第1章 第2節 暮らしにおけるデジタル化の地方への広がりの現状と課題
前節では、新たな人の流れの加速に向け、テレワークというデジタルを活用した働き方や副業の取組を通じた雇用契約の柔軟化の重要性について指摘した。一方で、新たな人の流れを加速するためには、こうした多様で柔軟な働き方に加えて地方の暮らしにおけるデジタル化を進展させることも求められるところ、政府の進める「デジタル田園都市国家構想」においても関連した取組が掲げられている。本節では、暮らしにおけるデジタル化の現状と課題について、地方での活用の視点に立ちつつ検討する。
1)デジタル化が地方の暮らしに与える効果(整理)
(デジタル化は距離に関わる費用削減効果とともに、地方の課題解決を促す)
デジタル化16は、暮らしの様々な分野において広がりをみせている。光ファイバ網や移動通信網といったデジタル技術活用のための基盤が全国的に整備されつつあることを背景に17、場所の制約なしに利用可能な情報通信機器(スマートフォンなど)が広く普及している18。
こうした基盤整備を受けて、デジタル化は、ソフトウェアやデータといったデジタルにかかる無形の財の活用を通じた情報通信機器や家電など財・サービスの高度化や、インターネット等の活用を通じた商圏や取引先、購入先など経済活動範囲の拡大や時間の短縮に貢献している。さらに、財・サービスの供給者から利用者あるいは購入者へのいわば一方向となる傾向のあった情報伝達の流れを、利用者あるいは購入者から供給者への情報伝達のほか、SNS19などによる利用者同士の当該財・サービスに関する情報交換を容易にするなど、利用者・購入者側からの情報の価値を大きくする方向に変化させるといった役割を果たしている。
デジタル化の経済的効果としては、取引にかかる費用削減を促すとの論考があるが20、とりわけ地方にとって削減効果が大きい費用としては、各種の財・サービスを店頭購入する場合に必要となる移動等にかかる、距離にかかる費用となろう21。
EC、住宅検索サイト、シェアリングエコノミーに係るサイトなどの利用は、需要側である地方在住の消費者にとって、物理的な移動をすることなく、海外市場に流通しているものなども含めた財やサービスの購入を可能とし、距離にかかる費用の低減に資する。他方、供給側となる地方に所在する企業にとっても、こうしたサイト等の活用は、所在地以外の国内市場、あるいは海外市場への参加の可能性を広げる効果をもたらし得る。
また、感染症は、デジタル技術の活用に対して更なる進展や新たな視点とともに、地方の課題解決を促すきっかけも与えた22。オンライン診療やオンライン教育について、感染拡大により、その利活用が世界的に広がったが、感染拡大後においても、特に地方で、移動距離の削減といったアクセスの観点、あるいは医療や教育にかかる人的資源の活用が容易でないなどの状況を解決する方策として活用が期待できる。
2)地方でも活用が広がるECの現状と課題
本項では、暮らしにおけるデジタル化のうち、まずはかねてから利用され、かつ市場規模も拡大を続けている23ECの活用状況を長期的にみる。はじめに購入者側であるEC利用世帯の動向について、地域別も含めた現状を確認の上、特に地方で利用を広げるための方策を探る。また、供給側である販売者側の観点から、配送にかかる課題を確認するとともに、地域の特産品販売にかかるECの活用についても触れる。
(EC利用世帯及び利用額はこの10年程度全国で増加も、都市規模による差が拡大)
ECによる購入の1世帯・1か月当たり利用平均額(EC利用世帯および非利用世帯を合算した平均額)の推移をみると、全国において、2010年では4,238円であったものが、2021年では18,727円となっている(第1-2-1図(1))。これをECの利用世帯割合と利用1世帯・1か月当たりEC支出額に分解すると、利用世帯割合は、2010年24では18.0%であったものが、その後はすう勢的に上昇を続け、2021年には52.7%と3倍弱となっており(第1-2-1図(2))、EC利用1世帯・1か月当たり支出額は、2010年の22,360円から2021年は35,470円と1.6倍になっている(第1-2-1図(3))。これについて、2010年から2021年にかけてのEC利用世帯割合の上昇寄与及び利用1世帯・1か月当たりEC支出額の増加寄与を年齢階層別にみると、40歳以上64歳以下世帯の寄与が大きい(第1-2-2図(1)、(2))。
1世帯・1か月当たり利用平均額及びその内訳であるEC利用世帯割合と利用1世帯・1か月当たり支出額を都市規模25別にみると、全ての都市規模において増加しているが、利用世帯割合や支出額の増加幅は、規模の大きい都市ほど大きく、都市規模間の利用割合や支出額の差は拡大している。例えば、EC利用世帯割合は、2010年は大都市では21.8%、小都市B・町村では13.6%と8%ポイント程度の差であったが、2021年には大都市は60.3%、小都市B・町村では42.5%と18%ポイント程度の差となっている。EC利用世帯における1世帯・1か月当たりの利用額についても、2010年は大都市で22,975円、小都市B・町村では22,355円と600円程度の差であったのに対し、2021年には大都市で40,270円、小都市B・町村では30,197円と10,000円程度の差となっている。これは2010年から2021年にかけてのEC利用世帯割合の上昇寄与及び利用1世帯・1か月当たりEC支出額の増加寄与の大きい40歳以上64歳以下世帯の比率が大都市は高い一方、小都市B・町村では低いためである26。
(感染拡大直後に大きく上昇したEC利用世帯割合はこのところ動きに一服感)
次に、感染症の影響が現れた時期について、EC利用の動向を月次統計で確認する。EC利用世帯割合については、感染拡大の当初に各地域でみられた上昇がこのところ一服している(第1-2-3図)。2020年2月から、最初の「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」(以下、「緊急事態宣言」という)が解除された後の2020年6月にかけて、全国平均のEC利用世帯割合は2月の42.5%から6月の50.8%と8%ポイント程度上昇した。また、都市規模別では、大都市が2月48.6%から6月57.3%、中都市が2月42.9%から6月51.0%、小都市Aが2月40.2%から6月48.9%、小都市B・町村が2月32.6%から6月39.8%と、いずれの都市規模においても7~9%ポイント程度と、それまでのすう勢(2010年~2019年の年平均で2~3%程度の上昇)を大幅に上回る上昇となった。その後も緩やかな上昇傾向を辿ったものの、2022年6月の全国におけるEC利用世帯割合は53.0%と、前年同月(52.7%)とほぼ同水準にとどまっている。都市規模別では、大都市および中都市はそれぞれ61.2%、53.5%と前年同月(大都市59.7%、中都市53.2%)と比べてそれぞれ1.5%ポイント、0.3%ポイント上昇している一方、小都市A及び小都市B・町村はそれぞれ48.7%、41.7%と、前年同月(小都市A49.5%、小都市B・町村42.1%)と比べてそれぞれ▲0.8%、▲0.4%と低下している。
(EC利用世帯割合は高齢世帯が低い)
こうしたEC利用状況について、「家計消費状況調査」の個票を利用して、地域や年齢階層による特徴を探るため、都市規模×年齢階層別での集計分析を2021年について行った。
まず、EC利用世帯割合をみると、全国及びいずれの都市規模においても、世帯主が65歳以上の高齢世帯が、64歳以下の世帯に比べて低くなっている(第1-2-4図(1)、(2)、(3)、(4)①、②)。
全国では、世帯主が65歳以上の世帯のEC利用世帯割合は33.5%と、世帯主が40歳以上64歳未満、および40歳未満の世帯の66.4%、73.9%より30~40%ポイント程度低くなっている。世帯主が65歳以上の世帯と64歳未満の世帯におけるEC利用世帯割合の差は、いずれの都市規模においても同様、30~40%ポイント程度、65歳以上世帯の利用割合が低くなっており、一番規模の小さい小都市B・町村における65歳以上の世帯のEC利用世帯割合は27.5%と唯一30%に届かない水準となっている。高齢者のデジタル機器やインターネット等の利用割合や、デジタル化への意識が全体に比較して低いことを反映しているとみられる。
(規模の小さい地域におけるEC利用世帯の利用額は高齢世帯ほど高い傾向)
一方、EC利用世帯に限ってみた場合、一人当たり(等価)利用額27(月平均)についてみると、大都市では世帯主年齢が65歳以上である高齢世帯ほど利用額が少なくなっているものの、それ以外は都市規模においては高齢世帯の利用額の方が多くなっている(第1-2-5図(1)、(2)、(3))。
全国平均では、世帯主が65歳以上の世帯でECを利用している一人当たりのEC利用額は20,923円と、世帯主が40歳未満世帯(19,593円)、40歳以上64歳未満世帯(20,008円)より高くなっている。これを都市規模別にみると、大都市では65歳以上の世帯の利用額は22,189円と、40歳未満の世帯(23,177円)、40歳以上64歳未満の世帯(22,968円)よりも少なくなっている。しかしながら、中都市になると65歳以上の世帯の利用額は20,405円と、40歳未満の世帯(18,809円)、40歳以上64歳未満の世帯(18,691円)より1,500円程度多くなり、一番小さい規模(人口5万未満の市及び町村)である小都市B・町村においては、65歳以上の世帯の利用額は18,313円と、40歳未満の世帯(14,784円)、40歳以上64歳未満の世帯(16,281円)より2,000円~3,500円程度多くなっている28。
このように、高齢世帯のEC利用割合が低い中で、EC利用世帯に限れば、特に都市規模の小さい地方において、高齢世帯の一人当たり利用額が多い。こうした地域では、EC利用によってデジタル技術活用の恩恵を実現している姿が浮かび上がっている。同時に、利用割合が相対的に低いことは、潜在的な活用余地として、今後の利用促進が課題といえよう。高齢者のデジタル機器・サービス利用を支援することでEC利用率を高めれば29、地方圏のEC支出額が更に拡大することが期待される。
(コラム3:最近のキャッシュレス決済の地域別の利用状況)
感染症は経済社会活動における接触機会の抑制を促したが、それによりキャッシュレス決済が注目された。具体的な手段としては、電子マネーとクレジットカードが大宗を占めている30とされるところ、これらの利用状況について、地域別も含めて確認したい。
まず、電子マネーの利用状況について総務省「家計消費状況調査」でみると、2021年における1世帯・1か月当たりの利用平均額(電子マネー利用世帯および非利用世帯を合算した平均額)は15,409円と、2016年から2018年の平均8,267円と比べて86%の増加となっている。都市規模別にみると大都市では64%程度の増加、それ以外の都市規模では95~102%増と概ね倍増となっている(コラム1-3-1図(1))。
これを利用世帯割合の上昇と利用世帯における支出額の増加に分けると、利用世帯割合については大都市が7.9%ポイントの上昇であるのに対し、それ以外の都市規模においては、中都市13.3%ポイント、小都市B・町村12.9%ポイント、小都市A12.5%ポイントと、大都市に比べて利用世帯が広がったことを示している。一方、電子マネー利用世帯当たりの利用額については、中都市の上昇が58%増と一番高く、次いで小都市A、大都市と続き、小都市B・町村が37%増となっている(コラム1-3-1図(2)、(3))。
次に、クレジットカードによる支出金額について、2021年の全国及び地域区分別の状況を2016年から2018年の平均と比較すると、財については全国で11.6%増、地域別でも9~14%の範囲でいずれの地域も増加となっている(コラム1-3-2図(1))。これをカード利用者比率(EM)および利用者一人当たりの支出額(IM)にわけてみると、EMは2~8%の範囲、IMについては5~7%の範囲でいずれの地域においても増加に寄与している。
一方、サービスへの支出については、全国で▲16.2%、地域区分別でもいずれの地域も▲15~▲20%の減少となっている(コラム1-3-2図(2))が、これは感染症の影響により感染症前と比較した旅行や外食への支出の減少による。
以上のように、感染症の影響により、総じて接触機会の減少を意図してキャッシュレス決済が活用された状況がみてとれる。
3)供給側からみたECを取り巻く現状と課題
(EC拡大により全国的に配送事業の人手不足感が高まっている)
EC利用額の増加もあり配送量が増加する中、サービスの提供側では、配送事業に携わる労働者の人手不足感が高まっている。宅配大手3社の取扱個数の推移をみると、2018年度から2019年度にかけて増加に一服感がみられたものの、感染症後の2020年度において前年度比12%増と高い伸びとなり、2021年度も引き続き増加となっている(第1-2-6図)。
こうしたなか、貨物自動車運転手の人手不足の程度を、雇用充足率(=雇用充足数÷新規求人数)により確認すると、感染症の影響を受けた2020年度を除き、2021年度にかけていずれの地域でも低下傾向、つまり人手不足感が高まっていることを示している(第1-2-7図(1))。これを新規求人数と雇用充足数に分けてみると、新規求人数は全国的に2019年度までは上昇傾向で推移した後、2020年度、2021年度は感染症の影響で2019年度の水準よりおおむね減少するなどしている一方、雇用充足数はいずれの地域も2021年にかけて一貫して減少する動きとなっており、求人側と求職側の条件が合致しない状況がうかがえる(第1-2-7図(2)、(3))。
配送事業の従事者については、他産業の従業員に比べて労働時間が長い一方、賃金が低い31。加えて、構造的な生産年齢人口減少の影響から、労働需給は総じてひっ迫している。こうした環境を踏まえ、事業者においては、雇用条件の改善と省人化投資により事業継続を図ることが必要となるが、そのためにも、まずは投入費用の変動を反映した適切な料金・価格設定を行うことで売上を確保することが求められる。
(ECによる地域の特産品販売では様々な主体のノウハウを活用した事例がみられる)
感染症の影響により外出や旅行が影響を受けるなか、地域の特産品販売についてもECの活用の動きがみられる。全国的に地域の特産品を扱うECサイトの出品数をみると、数万品目に上るところもみられる(第1-2-8図(1))。また、都道府県等の特産品を入手できるアンテナショップ32(都内所在)においても、ECサイトの開設数は、2020年4月時点の15店舗から2022年4月は23店舗と広がりをみせている(第1-2-8図(2))。
こうしたなか、ECによる特産品販売の取組事例をみると、地域の自治体やEC開設や配送網などのノウハウを持った企業といった複数の主体が一体となり、小規模の事業者も含めて地域全般の特産品を扱い、売上を伸ばした事例のほか、EC販売拡大等により域外における企業や製品の認知度が向上したことにより域外での店頭販売拡大につながったとする企業もみられる(第1-2-9図)。
4)EC以外にも広がる地方圏におけるデジタル化の現状と課題
(都市圏・地方圏在住者ともに医療や行政分野のデジタル化が遅れていると認識)
デジタル化はEC以外にも、生活の様々な分野に広がっている。こうしたなか、最近の意識調査において、感染症拡大を契機として暮らしのデジタル化が進んだと思うかを尋ねたところ、全国では、消費(キャッシュレス決済やECなど)については6割以上、また働き方(テレワークなど)や教育(オンライン教育など)についても4割以上の回答者が進んでいるといった旨の回答をしている(第1-2-10図(1)、(2)、(3))。
一方で、行政(オンライン申請など)は3割程度の者が進んでいる旨の回答をしている一方、2~3割程度の者は進んでいないと回答、さらには医療については2~3割程度の者が進んでいると回答しているものの、進んでいないとする回答する者の方が上回っている状況となっている。なお、これを三大都市圏と非三大都市圏に分けてみても、傾向は同様となっている。
以後本節では、オンライン診療やオンライン教育、住宅情報サイトの活用、行政のデジタル化について、地域別も含めて利用可能なデータ等により確認する。
(オンライン診療実施医療機関割合は都道府県間で差が存在)
感染症の拡大は、医療機関における対面受診が困難になったことからオンライン診療による対応を促すこととなった。しかし、先に示した2022年6月のアンケート結果の通り、オンライン診療は他のデジタル化と比べて進んでいないとの声がみられる。
オンライン診療については、平時における制度としては、2022年4月の診療報酬改定に合わせて制度が改正されたが、現在は2020年4月以降の感染症の拡大を受けて導入された時限的・特例的な対応33(厚生労働省への届出をすることなく、電話や情報通信機器を用いた診療が実施可能)が継続している(第1-2-11図)。
その結果、感染症下におけるオンライン診療に対応できる医療機関は増加したものの、全医療機関に占めるオンライン診療実施医療機関数の割合は全国で16.1%と、5機関中1機関以下にとどまるとともに、都道府県間の差も大きい(第1-2-12図(1))。もちろん、オンラインの必要性の薄いところもあると考えられるが、過疎化の進む地域等においては、有効性の高い診療である。実際、人口密度が低い都道府県ほど実施率が高い傾向がみられる。ただし、一部の都道府県では、人口密度に対するオンライン実施機関数割合が全国的な傾向よりも低位に止まっている。(第1-2-12図(2))。
オンライン診療を実際に実施することにより、情報通信機器の利用方法や課題患者の症状に関する情報入手といった課題が認識された上で、そうした課題への解決に資する取組もみられてきているところ(第1-2-13図)、今後こうした課題抽出および解決を積み重ねていくことにより、オンライン診療の効果的な活用が進むことが期待される。
(平常時における家庭でのオンライン教育受講には地域差等が生じないよう配慮が必要)
オンライン教育についてはGIGAスクール構想34、さらには感染拡大当初における教育機関の休業を契機に進展がみられ、臨時休校など非常時における活用については全体的に整備されつつある。文部科学省の調査によると、感染拡大当初である2020年4~5月において全国的に広がった臨時休校措置の時期あるいはその直後に公立小学校、中学校、高等学校等において同時双方向型のオンライン教育を実施又は実施予定であったのは、実施地方公共団体の割合でみて同年4月は5%程度、同年6月は15%程度であった35が、2022年1~2月の変異株流行時において臨時休校等時にオンライン教育が実施したのは、実施学校数でみて7割程度となっている(第1-2-14図(1))36。同時期における臨時休校など非常時における持ち帰り端末の準備率がいずれの都道府県においても8割程度ないしそれ以上となっている37なか、変異株流行の状況から、必ずしもオンライン教育が必要ではなかった都道府県もあったとみられる。実際、都道府県別の10万人当たり感染者数とオンライン教育実施率との間には正の相関関係(相関係数0.463)が確認される(第1-2-14図(2))。
今後、平常時においてオンライン教育を地域差等生じさせることなく効果的に活用できるか否かが課題となるが、GIGAスクール構想の下、平常時においても家庭学習のための端末の持ち帰りは推奨されている38。
内閣府の調査(2022年6月)では、小中学校によるオンライン教育(オンライン授業、学習指導、家庭用教材の提供)の受講状況(人数比率)は、三大都市圏で23.5%、三大都市圏以外で18.8%が受講したとなっている(第1-2-14図(3))。非常時においては、学校側から通信環境が整っていない場合の代替手段の提供体制が整備されつつあるが39、平時においても、場所に囚われない学習機会の提供を図ることは重要である。一方で、教員のICTを活用した指導力に地域差がみられることや、教育委員会のICT利用に対する積極性の違いにより端末の配備や持ち帰り状況に差が生じるというように、地域における学習機会にばらつきが生じている可能性もあり(第1-2-14図(4)、(5))、平時における1人1台端末の効果的な活用に向けて、こうした課題の解決が求められる40。
(空き家・空き地バンクの掲載物件数は限定的)
地方圏への移住の検討に当たって、オンラインサイトによる物件情報の検索・収集は距離に関する費用の削減の観点から有用である。また、不動産取引については、民間手続における書面交付等について対面以外の電磁的方法により行うことが可能となったところであり41、デジタルを通じて手続きを進めることが容易になりつつあるといえる。
中古住宅の売買を取扱う主要住宅情報サイトにおいて掲載されている物件数を確認したところ、「住宅・土地統計調査」上の「売却用の住宅」に占める割合が24.0%となっている(第1-2-15図)。これを三大都市圏とそれ以外の地方圏別にみると、三大都市圏は27.5%、地方圏18.5%となっている。
また、移住に当たって活用可能な不動産としては空き家も対象となりうるが、2019年に構築された全国版空き家・空き地バンク(2社)に掲載されている購入用物件数と取扱対象となりうる空き家の総数(「住宅・土地統計調査」上の「その他の住宅」の件数42)の比率をみると、全国では0.13~0.14%となっている。うち三大都市圏は0.06%、地方圏は0.18~0.20%と地方圏の方が高くなっているものの、ともに限定的となっている(第1-2-16図)。
空き家・空き地については、所有者に関する情報基盤が不十分であることにより多くの自治体が把握できないという問題等が指摘されてきた43が、法改正44により、所有者不明土地・建物の管理制度の創設や相続登記の申請義務化、相続土地国庫帰属制度がいずれも2023年度に施行予定となっているところ、空き家・空き地の発生予防や利用円滑化のために、こうした制度を周知のうえ活用されることが重要である。
(行政サービスの質向上に向け、行政のデジタル化が必要)
地域における行政事務については、申請・届出等行政サービスが国民にとって利用しやすくなるとともに、サービスを提供する行政職員の業務が効率化されることが肝要である。地方公共団体の一般行政部門の職員数の対人口比率をみると、全国平均では人口1,000人当たりの一般行政部門の職員数は5.4人だが、都市規模別で規模の一番小さい小都市B・町村では8.1人と他の都市規模と比較して多い(第1-2-17図(1))。
また、地方公共団体における申請・届出等手続をオンライン化するためのシステムについて、全国における導入団体割合をみると、2021年4月現在において73.1%となっているが、未導入の469団体には小都市B・町村が433団体と集中している(第1-2-17図(2))。行政事務のデジタル化は、小規模自治体ほど進んでない。
小規模自治体では、住民対比の職員数は多いものの、職員数にも限りはあり、デジタル化による省人化効果は大きいと期待される。実際、人口推計を踏まえた将来の自治体職員数の試算によると、小規模の自治体ほど減少率が大きくなっており、より少ない職員での行政サービスの提供が必要となる45。こうしたなか、特に、申請や届出等の窓口業務は、電子的な処理に馴染む分野であり、バーチャル化も含めた地方行政のサービス提供体制の見直しが効果的な対応策になる46。同時に、より対人サービスが求められる社会福祉分野等への人材再配置余力を生み出すことを通じて、住民ニーズに合った質の高い行政サービスの提供体制を整えることが期待される。