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14 ユーロ圏              Euro Area

ユーロ圏経済のこれまで

<2004年の経済>
 2004年の経済成長率は2.0%となった。年前半に景気を牽引した外需は、原油価格の高騰、ユーロ高の影響もあり年後半に低迷した。年後半は外需に代わり、企業収益改善や低金利を背景に設備投資や住宅投資が増加し、さらに消費も持ち直し、内需が回復した。しかし、全体としては、景気の回復は緩やかになった。また、消費や住宅投資等内需が堅調に増加する国(フランス、スペイン等)は力強い景気回復を達成し、内需が弱い状態となっている国(ドイツ、イタリア等)はより緩やかな景気回復となり、景気のばらつきが鮮明となった。物価は、原油価格の高騰の影響を受け、総合消費者物価指数(HICP)上昇率は、欧州中央銀行(ECB)の目標値「前年比2%を下回るが2%に近く」をやや上回って推移した。失業率は、2001年を底に以後上昇し、2004年は8.8%と高い水準で推移した。また、ユーロの対ドルレートは高値で推移し、2004年12月にユーロ導入以来の最高値(12月28日1ユーロ=1.3633ドル)を更新した。

<2005年の経済見通し>
 2005年の経済成長率は、1.5%程度となる見込みである(欧州委員会見通し1.6%、民間機関
ユーロ圏の主要経済指標
27社の平均1.5%(2005年5月時点))。民間機関の見通しは、半年前(2004年10月時点2.1%)に比べて下方修正されている。緩やかな回復が見込まれるものの、2005年に入り企業マインドが悪化を続けており、回復の勢いは前年よりも緩やかにとどまり、本格的な景気回復が遅れる見込みである。成長を支える要因としては、ECBの政策金利が引き続き2%近辺で推移する見込みから、投資が回復することが挙げられる。また、一部地域の住宅価格上昇による資産効果の継続や所得の緩やかな増加により、消費も持ち直すと見込まれる。
 下方リスクとしては、圏内需要の不透明さ、原油価格の高騰等が、企業マインドを更に悪化させ、生産活動に悪影響を及ぼす可能性がある。また、雇用、所得環境の改善の遅れや住宅市場の急激な調整がある場合、消費の回復が抑制される可能性がある。
 EUの組織や意思決定方式の効率化等を盛り込んだ「EU憲法」については、その批准の賛否を問う国民投票が2005年5月29日にフランスで、6月1日にオランダで実施され、ともに反対多数の結果となり2006年秋予定の発効が困難な状況となった。これらの結果、ユーロは対ドルで大幅に減価し、6月上旬にはおおよそ1ユーロ=1.22ドルで推移している。6月16、17日の欧州理事会で今後の同憲法批准手続きについて対応を協議する予定である。今後、域内市場統合やEU拡大が遅れる可能性があり、また欧州経済全体の信頼感に悪影響を与えるおそれがある。

<金融政策の動向>
  ECBは、2003年6月に政策金利(短期買いオペの最低応札金利)を0.50%ポイント引き下げ2.00%とした後、約2年の間、ユーロ圏では戦後最低の水準である2.00%に据え置いている。トリシェECB総裁は、6月の政策理事会後の記者会見において、5月の「利下げは選択肢ではない。」から「全会一致で、現在の政策金利が適切な水準であると考えている。」と表現を変更した。景気見通しについては、穏やかな回復が続くとする一方で、原油高によるインフレ圧力の高まりをリスクとして挙げている。またマネーサプライ(M3)の伸びが加速していることから、過剰流動性を中長期的な物価安定の上方リスクとして挙げている。

<「安定成長協定」の見直し>
  2005年3月20日、EUの安定成長協定見直し案がEU経済財務相理事会で合意され、22、23日の欧州理事会で承認された。
 今回の最終合意案(表1)は、2004年9月に欧州委員会が提示した見直し案におおむね沿うものとなり、「財政赤字GDP比3%以下、政府債務残高同60%以下」という大原則は維持されることとなった。注目すべき変更点としては、(1)2の中期目標の定義で、「中期財政目標(medium-term objective)」を各国の公的債務残高や潜在成長率に応じて設定すること、(2)46の「過剰財政赤字手続実施の改善」の部分で、財政赤字GDP比が3%を超えても許容される「例外かつ一時的」状況の定義を実質成長率がマイナスとなった場合とすること、(3)欧州委員会が過剰財政赤字手続きの第一段階の報告書作成の際、「関連する要素(relevant factors)」が考慮されることなどである。
 協定見直しの議論に関して、財政赤字がGDP比3%を超え過剰赤字是正措置手続きが行われたドイツ、フランスを中心に協定の柔軟な適用を求める意見が出た。一方で、他のユーロ圏のいくつかの国やECB等からは、柔軟化の動きに反発し規律順守を求める意見も相次いだ。最終合意案は欧州委員会の見直し案と比べより緩和された結果となり、一層の柔軟化を求めていたドイツ、フランス、イタリア等の大国の要請が実質的に認められ、中小国は妥協を示した形となった。しかし、3%の遵守基準が明示的に残され、各国は毎年「安定プログラム」を欧州委員会に提出し評価を受けるシステムは残るため、各国の財政赤字傾向に一定の歯止めをかけることができるとみられている。
 2004年のユーロ圏の財政赤字GDP比(図2)は2.7%となった。多くの国が3%の上限を上回り、ユーロ圏の政府債務残高GDP比は71.3%と60%の上限を超えている。こうした現状をふまえると、基準の達成は必ずしも容易でないことが今回の妥協案へ結びついたとみられる。
 2005年6月、欧州委員会はイタリアに対し、同協定見直し後初めて財政赤字過剰手続きを開始し、その第一段階として報告書を作成した。欧州委員会は、報告書のなかで、イタリアが2003年、2004年と2年連続で財政赤字GDP比3%の遵守基準を上回り、政策に変更がなければ2005年、2006年にも同3%の超過が見込まれていることから、同3%の超過は一時的なものとは考えられない、また、この状況が政府のコントロールが及ばない稀な出来事の結果でもなければ、深刻な不況の結果でもないことから、例外的なものではない、と指摘している。早ければ7月にもEU経済財務理事会(ECOFIN)においてイタリアに対する過剰財政赤字是正手続きが進められる見通しとなっている。

<「リスボン戦略」の中間見直し>
2005年3月、欧州理事会において、2000年の発表から5年目に当たる「リスボン戦略」の中間見直しが行われた。「リスボン戦略」は、2000年に欧州理事会において、EUが「2010年までに、より多くより良い雇用と社会的結束を伴った、世界で最も競争力のある知識集約型経済」となるための戦略として採択されたが、その後実施における遅延などが指摘されていた。今回の見直しにおいて、特に成長と雇用という2つの目標に焦点を当て、知識、イノベーション、雇用政策等を主な目標とすることとした。また、目標達成をより確実なものとするため、2005年4月、欧州委員会は3年計画の「統合基本指針」を採択した。EU各加盟国は、この同指針を基に国内改革計画を作成することとなっている。

表1 見直し案のポイント


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