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第1章 変化するグローバルな資金の流れ

第4節 サブプライム住宅ローン問題発生後の資金フローの変化

2.アメリカへの資金流入の変化

●アメリカ向け資金流入の減速と安全志向の高まり


  ここでは、サブプライム住宅ローン問題の発生がグローバルな資金フローにどのような影響を与えたのか、アメリカ向け投資収支の動きを中心に考察する。
  アメリカへの資金流入は、第1節でみたとおり、これまで債券投資を中心に増加してきた。その中には、ヨーロッパを始めとする海外の金融機関によるサブプライム住宅ローン関連の証券化商品の購入も含まれており、アメリカへの資金流入の増加に寄与した。しかし、サブプライム住宅ローン問題が発生すると、それらの需要は大きく減少し、アメリカへの資金流入の鈍化をもたらしていると考えられる。
  まず、アメリカの投資収支の動向をみると、ネットでみたアメリカ向け純投資は07年7〜9月期にやや縮小したが、同年10〜12月期には持ち直しており、ならしてみると07年前半に比べて純流入額の大きな変化はみられない(第1-4-15図)。しかし、資金フローの動きをグロスでとらえると、対内投資、対外投資はともに07年後半に鈍化しており、サブプライム住宅ローン問題が発生してからのグローバルな資金フローの変化を示唆している。そこで、以下では07年におけるグロスでみた投資収支の動向を掘り下げて考察する。
  対内投資の07年上半期と下半期の変化をみると、投資形態別では、これまで活発であったその他証券への資金流入が大きく落ち込んだことが分かる(第1-4-16図)。またアメリカの非銀行部門や銀行部門への貸出しも大きく鈍化しており、先にみたようにサブプライム住宅ローン問題の発生を境に信用リスクが高まったことが、グローバルな資金の貸出しを停滞させたものと考えられる。その一方で、財務省証券への資金流入は若干ではあるが増加しており、資金が安全資産にシフトしたことが示唆される。
  国・地域別にみると、これまで英国から大量の資金が流入してきたが、07年下半期には大きく落ち込んでいる。同様に、ユーロ圏からの資金流入も鈍化しており、これまで拡大してきた欧米間の資金フローに変化がみられている。オフショア市場を含むその他西半球からの資金流入については、07年下半期にかけてむしろ増加しているが、詳細にみると、その他証券への資金流入は下半期には資金の引揚げに転じたものの、銀行部門への貸出しが2倍以上に増加したことが影響している。その他、中国や中南米からの資金流入も鈍化しており、新興国からアメリカへの資金流入にも影響が出ている。
  一方、アメリカからの対外投資は、ヨーロッパ向けの資金フローが鈍化するとともに、中南米やその他西半球への資金フローが資金の引揚げに転じている(第1-4-17図)。投資形態別にみると、非銀行部門に対する融資の引揚げが生じたほか、銀行部門に対する融資も大きく落ち込むなど、アメリカからのグローバルな貸出しも大きく後退していることが分かる。
  こうした投資収支の変化の裏側で、アメリカ経済の減速を受けて経常赤字も07年4〜6月期以降、GDP比で縮小している(第1-4-18図)。引き続き悪化している財政赤字には留意が必要であるが、今後、アメリカ国内の消費や投資が大きく減速する中で、貯蓄・投資バランスが改善に向かう可能性もある。こうした動きは、第1節で取り上げたグローバル・インバランスを一部是正するものと考えられる。
  アメリカにおける経済見通しの悪化、大幅な政策金利の引下げ、さらにはアメリカへの資金流入の鈍化等によって、ドル安が進行しており既に歴史的な水準まで減価している(第1-4-19図)。こうした為替レートの調整は、サブプライム住宅ローン問題によって生じたドル資産に対する需要の減少等、資金フローの変化に起因するものであり、市場による調整局面において避けることはできない。ただし、IMF(2008)等で指摘されているとおり、高水準の経常黒字を生み出している新興国の一部では、引き続き固定的な為替レートの運営スタンスを維持しており、名目実効レートでは横ばいまたは減速傾向で推移している(第1-4-20図)。このことは、新興国の為替レートがユーロ等ほかの先進国通貨に対し減価していることを意味しており、新たなインバランスをもたらす可能性を示唆している。このため、新興国の経常黒字とそれによる外貨準備の蓄積というグローバルな資金フローを生み出した構造が引き続き維持されていると考えられる。さらに、以下にみるようにドル安等による資源価格の上昇を通じて資源国の余剰資金も増加していると考えられ、グローバルな資金フローの供給量自体はむしろ拡大している可能性もある。


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