第1章 第2節 新型コロナウイルス感染症以降の人口移動の変化
東京圏への人口の転出入は、2019年まで転入超過が拡大傾向にあったが、2020年は、感染症の影響により、東京圏の転入超過数は大きく減少した(前節参照)。月別にみると、2020年4月以降、東京圏では前年に比べて転入超過数が減少しており、特に、東京都では2020年7月から2021年2月まで転出超過が続いた。本節では、こうした動きを、概観する。
(2020年4月以降、東京圏への人口流入が減少)
2020年以降の東京圏の人口移動の変化について、月別の動きを概観する。
東京圏の転入超過数(ただし、転入超過数がマイナス(-)の場合は、転出超過を示す)は、2020年3月までは、前年同月とほぼ同水準の転入超過が続いていた。しかし、感染症の影響により、緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、前年と異なる動きとなっている。同年4月には、前年に比べて転入超過数が大幅に減少し、5月以降も減少して推移している。このため、前年のような転入超過傾向がみられなくなり、7月、8月、11月、12月については転出超過を記録している(第1-2-1図)。
男女別では、前節でみたように、女性の転入超過数が男性を上回る状況が続く中、男性、女性共に転入超過数が減少している(第1-2-2図)。男性については2020年7月、8月、9月、11月、12月、女性については同年8月、12月が転出超過を記録している。2020年度では、男性、女性共に、各年齢階層で転入超過数が減少している(第1-2-3図)。男性、女性共に30~54歳が最も減少し、男女共に転出超過に転じている。また、20~24歳、25~29歳については転入超過は続いているものの、男女共に転入超過幅は縮小している。
(2020年7月以降2021年2月まで、東京都の転出超過が続く)
上記のような東京圏の人口移動の変化は、東京都の人口移動の変化によるところが大きい。東京都の転入超過数は、2020年3月までは、前年同月とほぼ同水準の転入超過が続いていたが、2020年4月以降、前年に比べて転入超過数が大幅に減少し、5月には転出超過に転じている(第1-2-4図)。6月には転入超過となるものの、7月に再び転出超過に転じて以降、2021年2月まで8か月連続で転出超過が続いた。2021年3月は、進学・就職・転勤の時期であることから転入超過となったものの、前年より減少している。2020年度では、転入超過数は7,537人となり、2019年度の8万3,455人から大幅に減少している。東京圏でみれば、転入超過は続いているものの、東京都の転入超過数が大幅に減少したことにより、2019年度の14万9,779人から2020年度は7万5,350人に減少している(第1-2-5図)。
東京都の転入者数、転出者数の前年同月差をみると(第1-2-6図(1))、転入者数については、4月、5月に前年を大きく下回り、6月に前年並みとなった後、7月以降は前年を下回って推移している。転出者数については、5月は前年を大きく下回ったが、8月以降は前年を上回って推移している(第1-2-6図(2))。これは、4月、5月は、緊急事態宣言下でもあり、大学進学、就職や転勤等による東京都への移動が控えられたためとみられる。年齢階層別にみると、転入者数については、4月は大学進学の時期に当たる10歳代後半、5月は、就職や転勤等が生じるとみられる20歳代から30歳代前半を中心に前年に比べて減少している(付表1-1)。6月には再び転入超過数がプラスへと転じたが、緊急事態宣言の解除により、4月、5月に東京都への移動を控えた若者の一部が東京都に移動したことも背景にあるとみられる。7月以降は、転入者数は、10代後半が9月、10月に増加していることを除き、ほとんどの年齢階層において前年に比べて減少していることに加えて、8月以降は、転出者数が、10代後半を除き、全ての年齢階層が前年に比べて増加して推移している。
(転入者数の減少は東京圏以外、転出者数の増加は東京圏3県の寄与が大きい)
東京都に対してどの地域からの転入者数、転出者数が変化しているのかを把握するため、2020年度の東京都への転入者数・転出者数別の前年差を地域別、道府県別にみてみる(第1-2-7図)。
東京都への転入者数は、2020年度では、前年に比べて約5万1,421人(前年同期比10.9%減)減少しており、その約7割は東京圏以外からの転入の減少であり、残りの約3割は東京圏3県(埼玉県、千葉県、神奈川県)からの転入の減少である。転入元の道府県については、千葉県、神奈川県、埼玉県の順に東京圏3県に次いで、大阪府、愛知県、福岡県、北海道、兵庫県等人口の多い都市部を有する府県が減少している(第1-2-8図(1)、付図1-2(1))。東京都からの転出者数については、2020年度では、前年に比べて約2万4,497人(前年同期比6.3%増)増加し、その約6割が東京圏3県への転出の増加によるものだが、約3割は東京圏以外への転出の増加によるものとなっている。転出先の道府県については、神奈川県が最も多く増加し、次いで千葉県、埼玉県と東京圏3県の増加数が多い。東京圏以外では、茨城県、長野県等が増加している(第1-2-8図(2)、付図1-2(2))。
このような動きの背景としては、東京近郊や他の都市部の居住者が、より感染リスクの高いと考えられる東京都への住居の移動を控え、また、東京都の居住者においては、テレワークの定着により、都心への通勤の必要性の低下から、東京近郊や東京へのアクセスが比較的便利な地域への住み替え等が生じていることがあるとみられる。
なお、東京都に対する転入者数の減少、転出者数の増加への寄与という点からは、神奈川県、千葉県、埼玉県の東京圏3県が道府県別で上位を占めるものの、人口移動の変化が地域に与える影響という点からは、東京圏3県に対する影響より、地方圏に対する影響のほうが大きいとも捉えられる(付図1-3)。2020年度について、各道府県における東京都に対する転入者数、転出者数の前年比をみると、東京都への転入者数については、神奈川県、埼玉県、千葉県の減少率は、他の道府県に比べて小さい。東京都からの転出者数については、増加率が最も大きい県は、鳥取県、次いで、島根県、和歌山県、宮崎県、福井県等の地方圏であり、東京圏3県の増加率はこれらの県に比べて小さい。
(東京近郊及び人口の多い都市部を有する道府県が転入超過に)
次に、感染症の影響により、各都道府県の人口移動にどのような変化が生じているかをみてみる。
2020年度の転入超過数を都道府県別にみると(第1-2-9図)、東京都の転入超過幅が大幅に減少したことにより、東京圏の神奈川県、埼玉県、千葉県の3県及び大阪府の転入超過数が東京都より多くなっている。転入超過数の多い都道府県としては、東京圏の神奈川県、埼玉県、千葉県が上位を占める。神奈川県及び埼玉県の転入超過数は前年とほぼ同水準であり、千葉県では、前年に比べて転入超過数が拡大している。東京圏以外では、人口の多い都市部を有する大阪府、福岡県、宮城県、北海道が転入超過となっている。大阪府、福岡県は、転入超過幅が拡大し、宮城県、北海道は、転出超過から転入超過に転じている。また、東京近郊の群馬県も転出超過から転入超過に転じている。さらに茨城県、栃木県、長野県、山梨県等は、転出超過ではあるものの、転出超過幅が大きく縮小している。
感染症の影響により、東京都の転入超過数が大幅に減少し、これまでの東京一極集中の動きに変化が生じている。一方で、東京都への転入者数が減少している、あるいは東京都からの転出者数が増加している地域としては、神奈川県、埼玉県、千葉県の東京圏、人口の多い都市部を有する道府県、または東京からの交通アクセスが便利とみられる東京近郊の県が中心となっている。東京から移住する場合も、東京からのアクセスの良さ、あるいは、人口の集積がある都市であること等が求められているとみられる。
現在のような動きは、感染症の影響下での一過性の動きである可能性もあり、感染症の終息後もこのような動きが持続するか、また、持続する場合には、地方への人の流れにどのような変化が生じるかが注目される。
(コラム1:2021年3月、4月の東京圏に対する人口移動)
3月、4月の春は、進学、就職、新年度の開始等により、人口移動が年間で最も集中する時期である7。本コラムでは、感染症の影響による、東京圏への人口移動の変化について、2021年3月、4月の東京圏の転入超過数を男女別、年齢階級別に、感染症以前の2019年、感染者数が増加し、4月に初めて緊急事態宣言が発出された2020年と比較しながらみてみる。
(東京圏の転入超過数の減少が続き、女性の減少数が男性より多い)
3月、4月の東京圏の転入超過数は、男女共に2020年、2021年と2年連続で減少している。男性では、2019年3月、4月の転入超過数(以下、本コラムでは、「3月、4月」を省略する)は4万4,717人であったが、2020年では3万8,907人、2021年では3万4,194人に減少し、対2019年同期差では、1万523人減少となっている。女性では、2019年の転入超過数は5万866人であったが、2020年では、4万4,953人、2021年では3万8,342人に減少し、対2019年同期差では、1万2,524人減少となっている(コラム1-1-1図(1)、(2)、(3))。
(15~19歳は、2020年は転入超過数が減少したものの、2021年は感染症以前に戻る)
大学入学時が含まれる15~19歳は、2020年には転入超過数が、前年同期に比べて、男性(3,349人減)、女性(2,931人減)共に大きく減少している。ところが、2021年では前年同期に比べて、15~19歳は男性(2,575人増)、女性(2,549人増)と共に増加しており、男性、女性共に、2019年同期とほぼ同水準の転入超過数となっている。これは、後述するように、他の年齢階級で、2021年転入超過数が前年同期に比べて減少しており、しかも、2020年前年同期差より減少幅が拡大していることとは、異なる動きとなっている。2020年では、4月に初めての緊急事態宣言の発出があり、多くの大学においてオンライン授業等も実施されたことから、多数の学生が東京圏への移動を見合わせたとみられるものの、2021年では、同様な動きは生じていないとみられる。
(就職期の20代では、女性の転入超過数が男性より大きく減少)
新卒の就職時期であり、転入超過数が最も多い年齢階級である20~24歳は、依然として大幅な転入超過であるものの、男女共に2年連続で転入超過数が減少している。2021年は、2019年に比べて、男性では1,571人減少、女性は3,234人減少と、女性の方がより大きく減少している。前年同期差では、男性は、2020年は555人減少、2021年は1,016人減少、女性は、2020年は461人減少、2021年は2,773人減少となっている。男女共に、2021年の転入超過数の減少幅が2020年より拡大しており、感染症の影響が続く中で、東京圏への移動の減少傾向が続いているとみられる。
また、民間機関のアンケート調査によれば、2021年3月卒業予定で就職先が確定した大学生の中で、就職先が東京圏(首都圏)である割合は、北関東、北陸・甲信越、四国以外の地域では前年に比べて低下しており、大学生の就職活動において東京圏への就職を避ける傾向もみられる(コラム1-1-2図)。
25~29歳については、2021年は、2019年に比べて、男性では772人減少、女性は1,607人減少と、20~24歳と同様に女性の減少幅の方が大きい。前年同期差では、男性は、2020年に273人増加、2021年に1,045人減少、女性は、2020年に457人減少、2021年に1,150人減少であり、2021年の方が転入超過数が減少している。
(30代以降は、転出超過。男性の30~54歳は転出超過に大きく転じる)
30~54歳、55歳以上の年齢階級では、2021年では、男女共に転出超過となっている。
30~54歳については、2021年は、2019年に比べて、男性では、4,525人減少、女性では、4,964人減少した結果、男性は2019年では3,058人の転入超過であったものの、2021年は1,467人の転出超過に大きく転じ、女性は、4,944人の転入超過から、2021年には20人の転出超過に転じている。男女共に、2021年の転入超過数の前年同期と比べた減少幅は、2020年に比べて拡大している。
55歳以上においては、男女共に2019年においても転出超過であったが、2021年に転出超過数が拡大している。
感染症を契機に、東京圏の転入超過数が減少する動きは、15~19歳の年齢階級を除き、2020年3月、4月に比べて、2021年3月、4月の方が強まっている。ただし、現状は、感染症の影響等により、東京圏の生活に行動制約が生じている中での動きであることにも留意が必要である。感染症を契機に生じた、新たな人の流れや地方への関心の高まりを一過性のものとしないように、地方の魅力を高め、地方への人の流れを定着・拡大させていくことが期待される。
(コラム2:2021年度の大学入試の志願状況への感染症の影響)
東京圏への転入超過数では、15~19歳の年齢階級は、前掲第1-1-5図が示すように、20~24歳に次いで、転入超過数が多く、大学等への進学が、東京圏へ転入するきっかけとなっている。ここでは、東京圏の大学の進学者数について、2010年度から2020年度からの増減を確認した上で、感染症の影響下で行われた2021年度の大学入試の志願状況をみてみる。
(10年前と比較した2020年度の東京圏の大学への進学者数)
東京圏の大学の進学者数について、2010年度から2020年度にかけての増減について、18歳人口の増減、大学進学率の増減、大学進学者に占める東京圏の大学の割合の増減で要因分解してみると(コラム1-2-1図)、男性は、18歳人口の減少に加え、大学進学者に占める東京圏の大学の割合が北海道を除き低下8したため、全地域で減少している。一方で、女性は、18歳人口の減少は男性と同様であるが、全地域で大学進学率が上昇している。東京圏の大学進学者割合についても、近畿、北海道、九州・沖縄で上昇している。このため、東京圏の大学の進学者数は、近畿、北海道、九州・沖縄、東京圏が増加し、他の地域は減少しているものの、当該地域の男性に比べて減少幅が小さくなっている。
(2021年度の大学入試では、三大都市圏の志願者の減少幅が大きい)
2021年度の大学入試の志願者数の前年比を、大学の所在地別にみると、東京圏(13.5%減)、近畿(14.9%減)、東海(14.6%減)の三大都市圏は、いずれも全国平均(13.3%減)より減少幅が大きい9(コラム1-2-2図)。
一方で、北海道(13.7%減)を除く地方圏では、中国(7.2%減)、関東・甲信越(7.7%減)等、三大都市圏に比べて減少幅が小さい。
国公立大学、私立大学別の志願者数の変化について、大学の所在地地域別の寄与をみると(コラム1-2-3図)、東京圏、東海、近畿の三大都市圏の私立大学で志願者数が減少していることにより、私立大学の志願者数が大きく減少している。私立大学の志願者数の倍率(志願者数/合格者数)をみると(コラム1-2-4図)、全地域で低下している中で、東京圏、近畿、東海は、概ね地方圏より大きく低下している。
このように、感染症の影響もあり、2021年度の大学入試については、三大都市圏の大学の志願者数が地方圏の大学より大きく減少する傾向がみられた。地元志向が高まる等地方圏の大学に対する関心が高い、この機を捉え、就学による若者の地方への流れを推進していくためには、魅力ある地方大学の実現に向けた取組の推進が期待される。「経済財政運営と改革の基本方針2021(以下、「基本方針2021」)」(2021年6月18日閣議決定)においては、地方大学の力を強化する政策パッケージを本年度中に策定し、STEAM教育を中心とした人材育成や研究開発により地方の産業創出を推進し、また、東京圏の大学の地方サテライトキャンパスの設置を促進することとされている。
また、「基本方針2021」では、IT分野を始めとした理工系分野において、特に女性の身近なロールモデルを創出し、学校推薦型選抜や総合型選抜に女子を対象とする枠の設定やオープンキャンパスの実施、女子学生向けのSTEAM教育拠点の整備、理系分野で優れた業績を残している女性研究者の話を聞くことができる機会の充実等の総合的な支援策を講ずることにより、地方大学を含めた理工系学部における女子学生の割合の向上を促すこととされている。女性の大学進学率が上昇傾向にある中で、感染症の影響もあり学生の地元志向が高まっており、前述のような支援策等を講じていくことにより、理工系の女子学生が身近な地方大学に進学しやすい環境整備を進めることが課題となっている。