第1章 米国の通商政策による世界経済への影響(第3節)

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第3節 各国・地域経済への影響

本節では、第二次トランプ政権の関税措置が各国・地域経済に与えた影響について、米国との貿易額の多い米州(カナダ、メキシコ)、アジア、欧州の主要地域別に確認する。

1.米州

はじめに、他国に先んじて関税引上げの対象となったカナダ、メキシコ経済に与えた影響から確認する。第二次トランプ政権発足前の2024年時点における両国の貿易構造を確認しておくと、両国とも財の輸出先の約8割が米国となっており、貿易面で米国への依存度が高い(第1-3-1図)。

両国の対米輸出の内訳を品目別にみると、両国とも自動車・同部品の割合が高い点が共通している(第1-3-2図)。これは、米国の大手自動車メーカーのサプライチェーンが米国も含めた3か国にまたがって構築されており、米国で販売される自動車の生産過程で部品や完成車が3か国間をまたいで行き来する構造となっていることによる。その他の品目構成は両国で分かれており、資源国であるカナダは最大の輸出品目が原油等の鉱物性燃料となっているほか、木材・木製品や鉄鋼、アルミニウムといった中間財の輸出が多い。一方、メキシコは、コンピュータ・同附属装置といった機械・電子機器類の輸出が多いことが特徴となっている。

第1-3-1図 カナダ、メキシコの輸出相手国・地域(2024年)
第1-3-2図 カナダ、メキシコの対米輸出品目(2024年)

(カナダは、米国向け財輸出が大幅に減少し、2025年4-6月期はマイナス成長に)

こうした貿易構造を踏まえた上で、まずカナダの財貿易の動向から米国の関税措置の影響を確認する。

カナダの財輸出は、米国の大統領選挙でトランプ氏が当選した2024年11月から2025年初にかけて米国向けを中心に増加したが、米国の関税措置が導入された2025年3月以降は米国向けが大幅に減少する中で、年央にかけてカナダの財輸出全体としても減少傾向で推移し、その後は横ばい圏の動きとなっている(第1-3-3図)。

第1-3-3図 カナダの財輸出(相手国別)

大幅な減少がみられる対米輸出について、品目別の動向をみると、主要な対米輸出品である鉱物性燃料や品目別関税の対象となった自動車・同部品、鉄鋼・アルミニウム・同製品を中心に、4月以降全般的に前年比での減少が続いている(第1-3-4図)。なお、4月から夏にかけて原油価格は前年比で1~2割程度低い水準で推移してきたため、鉱物性燃料の減少には価格低下による押下げ効果も含まれている。

第1-3-4図 カナダの対米輸出

また、第1節でみたように、カナダは米国の関税措置に対抗して対米関税を相次いで引き上げている。カナダの財輸入の動向をみると、財輸出と同様に2024年末から2025年初にかけて対米輸入を中心に増加した後、2025年3月頃からは対米輸入が大幅に減少する中で全体として減少傾向で推移している(第1-3-5図)。

第1-3-5図 カナダの財輸入(相手国別)

このように、2025年3月以降は財の輸出入双方に顕著な減少がみられたが、輸出の減少が輸入の減少を上回った結果、純輸出の寄与度が大きなマイナスに転じ、2025年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率▲1.8%と6四半期ぶりのマイナス成長となった(第1-3-6図)。7-9月期は輸出が下げ止まった一方で輸入の減少が続いたことから、純輸出の寄与がプラスに転じ、実質GDP成長率もプラスに戻ったが、輸出入双方の水準は2022年頃と同程度まで低下している。カナダ経済は米国への貿易依存度が高く、かつ対米輸出品目の多くが関税措置の適用対象となっていることから、USMCAに係る適用除外の恩恵を受けつつも、関税措置による影響を大きく受けることとなった。

第1-3-6図 カナダの実質GDP成長率

(メキシコでは関税措置の影響をAI関連需要の影響が相殺)

次に、同様に米国の累次の関税措置の対象となったメキシコ経済への影響を確認する。

メキシコの財輸出の動向をみると、カナダとは異なり、第二次トランプ政権による関税措置の導入以降も米国向け輸出が堅調に増加し、財輸出全体としても増加基調を維持している(第1-3-7図)。

第1-3-7図 メキシコの財輸出(相手国・地域別)

財輸出全体の増加をけん引する米国向けについて品目別にみると、関税措置の影響を受ける自動車・同部品の輸出が2025年以降減少している姿はカナダと同様である一方、関税措置の影響が軽微と考えられるコンピュータ・同附属装置の輸出が大きく増加することで対米輸出全体の増加を支えている点が大きく異なっている(第1-3-8図)。

第1-3-8図 メキシコの対米輸出

これは、後述するアジア諸国と同様に、米国のAI関連投資需要の高まりを受けた動きとみられる。第2章第1節で詳述するが、米国ではAI関連需要の高まりを背景に、特に2025年以降、データセンターに設置されるサーバーを含むコンピュータ・周辺機器への設備投資が大幅に増加しており、これに合わせてコンピュータ等の資本財輸入が増加していることも米国側統計から確認できる。メキシコでは、近年のニアショアリング(nearshoring46の動きやUSMCAによる有利な対米輸出環境もあり、特に台湾の電子機器受託製造(Electronics Manufacturing Services)(以下「EMS」という。)企業のサーバー製造拠点が立地してきており、米国でAI関連需要が拡大する中、2024年頃からコンピュータ・同附属装置の対米輸出が加速してきた。

財輸入については、カナダとは対照的に米国に対する対抗的な関税引上げを行っていないものの、2025年以降米国からの輸入は前年比減少傾向で推移している(第1-3-9図)。米国からの輸入動向を通関ベースでみると、2024年半ばから減少傾向にあった鉱物性燃料に加え、2025年春以降は自動車・同部品や機械類等幅広い品目で輸入が減少している(第1-3-10図)。一方、2025年半ばから台湾からの輸入が急増している。メキシコのコンピュータ等の輸出増加に伴って、半導体等の台湾からの中間財輸入が増加しているものとみられる。

第1-3-9図 メキシコの財輸入(相手国別)
第1-3-10図 メキシコの対米輸入

財輸出が前年比で増加基調を維持する中、季節調整済み前期比でみれば輸入の増加が輸出の増加を上回ったことから純輸出の寄与はマイナスとなったものの、2025年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率1.8%と1-3月期の0.9%から加速し、カナダとは対照的にプラス成長を維持した(第1-3-11図)。もっとも、7-9月期には季節調整済み前期比で輸出はやや減少し、実質GDP成長率も3四半期ぶりにマイナスとなった。

第1-3-11図 メキシコの実質GDP成長率

2.アジア

(中国の財輸出は米国向けが減少する一方、ASEANやアフリカ、中南米等向けが増加)

中国の財輸出をみると、米国向けでは第二次トランプ政権の発足前の2024年12月頃に駆け込みの動きがみられた後、4月以降は大幅に減少し2025年後半も前年比マイナスで推移している。その一方でASEAN、アフリカ、中南米、EUといった地域向けでは増加傾向にあり、全体としては緩やかな増加基調を維持している(第1-3-12図)。

第1-3-12図 中国の財輸出(国・地域別)

第1節で述べたように、第二次トランプ政権の中国に対する関税措置は、2025年2月のフェンタニル関税(10%)に始まり、4月には相互関税の発表に端を発して米中双方が関税の引上げを繰り返した結果、最大145%の追加関税率となった。その後の米中間の合意により、5月中旬には追加関税率は30%まで引き下げられ、さらに11月12日以降は同20%に引き下げられている。

その上で、中国からの米国向け財輸出をみると、相互関税率が引き上げられた4月から携帯電話、コンピュータ、機械・電気機器などを中心に対米輸出額は減少に転じ、6月には減少幅が縮小したものの、その後も前年比のマイナスは継続した。10月に米中間の関税率引下げ等の合意がされたものの、11月においても対米輸出は引き続き前年比マイナスで推移している(第1-3-13図)。

第1-3-13図 中国の米国向け財輸出

続いて、中国のASEAN向け財輸出について品目別にみると、機械・電気機器・同部品や集積回路を始めとした品目の輸出が増加している(第1-3-14図)。台湾や中国等の企業からのEMSを多く請け負っているベトナムやタイ等への輸出増加も背景に、輸出総額全体も増加基調にある。

第1-3-14図 中国のASEAN向け財輸出

このように中国の財輸出は、ASEAN向けのみならず、アフリカや中南米など一帯一路構想に関係する国・地域向けにおいても増加基調にある(第1-3-15図)。貿易の多角化によって米国の通商政策による中国貿易全体への直接的な影響は限定的となっており、輸出総額全体は緩やかな増加基調を維持している。

第1-3-15図 中国の財輸出(アフリカ向け・中南米向け)

Box. レアアース、半導体をめぐる輸出管理措置の動向について

現在の自動車産業において、レアアース磁石や半導体は基幹部品であるが、生産国の偏りもあり、その供給は各国の通商政策や輸出管理措置の影響を強く受ける。2025年には、米中間の関税引上げとその報復措置を背景に両品目に関する輸出管理措置の強化が相次ぎ、サプライチェーンが混乱するリスクが高まった。

中国は世界最大のレアアース産出国であり、電気自動車(EV)のモーター等の素材として不可欠なレアアース磁石の多くを供給している。2025年4月の米国の相互関税発表後、中国は一部のレアアース47輸出を許可制とする管理強化を実施した。その結果、同月の磁石を含むレアアース輸出は急減し(図1)、各国の自動車メーカーは生産計画の見直しを迫られた。5月、6月の米中間の閣僚級協議も経て、7月にはレアアース輸出が前年並みに回復したが、10月上旬に中国はレアアース等に関する複数の追加的な輸出管理措置48を発表した。その後、10月末の米中首脳会談を経て、11月7日、中国は10月に発表した一連の措置の実施を1年間停止することを公表した。ただし、4月に導入された一部レアアース品目の輸出許可制は継続しており、供給リスクは残存している。

半導体分野では、オランダに本社を置くネクスペリア社が焦点となった。同社は2019年から中国企業ウィングテック社の傘下に入っており、欧州で設計、中国で量産を行い、世界各国の自動車製造における電子制御ユニット等に不可欠な半導体を供給している。米国商務省はウィングテック社を輸出管理の「エンティティリスト49」の対象としていたが、2025年9月29日に「関連事業体ルール50」を導入し、ネクスペリア社もエンティティリストの対象とした。翌30日、オランダ政府は「物資供給法51」を発動し、ネクスペリア社を管理下に置く措置を実施した。ネクスペリア社によれば、10月4日、中国当局は対抗措置としてネクスペリア社及び関連企業に特定製品の輸出禁止規制を課したとされる。10月末の米中首脳会談でこの問題が議論された結果、米国による関連事業体ルールの適用は1年間停止され、11月には中国が民生用途に限り輸出を許可する方針へ転換した。11月19日にはオランダ政府による管理措置も停止された。

レアアースと半導体はいずれも自動車生産に不可欠な物資であるが、関係国の輸出管理措置の強化によってサプライチェーンが寸断されるリスクが顕在化した。その後、両分野では関連措置が緩和されたものの、経済安全保障をめぐる米中の構造的な対立は継続しており、欧州も独自の視点による経済安全保障上の措置をとるなど、今後の動向は予断を許さない。

図1 中国のレアアース輸出

次に中国の財輸入の動向を確認する。原油や鉄鉱石等の中間財の輸入が減少する一方で、国内の自動車や電子機器等の生産増加が続いていることも背景に、集積回路や一般機械の輸入の増加は継続している(第1-3-16図)。

第1-3-16図 中国の財輸入(品目別寄与度)

米国からの財輸入の動向を確認すると、2025年3月以降、輸入総額は減少が続いており、品目別にみると鉱物性製品や農産物のうち大豆等の輸入が減少していることが分かる。このうち鉱物性製品については、前述のように米国のフェンタニル関税の導入に対抗し、2月から米国からの石炭、原油、天然ガス輸入に追加関税を賦課したことから、1-2月期に輸入が減少に転じた。その後、米国産原油の輸入が縮小されたこともあり、その減少幅は拡大した。一方、米国からの通信装置などの電気機械の輸入は増加が続いている(第1-3-17図)。

第1-3-17図 中国の米国からの財輸入(品目別寄与度)

さらに中国の財輸入のうち、米国における対中輸出のシェアの高い大豆について2025年の動向をみる。前述のとおり、2月と3月に米国は中国に対してフェンタニル関税を賦課したが、これに対し、3月に中国は対抗措置として米国からの農林水産物に対する追加関税措置をとった。そのため3月以降は米国からの大豆輸入が減少する一方で、2025年初頭は減少傾向にあったブラジルからの輸入は5月以降増加傾向となった。

米国からの大豆輸入は減少が続き、9月、10月には輸入量がゼロとなった。その中で、10月30日に米中首脳会談が行われたことを受け、11月5日に中国商務部から、3月に発表した米国原産の輸入品に対する関税措置が停止されることが公表52された。しかしながら、11月の輸入量もゼロとなり、輸入量に現時点で回復する兆しはみられていない(第1-3-18図)。

第1-3-18図 中国の大豆輸入(国・地域別)

(韓国でも、対米輸出が減少する一方、ASEAN向け輸出が増加)

韓国の財輸出の動向53を国・地域別にみると、主要な貿易相手国・地域の構成比(2024年財輸出金額ベース)は、中国(香港含む)24.6%、米国18.7%、ASEAN16.7%、欧州13.4%、日本4.3%となっており、そのうち米国への輸出は自動車が3割を占めている。自動車等で高関税が課された米国向けが減少する一方で、ASEAN、欧州向け輸出は増加傾向にあり、輸出総額では持ち直している(第1-3-19図)。

第1-3-19図 韓国の財輸出(国・地域別)

第1節でみたように、米国の韓国向け関税措置については、2025年4月から10%の相互関税及び25%の自動車関税が課され、8月からは相互関税率が15%に引き上げられた。その後、10月末の米韓首脳会談を受けて、12月初旬の米国官報において自動車関税は15%(既存の関税率を含む)に引き下げられた。これを踏まえて米国向け財輸出の動向を確認すると、米国の自動車への関税措置の影響により自動車輸出の減少が続いていることもあり、対米輸出全体も減少傾向となっている(第1-3-20図)。

第1-3-20図 韓国の米国向け財輸出

続いて、ベトナムやタイを始めとしたASEAN向け輸出の動向をみると、半導体メモリーが主力製品となっている韓国では、世界的なAI需要も背景に集積回路の輸出が増加に寄与している(第1-3-21図)。米国への自動車輸出が減少している一方で、ASEAN向け輸出が増加傾向にあることで、韓国の輸出総額全体は増加基調となっている。

第1-3-21図 韓国のASEAN向け財輸出

2025年の韓国の実質GDP成長率をみると、1-3月期は、政治的な対立に端を発する社会の混乱54とともに消費者マインドの落ち込みもあり民間消費はマイナス、投資もマイナスの寄与となった一方で、純輸出はプラス寄与であった。4-6月期以降は新政権の発足を受けた期待感もあり消費はプラスに転じ、純輸出も半導体関連の輸出が好調なこともあり引き続きプラス寄与となったため、実質GDP成長率もプラスとなった。足下の7-9月期では消費刺激策55などから消費のプラス寄与は更に拡大し、前期比年率5.4%のプラス成長となり、景気は持ち直している(第1-3-22図)。

第1-3-22図 韓国の実質GDP成長率

(台湾の対米輸出は増加し、輸出全体も増加している)

台湾の財輸出においては、半導体等の電子部品と情報通信機器が輸出総額の65%を占める56AI関連需要により、サーバーを含む情報通信機器の伸びが急拡大しているほか、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)向け半導体を含む電子部品も堅調に増加している(第1-3-23図)。

国・地域別57にみると、米国、ASEAN向けが増加基調となっている。特に2025年に入ってから米国向けの増加は顕著となっており、輸出総額全体を大きく押し上げている(第1-3-24図)。

第1-3-23図 台湾の財輸出(品目別)
第1-3-24図 台湾の財輸出(国・地域別)

米国向け輸出を品目別でみると、情報通信機器が輸出増のほぼ全てを占めるほどの高い寄与度となっていることが分かる(第1-3-25図)。コンピュータ等の主要な情報通信機器が相互関税の適用除外となっていることもあり、対米輸出全体が増加傾向にあることは、対米輸出に占める自動車のウェイトが高く対米輸出が減少傾向にある韓国とは対照的である。

第1-3-25図 台湾の米国向け財輸出

台湾の実質GDP成長率は、AI関連需要を受けて好調な輸出により純輸出の寄与が拡大し、高水準で推移している。2025年4-6月期は在庫投資がマイナス寄与となった一方、純輸出のプラス寄与が前期から高まったことにより前年比8.0%の伸びとなった。7-9月期は純輸出のプラス寄与が更に拡大して前年比8.2%の高い成長率となっており、景気は回復している(第1-3-26図)。輸出を中心として高い成長率が続く一方で、国内消費は低調であり、消費者マインドも改善していない。輸出主導の経済成長の恩恵が国内に十分に還元されていない点には注意が必要である(第1-3-27図)。

第1-3-26図 台湾の実質GDP成長率
第1-3-27図 台湾の消費者信頼感指数

ASEANの対米輸出は関税率引上げ後も増加)

ASEANでは、米国の関税引上げ後も対米輸出は増加し、輸出全体も増加基調で推移している(第1-3-28図)。ここでは、ASEANのうち、2025年以降も財輸出の増加傾向が顕著なベトナム、タイ及びインドネシアについて、米国向けの財輸出と中国からの財輸入の動向について確認する。

第1-3-28図 ASEAN主要国の財輸出

ベトナムに対する米国の関税措置については、ベトナムが大きな対米貿易黒字を抱えていることもあり、2025年4月に当初公表された相互関税率は46%とASEANの中でも高い58ものであった。その後、米国との交渉を経て8月からの相互関税率は当初公表の46%から下がり、20%59となった。

財輸出の動向を確認すると、半導体後工程の生産強化も背景に、海外メーカーからのEMSを多く請け負っているベトナムでは、2025年の対米輸出は、関税措置の適用除外となっているコンピュータ・電子部品がけん引しており、輸出総額全体も増加傾向となっている(第1-3-29図)。携帯電話、コンピュータ等の電気機械を始めとして対米輸出額が減少した中国とは対照的に、ベトナムから米国への輸出はコンピュータ・電子部品、携帯電話・同部品の増加が続いており、また、足下では玩具・スポーツ用品の増加が拡大している。

第1-3-29図 ベトナムの米国向け財輸出

あわせて、中国からベトナムへの財輸出をみると、品目の構成では機械や集積回路が多数を占めている。2025年は、4月の米国の相互関税措置以前から、機械等や集積回路は増加が続き、9月以降は伸び率がやや低下する動きがみられたが、足下にかけても前年比20%を超える伸び率を維持している。輸出総額全体は前年比増加で推移しており、コンピュータ、機械・電気機器を始めとして総額が減少している対米輸出とは異なっている(第1-3-30図)。

第1-3-30図 中国のベトナム向け財輸出

続いて、タイの貿易動向について確認する。

米国との通商関係では、4月に当初公表された相互関税率は36%であり、ASEAN諸国の中で中程度の税率となった。その後、国別の上乗せ税率の一時停止により相互関税率は10%が適用された後、米国との交渉を経て、8月からの相互関税率は当初公表されたものより低い19%となった。

タイからの米国向け輸出は、2025年1月のトランプ政権発足以前からコンピュータ・同附属装置が増加しており、4月の相互関税措置以降もコンピュータ等が関税措置の適用除外となっていることもあり増加を続けている。ベトナムと同様にタイの輸出総額全体もおおむね増加が続いている。また、2024年と比べて電話機等の部品を始めとしたデータ送受信機・同部品の増加寄与が拡大している(第1-3-31図)。

第1-3-31図 タイの米国向け財輸出

あわせて、2025年の中国からタイ向けの財輸出をみると、データ送受信機・同部品、機械・電気機器・同部品、集積回路等が増加し、財輸出全体も増加が続いているところ、2025年後半では前年比の伸び率が低下する動きがみられた(第1-3-32図)。伸び率は低下したものの、対米輸出のように前年比の減少とはなっていない。

第1-3-32図 中国のタイ向け輸出

2025年のタイの実質GDP成長率をみると、1-3月期は純輸出のプラス寄与が高まった一方、在庫投資が押下げ要因となり、前年比3.2%となった。企業が在庫を取り崩して輸出を増加させたものとみられる。4-6月期は純輸出のプラス寄与は縮小したものの2.8%となった。景気に持ち直しの兆しがみられたものの、7-9月期では純輸出のプラス寄与は拡大したが、政府消費がマイナス寄与となり、成長率は1.2%にとどまった(第1-3-33図)60。また、消費者マインドも2025年初めから下がり始め、足下のマインドは4月の関税措置導入時より低位で推移している(第1-3-34図)。

第1-3-33図 タイの実質GDP成長率
第1-3-34図 タイの消費者信頼感指数

アジア地域の最後にインドネシアの貿易動向について確認する。

米国との通商関係では、4月に当初公表された相互関税率は32%であり、ASEAN諸国の中で中程度の税率となった。その後、国別の上乗せ税率の一時停止により相互関税率は10%が適用され、8月からは相互関税率はタイ等と同率の19%となった。

米国向け輸出は、2025年1月のトランプ政権発足以前から機械・電気機器・同部品、衣料品等が増加に寄与していた。2025年から太陽電池モジュール・同部品61の増加寄与が高まるとともに、ベトナムやタイとは異なり、8月の相互関税率の引上げ前に機械・電気機器・同部品、衣料品の駆け込みとみられる急増があった。8月以降に伸び率は低下したものの、太陽電池モジュール・同部品の増加は継続している(第1-3-35図)。

第1-3-35図 インドネシアの米国向け財輸出

中国からインドネシア向けの財輸出をみると、機械・電気機器・同部品、自動車・同部品等が増加し、財輸出全体は緩やかな増加が続いている(第1-3-36図)。総じてみれば、米国による相互関税措置の前後で大きな変調はみられない。

第1-3-36図 中国のインドネシア向け輸出

2025年のインドネシアの実質GDP成長率をみると、近年は5%近傍で推移しているところ、7-9月期では純輸出のプラス寄与は拡大したが、在庫投資がマイナス寄与となり、成長率は5.0%にとどまった(第1-3-37図)。

第1-3-37図 インドネシアの実質GDP成長率

2025年のベトナム、タイ及びインドネシアの貿易動向をみると、中国からの対米輸出が減少している中で、中国からベトナム、タイ及びインドネシアへの輸出は増加が続いており、特にベトナム、タイから米国への輸出は高い伸びとなっている。例えばノートパソコン等のコンピュータについては、台湾や中国等の企業からのEMSが進んだことも背景に2024年以前から対米輸出が増加してきたが、米国の対中関税が引き上げられ、中国から米国への輸出が減少に転じた2025年にその伸びを加速させている。こうした動きは、AI関連需要の拡大に加え、相対的な低関税率という中国と比較して有利な競争条件の下での生産代替も背景にあると考えられる。2025年11月以降、米国の対中関税率が引き下げられたことから、これらASEAN諸国の中国に対する競争上の優位性が低下してくるのか、注視していく必要がある。

3.欧州

ユーロ圏にとって、米国は最大の輸出相手国であり、ドイツとアイルランドの2か国でユーロ圏の対米輸出の半分近くを占める(第1-3-38図(1))。2024年後半以降のユーロ圏の輸出は、米国からの追加関税によって、急速な駆け込み輸出とそのはく落が起きていたが、そのほとんどがドイツとアイルランドに由来するものである(第1-3-38図(2))。以下では、この2か国について米国の関税政策が与えた影響を分析する。

第1-3-38図 ユーロ圏の米国向け財輸出の主要国構成比

(ドイツの対米輸出は減少が続いている)

ドイツはユーロ圏最大の経済規模を持つ国であり、地理的に近い欧州諸国との取引量が多いが、国単位でみると米国が最大の輸出相手国(構成比10%)62となっている。2025年はEU域内への輸出が好調な半面、対米輸出で減少が続いている(第1-3-39図)。

第1-3-39図 ドイツの財輸出(相手国・地域別)

品目別では自動車、機械・機器、基礎医薬品、電気機械・機器等が主要な輸出品となっており、特に自動車の米国向け輸出は減少が続いている(第1-3-40図)。

第1-3-40図 ドイツの米国向け財輸出

(ドイツの自動車輸出は米国向け、中国向けとも減少傾向)

ドイツの自動車輸出額をみると、2024年前半は中国向けが好調であったが、後半以降は中国の内需の減衰が明らかになってくるとともに、ドイツの自動車輸出の主力である高級車と中国側消費者が求める車種や価格帯とのミスマッチが拡大してきたことにより、急速に停滞している(コラム4参照)。さらに2025年1月以降、米国関税措置の影響を受けた駆け込み輸出とそのはく落により、大きな変動をみせている(第1-3-41図)。

前述のとおり、米国は2025年4月から自動車関税を導入し、EUから輸入する自動車・同部品に25%の追加関税(既存の関税率63を含め計27.5%)を課した。その後の米EU間の合意により、8月1日以降、同関税率は15%(既存の関税率を含む)に引き下げられた。しかしながら、米国の関税率が幾分引き下げられたものの、3月以前よりは高い関税率が続いている。その結果、ドイツから米国向けの自動車輸出は2025年4月以降減少傾向にある。

第1-3-41図 ドイツの自動車輸出推移(相手国別)

ドイツ系自動車メーカーは、ドイツから直接、米国に出荷するだけでなく、米国内や近隣諸国で組立てられた車両も米国内で販売している。これらの車両も含めた販売台数で確認すると、米国での台数が減少しており、米国内でのドイツ系自動車メーカーのプレゼンスが下がっている(第1-3-42図)。

第1-3-42図 ドイツ系自動車メーカー3社の販売台数伸び率

(米国向け輸出の減少により、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられる)

米国向け輸出の減少は、単なる外需の縮小にとどまらず、ドイツ経済に直接的な影響を及ぼしている。ドイツの実質GDP成長率でみると、輸出の弱さに加えて投資や消費も持ち直しに足踏みがみられる(第1-3-43図)。自動車業界では生産計画の見直しや操業調整が始まっており、こうした動きは、部品や素材の調達にも影響を与え、サプライチェーン全体に波及することで、ドイツ国内の関連産業の活動を抑制する要因ともなっている。

第1-3-43図 ドイツの実質GDP成長率(寄与度)

(アイルランドでは駆け込み輸出とそのはく落がみられた)

次にアイルランドの財輸出をみると、2024年後半から米国向けを中心に大きく変動している。特に2025年3月には前年比80%、4月、5月にも同50%台と米国向け駆け込み輸出が急増したことが、輸出全体を押し上げている。しかし、こうした駆け込み輸出は6月以降急速にはく落し、8月には2024年1月以来のマイナスの伸びとなった。その後、9月に18.5%に上昇するなど、短期間で大きな変動をみせている(第1-3-44図)。

さらに、対米輸出の変動を品目別に確認すると、医薬品が大きく寄与していることが分かる(第1-3-45図)。医薬品とその他の化学製品については、米国大手企業のアイルランド進出も多く、従前からアイルランドの主要な米国向け輸出品目となっているが、2025年はその変動の大部分を占めることとなった。この大きな変動の要因が医薬品に対する米国の関税政策である。

第1-3-44図 アイルランドの財輸出(相手国・地域別)
第1-3-45図 アイルランドの対米向け財輸出

(米国関税の不透明感により、アイルランドの医薬品産業は大きく変動)

トランプ大統領は医薬品に関する関税措置の導入に言及してきた。結果的に、相互関税では医薬品を適用除外としたが、トランプ大統領は2025年7月や9月にも医薬品に対して高い関税を課すことに言及している。

このことからアイルランドの米国向け医薬品輸出は輸出量・輸出額ともに大きな変動が生じていることが確認できる(第1-3-46図)。2023年以降、おおむね堅調に推移していたが、2024年11月の米大統領選直後から重量・金額ともに急増している。これは、トランプ政権が発足する2025年に米国で関税引上げが行われるとの観測を受け、米国内での備蓄志向が強まり、アイルランドの製薬企業が予防的に前倒し出荷を行ったためである。特に、価格よりも重量の伸びが高まっており、数量確保を目的とした低価格品の駆け込み需要があったことが推察される。

さらに、2025年3月から5月にかけては金額ベースで急増した一方、重量ベースの伸びは限定的である。米国から関税が課される前に、企業は単価が高く、高関税の影響を大きく受ける高付加価値医薬品の輸出を急増させたとみられる。

7月以降もトランプ大統領は医薬品への関税措置導入に複数回言及しており、政策の不透明感が高まる局面と医薬品輸出の変動は、おおむね一致している。結果的に、現時点では先発薬を含む全ての医薬品に対して米国の追加関税措置は発動されていないものの、企業は先行きに対する不透明感から、輸出のタイミングを調整していると考えられる。

第1-3-46図 アイルランドの米国向け医薬品輸出の金額と重量

2024年後半以降、米国の関税政策をめぐる不透明感がアイルランドの医薬品輸出動向に一時的な影響を与えたことは統計データからも明らかである。現状では医薬品は米国の関税措置の適用除外とされているため、アイルランド景気への下押し圧力は限定的である。ただし、トランプ大統領は度々医薬品関税の導入を示唆する発言を行っており、不確実性の高い状態は続いている。

4.小括

ここまで、第二次トランプ政権の下で導入された米国の関税措置が各国・地域の経済に与える影響を統計データによって確認してきた。

米州では、対米輸出品目の多くが関税適用対象となるカナダでは財輸出が顕著に減少し、2025年4-6月期の実質GDP成長率がマイナスに転じた一方、AI関連需要も背景に、メキシコでは米国向けを含めて財輸出は増加基調を維持し、2025年4-6月期の実質GDP成長率も1-3月期から上昇するなど、明暗が分かれた。

アジアでは、中国や韓国は相互関税や自動車関税の引上げの影響を受けて対米輸出が減少した一方、台湾やASEAN諸国ではメキシコと同様にAI関連需要を背景に、相互関税の適用除外となっているコンピュータ・同附属装置を中心に対米輸出は増加を続けている。中国や韓国ではこれらの国々に対する集積回路等の輸出が大幅に増加し、両国の財輸出全体としては増加基調を維持している。

欧州では、自動車関税引上げにより、特にドイツの基幹産業である自動車輸出が大きな影響を受けている。医薬品産業が集積するアイルランドでは、関税率引上げを見越した大幅な対米輸出の増加とそのはく落による変動がみられたが、その後も医薬品が関税措置の適用対象外となっていることもあり、更なる関税措置の変更がなければ今後の景気への下押し圧力は限定的になると考えられる。

このように、米国の関税措置は、国によっては大きな駆け込み輸出とそのはく落による変動(アイルランド)をもたらした後、高い関税率の対象(中国)や自動車等の品目別関税の影響を受けやすい貿易構造(ドイツ、韓国)、貿易の対米依存度の高い国々(カナダ、メキシコ)を中心に輸出を下押しする効果をもたらしている。一方で、米国を中心にAI関連需要が急速に拡大する中、関税措置の適用除外とされていることもあり、コンピュータ・同附属装置や集積回路といった関連製品の輸出が多い国・地域(メキシコ、中国、台湾、ASEAN)では輸出が増加基調を維持する姿もみられる。双方の影響がともにみられる国々もあり、メキシコや中国では後者の影響の方が大きく、財輸出全体としては増加基調を維持している。

なお、財輸出が堅調であっても、米国の関税措置導入以降、消費者マインドが低下した状態が続いている国・地域(台湾、タイ)もある。消費者マインドの低下が景気を大きく押し下げている例はあまりみられていないが、米国の関税措置の影響は各国・地域の家計部門にも一部表れているといえる。


46 企業が事業拠点を近隣の国(多くの場合、国境を接する国)に移すこと。
47 サマリウム、ジスプロシウム、ガドリニウム、テルビウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種類。
48 用途に軍事目的が含まれる場合の輸出の不許可や、レアアース関連技術に対する輸出管理等の規制。
49 米国商務省産業安全保障局(BIS)が管理する輸出管理規則(EAR)に基づく貿易上の取引制限リストで、米国の輸出管理対象品目や技術を供給する際に特別な許可を必要とする外国企業・組織を指定したもの。
50 エンティティリストに指定された企業が50%以上の所有権を持つ関連会社(子会社やグループ企業)にも同様の輸出規制を適用する仕組み。
51 オランダの非常時対応法。非常事態に直面した際に、重要物資の流通・供給を確保するため、政府が企業活動に介入する法的枠組み。ネクスペリア社の「深刻な企業統治上の問題」と「重要技術の流出リスク」が認定され、1952年の同法制定以降初めて発動された。
52 あわせて2025年3月4日に公表された米国企業3社からの大豆輸入の停止の公告が、11月10日から廃止されることが7日に公表された。
53 2024年12月に、韓国自動車メーカー等で大統領退陣を求めた労働組合がストライキを実施。また、2025年1月はソルラル長期休暇(1月25日~30日)の影響で営業日数が前年比4日減であったこともあり、1月の輸出は前年比で減少している。
54 2025年1月に尹大統領(当時)への弾劾訴追案が韓国議会で可決し、4月に憲法裁判所により大統領が罷免。その後の6月の大統領選挙により李在明氏が当選した。
55 韓国政府は、所得に応じて1人当たり15~50万ウォンの民生回復消費クーポンの支給を決定した。プリペイドカードやギフト券により、2回に分けて支給される。第一次の申請・支給期間は7月21日~9月12日、第二次は9月22日~10月31日とされ、使用期限は11月30日となっている。
56 財輸出総額に占める割合:電子部品37.3%、情報通信機器27.9%(2024年)。
57 台湾の主要な貿易相手国・地域の構成比(2024年財輸出金額ベース)は、中国(香港含む)31.7%、米国23.4%、ASEAN18.3%、欧州8.1%。
58 2025年4月2日の米国大統領令によると、ASEAN各国の相互関税率は、カンボジア49%、ラオス48%、ベトナム46%、ミャンマー44%、タイ36%、インドネシア32%、ブルネイ24%、マレーシア24%、フィリピン17%、シンガポール10%。
59 2025年7月31日の米国大統領令によると、ASEAN各国の相互関税率は、ラオス40%、ミャンマー40%、ブルネイ25%、ベトナム20%、カンボジア19%、インドネシア19%、マレーシア19%、フィリピン19%、タイ19%、シンガポール10%。
60 この間、カンボジアとの国境紛争をめぐるペートンターン首相(当時)の対応が問題視され、タイ憲法裁判所に提訴、8月に首相資格喪失の判断が下され、9月にアヌティン新首相が選出されるといった政治的な混乱があった。
61 近年、太陽電池生産に関して中国から東南アジア各国への生産移管が進んでいる。生産移管により東南アジア各国からの対米輸出が増加する中、不当に安価な輸出であるとの米国内企業からの反発もあり、米国は2024年5月に相殺関税に関する調査を開始し、11月にベトナム、マレーシア、タイ、カンボジアからの輸入に対してアンチ・ダンピング関税を発動した。その影響も背景に、再生可能エネルギー推進を図るインドネシアや、ラオスへの太陽電池の生産移管が進んだといわれている。
62 2024年名目輸出相手国上位5か国:米国10.4%、フランス7.5%、オランダ7.1%、ポーランド6.0%、中国5.8%
63 米国の乗用自動車に対する最恵国(MFN)関税率は、2.5%。

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