第2章 第2節 地域経済を支える地域金融
前節では、2012年以降の景気回復局面において、設備投資等の内需が各地域の経済成長をけん引していること、また、金融政策等を背景に、地方銀行が主に中小企業への貸出を増加させていることが分かった。このことから、地域の金融機関の資金供給が、相対的に中小企業が多い地域経済の成長に一定程度の役割を果たしていると考えられる。以下では、金融機能が経済に与える影響を分析し、地域経済の活性化において地域金融が必要とされる要因を考察する。
(金融機関の資金供給は企業活動にプラスに影響)
金融機関による資金供給が経済に与える影響について、まず、各地域の経済成長と金融機関の貸出との関係をみると、道府県別15の名目GDPの伸び率と貸出金残高の伸び率には、緩やかな正の相関がみられる(第2-2-1図)。また、金融機関による資金供給が直接的に影響を及ぼすことが考えられる企業の設備投資額と企業の金融機関からの借入金増減額の関係をみても、緩やかな正の相関がみられるところである(第2-2-2図)。こうしたことから、金融機関による資金供給の拡大は、設備投資を通じて経済活動に一定程度の寄与をもたらすことがうかがえる。
そこで、金融機関による資金供給が経済活動に与える影響について、「法人企業統計調査」(財務省)の個票データを用いて、資本金による企業の規模別(以下、「企業規模別」という。)や地域別に分析を行った。その結果について、まず、金融機関からの資金借入と、借入が直接的な影響を及ぼすと考えられる企業の設備投資との関係をみると、中堅企業(資本金1億円以上10億円未満)、中小企業(資本金1千万円以上1億円未満)では、金融機関からの長期借入金の増加により、企業の設備投資は増加するという結果となり、また、企業規模別にみると、長期借入金の増加により、中堅企業よりは中小企業において、より増加寄与が大きいことが分かった(第2-2-3図(1))。さらに、地域に分けてその影響をみると、三大都市を含む南関東、東海、近畿より、中国、北陸、甲信越等のいわゆる地方とされる地域の方が、企業全体及び規模別でみた場合、増加の寄与は大きい傾向がみられる(第2-2-3図(2)、第2-2-3図(3))。一方、大企業においては長期借入金の増加が企業の設備投資の増加に寄与しないという結果となった。これは中小企業等に比べて大企業は資金調達手段が多様な上、2013年以降、拡大傾向にある内部留保を活用することにより設備投資を拡大させている可能性があることが要因と考えられる(前掲第2-1-7図)。
このように、金融機関による資金供給の増加は、特に中小企業や地方の設備投資においてプラスの影響を与える傾向がみられるが、これに対して、設備投資と企業における他の経済変数との関係をみてみよう。まず、企業の売上高に対する設備投資の影響をみると、企業全体として、設備投資額の増加により売上高は増加することが分かった(第2-2-4図(1))。また、企業規模別にみても、大企業、中堅企業、中小企業のいずれにおいても売上高は増加し、中小企業より大企業及び中堅企業がより増加に寄与していることが分かった。また、地域に分けてその影響をみると、三大都市を含む南関東、東海、近畿より、四国、北関東、中国といった地方の方が増加の寄与が大きい傾向がみられる(第2-2-4図(2))。先にみたように、金融機関による資金供給の増加は、企業の設備投資額の増加に寄与することから、結果として、金融機関による資金供給の増加は、企業の売上高の増加につながっているとみることができる。
続いて、企業の従業員数に対する設備投資の影響をみると、企業全体として、設備投資の増加により従業員数は増加するという結果となった(第2-2-5図(1))。一方、地域に分けてその影響をみると、三大都市を含む東海、近畿よりも、北陸や中国では増加への寄与がより大きいが、その他の地域では、影響度合いに多少のばらつきは見られるものの、大きなかい離はみられない。先にみた売上高と同様に、金融機関による資金供給の増加は、企業の設備投資額の増加に寄与することから、結果として、金融機関による資金供給の増加は、企業の従業員数の増加につながっているとみることができる。次に、企業規模別にみると、大企業、中堅企業、中小企業のいずれにおいても従業員数は増加するが、中小企業より大企業及び中堅企業の方がより増加に寄与していることが分かった(第2-2-5図(2))。
(近年において設備投資への影響は中小企業や地方で大きい)
これまで、2013年度以降における金融機関の資金供給と企業の経済活動にかかる影響をみてきた。次に、詳細に年度ごとの分析を行ったところ、金融機関における資金の長期貸出が設備投資に与えた影響を企業規模別にみた場合、2013年度以降、中小企業において増加の寄与が最も大きい状況が続いている(第2-2-6図(1))。また、地域別にみると、同じく2013年度以降、全国と比べて、全国から三大都市を除いた地域の方が増加の寄与が大きくなっており、三大都市が全国の増加寄与を押し下げている(第2-2-6図(2))。三大都市については、他の地域よりも企業に占める大企業のシェアが大きいところ、既にみたように、当該期間において、大企業の内部留保は中小企業に比べて大きく伸びている。このため、大企業が設備投資を行うに当たっては、金融機関からの融資よりコストが掛からない内部留保からの資金を優先的に充てている可能性や、金融機関からの貸出金を設備投資以外の研究開発費等の長期的な運転資金として利用している可能性も考えられる。
(より重要な地域経済における金融機関の役割)
以上のように、金融機関による長期の融資については、大企業や中堅企業よりも、中小企業の設備投資において、より大きな影響を与えていることが分かる。地域別にみると、東京都や大阪府、愛知県といった三大都市を含む地域よりも、それ以外の地域において、より大きな影響を与えている。地方においては、中小企業が主要な経済主体であり、中小企業は大企業と比べて間接金融への依存度が高く、金融機関による融資がその経済活動に与える影響は大きい。別途行った年度ごとの分析では、近年、金融機関による長期資金の供給が、大企業や中堅企業よりも、中小企業の設備投資に対して大きく寄与している。このように、金融機関の金融仲介機能に対して、大都市と地方では経済に与える影響度合いに違いが認められ、地域経済の成長及び発展において、銀行等の金融機関が果たす役割は、より重要となっている可能性が考えられる。
一方で、企業による設備投資が事業活動に与える影響について、売上高や従業員数にはいずれもプラスに寄与するものの、大企業や中堅企業に比べて、中小企業ではプラス寄与が相対的に小さい。こうしたことから、中小企業においては、大企業や中堅企業に比べて、設備投資を事業活動の拡大や発展に効率的かつ効果的につなげられていない可能性がある。地方の金融機関においては、自らの収益を高めるためにも、融資業務を通じて、発展性が見込まれる新たな事業への支援や経営上のアドバイスを積極的に行うなどの取組を行うことで、中小企業の事業活動の拡大を促し、地域経済の成長及び活性化に大きく貢献することが期待される。