第2章 (2)消費及び観光の動向

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前節では、経済社会活動の正常化が人流を回復させ、景況感を大きく改善したことを確認した。本節では、こうした動きが、地域別の消費活動にどのように変化を及ぼしたか、2023年に入ってからの、人流データ、財(百貨店及びスーパーの売上高)とサービス(旅行・観光の動向を示す宿泊者数データ)等の動きを個別にみていく。

(マスク着用ルールの変更、5類感染症移行、夏休みを契機に各地域で人流は活発化)

対人サービスの動きの代理指標として、2023年初来の人流動向(前年からの変化)をみると、前年(3月21日まで)の行動制限が影響し、1月から3月中頃は全国的に大幅増となった。こうした影響の剥落する4月以降、増加幅は低下したが、全国平均はプラスで推移した。その後、経済社会活動の正常化後、初の夏休みを迎え、夏祭りやイベントを背景に、7月20日頃の小中学校の終業式を境に全地域で前年よりも人流が活発化した30。夏祭りは4年ぶりに通常開催したところも多く、そういったところでは前年を上回る人出となり、コロナ禍前より人出が増加したところもあった(第2-2-1表)。

夜間の人出について同様にみると、5類移行に伴い、会社等での会食制限も無くなり、昼間より回復の程度が大きくなっている。

(百貨店販売は人流の増加を背景に都市部を中心に回復)

次に、販売側からみた財消費を示す百貨店とスーパーの販売額を地域別にみていく。地域別の百貨店販売額(全店ベース)の推移をみると、2023年1-3月期は各地域とも販売額が前期から減少していたが、4-6月期以降、人流とインバウンド需要の増加を背景に、関東、中部、近畿といった三大都市圏を含む地域と、観光需要がある九州・沖縄といった地域の回復が進んでいる(第2-2-2図(1))。

地域別のスーパー販売額(全店ベース)は、物価上昇による販売単価上昇や記録的猛暑による夏物季節商材の売上増等により北海道、東北、関東は全国対比で強い動きとなっていたが、8月に台風の影響もあった中国、四国は全国対比で弱い動きとなった(第2-2-2図(2))。

(国内観光は感染症拡大前まで回復、インバウンドの回復は都市部中心)

次に、観光の動向をみるため、地域別に宿泊者数の動きをみてみたい。地域別日本人延べ宿泊者数は、人流の回復や政策支援(全国旅行支援等)の効果もあり、2023年に入り回復が進み、おおむね各地域で2019年と同程度の水準まで回復が進んでいる(第2-2-3図)。

次に、インバウンドの回復状況を確認したい。感染症にかかる水際措置については、2023年4月に「陰性証明書」と「ワクチン接種証明書」の提出義務付けが無くなり終了した。加えて、8月には中国政府が日本への中国人団体旅行を解禁し、マクロでみれば足下の訪日外国人数は2019年同月比で8割を超えるまで回復している。さらに、2019年に比べ外国人旅行者の平均宿泊日数が増加し、為替レートの影響もあり一人当たりの旅行消費額は大幅に増加している(第2-2-4図(1))。このため、外国人旅行者の消費額でみると、7-9月期には2019年の同時期を超えている(第2-2-4図(2))。

しかしながら、地域別にその回復動向をみると、都市部と地方部で差が生じていることが分かる。訪日外国人の地域別延べ宿泊者数を概観すると、「東京都」、「大阪府・京都府」、「福岡県」といった都市部は回復が進んでいる。地域別に状況を詳細にみていくと、「南関東」、「近畿」は、中国人以外の宿泊者数が感染症拡大前を大きく上回っており、回復が突出している。「九州」は、韓国との距離が近いという地理的特性から、韓国人宿泊者数のシェアが高く、感染症拡大前との比較で回復が進んでいる。「東海」は、中国人宿泊者数の割合が高かったことから、回復が遅れている(第2-2-5図)。

こうしたインバウンド回復の地域差を生んでいる要因について考察を進めたい。今回のインバウンド回復局面においては、旅行者の選好等だけでなく、国際航空便やクルーズ船の運航状況等により地域差が生まれている可能性がある。外国人の入国ルートという観点から、2023年夏の主要空港の国際定期便数をみると、成田、羽田、福岡は6割以上回復していたが、その他の空港では回復が遅れていた。また、中国との定期便は、2019年比1割程度にとどまり、中国人宿泊者の割合が高かった地域については、その影響を受けていた(第2-2-6図(1))。なお、2023年冬の主要空港の国際定期便数をみると、中部等では回復が遅れているが、新千歳、成田、羽田、関西、福岡、那覇では2019年比の6割以上まで回復が進み、中国との定期便も全国計では2019年比4割程度まで戻っている(第2-2-6図(2))。依然として回復に地域差は残るものの、今後、各地域においてインバウンド回復が進むことが期待される。

また、国際クルーズ船の寄港は地域のインバウンドにとって重要な要素になっているが、2023年の外国船籍の国際クルーズ船の寄港回数は2019年比でみて65%程度にとどまる見通しとなっている(第2-2-7図)。

このように、今回のインバウンド回復過程では、国際航空便の運航状況も影響して、東京都等の都市部の一部で回復が早いといった地域差が生じてきている。インバウンドの地域偏在は、地域経済の回復に差を生むだけでなく、オーバーツーリズム問題など需要過多の地域でも負の影響を及ぼす可能性がある。

政府は「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ31」を決定し、地方部の観光地の魅力向上や空港や港の受入環境整備を通じて、地方部への誘客を推進する方針を取りまとめている。例えば、知床の手つかずの大自然におけるアドベンチャーツアーや松本・高山の中部山岳国立公園におけるトレイルツアーの造成、あるいは沖縄・奄美における古集落の一棟貸しといった、地域の魅力を体感できるコンテンツや宿泊施設の充実により、地域における高付加価値な観光地づくりを進めていくこととしている。今後、こうした政策の効果によって、地方部の観光地の魅力向上が図られ、地方のインバウンド回復が進むことが期待される。


脚注30 第1-1-3図参照。
脚注31 2023年10月18日観光立国推進閣僚会議決定。
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