第1章 (1)労働需要の回復と各地域で高まる人手不足感
(2023年に入り景況感が改善、GDPギャップもプラスに転換)
はじめに、2023年に入ってからの景気動向について確認する。まずは、月次単位で速報性に優れた「景気ウォッチャー調査」(内閣府)で景況感の動きをみたい。同調査では3か月前と比べた現状の変化、現状と比べた3か月先の変化を調査し、これらの変化を指数(DI)化している。それによると、2月に現状判断・先行き判断ともに50を上回り、マスク着用ルールの変更が行われた3月以降先行き判断DIの上昇を追うように、現状判断DIの上昇が続いた。その後は改善テンポが落ち着いたものの、8月調査まで現状判断・先行き判断ともに50を上回る水準を維持していた(第1-1-1図(1))。特に、小売・飲食・宿泊サービス等の景況感を表す家計動向関連DIは、3月以降、全国各地で大きく改善が進み、全体の動きをけん引していた(第1-1-1図(2))。
こうした現状判断DIが50を超えて推移する動きと同様に、マクロの需給バランスを表すGDPギャップも改善の動きをみせている。2023年4-6月期には、インバウンド回復に伴う輸出増など外需の高い伸びもあり、3年3四半期ぶりにプラスに転換し、マクロ的な需給も引き締まりをみせている(第1-1-2図)。
(景況感やマクロ的な需給の改善の背景には人流の増加)
景況感やマクロ的な需給の改善には、人流の回復が大きく影響している。そこで、対人サービスの動きの代理指標として、2023年に入ってからの全国の主要地点・繁華街における人流を収集したデータ2の前年差をみてみたい。まず、2023年1~3月は、前年同期(2022年1~3月)に多くの地域でまん延防止等重点措置が適用されて人流が抑制されていた影響により、大きく改善する姿となっていた。こうした影響が無くなった4月以降は、地域レベルでは、台風や降雨といった天候不良等による振れもみられたが、1年前に比べて、総じて昼間、夜間ともに人出が増えている(第1-1-3図3)。特に、昼間、夜間ともに7月20日頃の小中学校の終業式を境に前年よりも人流が活発化しており、夏のイベント・祭りの4年ぶり通常開催、夏休みにおける旅行需要の活発化等の影響があったことがうかがえる。
(宿泊・飲食サービスを中心に新規求人数が増加)
こうした人流の回復により、宿泊・飲食サービスを中心に労働需要が高まった。2022年10-12月期からの直近1年間で新規求人数が前年に比べてどの程度増加したか、産業別に前年差の累積値をみると、大都市部を含む地域を中心に「宿泊・飲食」、「卸売・小売」、「生活関連・娯楽」、「医療・福祉」の増勢が続いた(第1-1-4図)。
こうした労働需要の高まりの結果、有効求人倍率(就業地別)は、全地域で1を上回るまで回復が進んだ。なお、2023年1-3月期から多くの地域で有効求人倍率が低下傾向にあるものの、各地域とも前回の景気拡張局面4の平均近傍にあり、労働需給は引き締まった状態が継続しているといえる(第1-1-5図)。
(雇用の不足超過は宿泊・飲食サービス、対個人サービスを中心に拡大)
求人の増加について企業側の指標も確認しよう。日本銀行が四半期ごとに公表している日銀短観では、事業者に雇用の過不足感を聞いている。その雇用人員判断DIをみると、2023年9月は、全産業が▲33、非製造業が▲42、製造業が▲20となっており、オミクロン株の感染拡大により多くの地域でまん延防止等重点措置が適用されていた1年半前(2022年3月)と比較すると人手不足感が増している(第1-1-6図)。中でも、宿泊・飲食サービス(▲72)と対個人サービス(▲51)は、1年半前に比べて大幅に人手不足感が高まる結果となっている。
このような非製造業における人手不足感の高まりは、前回(2012年から)の景気拡張局面と比較しても深刻なものとなっている。非製造業の雇用人員判断DIを地域別に時系列でみると、今年に入り「北海道」、「甲信越」、「九州・沖縄」では1980年以降でマイナス幅が最も大きくなるなど5、バブル期以来の人手不足感の高まりとなっている(第1-1-7図)。
次節では、過去最高に近い水準で人手不足感が高まっている要因を探るために、労働供給側と労働需要側それぞれの動き等をみていく。