17 英 国 United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
<2007年の経済>
2007年の経済成長率は、3.0%程度となる見込みである(政府見通し3.0%、民間機関25社の平均3.0%(07年10月時点))。民間機関の見通しは、半年前(07年4月時点2.6%)に比べて上方修正されている。
6月にブレア政権からブラウン政権に移行した英国は、戦後の長期平均(約2.5%)を上回る成長を遂げる見込みである。金融業を中心としたサービス産業が好調であり、成長率の加速に寄与している。9月には、金融資本市場の変動を受けた市場の流動性不足から預金の取付けや住宅金融機関の破綻が発生し、イングランド銀行(BOE)による市場への緊急の流動性供給も行われた。ただし、7〜9月期まではGDPも潜在成長率を上回って推移し、実体経済が顕著に悪化する兆しはみられていない。
企業部門の好調さを背景に雇用者数は増加を続けており、労働市場のひっ迫が続いているが、移民の流入が続き、賃金面からの物価上昇圧力は引き続き抑制されている。雇用や所得環境が改善しており、加えて、このところ減速の兆しがみられるものの高水準にある住宅価格による資産効果が消費を下支えしたと考えられ、06年央からの5度にわたる利上げにもかかわらず個人消費は好調を維持してきた。消費者物価の前年同月比上昇率は、3月に3.1%に達したが、それまで消費者物価を押し上げていた電気・ガス料金が、07年春から徐々に値下げされた影響が 浸透した結果、7月にはインフレ目標の2%を下回り、その後もおおむね2%の目標近辺で推移している。
<2008年の経済見通し>
2008年の経済成長率は2%台前半となる見込みである(政府見通しは、2.0〜2.5%、民間機関25社の平均2.2%(07年10月時点))。欧州委員会の秋季経済見通し(07年11月)では、08年は2.2%の成長を予測している。
金融資本市場の変動や住宅市場の緩やかな調整が08年の英国経済を減速させると予想される。金融機関の貸出態度は厳格化しており、家計や企業の資金調達環境はこれまでより引き締まっていくものと見込まれる。雇用環境は良好であるものの、可処分所得の弱い伸びに加え、住宅価格の上昇鈍化が見込まれる中で、モーゲージ市場が比較的発達しMEW(Mortgage Equity Withdrawal)が普及した英国では、消費の伸びも鈍化することが見込まれる。また、06、07年には高い伸びを示し景気をけん引してきた企業の設備投資も資金調達が引き締まることにより抑制されるとみられる。
さらに、景気の下方リスクとして、金融資本市場の変動の影響が長期化すれば、経済に占める金融業のシェアが大きい(関連する産業も含めれば総付加価値の約3割)英国にとっては景気のさらなる減速、雇用悪化等多方面での悪影響が懸念される。
<財政金融政策の動向>
2007年度の財政赤字はGDP比3.0%となる見込みである。近年の財政収支の改善を受けて、英国に対する過剰財政赤字是正手続は、07年10月のEU経済・財務相欧州理事会において正式に解除された。しかし、07年プレバジェット・レポートでは、金融資本市場の変動等を受け経済・財政見通しが下方修正された。また、歳入面においては、企業収益の悪化から法人税、所得税収の伸びの鈍化、北海油田関連の税収減等が懸念される。
金融政策について、イングランド銀行の金融政策委員会(MPC)は、07年7月、堅調な経済成長が持続する中、企業の余剰生産能力は限られており、価格上昇圧力が強いとして、政策金利を0.25%引き上げ5.75%とした。その後、金融資本市場の変動により不確実性が高まったこともあって据置きを続けている。07年11月のインフレ・レポートは、08年は消費者物価の前年比上昇率が2%のインフレ目標を上回って推移すると予測しているものの、景気減速が見込まれることから近い将来の利下げの可能性を強く示唆するものとなっている。