第 I 部 海外経済の動向・政策分析 |
第1章 サブプライム住宅ローン問題の背景と影響
1.サブプライム住宅ローン問題の発生
●サブプライム住宅ローンの延滞・焦付きの深刻化
2006年後半以降、サブプライム住宅ローンの延滞率は急速に高まった(第1-2-1図)。第1節でみたように、サブプライム住宅ローンの多くは貸し出されてから2年後(もしくは3年後)に金利がリセットされるが、担保となる住宅価格が上昇していれば借換え等によってこのショックを免れることができる。しかし、06年半ば以降、住宅価格の上昇率が減速し、一部の地域では下落し始めると、借換えが困難になりリセットショックに直面する借手が増えたため、延滞率の急速な悪化に結びついた。
ローンの延滞・焦付きを深刻化させた要因として、住宅販売の勢いが鈍化し始めた05〜06年において、貸付機関同士の競争激化や投資家の高利回りな金融商品に対する需要増といった環境の下、サブプライム住宅ローンの貸出しを加速させた貸付機関の融資基準が弛緩したことも影響したと指摘されている(28)。サブプライム住宅ローンの貸出しでは、リセット後の変動金利を考慮した平均金利ではなく当初低く抑えられた固定金利のみを前提に審査を行ったり、借手の所得等からみた返済能力ではなく担保価値に基づいて審査するといったケースが多くみられた。さらに、変動金利型やIO型の住宅ローンの貸出しの割合が上昇しただけでなく、この時期の貸出しの半数以上が、借手の所得証明等の書類が不十分なまま、住宅価格の8割以上といった多額の貸出しを行う高リスクな貸出しであった(29)。特に、06年に貸し出されたサブプライム住宅ローン(06年ビンテージローン)の延滞率の上昇は顕著で、金利のリセットを迎える時期以前から既にほかのビンテージローンの延滞率のピークを大幅に上回っている状況となっている(第1-2-2図)。中には、貸し出されてから最初の4か月の返済で焦付きを起こすといった短期間でのデフォルト(Early Payment Default)も多くみられるとの指摘もある(30)。
07年前半まで06年ビンテージと同様の貸出しが継続していたともいわれているが、05年以降に貸し出されたサブプライム住宅ローンについては、07〜09年にかけて金利のリセット時期を迎えるものが多く、ピークを迎えるのは08年後半になると見込まれる(31) (第1-2-3図)。今後は住宅価格の下落が見込まれ、また既に金融機関の融資態度が厳格化している状況を踏まえると、借手が借換え等によってショックを免れることは困難であり、延滞率がさらに上昇する可能性が高い。また、Alt-Aローンやプライム住宅ローンでもハイブリッド変動金利型ローンの延滞率が、水準は低いもののこのところ上昇している点にも留意が必要である(前掲第1-2-1図)。
●サブプライム住宅ローンの貸付機関の資金調達難と相次ぐ破綻
サブプライム住宅ローンの延滞やデフォルトの増加により、サブプライム住宅ローンの貸付機関も大きな損失を被った。特に、サブプライム住宅ローンの貸出しの5割程度を占めていたモーゲージ・カンパニーの多くは、セカンダリー市場での証券化商品に対する需要が急速に減少したことに加え、既にセカンダリー市場に売却したローンについても早期に焦付きを起こしたものは原則買い戻す必要があったため、資金繰りに行き詰まり、業務停止や破綻、買収等に追い込まれたと指摘されている(32)。
また、商業銀行やS&L等の貸付機関においても、サブプライム住宅ローン問題の発生以降、以下に述べるような証券化市場や金融資本市場の変動によって住宅ローンの貸出しに必要な資金調達が困難となるものが現れた。このため、アメリカ連邦住宅貸付銀行(Federal Home Loan Bank : FHLB)制度に加盟する商業銀行等の金融機関の中で、FHLBに対して融資を求めるケースが急増し、融資残高が09年9月末時点で8,220億ドルと8月から9月に合計1,630億ドル増加した。