第2章 第2節 地域の観光や消費に与えた影響
本節では、感染症が地域の消費に与えた影響をみていく。最初に訪日観光客の減少といった観光業の動向について取り上げ、続いて国内の各種小売業等の状況から、感染症の影響下にあって地域の消費がどのように変化したかを確認する。
(訪日外国人旅行者数は2020年4月以降大幅に減少した水準で推移)
訪日外国人旅行者数は、近年着実に増加してきたが、2020年は感染症の影響により大きく減少することとなった(第2-2-1図)。過去10年の推移をみると、東日本大震災により一時的に減少した2011年以来、訪日外国人旅行者数は8年連続で前年を上回る増加となり、直近の2年では3,000万人を超える水準となっていた。しかし、2020年に入って以降、1月は前年同月と大きく変わらない旅行者数となったものの、2月には中国政府が団体旅行を禁止した影響や日本国政府が湖北省に滞在履歴のある中国人等の入国制限を開始した影響によって、対前年同月比で▲58.3%と大きく減少した。続く3月には欧米諸国を含め更に幅広い地域を対象に入国制限が拡大されたことから、訪日外国人旅行者数は一段と減少し、対前年同月比で▲93.0%となった。2020年4月以降、訪日外国人旅行者数は、概ね対前年同月比で▲98~99%近い水準で推移しており、地域の観光業にとって極めて厳しい状況が続いている。
(日本人旅行者数も大きく減少した状況が続いている)
2020年の日本人の旅行者数は、特に緊急事態宣言の発出された4~5月にかけて、大きく減少した(第2-2-2図)。緊急事態宣言が解除されて以降は、11月まで減少幅は縮小傾向が続いていたものの、12月には全国で再び感染者数が増加傾向となったこと等を背景に、旅行者数は再び減少幅が拡大し、前々年を大きく下回る状況が続いている。月次データにより日本人の延べ国内旅行者数の推移をたどると、2020年の1月及び2月はほぼ前々年と変わらない数であったが、3月の旅行者数は対前々年同月比で▲52.9%とほぼ半減し、4月には緊急事態宣言下にあって旅行者数は▲79.4%と更に減少した。5月はゴールデンウィークにより通常ならば旅行者数が大きく増加する月であるが、日本人旅行者数はわずかの増加にとどまり、対前々年同月比では▲81.3%と前々年を大きく下回った。6月から8月までは、旅行者数は次第に増加していったものの、前々年に比べれば半数以下の水準で推移した。9月以降は次第に減少幅が縮小していき、政府によるGoToトラベルキャンペーンや自治体独自の観光政策の下支え効果もあり、11月には対前々年同月比で▲27.2%まで旅行客数は回復した。しかし、12月以降は全国的な感染者数の増加の影響により、国内旅行者数は再び減少傾向となり、2021年の1月には対前々年同月比で▲66.2%と、前年の5月以来の落ち込み幅となった。3月には対前々年同月比で▲50.9%とやや回復したが、感染症前に比べれば旅行者数はほぼ半減した状態になっている。
(旅行消費額は訪日外国人と日本人旅行者のどちらも大きく減少)
上述のように、感染症の影響によって旅行者数は訪日外国人と日本人旅行者のいずれも大きく減少した。こうした旅行者数の減少は、旅行消費額の減少を通じて各地域の経済に大きな影響をもたらしたと考えられる。ここでは、2020年の訪日外国人旅行者と日本人旅行者の各消費額について、2019年と比較した結果をみておく(第2-2-3図)。
まず訪日外国人の旅行消費額(宿泊費、飲食費、娯楽等サービス費及び買物代の合計額)(第2-2-3図(1))を確認すると、2019年は全国合計で2兆5,633億円であったが、2020年には3,624億円まで大きく減少した。訪問地域別にみると、2019年に消費額が最も大きかった南関東の消費額は9,616億円から1,273億円に減少し、次いで消費額が大きかった近畿でも8,291億円から1,010億円まで減少した。なお、地域別の消費額の変化を減少率でみた場合には、沖縄が▲90.8%と最も減少率が大きい。
同様に日本人旅行者の旅行消費額をみると(第2-2-3図(2))、2019年は全国で約7兆8,229億円であったが、2020年には3兆9,211億円まで減少した。訪問地域別にみると、2019年に最も消費額が大きかった南関東では1兆6,673億円から6,402億円に減少し、次に消費額の大きかった近畿では1兆2,605億円から6,269億円へと減少した。なお、減少率でみた場合には、南関東の減少率が最も大きく▲61.6%となっている。
最後に各地域の従業者数に占める宿泊業の従業者数の割合をみると(第2-2-4図)、地域差が大きい傾向があり、特に沖縄、甲信越、北海道、東北、北陸が高い。観光関連の産業のうち特に宿泊業については、こうした地域の経済に大きな影響を与えたと考えられる。
(感染症の影響により各地域の宿泊施設稼働率は落ち込みが続く)
各地域の宿泊施設の稼働率は、全国的に2020年2~4月まで急激に低下したのち、5月末頃~11月末にかけては次第に上昇していたが、12月以降は再び低い水準で推移した(第2-2-5図(1)~(3))。特に南関東や沖縄といった地域の稼働率は、全国値を下回る傾向がみられる。
(感染症の影響により個人のサービス消費が大きく減少)
感染症抑制のために人々の行動が大きく変容したことから、個人の消費は大きく変動した。最初にカード支出に基づく個人消費の動向を地域別に概観すると(第2-2-6図)、財(衣服、飲食料、医薬品など)に対する支出は、地域や時期による増減はあるものの概ね前年と大きく変わらない水準で推移しているのに対し、サービス(外食、旅行、通信、娯楽など)に対する支出は、各地域とも大きく減少した。具体的には、各地域の財支出は2020年3月~2021年3月までを通じて、概ね対前年同月比で+10~▲10%の範囲で推移している42。一方、サービス支出については、2020年4月に各地域ともに▲40%程度まで大きく減少した後、2020年10月までは次第に減少幅が縮小していった。11月からは再び減少幅が拡大していき、2021年1月の各地域の支出は▲30%程度となったが、3月には減少幅は縮小した。こうしたサービス支出の動向は、外食や旅行など外出を伴う消費の変動によるところが大きいと考えられる。
(景気ウォッチャー調査にみる小売業の景況感)
ここからは地域の個人消費の動向を詳細にみるため、景気ウォッチャー調査より、主に小売業の視点から消費に関わる動きを観察して得られた景況感のDIと、各地域の売上高や販売額等のデータの推移を業態別に確認していく。
まず、小売業全体の現状判断DI(第2-2-7図(1))は、2019年10月の消費税率引上げ以降、2020年1月まで概ね40台前半で推移してきたが、感染の拡大により2月から低下傾向となり、緊急事態宣言が発出された4月には、統計開始以来の最低水準43である11.8まで低下した。しかし宣言が解除された5月以降、DIは上昇に転じ、6月には46.5と感染が拡大する前の1月のDIを超える水準にまで上昇した。8月以降も政府や自治体による観光キャンペーンなどにも支えられながらDIは上昇傾向を維持し、10月には52.8まで上昇した。しかし、11月以降のDIは、全国で感染者数が増加傾向となったことを背景に、連続して低下していき、再び緊急事態宣言が発出された2021年1月には29.6となった。ただし、その後感染者数は減少傾向となったことから、3月には50.3までDIは上昇している。
(百貨店の販売額は大きく減少)
小売業の内訳を業態別にみていくと、まず百貨店のDI(第2-2-7図(2))は、緊急事態宣言下の営業自粛の影響により4月には1.0と極めて低い水準にまで低下したが、宣言が解除されると営業の再開により、DIは6月に58.6まで大きく上昇した。しかし、それ以降はGoToキャンペーンの影響による一時的な上昇が10月にみられたものの44、百貨店のDIは概ね緩やかな低下傾向が続き、2021年1月には再び緊急事態宣言が発出されたことにより、20.4まで低下した。ただし、3月のDIは感染者数の減少等を受けて、65.2まで大幅に上昇している。
次に地域別に百貨店の売上高の推移をみると(第2-2-8図)、感染の拡大が始まった2020年1-3月期には、対前年同期比で▲10~▲20%程度の減少となり、続く4-6月期には更に大きく減少した。特に北海道、関東、近畿、九州・沖縄といった地域では、▲50%を超える売上高の減少がみられた。ただし7-9月期にはすべての地域で売上高の減少幅は大きく縮小し、前々年と比べて70%以上の売上水準となった。10-12月期も概ね7-9月期と同水準で推移していたが、2021年1-3月はいずれの地域も感染症の影響により対前々年同期比で▲20%以上の減少となった。
(スーパーの販売額は概ね前年や前々年を上回って推移)
景気ウォッチャー調査におけるスーパーのDI(第2-2-7図(3))は、緊急事態宣言下にあっても概ね通常の営業を続けていたことに加え、感染を避けるため外食を控えて内食を選択する傾向が広がったことから45、前述の百貨店のようにDIが大きく変動することはなく、2020年1月~2021年3月まで概ね40台で安定的に推移した。地域別にスーパーの販売額の推移をみても(第2-2-9図)、2020年1-3月期~2021年1-3月期まで、大半の地域で販売額が前年若しくは前々年の販売額を上回っている。
(コンビニエンスストアの販売額は前年や前々年より減少)
続いて、景気ウォッチャー調査により、コンビニエンスストアの景況感をDIでみると(第2-2-7図(4))、スーパーと同様にコンビニエンスストアは、緊急事態宣言下にあってもほぼ通常通りの営業を続けていたものの、宣言が発出された4月には8.2まで大きく低下している。こうした背景には、緊急事態宣言下にあって、リモートワークの推進やイベント等の自粛の影響により、人々の外出する機会が大きく減少したことがあったと思われる46。宣言の解除後には、社会経済活動の再開にあわせて、DIは6月には47.1まで上昇し、9月には54.5となった。その後、再び感染症が拡大傾向となったことや緊急事態宣言の影響により、2021年1月にはDIは27.4まで低下したものの、3月には54.5まで回復している。
地域別にコンビニエンスストアの販売額の推移をみると(第2-2-10図)、概ねすべての地域で共通した動向となっており、2020年1-3月期の販売額はやや前年を下回る程度の減少であったが、4-6月期の販売額は前年に比べて▲5~▲10%程度まで減少している。7-9月期はすべての地域で減少幅が縮小し、10-12月期はほぼ前々年並みの販売額となった地域もみられた。ただし、2021年1-3月期は再度の緊急事態宣言の影響により、すべての地域で前々年と比べて▲2~▲5%程度の減少となっている。
(家電量販店の販売額は前年や前々年を上回って推移)
景気ウォッチャー調査における家電量販店のDI(第2-2-7図(5))は、感染症の影響により4月に19.2まで低下した。しかし、5月より定額給付金の給付が進んだことに加え、夏季を控えてエアコン需要が高まったことを背景に、6月には75.0までDIは急速に上昇した47。7月以降はこうした需要も一巡しDIは概ね50をやや上回る水準で推移した。2021年1月には再度の緊急事態宣言の影響によりDIは43.8とやや低下したが、3月には52.2へと再び上昇している。地域別の販売額の推移をみると(第2-2-11図)、2020年1-3月期はすべての地域で販売額は前年を下回っているが、4-6月期は関東・甲信越を除くすべての地域で前年を上回る販売額となった。続く7-9月期及び10-12月期の販売額は、すべての地域で前々年を超える水準で推移している。続く2021年1-3月期は、2回目の緊急事態宣言の影響により、販売額にやや減少傾向がみられるものの、関東・甲信越以外の地域では前々年を超える状況が続いている。
(乗用車新車登録台数は前年や前々年を下回って推移)
景気ウォッチャー調査における乗用車販売店のDI(第2-2-7図(6))は、他の業種と同様に緊急事態宣言による影響が大きかった4月に最も低い水準である8.6まで低下した。しかしその後は、国内の自動車生産が本格的に再開するにつれて新型車の市場投入等も再開したことから48、DIは着実に上昇していき9月には59.8まで上昇した。その後、2020年の年末より感染の拡大懸念が再び強まるにつれて、乗用車販売店のDIは低下に転じ、2021年1月には41.4までDIは低下したが、3月には52.0まで再び上昇している。
地域別に乗用車新車登録台数の推移をみると(第2-2-12図)、各期の登録台数は地域によらず概ね2020年1-3月期に対前年同期比で▲10%程度の減少となった後、4-6月期には、4月にレンタカーの新規登録台数が特に多い49沖縄で▲40%程度、その他の地域では▲30%程度の減少となった。続く7-9月期には、すべての地域で登録台数の減少幅は縮小し、続く10-12月期にも減少幅の縮小傾向が続いたが、2021年1-3月期の登録台数は、すべての地域で、再び減少幅が拡大する動きとなっている。
(飲食店の売上高は前年や前々年を大きく下回る状態が続いている)
飲食業の景況感を景気ウォッチャー調査DIで確認すると(第2-2-7図(7))、小売業と同様に緊急事態宣言のあった4月にDIは1.2と極めて低い水準にまで低下した。その後、5月よりDIは上昇に転じ6月には38.2と感染拡大前の1月の値(37.2)を超える水準まで上昇したものの、8月には感染者数の増加から一部の地域で飲食店に対して営業時間の短縮要請等があったこともあり、8月のDIは36.0に低下した50。その後、感染の落ち着きと政府や自治体による消費活性化のためのキャンペーンにより、再びDIは上昇に転じ10月には57.4となった。しかし、年末にかけては全国的に感染者数が増加し、各地域の自治体等から営業時間の短縮要請等もあったことから、飲食店のDIは大幅に低下していき、再び緊急事態宣言が発出された2021年1月には11.0まで低下した51。その後、感染者数が減少するにつれ一部の地域で宣言も解除されたことから、3月にはDIは47.4まで大きく上昇している。
続いて、地域別に飲食店の売上高の推移をみると(第2-2-13図)、全体的には、各地域とも2020年1~4月まで大きく売上高が減少したのち、5~11月まで対前年同週比の減少幅は縮小傾向となったが、12月からは再び減少幅が拡大する動きとなっている。また、特に北海道の場合には、2020年2~3月の時期、及び11~12月の時期には、他の地域を大きく下回って推移している。また沖縄でも、7~8月の時期に、飲食店の売上高が他の地域よりも大きく落ち込んでいる。両地域では、それぞれ該当する時期において、新規感染者数の増加傾向と人出の減少傾向がみられることから(第2-1-3図(2)及び(13)参照)、こうした動きが飲食店の売上高の減少につながったものと考えられる。その他に、新規感染者数が他の地域に比べて多い傾向のある南関東も、飲食店の売上高は全国値を下回る動きとなることが多く、特に2回目の緊急事態宣言が発出された2021年以降は、全国値を下回る動きが続いている。一方、北陸や四国のように、新規感染者数が他の地域に比べて少ない地域では、飲食店の売上高の減少幅が全国値より小さい傾向もみられる。
最後に各地域の従業者数のうち飲食業の従業者数の割合をみると(第2-2-14図)、各地域で概ね1%程度であるが、北海道、九州及び沖縄ではやや高い。飲食店の業況の低迷は、幅広い地域で大きな影響を与えたと考えられる。
(インターネットを利用した消費は大きく増加)
最後に、感染症の影響下にあって人々の外出控えや営業の自粛といった影響を受けづらいと考えられるインターネットを利用した消費の動向を確認すると(第2-2-15図)、多くの地域で、家計消費におけるインターネットを利用した支出額(旅行関係費を除く)は大きく増加している。家計消費状況調査のデータによれば、地域によって増加率や増加の時期にばらつきがあるものの、インターネットを利用した支出は総じて、2020年1-3月期より対前年同期比で増加傾向となっており、4-6月期には一段と増加率が高まった。続く7-9月期はすべての地域で増加率が40%以上になり、10-12月期の増加率は全地域で30%以上、続く2021年1-3月期には再び全地域で40%以上の増加率となるなど、高水準で推移している。こうしたインターネットを利用した支出額の増加の背景として、感染症下にあって対人接触を伴わずに買物等を行うことができる手段として、多くの消費者がインターネットを利用した消費を選好したことがあると考えられる。
「3か月前には開催できなかった物産催事や外商催事も開催できるようになり、好調に推移している。地域共通クーポンも土産物を中心に売上を下支えしている。大ヒット映画による集客増もあり、売上は3か月前よりも回復している。(九州=百貨店)」
「新型コロナウイルス関係で外出自粛のため、内食需要が拡大し来客数も週末に集中し買上点数が伸長している。しかし、状況が刻々変化するので今後の状況は見えない状況である。(東北=スーパー)」
「県の新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言の発令に伴い、人の動きを始めとして来客数の減少により売上ダウンにつながっている。(沖縄=コンビニ)」
「特別定額給付金の支給により、高額商品が動いている。特に白物家電が好調で、ちょうど梅雨の時期であるため、エアコンの販売が増えている。(近畿=家電量販店)」
「前年超えとはいかないまでも、ある程度の水準まで販売台数が戻ってきている。来店傾向も家族連れが多くなっており、その会話からも過剰に新型コロナウイルスを心配する声は薄れているようである。(東北=乗用車販売店)」
「猛暑で商店街の人通りが非常に少ない。大阪市内で飲食店の営業自粛が要請され、当店は対象に入っていないものの、消費者が警戒し、来客数が減少している。来客には2人連れが多く、店内の座席も減らしているため、売上が伸びない。(近畿=一般レストラン)
「ディナーの来客数が激減している。新年会のグループ客がほとんどない。(東北=高級レストラン)」、「1月は2度目の緊急事態宣言が発出され、県内の客が全く来店しなくなっている。また、感染者も多く出ているため、動きも全くない。(九州=高級レストラン)」