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第I部第2章のポイント

1.年金改革の二つの類型:調整的改革と制度大改革

●少子高齢化の急速な進展によって年金負担が増大する中で、これまで公的年金の持続可能性を回復するための改革が主要国で実施されてきた。
●これらは、(i)調整的改革(現行の給付建て賦課方式を維持しつつ、保険料の引上げ、給付水準切り下げ等を実施。例:ドイツ)と、(ii)制度的大改革(拠出建てを導入するなど現行の制度設計そのものを変更。例:スウェーデン)に分類できる。

2.ドイツ:保険料率の抑制を図りつつ積立部分を新たに導入

●2001年の改革では、給付建て賦課方式を維持し、給付水準を70%(現役世代の手取り収入比)から68%に引き下げ、保険料率の上昇を2030年までは22%以内(労使折半)に抑制した(現行19.1%)。
●給付水準の引下げを補う措置として、任意加入による積立方式の「補足的老後保障制度(リースター年金)」を新たに導入した。これは、政府が多額の助成金を付与する老後のための貯蓄奨励策である。この年金は民間機関が運用している。
●しかし、制度には多くの条件が課せれていること等から、加入者は非常に少ない状況である。少子高齢化が続く中で年金制度の安定性については多くの課題が残されている。

3.スウェーデン:保険料率に上限を設定し負担と給付を対応

●1999年の改革では、賦課方式を維持しつつ、かつ拠出建てで年金給付を行う制度(概念上の拠出建て賦課方式)を新たに導入し、保険料拠出額と年金受給額が対応するようにした。同時に、積立方式により運営される部分を導入した。
●新制度は保険料率を18.5%(賦課方式分16%、積立部分2.5%)で固定しており、現役世代の負担を一定水準に維持するようになっている。
●少子高齢化等により負担と給付のバランスが崩れる場合には、バランスを回復するために給付水準を自動的に切下げる仕組み(自動財政均衡メカニズム)を導入している。
●概念上の拠出建て賦課方式について、日本の平均的なサラリーマンのケースを想定して年金計算(個人単位)を行ったところ、日本の現行制度並みの給付水準(モデル年金代替率59%)を維持することは、(1)保険料率(13.58%)が不変の場合には就業の延長(73歳で引退する)、(2)65歳で引退する場合には保険料率の上昇(21%程度へ)を意味することが分かった。また、経済成長の鈍化、高齢化や少子化は給付水準を低下させる重要な要因であることが確認できた。

4.スウェーデンの改革の意義

●負担と給付が直接対応することにより、制度の透明性向上、世代間不公平の解消が図られ、年金制度に対する信頼感が向上する。
●保険料率を固定するとともに、自動財政均衡メカニズムを導入したことで、将来にわたり現役世代の負担を増やすことなく、かつ年金財政が安定化することが期待される。
●スウェーデンの年金制度には日本と異なる事情があるが、透明かつ事前予測可能な方法で年金額を再計算しており、年金制度の安定化に向けた努力としては一つの示唆を与えている。

第I部 海外経済の政策分析

第2章 欧州にみる主要な年金改革−ドイツ、スウェーデン

 世界の主要国では少子高齢化が急速に進展し、経済は低成長で推移するなど年金を取り巻く環境は悪化の一途をたどっており、年金制度が将来立ち行かなくなるのではないかと懸念されている。年金改革は喫緊の課題となっており、その改革方策について関係者の間で活発な議論が行われている。
 本章では、ドイツとスウェーデンを中心に最近の年金改革を概観する。両国は日本と同様に今後半世紀で高齢者比率が3割を超えると見込まれており、賦課方式を基礎に据えつつ改革を実施している。さらに本章後半では、年金制度の安定性にとって重要な課題である高齢化、少子化に関する年金面での取組みを紹介したい。
 なお、本稿での年金改革とは、公的年金のうち主として老齢年金(高齢になることによって受給できる年金)の改革を念頭においているが、必要に応じて障害年金等にも言及する。


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