第1章 (2)地域の人手不足問題の構造的課題の整理
前節では、各地域において人流の回復に伴って宿泊・飲食サービスを中心に労働需要が回復したことから、各地域で人手不足感が高まっていることを確認した。そこで、本節では、労働供給側、労働需要側、マッチングの課題についてみていくこととする。
1.労働供給サイドの構造的課題整理
(2019年以降労働力人口が増加傾向にあるのは「南関東」、「近畿」のみ)
まず、働き手の母集団となる労働力人口について、前回の景気拡張局面6以降の推移を地域別に確認する(第1-2-1図)7。
男女計の労働力人口をみると、東京都を含む「南関東」では、2012年から2019年にかけて10%程度増加し、以降も増加が継続している。大阪府を含む「近畿」も、2012年から2019年にかけて5%程度増加し、以降も増加が継続している。一方で、その他の地域では、2019年頃をピークに労働力人口が横ばいで推移するか、減少に転じている。
こうした労働力人口の推移を男女に分けて比較すると、2012年比で男性は「南関東」以外では横ばいで推移するか減少しているのに対し、女性は各世代で労働参加が進んだことから(第1-2-2図)、全ての地域で労働力人口が増加している。
2019年以降労働力人口が増加傾向にある「南関東」と「近畿」の転入超過数をみると、「南関東」は、2012年以降増加傾向で推移し、2022年までの累積で122.7万人(男性:53.4万人、女性69.4万人)の人口流入があった(第1-2-3図(1))。また、「近畿」については、産業の中心となる大阪府では2015年以降転入超過の状況が継続している(第1-2-3図(2))。このような地域間の人口移動が、労働力人口の変化の地域差を生む要因の1つとなっている。
(女性労働力の増加余地は追加就労希望就業者の割合が高く、各地域でいまだ多く存在)
次に、各地域の労働力の増加余地についても確認していく。以下では、労働力の増加余地について、
〔1〕仕事を探している人(完全失業者)
〔2〕就労希望の非労働力人口
〔3〕仕事時間の追加を希望しており実際に増やせる人(追加就労希望就業者)
の合計値による定義を採用して議論を進める。「労働力調査」によると、2023年7-9月時点で労働力の増加余地は、全国で546万人(男性238万人、女性308万人)存在している。地域別に労働力の増加余地に関する指標が公表されていないため、「非労働力人口に対する就労希望の非労働力人口比率」と「就業者数に対する追加就労希望就業者の比率」に地域差が存在しないと仮定し、簡易的に地域別の「〔2〕就労希望の非労働力人口」と「〔3〕追加就労希望就業者」を計算している8。
まず、性別による構成の違いをみると、男性は、「〔1〕完全失業者」の構成割合が最も大きい一方、女性は「〔3〕追加就労希望就業者」の構成割合が最も大きくなっている(第1-2-4図)。
こうした性別による構成の違いを踏まえると、男性は景気変動による失業者の増減によって労働力の増加余地が変化しやすい一方、女性は主に労働参加率、就業時間の調整、正規雇用比率といった働き方・就労条件に関する構造要因によって労働力の増加余地が決定されているといえる。
地域別にみると、男女ともに「北陸」、「東海」が比較的小さくなっている。
続いて、女性の「〔2〕就労希望の非労働力人口」と「〔3〕追加就労希望就業者」に着目し、背景にある働き方等のデータを地域別にみていく。
「〔2〕就労希望の非労働力人口」は、既に女性のM字カーブ解消が進んでいる(=非労働力人口が減少している)地域では小さくなる。女性の年齢階層別労働参加率を地域別にみると(第1-2-5図)、「北陸」でM字カーブの解消が最も進んでおり、女性の「〔2〕就労希望の非労働力人口」の小ささと整合的な関係にあることが分かる。
女性の「〔3〕追加就労希望就業者」についてみると、各地域とも労働力人口の2.5%程度の労働力の増加余地がある。「〔3〕追加就労希望就業者」は、定義上、就業時間が短い就業者のうち就業時間の追加を希望している者となるため、いわゆる「年収の壁」による就業時間の調整や年齢階層別正規雇用比率(女性のL字カーブ)と関係が深い。以下では、地域別にこれらの状況をみていく。
(女性の追加就労希望の制約要因はいわゆる「年収の壁」問題)
各地域の労働力の増加余地という観点でみれば、上述の女性の「〔3〕追加就労希望就業者」の追加就労希望をかなえていくことは重要な取組となる。しかし、「令和4年(2022年)就業構造基本調査」(総務省)の結果をみると、配偶者のいない女性非正規雇用者で就業調整を行っている割合が15%程度であるのに対し、配偶者のいる女性非正規雇用者の4割程度は就業調整を実施していると回答している(第1-2-6図)。
会社員の配偶者で一定の収入に満たない者は、被扶養者(第3号被保険者)として社会保険料を負担しないが、収入が増加して一定の水準を超えると、社会保険料負担の発生等により、手取り収入が減少する9。これを回避する目的で、就業時間を抑制する行動(就業調整)が生じており、社会保険料負担等が生じる収入基準(年収換算で106万円や130万円)が、いわゆる「年収の壁」と呼ばれている。こうした公的な仕組みや制度に加え、主たる稼得者の勤め先にある企業慣行的な配偶者手当等の存在も、就業のディスインセンティブ、あるいは就業調整につながっている面もある。
2022年の民間アンケート調査(野村総研(2022))によると、全国の20~69歳でパート若しくはアルバイトとして働く、配偶者のいる女性のうち、就業調整をしている人の割合は6割を超える。このうちの8割近くは、「年収の壁」を超えても働き損にならないのなら、今より年収が多くなるように働きたいと考えており、「年収の壁」が女性の追加就労希望の制約要因となっていることが分かる。
女性の就業調整割合について、西岡・北辻(2023)の分析を参考に、地域差をみると、東京を除いて、賃金水準の高い都市部の方が就業調整を行っている割合が高い傾向にあることが分かる(第1-2-7図)。そのため、都市部の方が「年収の壁」を意識せずに働くことのできる環境整備を進めることで追加的な労働供給を得られる効果も大きくなると考えられる。また、2017年から2022年にかけての分布の時系列的な変化をみると、賃金上昇により全国的に分布が右方向にシフトする中、時給が高い都市部での就業調整割合は横ばいかやや低下し、全体としても分布の傾向線の傾きが若干ではあるが変化する動きが観察された。こうした賃金と就業調整割合の時系列的な変化をみると、賃金上昇に伴って、「年収の壁」を超えて働くことを選択している労働者の割合が上昇していると考えられる。
今後、賃金上昇と「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくり、社会保険制度の見直しを通じて、こうした関係性を解消していくことが重要な課題となる。
(各地域で女性のL字カーブが存在、産業構造と世帯構成によって地域差)
女性の働き方に関する別のデータとして、女性の年齢階層別正規雇用比率を地域別にみると(第1-2-8図)、いずれの地域も25~34歳をピークに年齢が上がるとともに正規雇用比率が低下する、いわゆる「女性のL字カーブ」がはっきりと現れており、いずれの地域でも、出産・子育て期を挟んだ女性のキャリア継続の難しさという構造的課題が残されていることが分かる。地域別にみていくと、35~44歳の正規雇用比率は、「北陸」では46.4%、「東北」では43.8%と高くなっており、「中国」、「四国」、「九州・沖縄」も全国平均を上回っている。一方、最も低い「近畿」では33.1%と、15%ポイント弱の地域差が生じている。
こうした女性のキャリア継続の地域差を生む要因としては、地域によって産業・就業構造と世帯構成に違いがあることが指摘されている。
まず、女性の産業・就業構造に関するデータをみると(第1-2-9図)、製造業と医療・福祉分野への女性の就業割合が高い地域ほど、正規雇用比率が高まる傾向にある。「北陸」は女性正規職員のうちの約20%が製造業に就業しており、製造業分野への女性の就業が地域全体の正規雇用比率を押し上げているといえる。「中国」、「四国」、「九州・沖縄」といった西日本では、女性の正規職員のうちの4割弱が医療・福祉分野に就業していることが、地域全体の正規雇用比率の押上げに寄与している。
次に、世帯構成に関するデータとして、都道府県別の三世代同居率をみると、女性の正規雇用比率の高い「北陸」と「東北」の各県では、三世代同居率が比較的高く、有配偶者の女性にとって、家事・育児に関する親のサポートが、キャリア継続の支えとなっている可能性が示唆されている10(第1-2-10図)。その一方で、都市部では、三世代同居率が低いことに加え、親が地方に住んでいるケースも多く、家事・育児に関する親のサポートを得にくい環境にある。こうした親のサポートに加え、保育環境の整備や男性の家事・育児参加による女性の負担軽減は、女性のキャリア継続に大きな影響を与える要因になると考えられる。
(若い女性の東京圏への流出が地域の構造的な人手不足を招く)
次に、女性労働力の地域差を生じさせる東京圏への人口移動とその影響についても確認したい。
まず、男女別に東京圏への転入超過数の時系列推移をみると、総数(全年齢)では女性の転入超過数が男性の転入超過数を上回って推移していたことが分かる。東京圏への転入のボリュームゾーンである15~29歳の若者でみても、2015年以降、女性の転入超過数の方が男性の転入超過数を上回っている(第1-2-11図)。
こうした東京圏への転入の地域的な特徴を把握するため、昨年(2022年)の東京圏への転入超過数を性別、年齢階層別、都道府県別に分けてみる(第1-2-12図)。結果をみると、いずれの地域も東京圏への転入は15~29歳の若者が中心で、人口規模の大きい道府県(北海道、愛知県、大阪府、福岡県等)を除くと、東北、北関東、甲信越といった北・東日本からが多いことが分かる。また、北・東日本からの転入者の性別をみると、女性の転入超過数の方が多く、これらの地域の若い女性の東京圏への流出が進んでいることが分かる。
このような若い女性の流出の結果として、地方では性別による人口の不均衡という構造的な問題も生じている。20~34歳の未婚者の男女人口比(女性1人に対する男性の人数)を都道府県別にみると、1.2を上回る県は24県、1.3を上回る県は7県あり、特に若い女性の流出が進む北・東日本では相対的に未婚男性の比率が高くなっている(第1-2-13図(1))。未婚者の男女人口比は、若年層では年齢が上がるに連れて高まる傾向にあり、30~34歳では1.6を上回る県が8県にもなり、性別による人口の不均衡はより深刻になっている。(第1-2-13図(2)~(4))。こうした性別による人口の不均衡は、中長期的に地域の少子化・人口減少につながり、地域経済の存立を危ぶませる要因となっている。
(性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が若年女性を流出させる)
このように、地方から東京圏へ女性の流出が続く要因には何が考えられるだろうか。地方から東京圏に移動した人に対するアンケート調査結果をみると、移動した理由に関する設問では、男女に共通して「進学や就職したい先があった/選択肢が多かった」ことを理由に挙げる人が最も多かった。その一方で、女性は「他人の干渉が少ない」、「娯楽や生活インフラが充実している」、「多様な価値観が受け入れられる」という理由を挙げる人が男性より多くなっていた(第1-2-14図(1))。
また、性別役割の経験に関する設問では、男性と比べて女性は、地方では「地元の集まりでお茶入れや準備などは女性がしていた」、「地元は住民間のつながりが強かった」「地元では世間体を大事にする人が多かった」と感じていた割合が特に高く、「地元で就職した女性は結婚・出産で仕事を辞めることが多かった」の項目でも女性の回答割合が高かった。(第1-2-14図(2))。
以上のようなデータをみると、男女に共通して若者が東京圏に流出する要因としては、進学先や就職先の選択肢といった経済的な要因が第一に挙げられるが、女性の場合は、集会におけるお茶の準備は女性が行うといったような性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を避け、地域コミュニティのつながりの強さや世間体を重視する生活を好まず、多様な価値観が受け入れられる都市部を選好しているということが考えられる。地域に魅力ある進学先や就職先を創り出すことに加え、こうしたアンコンシャス・バイアスを払拭し、女性が活躍できる環境を整備していくことも、若い女性の東京圏への流出に歯止めをかける上で重要な取組といえる。
(高齢者の労働参加率には健康状態と雇用者の継続雇用が影響)
最後に、高齢者の労働参加に関する供給サイドの課題をみていきたい。2012年以降の景気回復局面で、高齢者(65歳以上)の労働参加率もマクロでみれば上昇してきたが、都道府県別にみると、近畿地方の大阪府、兵庫県、奈良県で65~74歳の労働参加率が低くなっているなど地域差が存在している(第1-2-15図)。
そこで、高齢者の労働参加に地域差が生じている要因について探っていきたい。
一つ目の要因は健康との関係である。高齢者の代表的な健康指標である介護認定率と労働参加率の関係性をみると、介護認定率が上昇すると労働参加率が低下する負の相関関係が観察され、比較的年齢の低い65~74歳ではその傾向がより強く現れる。こうした関係性について地域別の特徴をみると、近畿地方は相対的に介護認定率が高い傾向にあり、高齢者の労働参加率も低くなっている関係にあることが分かる(第1-2-16図)。
二つ目は、雇用者としての働き方との関係である。高齢者(65歳以上)の就業者の従業上の地位を10年前と比較すると、自営・家族従業者の数は各地域とも10年前と大きく変わらないものの、雇用者数は各地域とも2倍近く増えていることが分かる(第1-2-17図)。
産業別に高齢者(65歳以上)の就業者数について、10年前からの変化をみると(第1-2-18図)、東京圏及び東京圏以外の地域ともに、農業・林業の就業者数に変化はないが、建設業、製造業、卸・小売業、宿泊・飲食サービス業、医療・福祉といった産業で就業者が増加している。また、各産業の就業者数に占める65歳以上の就業者の割合の10年前からの変化をみると、東京圏以外の地域の方が卸・小売業、宿泊・飲食サービス業、医療・福祉といったサービス分野でのシェアが高まっている。
このように近年の高齢就業者数の増加は、雇用者の増加が中心となっており、高齢者の労働参加率が高まるかどうかは、現役時代に雇用者として働いていた者が、いかに引き続き労働市場に参加できるかが重要となる11。
雇用者の継続雇用に関する制度をみると、「高齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」では、事業主に対して、65歳までの雇用機会を確保するため、高年齢者雇用確保措置(〔1〕65歳までの定年引上げ、〔2〕65歳までの継続雇用制度の導入、〔3〕定年廃止)のいずれかを講ずることが義務付けられており、現在、ほぼ全ての企業で実施済みとなっている。また、2021年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までを対象として、企業に「定年制の廃止」、「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」という雇用措置等を講じる努力義務が課されるようになった。こうした定年の廃止・引上げを含めた継続雇用には、現役時からの雇用形態をある程度維持し、長年培ってきた経験や高いスキルを活かしながら、モチベーションを維持して働くことを可能にし、高齢者の労働参加意欲を高める効果があると考えられる。
2.労働需要サイドの構造的課題整理
(地方では介護分野の恒常的な雇用増加が宿泊・飲食サービス業の雇用回復の制約要因に)
これまで労働力の増加余地や、女性・高齢者の労働参加を抑制する要因を地域別に確認してきたが、ここからは、労働需要側の課題を分析する。最初に、前回の景気拡張局面以降、産業別に就業者数がどのように変化してきたかを確認したい。
2012年、2019年、2022年、2023年7-9月期(直近)の4時点で産業別就業者数(全国計)の変化をみると「宿泊・飲食サービス」、「情報通信」、「医療・福祉」で特徴的な変化がみられる(第1-2-19表)。
- 足下で人手不足感が強まっている「宿泊・飲食サービス」については、2012年から2019年にかけてインバウンド需要の拡大等もあり、男女ともに就業者数が大きく増加していたが、感染症拡大後は需要の減少に応じる形で就業者数も減少に転じている。2023年に入ると、男女ともに「宿泊・飲食サービス」の就業者数は増加に転じたが、女性に関しては感染症拡大後に減少した就業者数を取り戻すには至っていない。
- 「情報通信」、「医療・福祉」については、感染症拡大下でも就業者数の増加基調が継続していたが、足下では女性の「医療・福祉」の就業者数の増加がやや鈍化している。
産業別就業者数の変化を地域別に分解してみると、「情報通信」の就業者数の増加は大部分が「南関東」となっている一方、「医療・福祉」の就業者数の増加と「宿泊・飲食サービス」の就業者数の変化は全国的に生じている(第1-2-20図)。
こうした推移をみると、2012年以降の景気拡張局面では、女性・高齢者の労働参加が進み雇用は拡大したが、その増加の多くが「宿泊・飲食サービス」と「医療・福祉」で生じており、「情報通信」の就業者数増加が生じていない「南関東」以外の地域ではよりその傾向が強かったことが分かる。
感染症拡大後は、外出自粛やインバウンド需要の減少により、「宿泊・飲食サービス」の就業者数は多くの地域で減少に転じた。足下の動向をみると、コロナ前の水準に就業者数が戻っているのは「南関東」、「九州・沖縄」等だけであり、「北海道」、「東北」、「東海」、「近畿」といった地域では就業者数が元に戻っていないなかで、人流の回復に伴う「宿泊・飲食サービス」等の需要増加が進み、人手不足感が強まったと考えられる。
「医療・福祉」分野については、高齢化の進展により介護サービス需要が恒常的に増加しており(第1-2-21図)、全国的に就業者数は増加が継続若しくは高止まりしている。特に地方では、都市部への人口流出に加え、こうした「医療・福祉」分野が、コロナ禍で一定の雇用を吸収したことから、「宿泊・飲食サービス」における需要回復への対応に必要な就業者確保の動きを圧迫する一因となっている。
(都市部以外の就業者数増加は女性の医療・福祉分野が中心)
続いて、都市規模によって就業者数増加にどのような違いがあるか、「国勢調査」のデータから、男女別に「東京都特別区」、「政令指定都市」、「それ以外の地域」に分けて、2015年から2020年にかけての就業者数増加を産業別に分解した結果を確認したい。
まず、男性の結果(第1-2-22図(1))をみると、東京都特別区では、16.4万人の就業者数増加があったが、その大半は「情報通信業」でみられた。一方で、東京都特別区と政令指定都市以外の地域では、「医療・福祉」の就業者数増加はあったものの、「製造業」、「建設業」、「農林業」の就業者数が減少し、男性の就業者数は全産業で18.1万人減少した。
次に、女性の結果(第1-2-22図(2))をみると、東京都特別区と政令指定都市以外の地域での就業者数増加が79.4万人と顕著であった。その内訳をみると、「医療・福祉」が40.6万人、「教育・学習支援」が13.3万人となっており、都市規模の小さい地域では就業者数増加の半分以上は女性の「医療・福祉」分野でみられることが分かる。
このように、地方では女性の労働供給量の増加に対して「医療・福祉」分野の雇用吸収力が非常に強いという構造的な姿がより鮮明に浮かび上がってくる。
(宿泊・飲食サービス業、医療・福祉分野ともに労働生産性向上が課題)
ここまで、前回の景気回復局面以降の需要の増加に対して、「宿泊・飲食サービス」と「医療・福祉」分野で就業者数が増加してきたことを確認したが、この間、これら産業の労働生産性がどう変化していたか分析を進めたい。
宿泊・飲食サービスや介護サービスの業種では、需要(消費)の高まりに応じて労働生産性が(接客頻度・人員稼働率が高まることで)自然と高まる面が一定程度はある。しかし、稼働率が持続可能な水準を超えても労働投入を増加させることが難しい場合には、企業(供給サイド)は追加的な需要増加に対して資本装備率向上(ICT化等)や業務効率化等で労働生産性を向上させていくことが求められる。
地域別に労働生産性のデータが入手可能な「都道府県別産業生産性(R-JIP)データベース2021」から、最新の推計値でありコロナ禍の影響がない2018年の労働生産性を業種別に確認すると、「宿泊・飲食サービス」、「その他のサービス(生活・娯楽関連等)」、「保健衛生・社会事業分野(医療・福祉分野)」といった主に人対人で行うサービス業種の労働生産性水準は他の業種に比べ低いことが分かる(第1-2-23図(1))。2012年から2018年の平均伸び率でみると、地方圏の「宿泊・飲食サービス」では需要の高まりに応じた生産性向上がみられるものの、「卸・小売」、「その他のサービス(生活・娯楽関連等)」、「保健衛生・社会事業」の生産性の伸びは、「通信・放送業」、「金融・保険業」、「製造業」、「建設業」と比べると総じて低くなっている(第1-2-23図(2))。
「宿泊・飲食サービス」、「その他のサービス(生活・娯楽関連等)」といったサービス業と「保健衛生・社会事業分野(医療・福祉分野)」は、需要増加に対して、上述のとおり就業者数を増加させ労働投入量を増加させることで対応を進めてきた。人手不足感が強まっている足下では徐々に省力化投資は意識されつつあるものの、前回の景気回復局面において十分な省人化投資や業務改革を伴わず、労働生産性の伸びが低迷した(第1-2-24図)。そのため、感染症からの需要回復局面で、労働供給制約に直面し、需要に対応可能な労働投入量を確保することができなくなった地域から人手不足感が強まっていると考えられる。今後、必要な投資や業務効率化を進め、労働生産性の向上を図ることが急務となっている。
3.ミスマッチの構造的課題整理
(地方ではミスマッチの度合いが高く、雇用条件と働き方に柔軟性が欠けることが課題)
本節最後に、労働者と企業(採用側)のミスマッチの課題についても検討したい。
まず、労働者側の失業と企業側の欠員がどの程度併存しているかをみることで(UV分析)、地域別にミスマッチの状況がどのように異なり、どのように変化してきているかを確認したい(第1-2-25図)。景気循環において景気が良くなると企業は雇用を拡大する一方、労働者は順次雇用されていくため、欠員率と失業率は右下がりの関係となる。ミスマッチの度合いが高く、失業と欠員が多く併存している場合、その関係は右上方向に位置することとなる。
2012年と2022年の各地域の動向をみると、ほとんどの地域で失業率の低下とともに欠員率の上昇がみられ、人手不足の度合いが高まっていた(図の左上から右下への動き)。ミスマッチの地域差をみると、大都市圏を擁する「南関東」や「東海」は図の左下に位置しミスマッチの度合いが相対的に低いのに対し、「北海道」、「東北」や「九州・沖縄」は図の右上に位置し、ミスマッチ度合いが相対的に高いことが分かる。
続いて、ミスマッチが生じる要因について、「労働力調査」の失業者が仕事につけない理由に関する調査結果を性別にみると(第1-2-26図)、男女共に「希望する種類・内容の仕事がない」と回答した割合が最も高い。性別による違いに着目すると、男性に比べ女性は「勤務時間・休日などが希望とあわない」ことを理由に仕事につかない人の割合が高い傾向がある。この傾向は、
- 世帯主との関係でみた場合、「世帯主の配偶者の女性」、
- 年齢階層別でみた場合、「35~54歳の女性」、
で顕著に現れている。こうした層の女性の就業に当たっては、子育てや介護と仕事の両立が可能な勤務環境が求められていることが推察される。企業側の求人条件において、こうした女性の就労希望条件に応じてきめ細かく、柔軟に対応することが重要である。
北海道:北海道
東北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
南関東(※東京圏):埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県
北関東・甲信:茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、長野県
北陸:新潟県、富山県、石川県、福井県
東海:岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
近畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国:徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州・沖縄:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県