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第I部 海外経済の政策分析

第2章 欧州にみる主要な年金改革−ドイツ、スウェーデン

第4節 年金改革への視点 

 ドイツとスウェーデンを中心とした年金改革の経験から、我が国への示唆をまとめてみよう。先進主要国にとって年金改革の必要が生じた根本の原因は、経済社会環境の変化(経済の低成長や少子高齢化)により給付建て賦課方式の持続可能性に疑問が生じたことである。したがって、年金制度の中長期的な安定性をどのように取り戻すかが具体的な論点になる。

●ドイツ、スウェーデンの共通点
 ドイツでは調整的改革が実施され、給付引下げを行いつつ保険料率上昇を抑制する一方、任意ではあるが積立方式を導入して公的年金を補う施策が進められている。スウェーデンでは制度大改革が実施され、拠出建て賦課方式を導入して負担と給付の対応を図り、将来のリスクに対しては給付水準の自動的引下げをルールとして織り込み年金制度の安定化を図っている。
 この両国には以下のような共通する方向が見いだせる。(i)賦課方式を維持しつつも、給付水準の抑制を図ると同時に、保険料率の長期的な安定を約束し現役世代の信頼回復に努めていること、(ii)自ら運用する積立部分が将来世代の負担軽減につながる効果を評価し、その導入によって年金制度の多層化を図っていること、(iii)高齢者の就業促進が図れるような制度設計を行っていること、(iv)年金制度に対する国庫負担の役割を見直し低所得者や子育てへの配慮に重点化を図っていることなどであり、制度の安定性を取り戻すために総合的な施策が実施されている。さらに、年金に対する理解を深めるため、国民一人一人に予定年金額を含む年金情報を毎年提供している(ドイツ:2004年までに実施予定、スウェーデン:99年から実施)。

●スウェーデン年金改革の意義
 ドイツとの関係では以上のような共通点をもつスウェーデンであるが、その改革の画期的な意義は次のように要約することができる。
 第一は、概念上の拠出建て制度を導入したことである。これにより、負担と給付が直接対応し制度の透明性が向上する。また、世代間の不公平も解消される。これによって、年金制度に対する信頼感の向上が期待される。
 第二は、保険料率を固定するとともに、自動財政均衡メカニズムを導入したことである。これにより将来にわたり現役世代の負担を増やすことなく、かつ年金財政が安定化することが期待される。
 第三は、国の関与を最小限にするともに、積立部分の導入を通じて自助努力や民間に委ねる部分を大きくしている。同時に、退職年齢を各人の選択に任せるなど、自己選択と自己責任を重視している。
 しかしながら、スウェーデンには日本とは異なる事情があることにも注意が必要である。(i)スウェーデンでは年金は個人単位となっている一方、我が国では世帯単位で設計されている。(ii)スウェーデンでは自営業者も被用者も同一の年金制度に加入するが、日本では異なる制度下にある。(iii)国民性の違いも両国で大きく、貯蓄率や女性の就労率や就労形態が違うこと(日本では就労率が低くパートが多い)や、社会保障について高福祉高負担を是認するという差もある。
 また、スウェーデン型制度は、年金受給者が低成長や少子高齢化のリスクを背負うことになっている。特に少子化の場合には自動メカニズムが働き、現役世代を含め受給額が一斉に低下するリスクがある。これらのリスク度合いは毎年告知されるため、貯蓄を増やす、あるいは長く働くというような対処を個人が選択する必要がある。

●日本における年金改革の取組み
 日本の年金改革は、世代間扶養を基礎とした賦課方式の考え方の下に調整的改革が繰り返し実施されてきている。85年改正で給付水準の引下げと保険料率の引き上げが行われ、94年改正では支給開始年齢および保険料率が引き上げられ、2000年改正では給付水準を引き下げるとともに、支給開始年齢の引き上げを行っている。この結果2025年頃の保険料率は21%程度(国庫負担1/3)になるものと見込んでいた。しかし、少子高齢化の進展は想定を上回り、2002年5月の人口推計(中位推計)によると保険料率を3%程度引き上げる必要があると計算されている。
 2004年の次回年金改正においてどのような改革を実施し、現役世代の負担増加を抑制し、年金制度の中長期的な安定化を図るのかは大きな課題である。年金制度の安定化に向けた努力としては、スウェーデンの改革が一つの示唆を与えていると考えられる。国民の信頼を得る制度への改革に向けて、活発な論議が期待される。

(補論)スウェーデン型年金制度における年金額の計算方法
 ここでは、スウェーデン型年金制度(概念上の拠出建て賦課方式(以下NDC)部分、積立部分の両方を含む)において、支払った保険料拠出に応じて年金給付がどのように決まるのか、概要を説明する。
 なお、本稿第2節で行った計算も以下で説明する方法に基づいており、ここでとりあげている数値例はちょうど本稿第I-2-9図(i)の「保険料率13.58%(うち積立部分2.5%)」のケースを表している(その他のケースについても、前提を変更・追加して計算を行ったものである)。

1.個人ごとに年金資産勘定を作成

 各個人ごとに、NDC部分と積立部分のそれぞれにつき、年金資産勘定が作られる。年金資産は、保険料支払額とその(みなし)運用益の合計であり、将来の年金受給の権利額となっている。表-1に即して個人の年金計算の例を説明しよう。

2.保険料拠出と運用益に応じて年金資産が増加

 表-1のA.には、23歳で就職し65歳で引退する場合の年金資産をNDC部分、積立部分に分けて示した。保険料は年収の13.58%とし、うちNDC部分11.08%、積立部分2.5%と仮定した。
(i)NDC部分
 毎年、支払われた保険料(11.08%分)が年金資産に付加される。年金資産は、毎年みなし運用益の利率で増加する。これは、市場で運用した場合と同様に利子が発生したものとみなし、一定の運用益を仮定するものである。みなし運用益の利率は、名目賃金上昇率と同じに設定(ここでは2.5%と仮定)される。
(ii)積立部分
 年収の2.5%分の保険料が年金資産に積み立てられる。積立部分の年金資産は、実際に市場で運用され、運用結果に応じて資産額が増加する(ここでは市場での運用利回りが4.0%で一定と仮定)。

 このように蓄積された年金資産に基づいて、スウェーデンでは61歳以降自由に受給開始時期を選択できる。なお、61歳以降も年金を受給せず働き続ける場合には、それまでと同様に年金資産は増加する。

3.年金資産を平均余命で除して年金受給額を計算

(i)基本的考え方
 年金受給額は、受給開始時点において、当人の年金資産(NDC部分と積立部分の合計)を、その世代(同じ年生まれ)の平均余命で割った金額が基本となる。表-1のB.には、64歳まで働き、65歳から受給をはじめる場合、その金額が年額473万円となることが示されている。
(ii)賃金スライドと賃金上昇分の先取り
 以上が基本的な考え方であるが、実際の年金計算では、年金生活への移行による所得の急激な落ち込みを緩和するため、受給開始時に将来見込まれる賃金上昇分(年率1.6%と仮定)を先取りし、年金額を増額する仕組みが導入されている。
 具体的には、年金資産を除する場合に、平均余命ではなく、賃金上昇先取り分の効果を織り込んだ「除数」という数値を用いて計算する。その代り、この先取り分を考慮して、毎年の賃金スライドは名目賃金上昇率から1.6%を引いた値で行われる。この調整により、平均余命まで受給した場合に、先取り分がなかった場合と同じ受給総額になるように設計されている(下図参照)。


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