第1章 第1節 これまでの東京一極集中の社会的・経済的要因

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(総人口は減少に転じたが東京圏に人口が集中する傾向は継続)

東京圏(東京都、埼玉県、神奈川県及び千葉県)の人口の推移をみると(第1-1-1図)、1950年には人口1,300万人程度であったが、総人口の増加と社会経済の発展の中にあって着実に増加していき、2005年にはおよそ人口3,400万人にまで増加した。その後、我が国の総人口は2008年より減少に転じたが1、東京圏の人口の増加傾向は継続し、2019年には3,700万人程度となっている。東京圏の人口が総人口に占める割合をみると、1950年には15.5%であったが、1990年には25%を超え、国民の4人に1人が東京圏に暮らす状態になった。以降も東京圏への人口の集中は続き、2019年には29.1%と総人口の3割近い人々が東京圏で生活している。

こうして過去より東京圏の人口が増加してきた要因はどのようなものだろうか。一般に人口増減は、出産や死亡による人口の変化(自然増減)と、他の地域や外国との間の人口の転入や転出によって生じる変化(社会増減)によってもたらされる。そこで、1950年からの東京圏の人口増減率について、自然増減と社会増減とに寄与度分解を行い、過去からの推移をみると(第1-1-2図)、東京圏の人口は1950~70年代にかけては、東京圏以外からの人口転入による社会増加が、出産等による自然増加を上回る状態であったが、1970~90年代にかけては、反対に自然増加が社会増加を上回る状態が続いた。しかし、2000年代から、再び社会増加が自然増加を上回る状態に戻っており、特に2010年以降には、自然増減がマイナス(死亡が出産を上回る状態)となっているにも関わらず、社会増加が継続しているため、東京圏の人口の増加が継続している。

(東京圏への人の移動は東京都への移動が占める割合が大きい)

東京圏への転入超過数(転入者数から転出者数を差し引いた数。転入超過数がマイナスの場合は転出超過を示す)について、東京都と東京都を除く東京圏(埼玉県、千葉県、神奈川県)の動きをそれぞれ確認すると(第1-1-3図)、東京都への転入超過数はリーマンショックが発生した後の2009年と2010年、また感染症の影響を受けた2020年を除き、東京都を除く東京圏への転入超過数を上回っている2。転入超過数の推移を辿ると、2000年から次第に増加し2007年には9.5万人の転入超過となったが、その後は減少傾向に転じて、2011年の転入超過数は4.4万人にまで減少した。2012年以降は再び増加基調となり、2019年には8.7万人の転入超過となったものの、2020年は感染症の影響により3.8万人へと大きく減少した。一方、東京都を除く東京圏への転入超過数は、東京都と同様に転入超過の状態が続いているが、東京都に比べて年ごとの転入超過数の変動が、やや大きい傾向がある。具体的には、東京都を除く東京圏の転入超過数は、2008年に6.9万人の転入超過となった後、2012年には1.1万人まで減少したが、その後は再び増加傾向になり2019年には5.9万人の転入超過となった。続く2020年は感染症の影響下にあったが、転入超過数は6.0万人と前年からほぼ横ばいになっている。

(近年では女性の東京圏への転入超過数が男性を上回る傾向)

続いて1980年からの東京圏への人口の転出入の状況を、男女別の転入超過数で確認してみると(第1-1-4図)、男性は1993~95年まで、女性は1994年のみ転出超過(マイナス)であったが、その他の時期は全て男女共に転入超過(プラス)となっている。

転入超過数の増減について1980年代からの動きを辿ると、いわゆるバブル経済期の1987年に最初のピークがみられ、男性は9.7万人、女性は男性より少なく6.7万人の転入超過であった。その後、リーマンショック前の2007年に再び転入超過数のピークを迎え、この年には男性が7.9万人、女性は7.6万人と、ほぼ男女同数の転入超過数となった。更に2012~19年まで、再び転入超過数の増加傾向が続き、2019年には男性が6.4万人、女性は男性を上回る8.2万人の転入超過となった。ただし、2020年は感染症の影響により大きく転入超過数は減少している。

このように、過去からの東京圏への人口の転出入は、転入超過となる状態が続いているが、転入超過数の大きさは時期によって大きく変動しており、社会の出来事や経済状況との関係がうかがわれる。また特に2009年より直近の2020年まで、女性の転入超過数が男性を上回る状態が継続しているといった特徴もみられる。以降では年齢階層別の転入超過数のデータや東京圏での就労に関する意識調査の結果より、こうした特徴の背景を確認する。

(東京圏への転入超過数は男性と女性ともに若い世代が多い)

2010~2019年まで、男性と女性の東京圏への転入超過数を6区分の年齢階層(①0~14歳、②15~19歳、③20~24歳、④25~29歳、⑤30~54歳、⑥55歳以上)に分けた結果が、第1-1-5図である。

その特徴をみると、まず男性と女性ともに③20~24歳の年齢階層が、いずれの年においても最も転入超過数が多い。また、その数は男女共に増加傾向にあり、かつ女性の数が男性を常に上回って推移している。この年齢階層には大学や専門学校等を卒業し、主に就職をきっかけに東京圏へと移動する者が多く含まれるものと推察される。③20~24歳に次いで、転入超過数が多い年齢階層は、男女共に②15~19歳である。この年齢階層は③20~24歳とは逆に、男性の転入超過数が女性をやや上回る傾向となっているが、男性は漸減傾向であり、女性はほぼ横ばいで推移している。この年齢階層は主に高等学校を卒業し就職や大学等への進学に当たって東京圏へと移動する者が多く含まれると推察される。続いて④25~29歳の動きをみると、男女共に転入超過であり、かつ転入超過数は増加傾向にある。さらに上の年齢階層である⑤30~54歳をみると、女性は男性よりも常に転入超過数が多く、かつ女性の転入超過数は増加傾向にある。一方、男性は転入超過数が小さく、2010~13年にかけては転出超過であった。最後に⑥55歳以上の年齢階層をみると、男性は転出超過で推移している。しかし、女性は2010~14年までは男性同様に転出超過であったがその数は少ない。これは女性の場合、70歳未満の年齢階層では男性同様に転出超過であるが、70歳以上では転入超過となっているためである。

(東京圏では地方圏に比べて幅広い業種で雇用者数が増加している)

前項で述べたとおり東京圏への転入超過数は、男女ともに20~24歳の年齢階層で特に多くなっており、就職を契機に東京圏へと転入する人も多いと推察される。ここでは、転入超過の背景として雇用に着目し、東京圏の雇用はその他の地域と比較してどのような特徴があるかをみた。具体的には2010年から2020年までの10年間で、東京圏と地方圏(東京圏、東海及び近畿を除く全国)の男性と女性の雇用者数が、どのような業種で増加したかを整理した(第1-1-6図)。

まず、雇用者数の増加率について性別(男性と女性)及び地域別(東京圏と地方圏)にみると、最も増加率が高いのは東京圏の女性の雇用者数であり27.1%の増加となっている。次いで、東京圏の男性の雇用者数が8.5%増加しており、地方の女性の雇用者数も8.2%増加している。増加率が最も低いのは東京圏の男性であり0.9%の増加である。女性の増加率が東京圏と地方圏のどちらにおいても男性を上回っているのは、近年、女性の就業率が大幅に上昇していることが背景にあると考えられる3

雇用者数の増加率について、産業別に寄与度の分解を行った結果をみると、東京圏の男性の場合、「情報通信業」、「医療、福祉」、「卸売業、小売業」といった産業の増加寄与が大きくなっている。一方、東京圏の女性の場合には、「医療、福祉」、「卸売業、小売業」、「教育、学習支援業」の増加寄与が大きい。地方圏の結果をみると、男女ともに「医療、福祉」の増加寄与が最も大きい。女性の場合には「教育、学習支援業」も雇用者数の増加に寄与しているが、東京圏にみられるような「情報通信業」や「卸売業、小売業」といった業種の増加寄与は、地方圏では小さい。こうした結果からは、東京圏への人口移動の背景として、東京圏の方が、地方圏に比べて幅広い業種で雇用機会があることが影響している可能性が考えられる(第1-1-6図)。

(意識調査でみる人々が東京圏へと移動した理由)

東京圏へ転入する人々において若年層の占める割合が高い背景には、進学や就職をきっかけに生まれ育った地域(地元)を離れることが多いためと考えられる。そこで、人々が進学や就職に当たって、地元を離れる選択をした理由とは具体的にどのようなものか、意識調査による回答結果を整理したものが第1-1-7図である。

まず、進学に当たって地元を離れた理由について、男女別に回答比率をみると(第1-1-7図(1))、「親元を離れて、一人で生活したかったから」、「自分が関心のある分野が学べる学校が、地元に無かったから」、「自分の学力に見合った学校が、地元に無かったから」といった理由の比率が高い。男女差に着目すると、女性の回答比率は「自分が関心のある分野が学べる学校が、地元に無かったから」と「地元を離れて、新しい人間関係を築きたかったから」で男性よりもやや高く、男性は「自分の学力に見合った学校が、地元に無かったから」で、回答比率が女性よりもやや高い。

総じて、人々が進学にあたって地元を離れる理由には、一人暮らしや地元以外の地域への憧れといった理由もあるが、自分の学力や関心に合った学校が地元に存在しないことも大きな理由の一つである。

続いて、地元を離れて東京圏で就職した人々に対して、その理由を尋ねた回答の結果をみると(第1-1-7図(2))、「自分の能力や関心に合った仕事が、地元で見つからなかったから」、「親元を離れて、一人で生活したかったから」、「給与の良い仕事が、地元で見つからなかったから」といった理由の回答比率が高い。男女で回答比率の差が大きい理由に着目すると、「親元を離れて、一人で生活したかったから」、「私生活(趣味や娯楽など)を充実させたかったから」といった理由では、特に女性の回答比率が男性を上回っている。一方、「給与の良い仕事が、地元で見つからなかったから」、「自分の能力や関心に合った仕事が、地元で見つからなかったから」といった理由では、男性の回答比率が女性を特に上回っている。

第1-1-4図にみたように、近年の東京圏への転入超過数は女性が男性を上回る傾向がみられる。また女性の転入超過数は、特に20代前半の若者が多い(第1-1-5図(2))ことから、就職が重要な転入の契機になっていると推測される。地元を離れて東京圏で就職した理由を尋ねた意識調査によれば、親元を離れて一人暮らしをしたい、あるいは私生活を充実させたいといった回答が、男性よりも女性の場合に特に多い結果となっている。その他に、東京都の労働市場に関する研究4によれば、東京都で働く女性の所得が他の大都市と比較して高い傾向が強まっていることが、女性の東京への移動を促進する要因となっている可能性が指摘されている。

(地域の雇用情勢と人口移動との間には相関関係もみられる)

前述の意識調査にみたように、人々が生まれ育った地域を離れて、東京圏へと移動する背景には、自分の関心や学力に合った学校の存在や、一人暮らしへの憧れといったように、仕事に直接関係しない理由も多く含まれるが、一方、「能力や関心に合った仕事」、「給与の良い仕事」、「安定した大企業」又は「将来性が高い仕事」が、「地元で見つからなかったから」といったように、地元に希望を満たす仕事が存在しないことを挙げた回答率も高くなっている。また、既存の研究には、東京圏とその他の地域との間の雇用情勢の差が、東京圏への人口転入に影響を与えた可能性について指摘するものも存在する5。そこで、以下では東京圏への人口移動の要因として、有効求人倍率や賃金の地域差が与えた影響を、データによって検討する。

最初に、既存の分析に習い1980年からの有効求人倍率と東京圏への人口移動との関係をみたところ(第1-1-8図(1))、東京圏への転入超過数と、東京圏と他の地域との有効求人倍率の比(=東京圏の有効求人倍率/東京圏以外の地域の有効求人倍率)は、概ね相関して推移している。具体的には、1980年代の後半より有効求人倍率の比が低下する(東京圏の地域の求人倍率と他の地域の倍率との開きが小さくなる)に従い、東京圏への転入超過数が減少しているほか、90年代後半~2000年代前半には、求人倍率の比が大きくなる(東京圏の求人倍率と他の地域の倍率との開きが大きくなる)につれ、転入超過数が増加している。ただし、2010年代の後半からは、求人倍率の比が低下しているにも関わらず、転入超過数が逆に増加しているなど、これまでとは異なる傾向もみられる。背景として、東京圏とその他の地域で有効求人倍率の差は縮小傾向にあるものの、東京圏は他の地域に比べて専門的・技能的職業の労働需要が強い6といった特徴があることから、こうした労働需要の偏在が人口移動を促進している可能性も考えられる。

こうした関係をより詳細に確認するため、東京圏以外の43道府県について、1990~2019年までの期間、東京圏と各道府県との有効求人倍率の比を算出し、東京圏への転入超過数との関係を散布図にした結果は、第1-1-8図(2)のとおりとなった。単純な回帰分析の結果からは、求人倍率が東京圏よりも低い道府県ほど、東京圏へと人口が転出する傾向がみられる。

東京圏への人口移動の背景には、求人倍率のような仕事の見つけやすさだけではなく、賃金水準の地域差が影響を与えている可能性も考えられる。そこで、東京圏を除く各道府県の賃金と人口移動との関係について、賃金の低い地域ほど東京圏への人口移動が生じる傾向があるかを、2019年のデータにより相関係数で確認したところ、東京圏への転入超過率と賃金の水準の間の相関係数は0.30程度であり、弱い正の相関がみられた(第1-1-9図(1))。一方、転入超過率について、転出入先を東京圏に限定せず、全都道府県を対象とする転入超過数に置き換えてから、賃金との関係をみた場合には、相関係数は0.76程度となり、強い正の相関関係がみられた(第1-1-9図(2))。図からは、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県といった東京圏のほか、宮城県、愛知県、大阪府、広島県、福岡県など賃金が他の地域に比べて高い地域で転入超過率が高い(自地域から転出する人口が少なく、自地域へ転入する人口が多い)傾向にあることが見てとれる。

最後に、1997~2019年までの東京圏を除く43道府県について、全国の賃金水準と各地域の賃金水準との比を求め、全都道府県に対する転入超過率との関係を散布図に表した結果は、第1-1-9図(3)のとおりである。結果からは、賃金水準が全国値を下回る地域ほど、人口が転出超過となる傾向がみられる。

本節ではこれまでの東京圏への人口の一極集中の状況とその背景について整理した。東京圏の人口は我が国全体の人口が減少する中にあっても、主に他の地域からの転入超過によって増加傾向が続いている。また転入超過数のうち最も大きな割合を占めるのは20代前半の若者であることから、就職が転入の一つのきっかけになっているものと推察される。東京圏に就職した理由を尋ねた意識調査の結果をみると、仕事に関する理由だけではなく、親元を離れて一人暮らしをしたい、あるいは私生活を充実させたいといった理由を挙げた回答も多くなっていた。またそうした傾向は特に女性に強くみられることから、近年の転入超過数において女性が男性を上回るといった特徴は、地元を離れた新しい生活への関心の高さも背景の一つになっていると考えられる。一方、有効求人倍率や賃金といった人々の仕事に関わるデータと人口移動との関係を確認したところ、こうした値の地域差は人口移動との間に相関関係を持っていた。意識調査の結果にみたように、仕事に関わる理由だけが東京圏へ人々が移動する理由ではないが、求人倍率や賃金が相対的に高い地域は、転入超過数が大きい傾向もみられた。なお、2020年には感染症の影響によって、本節でみてきたような東京圏への人口移動のトレンドにも大きな変化が現れている。次節以降は、こうした動きについて詳細をみていく。


脚注1 総務省「人口推計」によれば、我が国の総人口は2008年に1億2,808万人となって以降、減少に転じた。
脚注2 2020年の東京都への人口移動の動向については、感染症の影響により近年の傾向と異なる特徴的な動きとなったため、特に次節にて詳述する。
脚注3 内閣府「男女共同参画白書」によれば、女性(15歳~64歳)の就業率は、2010年には60.1%であったが、2020年には70.6%となっている。
脚注4 田中、東、勇上(2020)
脚注5 増田(2014)
脚注6 田中、東、勇上(2020)によれば、東京23区では、知識集約型の専門的サービスの労働需要が強く、高学歴労働者の雇用吸収先になっている一方、有効求人倍率が高いにもかかわらず就職確率(就職件数÷有効求職者数)が低く雇用のミスマッチが生じていることが、指摘されている。
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