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第II部 世界経済の展望――緩やかな景気回復

第1章 2003年の経済見通し

 2001年の海外経済は2%程度の成長に鈍化した。その後、世界で景気回復の動きがみられたことから、2002年の成長率は3%台半ばになると見込まれる。本章ではこうした動向を踏まえながら、2003年の経済見通しのポイントを主要地域別に明らかにしたい。検討においては民間機関の平均的な見方(10月31日までの公表分)を参考にした(第II-1-1表)。なお、各国別のより詳しい動向は別添の資料を参照されたい。

1.アメリカ

 2002年は、春時点で主流となっていた景気急回復の見込みが世界的な株安の中で頓挫し、年後半からはまだら模様の経済成長にとどまる結果、年平均成長率は2.4%程度となる。2002年後半に成長が鈍化した後、2003年後半に向けて回復力が高まる結果、年平均成長率は2002年よりやや高い3.0%程度の成長となる。2002年の見通しは、春時点の見通しに比べてわずかに下方修正(0.1%)されている。
 2003年前半までは、好調な家計部門に比べ企業部門の調整が遅れ気味に推移することから、緩やかな回復に抑えられるが、後半には、企業部門の立ち上がりが経済成長の高まりに貢献すると期待できる。

●消費、住宅が企業部門の弱さを補った緩やか回復
 減税を中心とする財政政策の効果や金融緩和の効果が、個人消費や住宅投資の増加に寄与し、株価下落の逆資産効果を打ち消して内需回復を支えている。2002年後半には、雇用回復の遅れを主因としたマインドの悪化により個人消費に減速がみられる。これまでの回復は90年代初と同じく「雇用なき回復」であり、回復力が弱いものにとどまる要因となっている。
 しかし、強い実需に支えられた住宅投資が堅調に増加していることから、経済全体が二番底(ダブルディップ)に陥る可能性はやや低いと考えられる。雇用については、中小企業関連分野を中心に増加の兆しもみえる。

●企業部門の回復が鍵
 これまでのところ、企業収益の改善は弱いものとなっている。そのため、企業バランスシートの改善も緩やかであり、設備投資の回復力の弱さから2003年前半にかけて景気動向は脆弱なものとなる可能性がある。今回の景気回復は、企業部門の収益回復が遅れていることから、雇用の持ち直しが弱く、さらに設備投資の回復が過去の局面に比べ後ろ倒しになっていることが大きな特徴である。したがって、これらが今後の動向の下方リスクと考えられる。
 他方、金融緩和の継続や生産性の高い伸びが続くことは収益環境にとって好ましく、企業部門は今後も改善が徐々に進むとみられる。その結果、企業部門の弱さは2003年後半に向け徐々に軽減されるとみられ、投資の回復も確実性を増すと見込まれる。
 しかしながら、2002年度に赤字に転落した財政赤字が中期的に継続すると予測されるなかで、経常収支赤字は史上最高額を更新しており、両赤字がアメリカ経済の動向に不透明感を高める要因となっている。


2.アジア

 欧米に比べてアジアは鈍化傾向がまだみえない。それどころか、春時点の見通しに比べて秋見通しは上方修正されている。その理由として、企業部門と家計部門に分けた場合、欧米では両部門とも好調な国がないのに対して、アジアでは中国、韓国、タイなどで両部門とも経済活動が堅調になっているからである。

(1)北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)

 2002年から2003年にかけて景気拡大が持続し、2002年の6.1%成長の後、2003年も6.2%成長と高い成長を達成する。2002年の見通しは、春時点に比べ上方修正(0.6%)されている。景気拡大は、内需の拡大が支えており、2003年前半にかけて欧米経済の一時的な減速の影響を受けると予想されるが、2003年後半に向けて再び輸出が拡大し、高成長が続くものと見込まれる。

●中国、韓国では強い内需
 中国では、WTO加盟の効果により外国資本の流入が続き、投資・消費を中心に内需主導の景気拡大が続いている。2002年半ばからは輸出の増加が成長を一層加速させている。2002年後半以降は、財政支出の一時的な息切れや輸出の減速が見込まれるが、消費の増加が持続することから2003年にかけて高成長を続けると考えられる。
 韓国では、過熱気味の消費がやや減速するなか、輸出の拡大が成長に貢献し2002年は景気拡大が続いている。アメリカの景気回復が緩やかになっていること、ウォン高や世界的な株価下落の影響などから企業家マインドが悪化していることなどから、2003年にかけて景気拡大は緩やかになる可能性がある。しかし、2003年にはアメリカ経済の成長が再び高まるなかで景気拡大が続くものと見込まれる。

●台湾、香港ではデフレ傾向が継続
 北東アジアが高成長を続けるなかで、台湾、香港ではデフレ傾向が継続している。物価の下落傾向が名目所得の増加を抑制し、企業収益を圧迫し、実質の債務残高を増大させている。さらに、生産拠点の中国本土移転が一層進展するなかで、輸出回復が内需の増加につながりにくい構造となっている。また、高い失業率の下で賃金も横ばいで推移すると見込まれることから、消費は弱い動きが続くと考えられる。
 アメリカ経済の動向に先行き懸念があるが、中国の高成長が続くと見込まれることから、輸出の増加が台湾、香港の景気回復力を強めていくことが期待される。

(2)ASEAN:シンガポール、インドネシア、タイ、マレイシア、フィリピン

 北東アジアに比べるとASEANの経済成長は緩やかであり、2002年は3.9%程度、2003年は4.4%程度になると見込まれる。春の見通しに比べて2002年は上方修正(0.6%)されている。投資の回復が遅れているが、2003年に向けて消費と輸出を中心に経済成長率は高まると考えられる。

●タイ、マレイシア、フィリピンでは内需が増加
 北東アジアに比べ経済成長が緩やかである大きな理由は、いくつかの国で投資の回復が遅れているからである。とくにシンガポールでは、2002年春以降輸出が回復しているが、投資の回復につながっていない。また、失業率も高い状況が続き、デフレ傾向の下で消費が減少している。
 インドネシアでは、消費が伸びを続けているものの、投資動向は不透明である。他方、タイでは個人消費や建設投資中心に投資が増加しており、景気は拡大している。マレイシアでは消費を中心として景気が回復している。また、フィリピンでは消費が堅調に増加しており、高い成長が続いている。
 アジア域内での貿易投資の連関が強まっていることから、北東アジアの高い成長もあって、ASEANも2003年に向けて成長の高まりが期待される。


3.欧州主要4か国
(ヨーロッパ4:ドイツ、フランス、イタリア、イギリス)

 2002年は春に見込まれていた緩やかな回復が停滞することになり、年全体としての成長率は0.9%程度に低下する。春時点の見通しに比べて下方修正(0.4%)されている。2003年には財政面の政策効果から更なる成長の鈍化が回避され、経済成長率は2.2%程度に高まる。しかし、投資動向には不透明感が強く、景気回復の確かさが増すのは2003年後半以降になると見込まれる。

●ドイツ、イタリア中心に弱さ
 2002年前半までの回復期待は、対米輸出の増加を中心とする外需主導によりもたらされていた。そのため、夏以降にアメリカ経済の回復が緩やかになり、外需が減速するに応じて、回復期待が収縮していった。消費や投資という内需に回復の動きがみられない国では製造業を中心に停滞傾向が強まり、年後半の成長はエンジンが欠けている。2003年には消費者マインドも安定すると見込まれることから、個人消費の底堅さも期待できよう。それによって、輸出回復とあいまって、再び前向きの在庫投資が景気回復を先導する動きをみせると考えられる。

●イギリスでは回復の動きが続く
 ドイツ、イタリアに比べ、相対的に高い成長をすると見込まれるのが、フランスとイギリスである。両国とも消費の伸びが持続することから、外需の鈍化を補った成長が可能になるという特徴がある。
 消費の伸びが高い要因としては、雇用の増加傾向が続いており、マインドの悪化を抑えていることが挙げられる。さらに、イギリスでは歴史的な低金利によって住宅建設が増加しており、これが内需を支えている。なお、フランスでは2002年秋に消費に陰りが現れつつあり、今後の動向に注意が必要である。


4.海外経済の概観

 以上の地域別の動向を総合すると、日本にとって関係の深い海外経済全体としては、2002年は3.5%程度の成長となり、前年の景気減速からは立ち直りを見せる。その後、2003年には4.0%程度へと回復は勢いを増すが、過去10年平均(4.7%)に比べやや緩やかなものになると見込まれる(第II-1-2図)。また、消費者物価上昇率は、2002〜2003年は2%台前半の安定した動きが続くとみられる。
 また、地域別に過去10年のトレンド成長率と2003年の成長率を比較すると、成長達成度(2003年の成長率/過去10年の平均成長率)はアメリカやアジアでは1に近づいており、過去10年の平均程度まで成長率が高まる見通しになっている(第II-1-3図)。他方、ヨーロッパでは1を超えており、やや急速すぎる回復の姿となっている。
 今後の動向を左右する大きな不確定要素として、次の2点を挙げることができる。
 第一は、回復のエンジンとなる設備投資がいつごろどのような強さで回復するかである。先進国では、歴史的な低金利にもかかわらず、稼働率の改善が初期段階にあることも手伝い、設備投資の回復傾向が明確になっていない。その大きな要因は、過剰設備の調整に遅れがみられること、株安などが引き起こした企業景況感の冷え込みにあるといえよう。現状から判断すると、2003年にかけて設備投資環境が急速に改善度合いを高めるとは期待しにくい。
 第二は、イラクを巡る軍事的緊張の高まりである。アメリカ議会は、2002年10月に政府によるイラクに対する武力攻撃を容認する決議を行った。中東情勢をめぐって今後どのように事態が展開するかは、大きな不透明感に包まれている。原油価格の高騰は世界経済に大きなマイナス効果をもたらすことから、今後の推移には十分な注意が必要である。
 このような不確定要素が残るものの、2003年の経済見通しの中心シナリオとしては、世界経済は年前半ごろまでまだら模様の中で回復が緩やかになり、成長率がやや低下する可能性があるが、年後半にかけて成長は高まると考えられる。
 また、中心シナリオで推移し成長率が低下する局面でも、景気停滞感は2001年に比べると弱いものにとどまるのではないかと考えられる。なぜなら、2001年は在庫の大幅な積み上がりや設備投資の過剰ストックの調整を必要とするはっきりとした景気後退であったが、今回は消費の減速を主因とする生産調整の動きであり、在庫や資本ストックの大幅な調整を必要とするような状況には至っていないと考えられるからである。


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