第2章 第1節 感染症の各地域への影響
(感染症を巡る国内の出来事)
最初に、感染症を巡る国内の出来事を確認する(第2-1-1図)。2020年1月に国内で初めて感染者が確認されてから、2月には北海道で感染者が増加したため、北海道は自治体として初めて独自の緊急事態宣言を行った。続く3月末にかけては、都市部を中心に感染者数が増加したことから、4月7日に政府より新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が、東京都や大阪府等7都府県30に対して発出された。続く4月16日には宣言の対象区域は全国へと拡大された。緊急事態宣言下では、人との接触を8割減少させることを目標に、人々の日常生活や社会の経済活動が大きく制約されることとなったが、感染者数は次第に減少していった。5月14日には一部の地域を除いた全国31で緊急事態宣言が解除され、21日には関西圏32、25日には残る首都圏33と北海道でも宣言が解除された。続く6月には、都道府県をまたぐ移動の自粛も解除され、経済活動の再開が着実に進んでいった。7月には経済活動と感染拡大防止との両立が目指される中で、GoToトラベルキャンペーンが東京都を除いて開始された。同時期には首都圏や沖縄県などで、再び感染者数が増加傾向となったが、9月にはこうした動きも落ち着き、10月にはキャンペーンに東京都も加えられた。
しかし、11月より北海道や関西圏などで再び感染者数が増加に転じ始めたことから、11月には一部地域で、12月には全国でキャンペーンは一時停止となった。年が明けた2021年1月8日には、医療提供体制が急速にひっ迫しつつあった1都3県34に対して、続く14日には2府5県35に対して、再び緊急事態宣言が発出された。その後、新規感染者数等は全国的に減少傾向となったことから、2月7日には栃木県、2月28日には2府4県36に対する緊急事態宣言は解除され、残る1都3県37についても3月21日に解除された。2021年に発出された緊急事態宣言は、全国的に幅広い施設に対して営業の自粛や短縮などが行われた2020年4月時の緊急事態宣言とは異なり、主に飲食店を中心とした施設に対して夜間の営業自粛等を重点的に行うものではあるが、感染症が我が国の地域経済に大きな影響を及ぼす状況が続いている。
(感染症による景況感の悪化と持ち直しの動き)
前項で振り返った2020年からの感染症を巡る出来事は、国内の経済にどのような影響を与えたのか、ここでは、景気ウォッチャー調査の景況判断DIによって、国内の景況感の推移を概観する。
景況判断DIは(第2-1-2図(1))、2019年10月の消費税率引上げ以降、概ね40台前半で推移していたが、国内で感染の拡大がみられ始めた2020年2月よりDIは低下し始め、緊急事態宣言が発出された4月には9.4まで低下した。5月には宣言が解除されたことからDIは17.0へと小幅ながら上昇に転じ、続く6月は、経済活動の再開が進んだことにより、DIは40.0まで大きく上昇した。以降、GoToキャンペーンなど政府や自治体による消費等の活性化を狙った政策にも支えられ、7月のDIは、感染が拡大する前である1月の水準(41.9)を超えて42.2まで上昇し、10月にはDIが53.0となるなど、景況感は着実に持ち直していった。
しかし、11月より再び全国で感染に拡大傾向が現れ始めると、景況感は再び悪化へと転じ、2021年1月には11都府県に対して緊急事態宣言が発出されたことから、DIは31.2へと低下した。ただし、宣言の発出以降には、全国で感染者数が減少傾向となったことから、3月のDIは49.0まで上昇するなど、景況感には再び持ち直しの動きもみえ始めている。
今般の感染症による経済ショックが、どれほど我が国の経済にとって厳しいものであったか、前出の景気ウォッチャー調査の景況判断DIにより、過去の経済ショックと今回の感染症による経済ショックとを比較してみると(第2-1-2図(2))、感染症により最もDIが落ち込んだ2020年4月のDI値である9.4は、2011年4月の東日本大震災の発生後のDI(23.9)や2008年12月のリーマンショック時のDI(19.2)を、更に大きく下回っている。景気ウォッチャー調査の結果によれば、今回の感染症がもたらした景況感の悪化は、近年では最も厳しいものであったといえる。
(感染症の影響下における地域の人出の変化)
感染症の影響下にあっては、政府や自治体による施設等に対する営業自粛の要請等に加えて、日常生活における人々の行動が、不要不急の外出を控える、イベントの開催を自粛するといったように、大きく変化したことが、地域の経済に大きく影響を与えた。そこで本節では、地域の人々の行動がどの程度変化していたかを、地域の感染症の状況とあわせて、日次データにより確認しておく。
第2-1-3図(1)~(13)は、2020年2月15日~2021年3月末までの地域別の人出の変化と新規感染者数の推移を示したものである。まず新規感染者数の動きを概観すると、新規感染者数の水準や、新規感染者数が増減した時期は、地域によって違いがみられる。東北、甲信越、北陸、四国といった地域は、その他の地域に比べて新規感染者数は相対的に少なく、10万人当たりの新規感染者数は、概ね2人以下で推移している。一方、南関東、東海、近畿、中国、九州といった人口が集中する都市圏が含まれる地域、及び南関東と隣接する北関東では、新規感染者数は高い水準で推移する傾向があり、特に東京都を含む南関東では新規感染者数が多くなっている。なお、沖縄は2020年の7~8月頃及び2021年の1月頃にかけて急激に新規感染者数が増加した時期があり、北海道では2020年の11月頃より他の地域に先がけて新規感染者数が増加するなど、これらの地域では、他の地域とはやや異なる時期に、新規感染者数の動きが変化する傾向もみられる。
続いて、レストランやショッピングセンター、テーマパークといった施設における人出のデータの変化をみると、2~5月頃までの時期にはすべての地域で、感染が拡大する前の時期38に比べて、人出は急速に減少している。特に南関東では人出の減少幅が大きく、4月下旬には全地域で最も低い▲46%39まで人出が減少した。緊急事態宣言が解除された6月以降の動きをみると、各地域で人出は次第に増加していき、7月初めにはすべての地域で、人出は拡大前の時期に比べて▲20%以下の水準まで減少幅が縮小した。なお、沖縄では8月の新規感染者数が急激に増加した時期に人出が一時的に低下しており、北海道でも11月後半より新規感染者数の増加に合わせて人出は減少傾向へ転じるといったように、地域固有の人出の動きもみられる。12月後半には全国的に新規感染者数が増加に転じたことから、すべての地域で人出に減少傾向が見え始め、2021年1月に入って一部の地域に緊急事態宣言が発出されると40、各地域で人出は更に大きく低下した。ただし、2020年4月に宣言が発出された時期に比べると、2021年1月以降の人出の減少幅はやや小さい傾向にある。総じて各地域の人出の増減は、その地域の新規感染者数の増減によって、変動する部分が大きいと推察される。
(新規感染者数が多い地域ほど人々は外出を控える傾向)
人出と新規感染者数のデータからは、概ね新規感染者数が多い地域で人出が減少する傾向がみられた。そこで第2-1-4図では、47都道府県について人出の変化の平均値と新規感染者数(10万人当たり)との関係を統計的に確認した。分析の期間は、感染の拡大防止のため、自治体から飲食店の営業自粛要請などがあった地域と、そうした要請の無かった地域とで、人出が減少する傾向がどの程度異なるかも合わせて比較するため、新規感染者数の動きや自治体の対応について地域差の大きかった、2020年8~11月までとした。
結果をみると、新規感染者数の多い都道府県ほど、その地域に住む人々が外出を控えた傾向があった。また、単回帰による推計結果によれば、分析期間の間に自治体から飲食店等の営業自粛要請(営業時間の短縮要請やガイドラインの非遵守店への休業要請も含む)などがあった都道府県のグループ(図中で赤い点により示した11都道府県)では、新規感染者数が10%増加した場合、人出は7.0%ポイント程度低下していた。一方、自治体からそのような要請がなかったグループの場合(図中で青い点により示した36県)でも、新規感染者数が10%増加すれば、人出は3.5%ポイント程度低下していた。
推計の結果からは、自治体が飲食店の営業自粛要請などを行うか否かに関わらず、新規感染者数が多い地域ほど、そこに住む人々は外出を控える傾向のあることが示唆される。人出を減少させる効果は、自治体が営業自粛要請などを行った地域の方が、そうでない地域よりも大きいが、営業自粛要請などが無い地域に住む人々も、報道等により居住地域の感染症の状況に関する情報を入手し、主体的に外出の程度を変化させている可能性がある。
(人々の外出の程度によってサービス支出は大きく増減)
前項でみた人出のデータによれば、各地域の人々は感染症の状況を踏まえながら、時期によって外出の程度を大きく変化させていた。このように外出の機会が変動すれば、外食や旅行といった外出を前提とするサービスに対する個人の支出も大きな影響を受けるものと考えられる。そこで、ここではデータによって外出の変動とサービス支出の増減との関係を確認した。
カード支出に基づくサービス支出41と人出との関係を、2020年2月~2021年3月まで集計し、月別に両者の関係を散布図にした結果が第2-1-5図(1)である。結果からは、人出の増減に伴って、サービスに対する支出が大きく増減する様子が確認できる。特に2020年4月と5月には緊急事態宣言の影響により、人出とサービス支出は共に大きく減少している。2021年1月及び2月の人出とサービス支出も、2回目の宣言の影響によって低位にある。しかし、2020年の宣言時ほどには、人出もサービス支出も低下していない。人出とサービス支出の間には強い相関関係がみられ、単純な回帰分析の結果からは、人出が10%ポイント低下すれば、サービス支出はおよそ11%ポイント低下する関係にある。
なお、サービス支出のうち特に外食に対する支出のみを取り出して人出との関係を確認すると、外食支出に対する人出の変化の影響は、サービス支出全体に比べて更に大きい(第2-1-5図(2))。回帰分析の結果からは、外食の場合、人出が10%ポイント低下すれば、外食に対する支出は18%ポイント程度減少することが示唆される。外食に関しては、政府や自治体等による営業時間の短縮要請の影響も大きいと考えられるため、人出の減少のみが外食に対する支出の減少の直接の要因とは言えないが、感染症の影響が比較的小さかったと思われる時期(2020年の夏季から秋季にかけて)も、人出と外食支出の間には相関関係がみられることから、人々が外出を減らす場合、特に外食を回避する傾向は強いものと推察される。