第3章 第2節 健康と医療費
高齢化の進展は、社会保障費用の増大をもたらすが、健康な状態でより長く過ごすことができれば、結果的に医療・介護費用の増加を抑制することにつながると考えられる。本節では、健康を害したときに発生する代表的な費用である医療費と地域の健康度の関係について分析する。
(1人当たり医療費は都道府県間にばらつきがみられる)
まず、1人当たり医療費を都道府県別にみてみよう(第3-2-1図)。都道府県間の年齢構成の違いは1人当たり医療費にも影響を与えることを考慮し、こうした年齢構成の違いを調整した年齢調整後の1人当たり医療費をみると、最も高い福岡県が約39万円となる一方、最も低い新潟県は約29万円となり、差は約10万円となっている。なお、年齢調整前の1人当たり医療費については、最も高い高知県(約45万円)と最も低い千葉県(約30万円)の差は約15万円となっている。年齢調整後の1人当たり医療費の地域差は、年齢調整前の地域差に比べれば小さいものの、金額としては大きな都道府県格差がある。
年齢調整後の1人当たり医療費の都道府県の最大差約10万円のうち、約6万円が入院にかかる費用、約3万円弱が入院外の費用の差となっている。年齢調整後の1人当たり医療費の高い地域は、「総じて病床数が多く、平均在院日数が長い。」(厚生労働省、2017)との指摘がある。また、1人当たり医療費に差が生じる要因としては、地域特性や家族構成が影響している可能性があり、例えば、印南(1997)は、市町村経済が豊かで人口密度の高い都市部や世帯人員の少ない地域で1人当たり医療費が高くなる一方、林野面積などが大きい人口密度の低い地域や、二世帯で居住する地域については1人当たり医療費が低くなる傾向があるとしている。
(入院費の増加などにより1人当たり医療費は増加)
次に、1人当たり医療費(年齢構成調整前)の伸びについてみてみよう。1人当たり医療費の伸びについて2011~2016年の伸び率を入院、入院外及びその他(歯科診療、薬局調剤等が含まれる)の診療種類別に分けて、各項目の寄与度をみると、全体の変化率の10%に対して、入院が4.0%ポイント、入院外が2.7%ポイント、その他が3.3%ポイントとなっており、入院と入院外を比べると入院の方が増加に寄与している(第3-2-2図)。都道府県別にみると、ここ数年は千葉県、埼玉県、茨城県、神奈川県等、関東の伸びが大きい。
(1人当たり医療費と健康度の間には負の相関)
全国的に1人当たり医療費は増加しているが、一方で、健康であれば医者にかかる機会も少なく、医療費がかからなくなる。地域の健康度が医療費にどのような影響を与えているか、都道府県別の1人当たり医療費と健康寿命及び主観的健康度について、それぞれの関係をみると、どちらも負の相関がみられる(第3-2-3図、第3-2-4図)。健康寿命と医療費については、健康寿命が1年長い都道府県では、1人当たり医療費が約3万1千円低いという関係がみられる。主観的健康度と医療費については、主観的健康度が0.1ポイント高い都道府県では、1人当たり医療費が約3万7千円低いという関係がみられた。健康度が高い都道府県では、医療費が低い傾向がうかがえる。
(健康度の改善は1人当たり医療費の抑制につながる可能性)
医療サービスの利用しやすさ等といった個人を取り巻く環境要因をコントロールして、健康度が医療費に与える影響について分析を行ってみよう。都道府県別のデータを用いて、医療費に影響を与える様々な要因(医療サービスのアクセス、家族構成、都市化状況等を印南(1997)を参考に選定)を説明変数に入れてコントロールしながら、医療費と健康度の関係について推計を行ったところ、健康寿命でみた健康度は、健康度が高いほど、有意に1人当たり医療費が低い傾向にある。ここからは、地域の健康度が高まれば、医療費が抑制される可能性があることがうかがえる。