融業等では減少が明確である。07年初め以降、08年4月までに、建設関連産業では約44万人(06年末の同産業の雇用の5.7%)の雇用が失われており、07年末以降は住宅建設雇用の減少に加えて、住宅以外の建設雇用についても減少がみられている。また、製造業のうち住宅需要に関連する木材、家具及び家電産業については約11万人(同7.1%)、金融仲介業では約13万人(同1.5%)の雇用が減少した。
  また、失業率は、06年までの低下傾向から07年以降は上昇しつつあり、08年5月には5.5%まで上昇した。時間当たり賃金は、前年同月比3.5%増(08年5月) と 06年半ばから07年半ばにかけての4%超の高い水準 からはやや伸びが低下しており、労働需給の 緩和 がさらに進んだ場合には 、 より上昇ペースが鈍化するおそれもある。 加えて、エネルギー価格や食料品価格の上昇等により消費者物価指数の上昇率が、07年11月以降、前年同月比4%台の高い水準まで急激に上昇しているため、賃金の伸びは実質的にマイナスとなっている。

史上最高水準を更新している原油価格とやや上昇しているコア物価

 景気が弱含む中で、物価面からも下押し圧力が強まっている。まず、原油価格の動向について、WTI( ウエスト・テキサス・インターミディエイト )先物価格でみると、 近年、ドライブシーズン入りに伴うガソリン需要等を反映して夏場に上昇した後、9月頃には落ち着いてくるという季節変動がみられたが、07年については9月以降も上昇が続き、08年1月には100ドルに達した。その後も上昇傾向は続いており、08年6月には、一時、日々の終値でも過去最高水準の140ドル台近くまで上昇した(第2-1-7図)
  こうした原油価格や穀物等の商品価格が、07年半ば以降上昇していることなどにより、消費者物価や生産者物価の上昇率は比較的高い水準で推移しており、特に、消費者物価は07年秋以降前年比4%前後の上昇率となっている。また、総合指数からエネルギー価格等を除いたコア物価については、やや上昇傾向となっている。コアPCE(個人消費支出)デフレータの動きをみると、08年以降、FRB(連邦準備制度理事会)が望ましい物価状態の上限としているとされる前年比2%を上回って推移している(第2-1-8図)

おおむね横ばいの動きとなっている個人消費

  雇用情勢の悪化と物価上昇を背景に消費にも弱さがみられる。 個人消費は、アメリカ経済が減速し始めた06年後半以降も堅調に推移し、景気を下支えする役割を果たしてきた。しかしながら、 07年末以降、 雇用情勢の悪化に加えて 、エネルギー価格や食料品価格の上昇 が加速したこと もあ り 、 実質可処分所得が伸び悩んでいる。これを受けて、 個人消費の伸び は減速しており、前月比でみると足元ではおおむね横ばいの動きとなっている(第2-1-9図)。また、 物価の高騰や所得・雇用環境に景気減速の影響が現れてきたことなど を反映して、消費者心理は悪化が続いている(第2-1-10図)

このところ弱い動きとなっている生産、設備投資

 また、生産について、製造業の 出荷・在庫バランス(出荷の前年比−在庫の前年比)をみると、 07年に入ってからは在庫の伸びが低下傾向となる中で 出荷・在庫バランス は改善の動きが続いた。しかし、07年末以降は、出荷はなお前年を上回って推移しているものの、在庫の伸びが加速したため、足下では再び出荷・在庫バランスはマイナスとなり、再び在庫調整局面に入りつつある(第2-1-11図)。これを受けて、生産もこのところやや減少している。
  設備投資については、GDPベースで、07年は増加基調で推移したものの、10〜12月期には、産業機械や輸送機器への投資が減少したことから、前期比年率6.0%増とやや伸びが鈍化した。さらに、08年1〜3月期には、産業機械投資がプラスに転じたものの輸送機器投資は引き続き減少し、また、これまで堅調であった構築物投資やIT投資の伸びが縮小したことなどから、同0.2%減と5四半期ぶりにマイナスに転じている(第2-1-12図)
  このように、企業部門でも、このところ弱い動きがみられる。先行きについても、格付けの低い社債等一部の信用市場が引き続き引き締まっていることや、一部企業の業績悪化、企業マインドの低下といった動きがみられていることから、企業部門の弱い動きは今後も継続するおそれがある(第2-1-13図)

GDP比で緩やかな縮小傾向がみられる財・サービス収支赤字

  こうした中で、世界経済の堅調な成長を背景とした輸出拡大と、内需の伸び悩みに伴う輸入鈍化により、07年4〜6月期以降、純輸出が景気を下支えしている。アメリカにおける財・サービス収支の赤字額は、足元では若干拡大しているものの、07年全般では緩やかな縮小がみられ、07年通年では7,003億ドル(GDP比▲5.1%)と6年ぶりに縮小した(第2-1-14図)。この要因としては、財収支の赤字が減少したことに加え、サービス収支の黒字が大幅に増加したことがある。また、GDPベースの純輸出をみると、07年4〜6月期以降、各四半期とも1%ポイント前後、実質GDP成長率を押し上げる寄与をしている。
  なお、国・地域別の貿易収支をみると、中国に対する貿易赤字が大幅に増加し、07年通年の中国に対する赤字の占める割合は、アメリカの貿易赤字全体の32.4%に達した。また、原油価格高騰によりOPECに対する貿易赤字も拡大した。一方、日本やEUに対する貿易赤字はわずかながら減少している(第2-1-15図)。 


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