(補論) (2)課題解決に向けた方策

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前節では、物流業の労働構造と労働生産性に関する課題をみてきたが、本節では課題解決に向けた方策の検討を進めたい。

(商慣行ルール見直しによる荷主と物流事業者の持続的な関係構築)

前節で指摘したとおり、トラックドライバーが契約にない荷役作業や陳列作業等の付帯作業を指示されるケース、長時間の積み降ろし待ちなど、対価の発生しない労働時間が、物流業界の労働生産性を押し下げる一因となっている。

こうした課題への対応として、「物流革新に向けた政策パッケージ」及び「物流革新緊急パッケージ27」では、荷待ち・荷役時間の削減に向けた規制的措置等の導入、納品期限等の見直し、トラックGメンによる荷主・元請事業者の監視体制強化といった、非効率な商慣行の見直しを図ることが決定されている(第1-4-17表)。

人手不足問題が深刻化する物流企業の現状に鑑みれば、荷主企業は物流企業と強固なパートナーシップを結び、待機時間・付帯作業の削減や納品までのリードタイム延長など相互に利益となる関係を追及していくべきである。トラックGメンという抑止力も活用しつつ、荷主と物流事業者が持続可能な関係を構築していくことが期待される。

また、こうした商慣行の適正化は、長時間・非効率な労働環境の改善や、労働に見合った対価を収受できることによる収入向上につながり、物流業界での若年層の担い手確保に向けて重要となる。

(長距離トラック輸送を減らすモーダルシフトの推進)

2021年度の輸送機関別貨物輸送トンキロは、自動車が55.4%、内航海運が40.0%、鉄道が4.5%を占めている(第1-4-18図)。例えば製造業の輸出入に伴う運送を想定し、工場と横浜港や大阪港といった主要港の間について、トラック輸送での日帰り運行(往復8時間)が可能な距離をみてみると、1日の運送可能範囲は限定的であることが分かる(第1-4-19図)。こうした、1日の運送可能範囲の間際である栃木県や静岡県、広島県などでは、中継輸送拠点の整備が進んでおり、1つの輸送工程を複数のドライバーで分担する中継輸送によって、ドライバーの拘束時間の短縮が期待されている。

供給側のトラックドライバーの高齢化や就業者数の減少に鑑みると、トラック長距離輸送から鉄道や船舶へのモーダルシフトを推進し、トラック輸送への需要を抑制することも重要である(第1-4-20図)。これは同時にトラックドライバーの労働時間縮減と近距離の配送効率を高めていくことにも資すると考えられる。例えば鉄道を使った貨物輸送では、トラック輸送に比べ、大量輸送と定時輸送が可能となる。中長期的な視点を持ち、モーダルシフトを計画的に進めていくことが求められる。

(物流の生産性向上に向けたモノとデータの標準化、マッチングによる共同輸配送)

最後に、物流の効率性を高めるための取組についてみていく。上述のようにトラック輸送の積載率は平均約4割にとどまっており、この向上が課題となっている。トラック輸送の積載率向上や鉄道・船舶輸送との連携をスムーズにさせるためには、まず、標準仕様パレットの導入を含め貨物の規格の標準化を進めることが重要な取組となる。

加えて、配送伝票を始めとする物流分野のデータの標準化を進め、物流マッチングによる共同輸配送実現を進めることも重要な取組となる。また、物流施設のトラック予約受付システムや、パレット管理の情報システムなどの導入も効率的な運行に資するものと考えられる。

こうした物流のデジタル化の推進により、これまで一部の荷主・物流事業者がそれぞれのシステムを通じて部分的に共有していた輸送情報や販売情報等の物流・商流データについて、サプライチェーンを構成する各事業者間での個社・業界の垣根を越えた収集・蓄積・共有・活用が容易となり、一層の連携の構築が可能となる。これらの、いわゆる「フィジカルインターネット」の形成によりトラック物流の効率化を図っていくことが、人手不足解消に向けた有効な方策となる(第1-4-21図)。

「物流革新に向けた政策パッケージ」及び「物流革新緊急パッケージ」においても、こうした取組が進められることが記載されており、2023年11月の「デフレ完全脱却のための総合経済政策」において可能な施策の前倒しを行うこととされている28

限られたドライバー資源を有効に活用できるような物流ソフトインフラ整備を、可能な限り早急に、かつ着実に進めていく必要がある。


脚注27 2023年10月6日 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定。
脚注28 「デフレ完全脱却のための総合経済対策」において、物流の効率化については、物流DXの推進、物流標準化の推進、トラック輸送から鉄道や船舶へのモーダルシフト、農産品の流通網の強化など、物流革新の実現に向けた支援・調査を行うことなどが盛り込まれている。
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