第2章 (3)生産の動向

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本章冒頭で述べたとおり、2023年に入り、原材料・燃料価格の上昇が継続するなか、半導体等の部品供給不足が緩和し、生産面では持ち直しの兆しがみえた。ここでは地域別の生産動向を整理するとともに、地域の設備投資動向について特徴的な動きをみていく。

(自動車産業が立地する「東海」、「中国」を中心に生産は緩やかに持ち直し)

まず、全国の鉱工業生産全体の推移をみると、2022年後半は減少基調で推移してきたが、2023年1月に底を打ち、その後は半導体供給の改善に伴う輸送機械の生産回復にけん引され、春以降持ち直してきている(第2-3-1図(1))。

こうした全国の動きを地域別に分解してみていくと、各地域の製造業の立地(産業構成)、特に輸送機械、電子部品・デバイス、汎用・生産用・業務用機械の生産比率の違いによって持ち直しの状況に差がみられる。具体的に鉱工業生産指数の年初からの伸びを地域別にみると、輸送機械の生産比率の高い「東海」、「中国」は、天候要因の影響等による一時的な生産下押しはあったものの、年初に比べ生産水準を伸ばしている。一方で、輸送機械に比して電子部品・デバイスと汎用・生産用・業務用機械(半導体製造装置等)の生産比率の高い「東北」、「甲信越」、「北陸」では生産水準が横ばいないしは低下傾向で推移している(第2-3-1図(2)(3)第2-3-2図)。

(半導体関連の集積が進む「九州」の製造業で設備投資意欲が高い)

こうした地域別の生産動向に影響を与える設備投資の動きについても確認したい。日本政策投資銀行の「地域別設備投資計画調査(2023年6月調査)」から、2023年度の設備投資計画を地域別にみると、全産業では「北海道」、「北陸」、「九州」が前年比40%を上回る高い伸びとなっている。製造業に関してみると、「九州」は半導体産業に関連した工場の新増設などに伴い、非鉄金属、精密機械、電気機械などがけん引し、前年比114%増と突出した伸びとなっている(第2-3-3図(1))。

より直近で調査された日銀「短観(2023年9月調査)」の結果をみても、「九州・沖縄」の製造業で他地域に比べ高い設備投資計画となっており、TSMC熊本工場を始めとした半導体の国内生産拠点の整備を呼び水に、「九州」で設備投資意欲が高まっている様子がうかがえる(第2-3-3図(2))。

また、これに関連するデータとして、市区町村別に工業地価変動率をみると(第2-3-4表)、半導体産業に関連した工場の新設など設備投資意欲が高まる熊本県大津町や菊池市では、2年間(2021年から2023年にかけて)で地価が累計50%程度上昇している。熊本県と同様に新たに半導体の国内生産拠点として、ラピダスの新工場の建設が予定されている北海道の千歳市でも、2023年に工業地価が急上昇しており、こうした地価の動向をみても、今後設備投資が活発化していくことが見込まれる。

TSMC熊本工場を始めとする半導体関連産業の集積は熊本県の県内総生産を10年間で3.4兆円押し上げ、ラピダスについても道内総生産を14年間で11.2兆円押し上げるとの民間機関の試算も示されている(第2-3-5表)。このような新たな設備投資の動きは、建設需要等の活性化により短期的に経済を押し上げることに加え、地域の産業・就業構造の変革によって中長期的に地域経済の活性化に寄与することが期待される。

(コラム1:大阪・関西万博の経済効果)

近畿経済の大きなイベントとして、大阪・関西万博が2025年4月から約半年間開催32される。万博の経済効果について、建設投資増加と消費活性化による近畿を中心とした経済の直接の押上げ効果にとどまらず、むしろ万博ならではの重要な効果として、イノベーションの誘発と社会実装の推進、ソフトパワーの発信による我が国経済の中長期的な供給力強化(潜在成長率上昇)が期待されることをみていく。

(建設投資増加と消費活性化による経済押し上げ効果)

まず、建設投資増加と消費活性化による経済の押上げ効果については、2016年の万博誘致時の試算では2兆円程度とされている。その後公表された民間機関の推計でも、2兆円強の経済押上げ効果が見込まれている(コラム2-1-1図)。

(イノベーションの誘発と社会実装の推進)

また、万博は各国の先端技術や英知が集まる場であり、これまで技術の進歩に重要な役割を果たしてきた。例えば1970年の日本万国博覧会(大阪万博)では、ワイヤレステレフォンや動く歩道が展示あるいは設置・利用され、多くの人がそうした新技術を体験したことが、その後の技術開発や社会実装につながっていった(コラム2-1-2図)。

今回の大阪・関西万博は「People‘s Living Lab(未来社会の実験場)」をコンセプトに掲げ、万博会場を新たな技術やシステムを実証する場と位置付け、多様なプレイヤーによるイノベーションを誘発し、社会実装していくための巨大な装置としていくこととしている。大阪・近畿のライフサイエンス、バイオメディカルを始め、多様な参加者による多彩な先端技術が展示されることが想定されており、こうした技術の発展のきっかけとなることが期待される。

(ソフトパワーの発信)

さらに、世界から注目され、大勢の人を集める万博は、ソフトパワーの大きな発信力をもっている。例えば19世紀後半のパリ万博(1867年)及びウィーン万博(1873年)は、ヨーロッパにおけるいわゆるジャポニズムの契機となった。また、1970年の日本万国博覧会は、アジアで最初に開催された万博として我が国の高度成長をシンボライズするものであったほか、国内ではファミリーレストランやファーストフードといった外食の新業態や旅行ブームといった新しい生活文化が広まるきっかけとなり、万博で起用された若手アーティストがその後の芸術やファッション等に大きな影響を与えることとなった(コラム2-1-3図)。

今回の大阪・関西万博は、近畿及び我が国のソフトパワーの発信の機会となるとともに、異なる文化との交流を通じて新たな文化が生まれ広まるきっかけとなることが期待される。


脚注32 2025年4月13日~10月13日。
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