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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第1章 先進各国の財政政策の動向

第1節 1990年代以降の先進諸国の財政動向

3.ヨーロッパ各国

 ヨーロッパ各国では、通貨統合を控えて90年代に財政健全化が図られたが、通貨統合以降は、財政赤字が3%基準を超え過剰財政赤字手続の適用対象となった国が通貨統合参加12か国のうち6か国(EU25か国中では13か国)に及ぶ(第1-1-5表)。このうちドイツ、ギリシャ、イタリア、ポルトガルの財政赤字は、05年においてもなお3%を超過した。この結果、ユーロ圏全体の財政収支は、2000年の収支均衡から03年にはGDP比3.1%まで悪化した(前掲第1-1-1図)。また、05年末で、一般政府の債務残高が60%を越えている国がユーロ圏で7か国ある。
 しかし、各国の財政状況は04年頃よりある程度改善しており、05年の財政赤字はユーロ圏で同2.4%となった。06年以降も、06年11月の欧州委員会見通し(European commission (2006b))では、06年は同2.0%、07年は同1.5%と改善が見込まれている。また、安定成長協定の規定により、各国とも財政の中期目標を収支均衡ないしその近傍に設定しており、財政健全化をさらに進めることとなっている。
 以下、主要国について最近の動向をみると、2000年代初頭に財政が悪化した要因としては、01年よりの世界的な景気後退による循環的収支の悪化もあるものの、ドイツ及びフランスでは財政収支が良好な年から複数年にわたり減税を行ったことの寄与が大きい。例えばドイツでは、90年代には財政健全化のために増税していた法人や個人に課される直接税が、シュレーダー政権の税制改革パッケージである「税制改革2000」(7)により、特に2000年以降軽減されている。また、英国については、ブレア政権の重視する教育、医療、社会保障等の分野での歳出増加の寄与が大きかった。
 しかし、ドイツ、フランスでは04年より、英国では05年から、景気の回復もあり、また、安定成長協定への対応プロセスを通じて、緩やかながらも再び財政健全化の方向に向かっている。フランスは05年、英国は05年度(8)に3%基準を達成し、ドイツも、06年に3%基準を達成する見込みとされている。このため、これら各国の過剰財政赤字手続は事実上停止されている(ただし、欧州委員会が監視することとされている。)。

●ドイツ
 ドイツは、90年の統一後旧東ドイツ関係の支出増に伴い財政が悪化し、所得税・法人税に対する追加課税となる連帯付加税の導入等の緊縮的措置もとられたが、循環的要因もあって95〜96年と財政赤字がGDP比3%を超過した。その後、歳出削減や付加価値税率の引上げ(9)等により財政収支を改善し、2000年には、一時的要因(10)や好況による循環的収支の黒字にも助けられてGDP比1.3%の財政黒字を計上したが、なお構造的収支は同1.9%の赤字であった(第1-1-6(1)、(2)図)
 2000年から03年にかけては財政収支が悪化した。これは、一時的要因のはく落や循環的要因もあるものの、98年に発足したシュレーダー政権が、国際競争力の向上や成長の持続、雇用の増大等のために2000年に公表した「税制改革2000」に基づき、法人税減税や段階的な所得税減税を行ったことによる面が大きかったと考えられる(第1-1-6(3)図)。03年には、循環要因もあり財政赤字は同4.0%に悪化した。
 財政収支の悪化を受け、欧州委員会は、02年11月より過剰財政手続に入った。累次の交渉の中でドイツ政府から示された財政見通し(安定プログラム)は財政健全化が遅延する方向に修正を重ね、実績ベースでは3%基準が達成されない状況が続いた(第1-1-6(4)図)
 ただし、04年以降は、社会保障等の歳出削減が強化されたことなどにより財政収支が改善に向かっており、また、07年には、付加価値税率の引上げ(16%から19%に)、公的健保の保険料率の引上げ等が予定されている。こうしたことを踏まえ、06年7月には、欧州委員会は、「06年及び07年の予算が執行されれば過剰財政赤字が07年までに是正される」との見込みの下、過剰財政赤字手続を事実上中止した。また、06年11月の同委員会見通しでは、06年の財政赤字はGDP比2.3%、07年は同1.6%と見込まれている(11)

●フランス
 フランスでは、マイナス成長となった93年の財政赤字はGDP比5.8%に達したが、付加価値税の増税(12)や法人に付加する連帯付加税の導入(13)を中心に、また歳出削減等の積み重ねにより、2000年の財政赤字は同1.5%まで縮小した。しかし、2000年代に入ってからは、ドイツの税制改革にも影響され、2000年に公表されたプランに基づき所得税率の段階的引下げや連帯付加税(14)の段階的廃止が行われたこと等から、財政赤字は、02年には同3%を越え、03年には同4.2%まで悪化した(第1-1-7(1)、(2)、(3)図)
 フランスにおいても、政府が示した財政収支見通し(安定プログラム)は修正を繰り返し(第1-1-7(4)図)、03年4月に欧州委員会が過剰財政赤字手続を開始した。しかし、04年12月には、05年の財政赤字は同3%以下に抑制される見通しであるとして手続は事実上中止された(実際に、03年12月に提出された財政見通しにほぼ沿った形で、05年の財政赤字は、同2.9%と3%基準を達成している)。06年以降については、06年11月の欧州委員会見通しでは、06年は同2.7%、07年は同2.6%の赤字と見込まれている(15)

●英国
 英国は、93年にGDP比7.9%の財政赤字を計上した。しかし、財政ルールとして、メージャー政権の下では歳出のうち景気循環に左右されない部分の伸び率を経済成長率以下にする原則の下で3年分の支出計画の策定を求めるコントロール・トータル制度が、97年に発足したブレア政権の下では公的借入の対象を投資的経費に限定するゴールデン・ルールや3年を単位として歳出の総見直しを行う包括的歳出見直しが、規定された(16)。英国は、これらにより歳出削減を進めるとともに、所得税の控除の縮小や間接税の増税等を行い、98年には財政黒字を達成した。さらに、循環的要因や一時的要因もあって、2000年には同4%近い黒字を計上した(第1-1-8(1)図)
 しかし、01年度(17)以降、ブレア政権の重視する教育、医療、社会保障等の歳出増(第1-1-8(2)図)を中心に、小規模企業の法人税の減税やキャピタルゲイン課税の軽減等もあって収支が悪化し、03年度以降財政赤字は同3%台で推移している。
 ただし、政府は歳出抑制や景気拡大による税収増等により財政収支は改善すると見ており、欧州委員会見通し(06年11月)では、それまで同3%を越えていると見られていた05年度の財政赤字が事後的に同2.9%と認められるとともに、06年度の財政赤字は同3.0%、07年度は同2.7%と見込まれている(18)。このため、英国も一時過剰財政赤字手続の対象とされたが、現在は事実上中止されている。


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