目次][][][年次リスト

第I部 海外経済の動向・政策分析

第2章 官から民へ

第1節 官から民への考え方について

 ●官から民への動きを進める原動力
 官から民への流れそのものは、特に1980年代以降、各国において始まっていた。その背景として、多くの先進国でみられた、公的部門の肥大化及び効率性低下や、財政赤字の拡大等の問題があった。そのため80年代に進められた諸改革では、公務員数削減等の公的部門の縮小による費用削減、効率性改善が優先される傾向が強かった。その結果、財政赤字縮減には成功したものの、公的部門のモラル低下や公共サービスの質の低下につながってしまった例もみられた。
最近では、80年代における取組で得られた豊富な経験を活かし、官民の役割分担を適切に進めつつ、効率的で質の高い公共サービスの提供を行おうとする取組がみられる。依然として存在する財政赤字に対応するための費用削減圧力は強いものの、公共サービスの受益者である国民の立場に立ち、よりよいサービスを効率的に提供するために、いかに民間部門を活用すべきかという視点が前面に出てきている。その背景には、官が提供するか民が提供するかが問題なのではなく、どちらが提供するにせよ、最終的にはサービス改善を通じた顧客満足度の向上が目的であり、これをいかに効率的に行うかが重要であるとの考え方がある。
こうした考え方の下、90年代、特にその後半以降、いわゆる民営化について、単純に所有権を移管する手法以外にも、事業・施設の所有権を官が持ちつつ、運営面を民に委託あるいは開放したり、官民の協働による事業運営(Public Private Partnership、PPP)が行われるなど、多様な手法がとられるようになっている。また、公共サービスを提供する主体が官であるか民であるかを特定せずに、そこに競争を導入することで効率性を上げることを目指す手法(市場化テスト)(1) も盛んになった。

 ●官から民への動きを推進するための課題
 政府部門の活動を民間部門に移すためには既存の制度枠組みに大きな変更を加えることになる。諸外国における取組からは、官が担当すべき分野の切り分けあるいは最適な提供主体の選択を行う前提としての公共サービスの目標の明確化を前提としつつ、官から民への動きを円滑に実施する上で、以下の点が重要であることが浮かび上がってくる。すなわち、(1)公共部門の縮小を伴う場合の人的資源対応、(2)サービス供給を官に代わって行う民間部門の存在、の2点である。単に公共部門の人員を削減することのみに焦点を当てると、モラルの低下等が起こり円滑な制度導入・実施への妨げとなるほか、サービスの質の低下等が起こり、よりよい公共サービスの提供の観点から望ましい結果が得られない可能性も存在する。また、そもそも民間部門に事業遂行能力を有する主体が存在しない場合、実際の官から民への動きが進まない可能性もある。各国における官から民への先進的な事例では、人的資源への対応もとられ、また、民間部門にも公共サービスの供給を行う主体が豊富に存在しており、今後の制度設計の際の重要な参考となる。
 次節以降においては、こうした官から民への動きの新たな考え方に対応して登場してきた手法の枠組みや具体的事例、生じる課題への対応等について、海外における取組・事例の説明を行う。


目次][][][年次リスト