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1.財政政策上の論点

 ギリシャをはじめとする南欧諸国等の国債利回りやCDSプレミアムの高まりは、財政の持続可能性に対する市場の信認の必要性を各国に改めて認識させることになった。また、ギリシャにおいて財政緊縮策が景気下振れにつながり、かえって財政悪化を招くという悪循環に陥ったという事実は、危機が顕在化してから財政健全化策に着手したのでは遅すぎることを示唆しているものと思われる。

 経済成長と財政の持続可能性の確保をどのように両立させていくかが、先進各国が直面する共通の問題となっている。信頼し得る成長戦略の策定・実行や規制改革等の各種施策への取組、金融緩和により、財政再建を支える経済成長を促すことが肝要であるとともに、財政再建に当たっては、以下の3点に留意する必要があると考えられる。

 第1に、国民や市場参加者から信頼が得られるような実現可能性の高い枠組み(財政再建目標・計画、財政ルール)の構築である。財政赤字削減策を着実に遂行するための法的枠組みなどを設けることも有用であると思われる。また、財政再建の目標や計画については、前提条件が楽観的な見通しに基づいている場合には、国際金融市場の変動等の急速な経済環境の変化が起これば瞬時に有効性を失うこととなる。このため、経済成長については控えめのシナリオを前提に目標・計画を策定し、また、経済環境の大きな変化があった場合は柔軟に計画等を変更し適応できるようにするなどして、計画に対する信頼性を高めておくことも重要となる。

 第2に、財政再建に対する国民の理解の確保・促進が必要である。ギリシャやイタリア等では、財政再建策に反対する国民によるゼネストが行われるなど国内が混乱している。国民の理解が十分に確保されないままに公共サービスの縮減や増税等を行うことは、政情不安や政権基盤の弱体化にもつながる。そうなれば、一部格付会社が指摘しているように、財政健全化目標の達成の不確実性が高まり、むしろ、財政再建を遅らせることも考えられる。また、財政の持続可能性について国民の懸念が生じるような場合には、先行きの不確実性の高まりを通じて、家計消費や企業投資の抑制要因ともなり、それによって実体経済が悪化をすれば財政再建の足を引っ張ることにもなり得る。財政再建に対する政治の強いコミットメントとともに、財政再建の目標等の明確化による国民からの理解の確保が、市場の信認確保と家計や企業の先行き不確実性の低下等のために重要と考えられる。

 第3に、景気回復の見通しに照らして適切な財政再建のペースを保つことである。その際、自国のみならず他国の財政再建や景気動向にも、十分に配意する必要がある。例えばある国の財政緊縮が当該国の景気悪化をもたらせば、貿易・投資等を通じて他国の景気にも影響を与えることが考えられる。したがって、各国が他国との関係を考慮せずに財政再建を進めた場合、一つ一つの国としては適切なペースであったとしても、相乗的な景気悪化が起これば各国で財政悪化を招くことで、全体としては財政健全化を遅らせるという、合成の誤謬のような事態が起こり得る。このような事態を防ぐためには、例えば、各国の財政健全化ペースが他国の財政健全化との関係を含めて当該地域の経済成長の観点から適切なペースとなっているかどうかについて国際機関等がチェックを行うことや、ユーロ圏等においては域内各国で財政再建を進めるペース・順序を調整することなども、一考に値するものと考えられる。

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