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第II部 世界経済の展望

第1章 2005年の経済見通し

1.アメリカ

 2004年の成長率は4.4%となった。年央に、一時成長率がやや低下する局面もみられたが、年間を通じ、個人消費と設備投資が増加するなど力強い内需の伸びに支えられる形で景気拡大が続いた。こうした景気拡大を背景に、年半ば以降政策金利は慎重なペースで継続的に引き上げられた。原油価格が過去最高水準を更新する形で上昇し、高止まりするなかで、物価上昇等を通じた経済全体への影響が懸念されたが、景気への下押し圧力は限定的なものにとどまった。
  2005年の成長率は3%台半ばに低下すると予測される。しかし依然として潜在成長率(米政府、議会予算局ともに3.2%)をやや上回る程度を確保するとみられ、成長率の低下そのものがリスク要因となるような状況とはなっていない。

●内需拡大が続くなかで政策金利は慎重なペースで上昇
 2004年春頃には原油価格の高騰、これによる物価上昇圧力への対応としての利上げ観測等を背景に、家計・企業両部門で先行き不透明感が広がった。これらの影響が雇用増加ペースの鈍化、消費の伸びの低下等に現れた面もあると考えられ、成長率の一時的な低下がもたらされた。しかし2004年全体を通してみると、消費、設備投資の増加による内需の拡大により景気の拡大が続き、雇用者数も約220万人増加した。
  潜在成長率を上回るペースでの景気の拡大と原油価格の高騰にもかかわらず、2004年にはコア・インフレ上昇率(食料・エネルギー除く)は安定的に推移し、消費者段階での物価上昇は限定的なものにとどまった。Fedは景気拡大を持続させながら物価上昇圧力へも十分配慮するという形で微妙な均衡を維持しつつ、0.25%ずつという慎重なペースで政策金利を引き上げていった。2005年に入ってからもこのペースは維持されているものの、インフレ圧力の高まりに対してFedは懸念を強めつつあると解されており、市場では2005年末に向けて4%弱程度までの金利上昇を見込む展開となっている。

●過去最高水準を上回る原油価格の高騰
 原油価格の動向をWTIでみると、2003年までは30ドル前後で推移してきたが、2004年春以降は40ドルを超え、10月には50ドル台にまで上昇し過去最高水準を更新した。さらに2005年に入ってからは60ドルに迫る水準まで上昇する場面もあった。
  こうした原油価格の高騰に対しては、マクロベースでの産油国への所得移転、価格上昇圧力等を通じた経済に対する悪影響が懸念された。しかしながら2004年中はコア・インフレは比較的落ち着いた動きにとどまり、原油価格高騰の実体経済に対する悪影響は顕在化しなかった。この理由としては、エネルギー効率性の向上、エネルギーの他の財に対する相対的な価格低下等が挙げられる。しかし2005年に入ってから、物価上昇圧力は高まってきたと懸念されており、インフレの加速、それに対応した政策金利引上げペースの加速等を通じて実体経済に影響を与える可能性も考えられる。


2.アジア

 2004年は中国を中心に景気拡大が続いた。2005年はアメリカ経済の成長率が低下するなかで、中国を中心とするアジア経済の成長率も低下するものと予測される。

(1)北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)

 2004年の成長率は7.3%となり、景気拡大を続ける中国経済に牽引され高い伸びとなった。2005年は中国経済の減速もあり、成長率は低下するものの依然として6%台半ばの高成長が予測される。

●依然として高成長が続く中国
 中国の2004年の成長率は9.5%となった。2003年からの景気拡大が続くなかで2004年初には鉄、アルミ、セメント等一部業種で固定資産投資の過熱が懸念された。このため固定資産投資全体でも前年比で40%を超える伸びとなり、政府の直接的な介入等を通じて引締め施策が実施された。この結果、年後半には固定資産投資の伸び率は低下したものの、依然として前年比で20%以上の高い伸びを続けており、生産、消費等も増加が続いた。政府は金利引上げも含む金融面での引締め施策も実施したが、2004年を通じて9%台の成長率が続いた。2004年前半に対して後半は輸入の伸びには低下がみられるものの、経済活動全体としては大きく減速する状況にはない。
 政府としては2005年には8%前後の成長率を目標としているものの、2005年に入ってからも生産、消費、固定資産投資等で依然として高い伸びが続いており、成長率も9%を上回っている。不動産関連の投資は高い伸びを続けるなど景気過熱への懸念も完全に払拭されたわけではない。政策当局はマクロコントロールを通じたソフトランディングを目指して注意深い政策運営を続けている。
 台湾、香港は中国向けの輸出の伸びに支えられる形で景気は拡大を続けているが、拡大のペースは緩やかになってきている。2004年の成長率は台湾は5.7%、香港は8.1%となった。2005年は中国経済の減速に影響を受け、台湾は4%程度、香港は4%台半ばに成長率が低下すると予測される。

●景気回復が続く韓国
 韓国は2004年春頃から景気回復局面に入り4.6%成長となった。韓国経済は中国向けの輸出増加に依存した外需中心の需要構造となっており、海外経済の影響を受けやすい姿となっている。しかし世界的な景気回復を背景としてIT関連輸出が拡大し、生産も増加したため、輸出に牽引される形で回復を示した。一方、クレジットカード利用優遇策の結果として発生した家計債務問題は依然として消費の回復を阻害しており、消費の低迷が続いている。
  2005年は世界景気の緩やかな減速を背景とする輸出の鈍化が見込まれ、成長率は4%程度に低下するものと見込まれる。

(2)ASEAN5:
シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン

 2004年の成長率は5.8%となった。2005年は5.0%に低下すると予測される。

●地域全体で景気は拡大
 シンガポールは、2004年は8.4%の伸びとなった。年前半はアメリカ向けのIT需要や、欧米向けのバイオ医薬品の好調な輸出を背景に高い伸びとなった。年後半はIT需要の伸びが鈍化したことから輸出の伸びが低下し、景気の拡大テンポは緩やかになった。2005年の成長率は輸出の伸びの鈍化等から4%程度への減速が予測される。
 タイでは好調な生産や設備投資を反映して2004年の経済成長率は6.1%となった。鳥インフルエンザ、南部の治安悪化、原油価格の高騰等は耐久消費財に対する抑制要因として作用した。2005年の成長率は5%程度が予測される。
 インドネシア、マレーシア、フィリピンでは2004年は景気は拡大した。これらの国では中国向けの輸出、アメリカ向けの輸出の増加が景気の拡大に寄与している。2005年は成長率の低下が予測される。



3.欧州4か国 
(ヨーロッパ4:ドイツ、フランス、イタリア、英国)

 ヨーロッパでは、世界経済の回復と連動して景気回復が続いているものの、アメリカ、アジアの景気拡大に比べると緩やかな回復にとどまっている。

●年前半は外需、後半は内需中心の成長となったユーロ圏
 ユーロ圏の2004年の成長率は2.1%となった。年前半の景気を牽引した外需は、年後半は原油価格の高騰、ユーロ高の影響もあり低迷した。代わって企業収益の改善や低金利を背景とする設備投資や住宅投資の増加、個人消費の持ち直し等、内需は拡大したものの、全体としては景気の回復がより緩やかとなった。
 国ごとにみると、個人消費や住宅投資等内需が強いフランス、スペイン等の高成長国に対して、ドイツ、イタリアのように内需が弱い低成長国という景気のばらつきが鮮明化した。ドイツでは労働市場を始めとした構造改革が進むなかで消費の低迷が続いており、2005年に入ってからは2005年経済に対する予測も下方修正が続いた。
 ユーロ圏の2005年の成長率は1.5%まで低下すると予測される。

●堅調な回復が続く英国
 英国は、良好な所得環境、低金利、住宅価格上昇による資産効果等を背景に個人消費が増加するなかで堅調な景気回復が続いており、2004年の成長率は3.1%となった。過去5回にわたる政策金利引上げの影響等もあり、住宅ブームは沈静化しつつある。
 なお、2005年の成長率は2.4%に低下すると予測される。


4.世界経済の概観

 以上の地域別の動向を総合すると、日本にとって関係の深い世界経済全体としては、2004年は3.9%程度と前年を上回る高い成長となった(第1-1-2図)。2005年は減速し3.2%程度に低下すると予測される。また消費者物価上昇率は2004年2.6%となり、2005年は2.6%程度と安定的に推移するものと予測される。
 地域別に過去10年の趨勢的な成長率と2005年の成長率を比較すると、成長達成度(2005年の成長率/過去10年の平均成長率)はアメリカ、北東アジア、ASEAN、ヨーロッパ4すべての地域でおおむね1程度と予測される。すなわち世界経済全域で過去のトレンドに沿った成長率を達成することになると予測される(第1-1-3図)
 この結果、2005年の中心シナリオとしては、アメリカ経済が潜在成長率をやや上回る3%台半ばの成長となるなかで、アジアやヨーロッパも過去の平均的な成長率を実現する姿になると考えられる。
 上記の中心シナリオに対して世界経済を取り巻く環境には異なる成長経路をもたらす幾つかのリスクがある。場合によっては中心シナリオが想定する成長率を下回るような事態も考えられる。

●リスク1:アメリカ経済の急減速
 現在の世界経済はアメリカ経済の景気拡大に依存する形での景気回復を続けており、アメリカ経済の変調は直ちに世界経済全体に影響を及ぼすことになる。
 中心シナリオでは2005年のアメリカ経済は潜在成長率をやや上回る程度の成長を遂げることを想定している。しかし長期間にわたる景気拡大と原油価格上昇等を背景として物価上昇圧力は高まってきており、金利引上げを通じた金融政策の運営についてFedと市場参加者との間の意思疎通に問題が生じると、予想外の経済の急減速が発生する可能性も存在する。例えば想定外の急激な物価上昇の発生等をきっかけに市場が非常に厳しい金融引き締めを見込むことになると、長期金利の急上昇等を通じ、景気を急減速させる可能性もある。
 そのほかにも、リスク要因として挙げている原油価格の高騰、為替レートの急激な調整等も、物価上昇圧力の急激な高まりやドルの信頼性の低下をもたらすことにもなり、最終的にはアメリカ経済の急減速をもたらす可能性があり、世界経済全体にも大きな影響を与えることになる点に留意する必要がある。
●リスク2:中国経済の急減速
 中国経済が世界経済全体に占める割合が高まった結果、中国経済の変調も世界経済に与える影響が大きくなってきている。これまで、中国経済の拡大はアジア地域の各国の中国向けの輸出拡大をとおして世界経済を押し上げる方向に作用してきただけに、中国経済の急減速が与える影響も大きいと考えられる。
 中国経済については既に第1部第1章第3節でみたように成長を制約する内在的な要因が幾つか存在する。これらの成長制約要因が顕在化する場合には中国経済が世界経済のリスク要因へと転換することが懸念される。
  リスク4で想定する為替レートの急激な調整が中国に与える影響も無視できない。中国は既に沿海部で大きな国内市場を形成しつつあるが、輸出依存度が高く、高成長を維持するためには輸出拡大は欠かせない条件と考えられる。輸出の急激な縮減を引き起こすような大幅な為替レートの増価は、中国経済だけでなく世界経済全体に対して重大な影響をもたらすことが予測される。

●リスク3:原油価格高騰
 2004年の春頃から既に原油価格は過去最高の水準にまで上昇しており、世界経済に与える悪影響が懸念されてきた。各国のエネルギー効率改善に向けたこれまでの取組等もあり、現在までのところその影響は限定的なものとなっている。しかし50ドルを上回る水準が常態化するようになると、産油国への所得移転効果や二次的影響を通じた物価上昇圧力の顕在化等、様々な経路を通じて世界経済の減速を引き起こす可能性は否定できない。既に述べたように、特に現在の世界経済の回復を牽引する原動力にもなっているアメリカや中国にその影響が強く現れる場合には、世界経済全体への悪影響が懸念される。

●リスク4:為替レートの急速な調整
 アメリカの経常収支赤字と財政赤字、特に前者は過去の実績と比較しても持続可能でない水準に達しており、それがドルに対する信頼性を急激に損なわせる懸念も存在する。これら双子の赤字の長期的な維持可能性については様々な解釈が可能であろうが、市場関係者の評価としてドル保有のリスクが表面化するような場合には、世界的な資金の流れが滞り、アメリカの資金需要を支えきれなくなるおそれがある。
 為替レートについてはドルだけでなく中国の元についてもリスクシナリオが存在する。既に第1部第1章第2節でみたように、元の適正水準を正確に特定することは困難であるが、為替制度の変更により、元が大幅に変動するような事態に陥れば中国の国内産業構造だけでなく、世界経済にも深刻な影響を及ぼすおそれがある。


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