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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第1章 拡大した経常収支不均衡と企業部門の貯蓄超過

第2節 制度部門別にみた貯蓄・投資バランスの変化

 本節では、得られるデータに基づき、制度部門別貯蓄・投資バランスの各国・地域別の動向をみる。

1.先進国の現状

●アメリカにおける財政部門及び家計部門の赤字拡大
 アメリカの経常収支赤字の背景には、政府部門の赤字があるとよく指摘される(アメリカの双子の赤字の問題)。1990年代半ば以降の経常収支赤字拡大過程をみると、家計部門の貯蓄超過が縮小し、99年以降は赤字に転ずる一方で、01年以降は、90年代に均衡化し98年以降は黒字化していた財政収支が再び赤字に転じたことがある(第1-2-1(1)図)。家計部門が赤字化した背景には住宅価格上昇による消費への資産効果が考えられ、この点については、第2章で考察する。
 企業部門をみると、91年以降貯蓄・投資バランスの変動幅が小さくなる傾向があるが、97年以降しばらく投資超過が続いた後、01年以降貯蓄超過となっている。

●ドイツ、英国、フランス、日本
 ドイツでは、家計部門が安定して貯蓄超過となっており、2000年以降、失業率の高止まりや年金制度改革に対する将来不安等から、超過幅が増加している。2000年以降は、家計部門のみならず企業(非金融法人)部門でも貯蓄超過が続く一方で、財政赤字はGDP比3%を上回り、EU加盟国における財政規律(「安定成長協定」:財政赤字GDP比を3%以下にとどめる)は達成できていないものの、安定的に推移している (3)
 英国では、98年以降政府部門が貯蓄超過となる一方で、家計部門が投資超過となった。政府部門は02年以降、景気が減速する中で再び投資超過となり、その後も社会保障関連支出の増大等から赤字が拡大している。非金融法人企業部門は02年以降貯蓄超過となっている。
 フランスでは、政府部門は赤字が続く一方で、家計部門は貯蓄超過が続き、非金融法人企業部門は01年以降投資超過となっている。
 日本では、家計部門は一貫して貯蓄超過となっているが、超過幅は90年代以降緩やかに縮小している。政府部門の赤字は90年代に拡大し、2000年以降は横ばい傾向にある。一方、非金融法人企業部門は98年度以降貯蓄超過となり、その後超過幅が拡大傾向にある。

2.中国及びNIEs等の現状

●中国
 中国は、家計部門が安定した貯蓄超過主体となっている(第1-2-1(2)図)。非金融法人企業は投資超過が続いているが、家計部門の貯蓄が金融機関の仲介を通じて企業部門の高投資を賄うパターンとなっている。一方、政府部門は積極財政政策により98〜99年にかけて悪化したものの、その後赤字は縮小傾向にある。

●NIEs、タイ及びオーストラリア
 アジア危機の影響を受けたアジア諸国のうち、韓国、タイについてみると、韓国では90年代以降家計部門と政府部門が貯蓄超過となり、企業部門が投資超過となっていた。しかし、97年の危機により投資が抑制されたため、企業部門の投資超過は大幅に縮小している。一方で、家計の貯蓄超過も大幅に縮小している。政府部門は、97年の危機後、景気回復のための支出が増加したことにより、赤字が続いていたが、その後景気回復による税収の伸びにより赤字幅は縮小している。
 タイは、やはり家計部門が貯蓄超過であったが、危機後は政府部門が赤字となる一方で、家計部門の貯蓄超過が拡大し、非金融法人企業部門も貯蓄超過に転じた。その後、政府部門の赤字が縮小するとともに、企業部門及び家計部門の貯蓄超過も縮小する傾向にある。
 台湾は、家計部門は大幅な貯蓄超過を維持している。政府部門は90年代末以降赤字が続いているが、緊縮的な財政運営により支出は削減され、赤字幅は02年以降縮小している。企業部門は投資超過となっている。
 オーストラリアは、97年以降についてみると、家計部門が2000年以降赤字傾向となる一方で、企業部門の投資超過が縮小している。

3.90年代前半との比較

●日米で顕著な家計部門の黒字縮小、政府部門の赤字拡大
 制度部門別にみた貯蓄・投資バランスの状況を、各国比較及び世界的不均衡の観点からみるためドル換算し、アジア危機の発生する以前の90年代前半平均値から04年への変化をデータの得られる主要国についてみると(第1-2-2図)、アメリカの経常収支赤字の背景には、家計部門と政府部門の赤字拡大が存在し、特に家計部門の赤字が大きく寄与している。日本も家計部門の黒字縮小が一番大きく、次いで政府部門の赤字拡大がある一方で、非金融法人企業及び金融部門では貯蓄超過方向に寄与している。
 その他のドイツ、英国、中国、韓国については、政府部門の動きは赤字、黒字の相違はあるものの、変化は小さく、安定した動きとなっている。

●貯蓄超過傾向がみられる企業部門、国により異なる家計部門
 企業部門は中国を除き、04年は90年代と比べ貯蓄・投資バランスが貯蓄超過の傾向にある。既にみたように、ドイツ、英国、タイでは企業部門が貯蓄超過となっており、韓国、台湾でも投資抑制により投資超過が縮小傾向にある。日本ではバブル崩壊後企業部門の投資超過が縮小し、98年度以降貯蓄超過主体となり、超過幅は拡大している。
 家計部門は国により異なるが、アメリカ及び日本の悪化が大きい一方で、中国では黒字の拡大がみられる。


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