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第1章 変化するグローバルな資金の流れ

第3節 SWFの台頭とその影響

1.SWFの台頭

●投資主体として存在感を増すSWF

  SWFについては、一つの決まった定義はないが、例えば、アメリカ財務省は、「外国為替資産によって資金調達され、中央銀行又は財務省等金融当局の外貨準備とは切り離されて運営される政府所有の投資ファンド」と定義している(33)
  SWFの歴史は決して浅いものではなく、例えば、クウェートのファンドのように50年以上の歴史を持つものもあるが、2000年代に入って、資源価格の高騰や新興国における経常黒字の拡大の中で、資源国や新興国等でSWFを設立する動きが多くみられるようになっている(第1-3-1表)。また、その間、SWFが運用する資産規模も増加しており、世界の金融資本市場における投資主体として存在感を増している(第1-3-2図)。ただ、現状では、その運用資産は一部の主要なファンドに集中しており、それ以外の個々のファンドの資産規模はそれほど大きくはない。
  SWFを保有する国の地域分布をその保有資産のシェアでみると、中東が半分近く、アジアが3割となっており、この2地域で約7割を占めている(第1-3-3図)。これらの地域の経常収支の動向をみると、2000年代に入って中東及び新興アジア(34) ともに経常黒字が急速に増加している(第1-3-4図)。こうしたなかで、これらの地域で外貨の蓄積が進み、SWFを活用した外貨資産の運用が増加したと考えられる。以下では、この2地域について、外貨資産の蓄積とSWFの活用との関係についてみてみたい。
  まず、中東では、近年の原油価格の上昇を背景として原油輸出所得が拡大している(第1-3-5図)。中東では、国内の投資率が20%強と欧米諸国並みにとどまり、ほかの新興国に比べ低いことから、原油輸出による所得増が対外資産への投資に振り向けられやすい。前掲の第1-3-4図をみても、民間・公的部門ともに資金の純流出が増加している(35)。このため、原油価格の上昇等によって対外資産の保有額も増加しており、Mckinsey & Company(2008)の推計では06年末時点で1.9兆ドルに達したとされている。中東の場合は、新興アジアとは異なり金融当局による外貨準備の保有割合はそれほど高くはなく、SWFまたは富裕層による対外投資が主流である(第1-3-6図)。特に、アラブ首長国連邦やクウェートではSWFの対外資産保有のシェアは7〜8割と高く、富裕層の保有シェアが高いサウジアラビアでもSWFはおよそ半分の保有シェアを占めている。
  一方、新興アジアでは、経常黒字に加えて民間部門の資金が純流入しており、自国通貨高の抑制のために行った為替介入等によって外貨準備は経常黒字を上回って増加している。外貨準備の適正規模をはかる目安として、3か月分の輸入額をカバーしているかどうかが一つの基準となっている(36) が、外貨準備と輸入額の比率をみると、中国、台湾等では10か月分以上の輸入額に相当する外貨準備があり、韓国、マレーシア、シンガポール等でも3か月分の輸入額を超えて推移している(第1-3-7図)。また、アジア通貨危機に生じたような短期債務の引揚げに対応できるかという観点から注目されるものとして、外貨準備が短期債務残高を100%カバーしているかどうかという基準(Guidotti - Greenspan Rule)もあるが、これによると、中国では短期債務の10倍以上の外貨準備を保有しているとみられ、それ以外の国でも外貨準備は短期債務残高を超過している。アジア諸国においては、アジア通貨危機の経験を踏まえ十分な外貨準備を維持する観点から、上述の適正規模の目安を超える外貨準備を保有し続けることも考えられるが、中国、台湾、韓国等の一部の国では、外貨準備の蓄積によって一定の余剰分が発生しているものと考えられる。こうした外貨準備の積み上がりを背景に、必要額を超過した部分を外貨準備から切り離し、その運用のためにSWFを活用する動きが広がっている。
  IMFの将来予測によれば、新興アジア及び中東の経常黒字は高水準を維持すると見込まれており、2012年までにSWFの資産規模は約12兆ドルに拡大するとされている(37)


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