第2章 先進国同時景気後退と今後の世界経済 |
第3節 アジアの景気は減速
3.アジア経済の見通しとリスク
以上の分析を踏まえ、アジア経済の今後の見通し及び今後のリスク要因について整理してみることとしたい。
(1) メインシナリオ
アジア経済の見通しとしては、中国は、世界経済の減速に伴う外需の鈍化により、09年前半にかけて景気減速が見込まれるものの、賃金上昇による所得の増加を背景に、ここ数年前年比二けたの伸びと引き続き堅調に推移している個人消費や、08年11月9日に発表された大規模な内需拡大策(概算で約4兆元規模)の効果に支えられて大幅な減速は回避され、09年の経済成長率は8%台を維持するものと見込まれる(第2-3-20表)。さらに、10年からは、世界経済の持ち直しの動きに合わせて徐々に成長率が高まり、9%台の成長率に戻っていくことが見込まれる。
NIEs、ASEAN諸国及びインドは、アメリカ、ヨーロッパの景気後退の影響を強く受けて減速することが見込まれる。とりわけ、NIEs諸国の減速は大きいものと見込まれ、本格的な回復は、世界経済が持ち直す10年からになると考えられる。
オーストラリアは、世界経済減速の影響やこれまでの金融引締めの効果等により減速するものの、09年においても、成長率は1〜2%を維持し、10年から、アジア諸国と同様に本格的な回復に向かうことが見込まれる。
(2) 経済見通しにかかわるリスク要因
上記のメインシナリオに対しては、以下の上振れ、下振れリスクが考えられるが、より可能性が高いのは下振れリスクと考える。また、政情不安やテロの発生等の影響にも留意する必要がある。
●上振れリスク要因
(i)中国経済が高成長を維持
(1)でも言及したとおり、中国政府は、マクロ経済政策のスタンスを変更し、金融緩和や大規模な財政刺激策に本格的に乗り出しているが、これらの政策の効果が高い波及効果をもたらす、あるいは更に追加的な財政支出等の措置が採られることにより、家計消費、固定資産投資等の内需が高い伸びを続ければ、09年の実質経済成長率は現状の9%以上を維持する可能性も考えられる。その場合には、輸入も高い伸びを維持することが予想される。
また、08年8月以降の原油価格や食料品価格の下落により、交易条件が改善していることや、他の通貨が大きく減価しているのに対して人民元が増価基調となっていることにより、家計の購買力が拡大し、家計消費や輸入の伸びが高まる可能性も考えられる。その結果、家計消費に比して投資の比重が高い経済構造のアンバランスが解消されていくことが期待される。
なお、上記のいずれの場合にも、中国向け輸出の占める割合が高いアジア各国の経済に好影響を及ぼし、地域経済全体をけん引していくことになると考えられる。
(ii)通貨減価によるNIEs、ASEAN諸国の輸出の増加
NIEs、ASEAN諸国においては通貨が大きく減価していることから、先進国向けや中国向けの輸出が増加し、世界経済減速による輸出減速の影響が相殺され得る可能性も考えられる。
●下振れリスク要因
(i)中国経済が大きく減速
世界経済の減速の影響を強く受け、中国の輸出の伸びは今後大きく減速するおそれがある。それに伴い、2.で述べたような過剰設備の問題や雇用問題が顕在化し、中国経済に大きな割合を占める固定資産投資の伸びが大きく鈍化し、同時に家計消費も鈍化することが考えられる。その場合には、経済成長率は、97年の夏からのアジア通貨危機後と同様に急減速することも考えられる。アジア通貨危機後には、輸出が大幅に鈍化するとともに(97年後半から減速し、97年全体では前年比21.0%増となったが、98年には同0.5%増まで落ち込んだ)、消費を中心として内需が低迷、消費者物価上昇率は98年にマイナスに転じ、経済成長率は、過去5年(92〜96年)の平均成長率12.4%から、97年は9.3%、98年には7.8%と5%近くの落ち込みとなった(第2-3-21図)。もし、今回、当時と同様の落ち込み幅となれば、09年は5〜6%台の成長となることも十分考えられる。
(ii)金融危機の影響の深刻化
中国を除くアジア諸国については、世界的な金融危機の影響による海外への資金流出が、株価や為替の下落にとどまらず、国内における資金調達コストの上昇や信用供与の悪化をもたらし、消費や投資を押し下げるリスクがある。
また、一部の国において金融危機が発生した場合に、経常収支赤字や為替の大幅な下落等による制約から、財政・金融政策による機動的な対応が困難となることが考えられ、影響が深刻化する可能性がある(第1章参照)。
(iii)政情不安やテロの発生等の影響
タイでは08年8月以降反政府勢力による抗議活動が活発化しており、インドでは、同年11月、ムンバイにおいて大規模なテロが発生した。タイでは、抗議活動により、11月下旬から国際空港が1週間以上にわたって閉鎖されたため、観光産業、貿易等への影響が懸念される。また、インドでは、近年増加している直接投資等の流入への影響等が考えられる。こうした各国の国内情勢が経済に与える影響についても、留意が必要である。
(iv)国際商品価格の下落の影響
このところの原油価格や一次産品価格の下落の影響を受け、国際商品の輸出依存度が高い一部の国、例えば、タイ(コメ)、インドネシア(原油)、マレーシア(パーム油・同製品等)、オーストラリア(小麦、鉄鉱石等)といった国々の経済が大きく減速する可能性がある。ただし、その場合でも、各国の経済規模はそれほど大きくないことから、アジア地域全体への影響は限定的なものとなると考えられる。