第2章 先進各国の生産性等の動向:アメリカの「第二の波」と英国、フィンランド、アイルランド等の経験 |
第1節 各国の生産性等の動向
3.規制改革と労働市場の柔軟性
IT資本、IT技術自体は、先進国どこでもアクセス可能なものであるが、国によって、IT投資の程度も、生産性の向上効果も大きな相違がある。このような各国間の差異の要因としては様々なものが考えられるが、生産物市場における規制緩和や労働市場の柔軟性向上が、IT投資を促進し、IT利用産業を始めとする経済の生産性向上に重要な貢献をしているという指摘がなされてきている(18)。
これは、規制が緩い生産物市場においては、競争が活発で、ITを活用することなどにより生産性を向上させるインセンティブが強く働くと考えられるからである。また、労働市場を柔軟にする、すなわち価格(賃金)メカニズムにより労働需給調整が円滑に進むようにすることも、労働をIT資本で代替することや、成長分野への労働資源の移動を円滑化することなどにより、生産性向上に資すると考えられる。さらに、競争が活発で生産性向上圧力が強く、労働市場も柔軟な経済においては、IT化に適するように組織形態や生産プロセスを変更したりすることも促され、こうした無形資産への投資を通じてIT化による生産性向上効果を促進する面もあると考えられる。
そこで、OECDによる生産物市場の規制指標と労働市場の柔軟性指標(19)を利用して、IT投資や労働時間当たり生産性の関係をみてみよう(第2-1-7図)。各国の状況は様々ではあるが、傾向としてみれば、生産物市場の規制が緩和され、労働市場の柔軟性が高い国ほど、IT投資が活発であり、また、近年における生産性上昇率が高くなることがみてとれる。特にアメリカについていえば、労働市場の規制が緩やかなことが大きな特色となっている。また、IT投資と生産性上昇率の関係をみてもIT投資比率の高い国ほど生産性上昇率が高くなる傾向にある。
さらに、2000年代におけるアメリカにおける生産性上昇率の加速はIT利用産業中心の現象であるところ、流通・運輸産業を例にとり、労働生産性上昇率と、同産業に関係する規制の関係をみてみよう。規制の指標として、OECDによる各産業の規制がIT利用産業へ与える規制インパクトの指標(20)を用いて図示すると(第2-1-8図)、規制インパクトの弱い国で流通・運輸産業の労働生産性上昇率が高い傾向が弱いながらも読みとれる。
このように、規制の程度が、生産性に深く関係していることがうかがわれる。特に、生産物市場、労働市場双方を総合してみれば、アメリカは国際的にも最も自由な市場を持つ国であり、これが、IT時代の到来に際して世界の生産性リーダーであるアメリカが世界の先頭を切って生産性向上、特に広範なIT利用産業の生産性向上に成功した重要な背景となっていることが示唆されるところである。また、第2-1-7図にみるように、日本は、生産物市場の規制、労働市場の柔軟性の面でなお改革の余地があり、そうした分野での改革を進めることによりさらに生産性上昇率を高める可能性があることもみてとれる。
ただし、生産性や経済成長に関係する要因はほかにも多数あり、また各国の状況も様々である。第2節では、生産性リーダーであるアメリカを追いかける側の国で良好な生産性や経済成長を実現している例として、英国、フィンランド、アイルランドの取組を概観しどのような要因が重要と考えられるかさらに検討してみることとしたい。