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第2章 先行きリスク要因


   上記の中心シナリオに対して、世界経済を取り巻く環境には異なる成長経路をもたらす幾つかのリスクがある。場合によっては中心シナリオが想定する成長率を下回るような事態も考えられる。

●リスク1:アメリカ経済の一層の減速
   アメリカ経済の景気拡大は世界経済の回復をこれまでリードしてきたが、アメリカ経済が失速すれば世界経済全体に影響を及ぼすおそれがある。中心シナリオでは、2007年のアメリカ経済は06年を1%程度下回る成長になることを想定しているが、さらに景気が減速するリスクとしては、例えば、(1)住宅市場の調整が長期化した場合における経済全体への波及、(2)原油価格の再高騰等による物価上昇、(3)雇用・所得環境の悪化による個人消費の減速等が考えられる。
   まず、住宅市場の調整が長期化すれば、住宅投資のマイナス寄与が続くとともに、さらに住宅価格の低下による逆資産効果が消費にマイナスの影響を与え、景気全体を減速させる可能性がある。また、信用力の比較的低い債務者向けを中心とした住宅ローンであるサブプライムローンの延滞率が今後も上昇し続けた場合には、住宅市場のさらなる減速、住宅金融機関の経営悪化、債務者を中心とした個人消費等への影響を通じて景気全体を減速させる可能性もある。
   次に、物価については、リスク要因の2にも挙げられている原油価格の再高騰や時間当たり賃金上昇の加速等により物価上昇圧力が強くなった場合には、景気の減速にもかかわらず一般に予想されている以上の物価上昇をもたらし、景気を減速させる可能性がある。
   また、比較的に良好である雇用・所得環境の悪化やガソリン価格の継続的な高騰等により個人消費が減速するような場合には、需要の減少が製造業等での調整を長引かせることなどとあいまって景気を失速させる可能性もある。
   なお、最近の動きとしてGDPベースにおける設備投資が06年10〜12月期にはマイナスとなるなど弱い動きがみられており、景気の先行き不透明感から企業家が投資姿勢を慎重化させ、今後も設備投資の鈍化傾向が継続した場合には、景気全体に波及する可能性もあると考えられる。

●リスク2:原油価格の再高騰
   原油価格は、07年4月には60ドル台前半から半ばで推移した(前掲第1-5図)。今後は、アメリカにおける夏場のドライブシーズンを控え、世界経済の成長に伴う潜在的な需給逼迫懸念や、地政学的リスク、産油国の減産等から再び上昇に転じる可能性もある。各国のエネルギー効率改善に向けたこれまでの取組等もあり、原油価格の上昇が世界の物価に及ぼす影響は低下しているものの、原油価格が再び高騰に転じてそれが長期化した場合、物価上昇の加速やそれによる実質所得の減少等、様々な経路を通じて世界経済の減速を引き起こす可能性は否定できない。特に、アメリカや中国にその影響が強く現れる場合には、世界経済全体への悪影響が懸念される。

●リスク3:為替レートの急速な調整等金融市場の大きな変動
   アメリカの経常収支赤字と財政赤字、特に前者は過去の実績と比較しても持続可能ではない水準に達しているとの指摘もあり、それがドルに対する信頼性を急激に損なわせる懸念も存在する(第2-1図)。これら双子の赤字の長期的な維持可能性については様々な解釈が可能であろうが、市場関係者の評価としてドル保有のリスクが表面化するような場合、国際的な不均衡が拡大している中で、これまでのところ歴史的な低水準で推移している各国の長期金利(第2-2図)が上昇することによって世界的な資金の流れが滞り、アメリカの資金需要を支えきれなくなるおそれがある。
   このほか、株式市場については、多くの国で上昇基調にあるが、仮に大きな調整が各国の市場で生起した場合には、その影響が注視される。

 


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