(補論) (1)構造的課題
(物流業界は就業者の減少と高齢化が進む)
まず、トラックドライバーの労働供給からみていきたい。トラックドライバーの就業者数の長期的推移をみると、1990年代半ばから2000年頃の100万人程度をピークに減少傾向にあり、近年は横ばいで推移している(第1-4-1図)。
道路貨物運送業の年齢構成をみると30代以下の年齢層が少ない一方、50代以上で増加しており、近年は50代のシェアが全産業平均と比べ高くなっている(第1-4-2図)。トラックドライバーの平均年齢の推移をみても、近年比較的早いペースで上昇している。若年層の担い手が少なく、高齢化が進んでいることがうかがわれる(第1-4-3図)。
トラックドライバーの労働需要の動きについて有効求人倍率の推移をみると、感染症拡大前までは、物流量は増加する一方でドライバーの数は増加しておらず、有効求人倍率は上昇傾向で推移してきた(第1-4-4図)。
感染症拡大直後は、BtoB物流が生産活動の停滞により減少し、全体の物流量が減少、有効求人倍率も低下したが、2022年度には物流量の回復に伴い有効求人倍率も約2.4倍まで上昇しており、人手不足感が強まってきている。
トラック業界の需給について2024年問題を加味して推計を行った結果によると、拘束時間の見直しにより、輸送力が2019年度の貨物輸送量に対して約14%不足すると見込まれ(第1-4-5図(1))、さらに2030年にはドライバー不足により全国で約35%の荷物が運べなくなる見通しとなっている(第1-4-5図(2))。地域別には、特に東北や四国といった地方部でひっ迫することが見込まれている。
(新たに上限規制の対象となる物流業界は長時間労働者のシェアが高い)
トラックドライバーの年間労働時間をみると、全産業平均より約2割(400~450時間)長く、長時間労働が常態化している(第1-4-6図)。
また、トラックドライバーの拘束時間分布をみると、2024年4月に適用される時間外労働時間等(第1-4-7表)の規制対象となる、年間の拘束時間が3,300時間を超えるドライバーは3割程度を占めている(第1-4-8図)。全日本トラック協会が実施した協会会員企業へのモニタリング調査(2023年1~2月)の結果をみても、29.1%の企業で時間外労働の上限規制の対象となるドライバーがいると報告されており(第1-4-9図)、特に長距離輸送では38.6%が該当することから、早急に改善を進める必要があると考えられる。
(物流業界は労働生産性と賃金が低迷)
このようにトラックドライバーは労働時間が非常に長い職種であるが、他業種と比較した労働生産性や賃金の状況をみてみたい。
まず、産業別に労働生産性についてみると、「運輸・郵便業」は都市圏・地方圏ともに、生産性の低いグループに位置していることが分かる(第1-4-10図)。
トラックドライバーの年収をみると、全産業平均より5~10%(20~60万円)程度低くなっている(第1-4-11表)。時間当たり賃金(所定内給与/所定内労働時間)をみても、全産業平均より10~20%(250~370円)程度低くなっており(第1-4-12図)、賃金の低迷という構造的課題が存在している。
(商慣行や過剰サービスによる長時間労働と運送効率の悪さが生産性を押し下げる要因)
労働生産性が低迷する要因としては、長時間労働(労働投入超過)と運送効率が影響するが、それぞれについてみていきたい。
まず、長時間労働(労働投入超過)が生じている要因についてみると、荷待ち時間(ドライバーの待機時間)の発生が大きく影響している(第1-4-13図)。こうした荷待ち時間に加え、契約内容が曖昧なまま荷積み・荷卸しを運送事業者が適正な運賃・料金を受け取ることなく行うという商慣行も定着しており、ドライバーにとって適正な対価の発生しない労働時間が多く生じていることが、労働生産性を押し下げる一因となっている。
こうした商慣行に加え、高速道路利用料金の運送事業者負担、納品までのリードタイムの短さ、納品時間指定といった運送事業者側に厳しい条件が定着しており(第1-4-14図(1)、(2))、運送事業者の労働環境の悪化(夜間・早朝勤務)も生じている。
このような商慣行や厳しい条件は、運送事業者の過当競争や多重下請構造を背景とする荷主(発注者)と運送事業者(受注者)の関係性も影響しており、改善に向けて荷主と運送事業者の持続可能かつ対等な関係性構築を進めていく必要がある。
次に、運送効率についてみていきたい。運送効率の向上を妨げる要因の一つに、荷主側の要求による時間指定やリードタイムの短い貨物が多いことが挙げられる。受注から納品までが短期間であったり、納品時間の制約が厳しいと、他の荷物を含めた効率的な運送や復路の荷物の確保等を計画的に行うことが困難になる。また、荷積み・荷卸しの時間帯も夜間等を避けることができず、非効率が発生する。
運送事業者へのヒアリングによると、仮にリードタイムを1日延長することができれば、余分な配車の削減による積載効率の向上や必要となるドライバー数の削減、夜間・早朝勤務の削減、日勤要員のみで対応が可能になるなど(第1-4-15図(1)(2))、多くの改善効果が期待できるといった意見もみられた。
こうしたことから、物流事業者側の最適化が進みにくく、トラックの積載率は40%程度で低迷している(第1-4-16図)。荷を積んでいない復路時間の短縮と、稼働時の積載率向上といった効率化を進めることでドライバー不足の改善につなげていくことが、今後ますます重要になると考えられる。