第2章 第3節 今後の地域経済と地域金融の展望

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これまで、地域における金融機関の活動とそれが地域経済に与える影響についてみてきた。一方、今後の地域経済を展望すると、少子高齢化社会を迎え、多くの地域では人口減少などの構造的な課題を抱えるなか、先行きについては経済の縮小も懸念される。こうした状況下、今後、地域経済を活性化してゆくためには、人口減少を前提としつつ、生産性の向上とともに、新たな産業を育成し、成長力を強化することが重要である。本節では、地域経済の先行きと今後の課題に対して、地域金融が担う役割について検討する。

(地方創生への貢献が期待される事業性評価)

第2節で述べたとおり、我が国においては2008年を境に人口が減少しており、少子高齢化が進展するなかで、全人口に占める生産年齢人口(15~64歳)の割合も低下している。こうした中、地域別に労働力人口をみると、2001年と2018年との比較において、東京を含む南関東で大きく増加しているほか、東海、近畿で僅かに増加しているものの、その他すべての地域で減少している(第2-3-1図)。また、第1章で述べたとおり、景気回復が続くなかで、日銀短観における雇用人員判断DIの動きを地域別にみると、総じて、雇用人員が不足と判断する企業が多い状況となっており(第1-2-6図参照)、各地域とも人手不足の問題に直面している。今後も人口減少が予測されるなか、先行き労働力の低下が各地域の生産を押し下げることなどが懸念されるところ、地域経済を活性化するためには、労働生産性の向上を図り、1人当たりの所得水準を底上げするとともに、地域資源を活かし、新たな成長の芽となる産業を育成して成長力を強化してゆくことが重要である。政府が取りまとめた「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2019年12月閣議決定)においても、「地域の稼ぐ力を高め、やりがいを感じることのできる魅力的なしごと・雇用機会を十分に創出し、誰もが安心して働けるようにすることが重要である」とされている。

前節でみたとおり、金融機関による融資活動については、地域経済においてより大きな影響を及ぼすところ、地域金融の役割いかんによって、こうした地域の課題を解決する方向へと導く可能性も考えられる。そうした具体的な取組の一つとして、「事業性評価に基づく融資」が挙げられる。事業性評価に基づく融資とは、金融機関が企業の事業内容や成長可能性等を適切に評価して融資を行うものである。このため、企業が保有する担保や保証に貸出判断を大きく依存した従来型の融資では対象とはならなかった中小企業やベンチャー企業等にも、融資が実行される可能性がある。こうした融資におけるビジネスモデルの転換により、金融機関が、地域における産業の成長及び新陳代謝を促すための積極的な役割を発揮することが期待される(第2-3-2表)。

(多様化する企業の資金調達手段)

一方で、企業が資金を調達する方法は多様化している。近年、ベンチャーキャピタルによるファンドからの投資や、ITを活用したクラウドファンディングからの投資等が注目を集めており、新たに起業する際にも、これらの手段により資金調達を行うケースが増えてきている。担保・保証に過度に依存した融資を行っていた金融機関においては、ベンチャー企業のような新たな技術や事業を開発した企業へ融資を行う場合には、融資の審査の際に格付が低くなるケースが多く、貸倒引当金を多く積む必要が生じるため、積極的に融資を行いづらい側面があった。そうした中で、金融機関においても、別途、地域活性化等を目的としたファンドを創設し、ファンドを通じた出資という形で、先進的ではあるものの、リスクも高い事業を行うベンチャー企業等に対して、資金供給を行っているところもある。

こうした流れの中、政府は2013年に中小企業等の事業再生支援を目的として設立した株式会社企業再生支援機構を組織再編し、株式会社地域経済活性化支援機構を発足させた。同機構においては、地域経済の活性化に資する事業活動の支援を行うことを新たに目的として、地域金融機関等とともに設立したファンドの運営等を通じて、地域経済の活性化に資する事業を行う法人に出資を行うなどの支援を実施している。

(コラム2:地域の企業や金融機関を支える地域経済活性化支援機構)

株式会社地域経済活性化支援機構(以下、「REVIC」という。)は、本文にも記載したとおり、中小企業等の事業再生の支援に加えて、地域活性化に資する事業活動を支援するための機関として、2013年3月に、前身の株式会社企業再生支援機構(2009年に認可法人として設立。)を改組する形で発足した認可法人である。その主な業務は、(1)地域金融機関等とともにファンドを組成し、ファンドからリスクマネーを中小企業等に供給すること、(2)有用な経営資源を有しながらも過大な債務を負っている中小企業等の事業再生を支援すること、(3)経営者保証付債権の買取を通じた中小企業等の事業承継・譲渡や経営者の再チャレンジを支援すること、(4)事業性評価の向上に必要な助言等を行う専門家を金融機関等に派遣することである。

最近においては、REVICが時限的組織であることに鑑み、地域金融機関からの支援要請を受けて、直接的に中小企業等の事業再生支援やファンドを通じた資金供給を行うよりも、地域金融機関が自律的かつ持続的に、中小企業等への支援を通じて地域経済の活性化に取り組めるよう、そのノウハウを移転することに注力している。具体的には、金融機関からの要請に基づき、REVICから金融機関に対して地域経済の活性化に資する事業等に関する専門家を派遣しており、そうした専門家が、地域金融機関が主体的に中小企業等の事業再生や地域活性化のためのファンドの運営等を行えるよう、ノウハウ移転に努めている。こうしたREVICのサポートを通じて、地域金融機関において、事業再生や地域活性化に精通した専門人材が育まれ、今後、地域金融機関が中心となって積極的な事業再生や地域活性化事業が行われることが期待される。

(コラム3:金融仲介機能を補完するクラウドファンディング)

地域経済を担う中小企業が資金調達を行う先としては、地方銀行等の金融機関が主たる役割を果たしているが、近年では、金融機関以外からの新たな資金調達手段として「クラウドファンディング」が注目されている。

クラウドファンディングは、インターネット上の資金調達サイトを通じて、金融機関を介さずに資金の出し手と受け手を結びつけ、資金調達を行いたい法人等が不特定多数の者から資金の出資等を受けることができる仕組みとなっている。こうした手段によって、ベンチャー等の新規に事業を始める起業者において、金融機関から資金供給を受けることができなかった場合でも、自らの事業に共感する者から必要な資金の供給を受けることができる可能性が広がっている。

このように、クラウドファンディングについては、地方において新たな成長の芽となり得る可能性のある起業や産業の育成に対して、金融機関の資金仲介機能を補完する役割を担うものとして期待されている(コラム図2-3-1コラム表2-3-2)。

(企業の経営課題に対する金融機関の存在の高まり)

今後の地域経済の発展のため、ベンチャー等の地方の成長を促す新たな事業へ取り組む企業への支援が必要となる一方で、地域経済の安定のためには、これまで地域経済を支えてきた中小企業等への経営支援も必要である。地方企業では、少子高齢化の進展、人口減少等に伴い、厳しい経営環境に直面して、事業再生や事業承継が必要な企業も存在する。特に事業承継については、経営が黒字であるにも関わらず、経営者が高齢化するなかで、後継者として適切な人材が見つからず、経営者の引退とともにやむなく休廃業する企業も少なくない。そうした企業が地域から無くなることは、地域経済において雇用機会の確保や経済成長の点から大きな損失である。このため、近年、地域金融機関がそうした課題を解決するための環境整備や取組も進んでいる。

具体的には、地域金融機関における企業の事業再生・事業承継へ関与する機会の増加である。銀行においては、経営の健全性を確保するなどのため、原則、国内会社の議決権を5%未満とする議決権保有制限(いわゆる5%ルール)があるが、これに関連して、事業承継会社や事業再生会社、地域活性化に資する事業を行う会社における例外要件の緩和等が実施された。これにより、地域金融機関がこれら会社への出資を通じて経営参加する機会が増え、その人材やノウハウを活かすことで、企業の事業再生や事業承継等の取組を促進することが期待される。

また、地方企業への人材還流についても、地域金融機関の役割が増している。地域金融機関は、地方において人気のある就職先であり、優秀な人材が集積していると言われている。地方企業における経営者を始めとした人材の確保において、既に公的支援も含め様々な取組が行われているが、さらに地方企業との接点を増やし、人材の還流を促すため、2018年3月には、規制緩和によって、地域金融機関の付随業務として人材紹介業務が可能となった。これを受けて、地方銀行では人材紹介業務への参入もみられるところ、既存の支援事業との連携とともに、地方企業とのつながりが深い地域金融機関によるマッチング支援が進んでいる。

さらには、中小企業が融資を受ける場合における経営者の個人保証の運用見直しが進められている。個人保証については、経営者の経営への規律付けの役割を果たすとともに、金融機関からの円滑な資金調達に寄与する反面、事業再生及び事業承継の際には障害になっている面もある。このため、政府においては、「経営者保証に関するガイドライン」を策定し(2014年2月適用開始。)、ガイドラインの精緻化を図るなかで、金融機関に対して、一定の条件の下で個人保証を付さない融資を促している。

以上のように、事業承継を始めとした地方企業の経営上の課題の解決に向けて、近年、地域金融機関が果たすべき役割は広がりを増してきており、地域における影響と存在意義は高まっていると考えられる。

(金融機能とともに成長する地域経済)

これまでみてきたように、今回の景気回復局面においては、地域間のばらつきが小さく、その要因の一つとして設備投資等の内需を中心とした回復であったことが挙げられる。そうした中、地域金融機関においては、中小企業への資金供給を通じて企業の設備投資を促し、地域経済の回復を下支えしてきたと考えられる。一方、中長期的な視点でみると、少子高齢化に伴う人口減少等により、各地域では構造的な課題を抱えている。地域金融機関においては、今後の地域経済の課題の克服という観点からも、事業性評価に基づく融資やファンド等の活用を通じて、金融仲介機能とコンサルティング機能を発揮し、地方企業の生産性の向上やベンチャーなどの新たな成長の芽となり得る事業の起業及び育成を促して、地域の成長力の強化を図ることが期待される。また、現下の事業再生や事業承継などの地域企業が抱える課題においても、その人材やノウハウを活かした経営支援を行うといった役割を担うことが期待される。

他方で、地域の金融機能を担う地域金融機関にも課題がある。現在の低金利環境の影響を受けて、貸出利息収支や債券運用収益に下押し圧力が掛かり、地方銀行の業績は収益面で厳しい状況が続いている。このため、各金融機関においては、経営コストの削減等の様々な経営改善努力を図るとともに、資金需要が減少した場合に対応した持続可能なビジネスモデルの確立が急務となっている。地域金融機関においては、営業基盤である地域経済の発展なくして、自らの経営を安定・持続させることは難しい。そうした観点から、新たなビジネスモデルへの転換を図りつつ、十分な金融仲介機能を発揮し、地域経済の成長に貢献してゆくことが望まれる。

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