第1章 第1節 人手不足感の地域ごとのばらつき

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ここでは、人手不足感の地域ごとのばらつきについて、その特徴とその背景を整理する。その上で、労働市場におけるミスマッチの状況や、需給状況が賃金に与える影響について概観する。最後に今後の労働力供給の動向を左右すると考えられる女性、高齢者、外国人労働力の活躍状況についてみる。

1)地域における人手不足の現状

(輸出比率に影響を受ける製造業の人手不足感の地域差)

地域における人手不足の現状を、まず企業の人手不足感からみてみよう。日銀短観の雇用人員判断DI(雇用人員について「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもの)について、直近の数値をみてみると、製造業(第1-1-1図)、非製造業(第1-1-3図)ともに全地域で「不足」超となっている。各地域の特徴をみるため、その推移を2000年代半ばから見ると、製造業では、2000年代半ばには南関東や東海といった大都市圏で「不足」超幅が大きかった一方、東北や甲信越では「過剰」超であった。2008年のリーマン・ショックにより全ての地域で大幅な「過剰」超となったが、特に東海・甲信越・北陸の過剰感が大きい一方、北海道の過剰感が相対的に小さくなっている。その後「過剰」超幅は縮小に向かうものの、2011年の東日本大震災時には北海道を除く東日本を中心に「過剰」幅の一時的な拡大が見られた。2012年まで全体的に「過剰」超幅は横ばいないしやや拡大傾向にあったが、景気拡大期に入った2013年以降、「不足」超方向に推移している。2015年9月期以降は、全地域で「不足」超となっていることに加え、地域ごとのばらつきも小さくなっている。

このような製造業における人手不足感の差は、地域の輸出比率に大きく影響されている。リーマン・ショック後に大幅な「過剰」超となった3地域はいずれも輸出比率が相対的に高く、影響が小さかった北海道は輸出比率が低い。変動係数で測った2005年以降の雇用人員判断DIの動きの大きさと輸出比率の関係をみると(第1-1-2図)、輸出比率が大きいほどDIは大きく変動していることがわかる。以前に比べて2012年末以降の景気回復期の雇用人員判断DIのばらつきが小さいのも、リーマン・ショック前は円安、世界貿易の拡大の下で製造業主導の回復であった一方、2012年末以降の景気回復局面はそれに比べて内需主導の回復であったためと考えられる1

非製造業の動きをみると、2000年代半ばには製造業と同様に南関東や東海で「不足」超幅が大きく、北海道や東北で「過剰」超気味となっている(第1-1-3図)。リーマン・ショック後、DIは全地域「過剰」超に振れるが、その幅は製造業に比べて遥かに小さい。その後全地域ともほぼ一様に「過剰」超幅は縮小し、製造業より一足早い2012年頃から多くの地域で「不足」超となり始め、足下では全地域で強い人手不足感がみられている。なお、非製造業でも製造業と同様に、リーマン・ショック前に比べて地域ごとのばらつきは小さくなっている。これは、製造業における生産等のばらつきの縮小が非製造業にも波及した結果であると考えられる。

(全体として高まったものの依然として地域差のある有効求人倍率)

次に、地域ごとの人手不足の状況を有効求人倍率でみてみよう。暦年で見た有効求人倍率は、2012年に北陸で1を上回ったのを皮切りに各地域とも上昇を続け、雇用環境は改善が進んでいる(第1-1-4図)。しかしその水準には依然として地域差があり、もともと他地域と比べて低い水準であった北海道や沖縄を含めたすべての地域において有効求人倍率が1を超えたのは2016年からである。2017年の時点で、北陸が1.95倍と最も高く、次いで東海が1.77倍、中国が1.72倍となっている。他方、最も低いのは北海道の1.16倍、次いで沖縄の1.22倍であり、残りの地域は1.4倍から1.6倍の間となっている。

(有効求人倍率の高さの背景は地域によって異なる)

このように、各地域の労働需給はひっ迫しているが、その程度には地域間で大きな違いが見られる。こうした違いはなぜ生じるのであろうか。有効求人倍率の水準の違いを有効求人数要因と有効求職者数要因に分けてみてみよう。労働力人口で割ることによって基準化した有効求人数、有効求職者数をそれぞれ縦軸、横軸に取ると、原点と全国平均を結んだ直線の傾きが全国平均の有効求人倍率を表し、それよりも倍率の低い地域は右下に、倍率の高い地域は左上に位置することになる(第1-1-5図)。北陸、東海はいずれも全国平均よりも高い有効求人倍率となっているが、北陸は、有効求職者数は全国並みである一方、有効求人数が多いために高倍率となっている。これに対して東海については有効求人数は全国並みだが、求職者数が少ないため高倍率となっていることが分かる。また、沖縄・北海道については、求人数は全国並みだが求職者が多いことから有効求人倍率が抑えられている。

(有効求人倍率上昇幅の地域差はリーマン・ショック前に比べ小さい)

有効求人倍率の地域差は、上で見た水準のみならず上昇幅についても見られる。2012年から2017年までの有効求人倍率の上昇幅をみると、北陸・南関東・中国で大きく、北海道・東北・北関東で小さい。有効求人倍率の変化幅を失業率要因(失業率が低下し求職者が減れば有効求人倍率は高まる)、労働力率要因(労働力率が低下し労働者が減れば求職者が減り有効求人倍率が高まる)、人口動態要因(15歳以上人口が減少し求職者が減れば有効求人倍率は高まる)、求人要因(求人が増えれば有効求人倍率は高まる)に分けてみる。2012年から2017年にかけて(第1-1-6図(1))、人口動態要因は南関東と沖縄を除いて有効求人倍率を引き上げる方向に、労働力率要因は基本的に有効求人倍率を引き下げる方向に働いているが、いずれもその影響自体は小さい。上昇幅の大宗を占めるのはいずれの地域でも求人要因と失業率要因であり、東北では相対的には失業率要因の寄与が大きく、北陸や中国では求人要因の寄与が大きいといった地域差はあるが、概して両者がバランスよく有効求人倍率を押し上げたことが分かる。

これをリーマン・ショック前の景気回復局面である2001年から2007年の間の変化幅の内訳と比較してみると(第1-1-6図(2))、リーマン・ショック前は失業率要因・求人要因共に各地域に大きなばらつきがあり、結果として有効求人倍率の上昇幅にも大きな差が生まれていた。このように、今回の景気回復局面においては、特定の地域に偏らず労働需給がひっ迫していることが見て取れる。

(サービス業が新規求人の大半を創出)

第1-1-6図でみたように、各地域の有効求人倍率は企業による求人増と失業率の低下に伴う求職者減の双方によって引き上げられているが、東北を除けば求人増の寄与の方が大きい。そこで各地域の新規求人数2の増加率に対する産業別寄与度をみると、いずれの地域でも製造業の寄与は限定的で、医療・福祉や飲食・宿泊といったサービス業が大半の新規求人を生み出している(第1-1-7図)。各地域とも医療・福祉が大きく押し上げており、特に沖縄、九州、近畿、東海、南関東、北関東における上昇幅が大きい。卸・小売については地域によってかなり異なり、中国や北陸で押上げ幅が大きい一方、東北、近畿、四国等で小さい。建設は概して寄与度は小さく、飲食・宿泊サービスは、観光の盛んな南関東、近畿、沖縄等で大きな寄与となっている。

(完全失業率は就業者増が大きく下押し)

完全失業率についても、2012年以降全地域で低下傾向にある(第1-1-8図)。2012年から2017年の間の完全失業率の低下幅を、就業者要因(就業者が増えると失業者が減り、完全失業率は低下する)、労働力率要因(労働力率が下がると労働力人口が減少する一方、就業者数は一定なので失業者数がそれ以上の割合で減少し、完全失業率は低下する)、人口動態要因(15歳以上人口が減少すれば労働力人口が減少する一方、就業者数は一定なので失業者数がそれ以上の割合で減少し、完全失業率は低下する)に分解すると(第1-1-9図(1))、まず、全ての地域において、完全失業率が低下していること、そして、就業者要因が全ての地域において低下に寄与していることが確認できる。特に南関東、東海、近畿、沖縄等生産や消費等が好調な地域において就業者が大きく増加しており、それが完全失業率の低下に寄与している。一方、労働力率要因は全ての地域で完全失業率の押上げに寄与している。人口動態要因は、15歳以上人口が増加している南関東、東海、沖縄で上昇に寄与し、それ以外の地域では低下に寄与している。特に北海道、東北、甲信越、北陸、四国といった地域では就業者要因よりも低下寄与が大きい。

これを2001年から2007年までの景気回復局面における地域別完全失業率の変化と比較すると(第1-1-9図(2))、2012年以降とは対照的に、すべての地域で労働力率要因が完全失業率を引き下げている。これは、労働力率が相対的に低い高齢者の割合が増加したという年齢構成の変化により、全体の労働力率が低下したことによるものである。就業者要因が低下に寄与しているのは、南関東、東海、沖縄に限られており、景気拡大局面でありながら、就業者数の増加により完全失業率の低下がみられたのは一部地域に限られていたことがうかがえる。人口動態要因は、南関東、東海、沖縄に加えてこの時期は近畿でも人口増となっており、これらの地域で完全失業率を引き上げているほか、人口が減少している地域においても、近年に比べるとその低下寄与度は小幅となっている。

このように、2012年以降の景気回復局面においては、リーマン・ショック前と比べ、就業者要因が失業者を減少させ、また15歳以上人口も減少していることから、失業率をより大きく押し下げる方向に働いている一方、労働力率の上昇により特に東北、甲信越、四国等で失業率の下落を抑制している。

(南関東、東海で低い雇用のミスマッチ)

各地域の労働市場は程度の差はあるがいずれもひっ迫の度を強めており、「売り手市場」の状態にあると言える。しかし、職種や必要とされるスキル、待遇等の面で求人側と求職者側のニーズが一致しないいわゆる雇用のミスマッチがあると、実際の雇用には結びつかない。このようなミスマッチの状況は地域ごとにどのように異なり、どのように変化してきているのであろうか。

ミスマッチの程度は、労働者側の失業と企業側の欠員がどの程度併存しているかで知ることができる(UV分析)(第1-1-10図)。景気循環において景気が良くなると企業は雇用を拡大する一方、労働者は順次雇用されていくため、欠員率と失業率は右下がりの関係になる。ミスマッチの度合いが高く、失業と欠員がより多く併存している場合、その関係は右上方向にシフトしていく。

2010年から2017年までの各地域の動向を見ると、いずれの地域でも失業率の低下とともに欠員率の上昇がみられ、景気の拡大に伴い人手不足の度合いが高まっていることを示している(図の左上から右下への動き)。ミスマッチについては、南関東や東海は図の左下に位置しミスマッチの度合いが低いのに対し、東北や九州・沖縄は図の右上に位置し、ミスマッチ度合いが相対的に高いことが分かる。また、東北は、2011年の東日本大震災後しばらくはミスマッチ度が拡大する傾向にあったが、足下では失業率が低下傾向となり、ミスマッチ度は縮小している。北陸は2010年時点ではミスマッチ度は低い方であったが、2017年にかけてミスマッチ度が他地域よりも高くなっている。このように、ミスマッチの度合いは地域によって差があるとともに、ここ数年で拡大している地域、縮小している地域の双方があることが分かる。

(コラム1:労働力需給の地域間のミスマッチと職業間のミスマッチ)

ここでは有効求人数と有効求職者数で表される労働力需給の地域間のミスマッチと職業(職種)間のミスマッチの動向をみる。

地域別及び職業別(生産工程の職業、専門的・技術的職業等11分類3)の有効求職者数割合と有効求人数割合のかい離を合計した「地域間/職業間ミスマッチ指標4」を計算する。これは、各区分(地域別/職業別)について、求職者総数に占める当該区分の求職者数割合(𝑈𝑖/𝑈、𝑈は求職者総数、𝑈𝑖は第i区分の求職者数)と、求人数総数に占める当該区分の求人数割合(𝑉𝑖/𝑉、𝑉は求人総数、𝑉は第i区分の求人数)の差の絶対値を求め、その合計を2で割って求める。すべての区分で求人数割合と求職者数割合が等しければ、ミスマッチ指標は0となる。もしすべての区分で、求人と求職者の一方しかないという極端な場合には、求人数割合と求職者数割合の差の絶対値の合計は2となるため、ミスマッチ指標は1となる。このように、ミスマッチ指標は0と1の間の値を取り、その値が小さいほど、特定の地域や職業に求職が偏っていないことを表す。

まず、全国の職業間ミスマッチ指標の推移を見ると、2008年後半からリーマン・ショックの影響を受けて急激にミスマッチが拡大している(コラム図1-1-1)。その後、景気回復のなかで、ミスマッチ指標は低下しているが、2012年頃に2000年代半ばより高い水準で下げ止まり、その後、多少の上下はあるものの緩やかに上昇している。このように、事務職などの職に求職者が多く集中する度合いが近年高まっていることがうかがえる。

他方、47都道府県間・10地域間ミスマッチ指標をみると(コラム図1-1-2)、長期的には低下傾向にある。これは、ある都道府県では求職に対して求人が多いが、別の都道府県では求職に対して求人が少ないといった都道府県間・地域間のミスマッチの程度が縮小していることを示している。直近でも、リーマン・ショック後、ミスマッチが縮小し、その後一時的に拡大したものの、現在の景気回復期間においては、緩やかに縮小している。

このように、一部の職業に求職が集中する傾向が高まっている一方、地域間の需給のミスマッチは縮小しているということができる。地域間ミスマッチが縮小している背景には、産業構造におけるサービス業の占める割合の上昇があると考えられる。製造業の求人は工場立地に依存する一方、近年求人が増加している医療・介護などのサービス業は、人口に対して一定の需要があり、地域間のミスマッチが生じにくい。

最後に、各地域内における職業間ミスマッチ指標について見てみよう。まず2017年における職業間ミスマッチ指標の水準を地域別に比較してみると(コラム図1-1-3)、沖縄のミスマッチ度合いが低く、次いで九州が低い。職業別の寄与を見ると、全体的に事務従事者、サービス職業従事者、専門的・技術的職業従事者、運搬・清掃・包装等従事者、販売従事者等が大きくミスマッチ指標を押し上げている。このうち、事務従事者、運搬・清掃・包装等従事者については全地域で求職者数割合が求人数割合を上回っており(𝑈𝑖/𝑈>𝑉𝑖/𝑉)、相対的に求職者が集中してミスマッチの度合いが高まっている。これに対して、サービス職業従事者、専門的・技術的職業従事者についてはやはり全地域で、販売従事者は沖縄を除く全地域で求職者数割合が求人数割合を下回っており(𝑈𝑖/𝑈<𝑉𝑖/𝑉)、求人数に応じた求職者が集まらないことからミスマッチの度合いが高まっている。

地域の特徴を見ると、沖縄については販売従事者に加えて運搬・清掃・包装等従事者についてもミスマッチ度がほとんどないこと、事務従事者についてもミスマッチ度が他地域に比べて低いことから全体の職業間ミスマッチ指標は低くなっている。他方、専門的・技術的職業従事者のミスマッチ度上昇寄与は他地域よりも大きく、近年進み始めている情報通信産業の集積等に、適切なスキルを持った求職者の増加が追い付いていない可能性がある。ミスマッチ指標の高い南関東では事務従事者及び保安職業従事者の押し上げ寄与が大きい。保安職業従事者については、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた建設需要等により増加した求人に対し、求職者数が十分増えていないこと等が影響していると考えられる。

地域別職業間ミスマッチの時間を通じた変化を見ると(コラム図1-1-4)、全国での職業間ミスマッチが緩やかに上昇している中で(前出コラム図1-1-1)、概して各地域とも上昇傾向を見せているが、甲信越、沖縄はここ数年趨勢的に低下している。職業別の内訳をみると(付図1-1)、沖縄では、全国的にミスマッチ度が低下している専門的・技術的職業が他地域以上に低下しているとともに(それでも上述の通りミスマッチの水準は他地域より高い)、他の多くの地域で上昇している販売従事者、生産工程従事者のミスマッチ度が低下傾向にある。甲信越については、サービス職業従事者のミスマッチ度が他地域ほど高まっていないとともに、生産工程従事者のミスマッチ度が低下している。

(労働力需給のひっ迫はパート労働者の賃金を押し上げている)

労働需給の引締まりが継続している中で、各地域の賃金は上昇しているだろうか。名目賃金(所定内給与額を所定内労働時間で除したもの)をみると(第1-1-11図)、2012年からの5年間で、いずれの地域においても上昇している。地域別にみると、北海道、北関東、北陸、中国、沖縄といった地域で全国より上昇率が大きくなっている一方で、甲信越、近畿、四国といった地域で伸び悩みがみられる。

このような賃金動向の地域ごとの差は、有効求人倍率の違いによるものであろうか。47都道府県の2011年から2015年までのデータを使って、名目賃金(所定内給与/所定内労働時間)に対する有効求人倍率、物価(民間消費デフレーター)、労働生産性(実質付加価値/就業者数)の影響を分析すると(第1-1-12表)、一般労働者においては有意な結果が認められなかったが、パートタイム労働者においては、有効求人倍率の上昇は1年程度の遅れを伴って賃金を押し上げていることが分かった。有効求人倍率は引き続き上昇傾向にあり、こうした労働力需給の引締まりが地域における賃金上昇として表れてくることが期待される。また、一般労働者及びパートタイム労働者ともに、労働生産性の上昇は、賃金の上昇につながっている。労働生産性向上に向けた取り組みを積み重ねることも、賃金の上昇には重要である。

2)女性・高齢者等の活躍状況

これまでみてきたような各地域の人手不足に対応する方策の一つは、まだ十分に利用されていない労働力の活躍を引き出すことである。そうした潜在的な労働力の供給源としては、女性・高齢者が挙げられるだろう。また、外国人労働者数も約130万人に達している。本項ではこれらの潜在的な労働力の活躍状況について概観する。

(生産年齢人口の減少にもかかわらず各地域で増加する就業者数)

生産年齢人口(15歳以上65歳未満人口)は我が国全体で1995年をピークに減少に転じたが、地域単位で見た場合、既に1989年には四国で生産年齢人口が減少し始めるなど、人口動態の変化はより早い時期から生じている。それにもかかわらず、今回の景気回復局面の始点である2012年と比べて、就業者数は各地域とも増加しており、特に高齢者(65歳以上、男女計)と女性労働者(65歳未満)の増加が大きく寄与している(第1-1-13図)。ただし、高齢者の増加寄与は全地域において見られるのに対し、女性労働者(65歳未満)のある程度大きな寄与は南関東、東海、近畿、沖縄等に限定されている。

女性(65歳未満)の労働力率については(第1-1-14図(1))、2012年時点では、北陸が約70%と他地域より抜きんでて高くなっており、東北、四国、北関東・甲信、九州、東海、中国が65%前後となっている一方、近畿、北海道、沖縄、南関東は相対的に女性の労働力率が低い。2017年時点でも北陸の労働力率が高く、北海道、近畿、沖縄が低いなど大体の傾向を維持したまま全体で6.0%ポイント上昇している。

65歳未満女性の労働力率が全ての地域で上昇しているにも関わらず、上で見たように(前出第1-1-13図)女性就業者数が増加している地域が限られているのはなぜであろうか。地域別女性就業者数の変化率を分解してみると(第1-1-14図(2))、南関東、東海、近畿、沖縄といった女性就業者数を増やしている地域では、人口動態要因の押し下げ幅が小さく、それ以外の地域では人口動態要因の押し下げ幅が大きいことが分かる。高齢化が進み、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)に入ってくる女性の数を、そこから出て行く女性の数が大きく上回っている多くの地域では、労働力率の上昇や失業率改善による女性就業者増加効果を、そもそも人口が減少していることによる効果がほぼ打ち消してしまっている状況がうかがえる。

高齢者の労働力率は、2012年時点で東海、南関東、北関東・甲信が22%程度と高く、次いで中国、東北、九州、四国、近畿が18~20%程度となっている。一方最も低いのが沖縄、次いで北海道となっている。2017年時点でもほぼ同様の順序で、全体で3.6%ポイント上昇している(第1-1-14図(3))。

このように、女性(65歳未満)と高齢者(65歳以上の男女)の労働力率はともに各地域で同様に増加している。近畿、北海道、沖縄を除けば、2017年には多くの地域が2012年時点の北陸レベルの女性労働力率、2012年時点の東海、関東・甲信レベルの高齢者労働力率を達成している。また、この5年間で北陸は更に女性労働力率を高め、東海、関東・甲信は更に高齢者労働力率を高めている。引き続き、適切な環境整備等により、女性や高齢者の労働参加を各地域で更に促すことが重要であると考えられる。

(外国人労働者数は南関東を中心に大幅に増加)

厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」において集計されている、事業主に雇用されている外国人労働者数の推移をみると、全国では、2013年に約70万人だったが、4年間で大幅に増加し、2017年には約130万人まで増加している。これは全国の就業者数約6,500万人の2%程度に達している。地域別にみると、南関東地域が圧倒的に多く、約60万人となっており、また近年の増加率も極めて高いことがわかる(第1-1-15図)。

(就業者数に占める外国人の割合が高い東海)

外国人労働者数の全就業者数に占める比率を地域別にみると、東海、南関東が約2.9%と最も高く、次いで北関東(約2.3%)が続いている(第1-1-16図)。外国人労働者の比率が低いのは東北(約0.6%)、北海道(約0.7%)、甲信越(約1.1%)となっている。

それぞれの内訳を在留資格別にみてみると、北関東や東海では、「身分に基づく在留」(定住者(主に日系人)、日本人の配偶者等、永住者(永住を認められた者)等)が半分程度を占めている。一方、南関東は、「専門的・技術的分野」、「資格外活動」(留学生のアルバイト等)の割合が高くなっている。特に東京には企業の本社機能が集中しており、専門的・技術的分野の外国人の割合が他地域に比べて際立って高いものと考えられる。また、我が国の外国人留学生の約半数が南関東の大学に在籍していることを反映して5、資格外活動の割合が高い。北陸、中国、四国においては、「技能実習」の占める割合が高く、四国では外国人労働者のうち6割以上が技能実習によって占められている。

また、産業別の内訳をみると、南関東は、製造業の割合が他地域と比べて低く、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業などのサービス関係の占める割合が高い(第1-1-17図)。一方、多くの地域では、全体のうち製造業の占める割合が高く、中国、四国では、外国人労働者のうち、半分以上が製造業に従事している。

制度上、在留資格によって、就業できる産業や職種に制限がある。特に、技能実習制度では、国際貢献のために開発途上国等の外国人を日本で受け入れ、OJTを通じて技能を移転する制度であり、職種と作業が限定されている。技能実習の資格で就業している外国人は約26万人いるが、そのうち、製造業が約16万人、建設業が約3.7万人であり、多くを占めている。一方、留学生等の資格外活動については、職種の制限はないものの、労働時間に限定がある。留学等の資格外活動で就業している外国人労働者は約30万人いるが、このうち、卸売業・小売業が約6.3万人、宿泊業・飲食サービス業が約10.2万人であり、両者で半数を占めているなど、それぞれに特徴がある(第1-1-18表)。

こういったことから、南関東では、資格外活動による在留が多く、産業別ではサービス関連産業の労働者数が多い一方、中国、四国では、技能実習の占める割合が高く、産業別では製造業の占める割合が高いといった地域ごとの特徴がある。

以上でみたように、外国人労働者の就業状況は、地域によって様々である。2018年11月2日、在留資格「特定技能1号」、「特定技能2号」の創設を含む出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案が閣議決定され、第197回国会(臨時会)に提出された。

(コラム2:大手民鉄各社が人材の相互受入を開始(人手不足対策・働き方改革の具体的事例))

東京、名古屋、大阪、福岡の大手民鉄11社は、2018年6月より、勤務場所の都合で就労継続が困難な社員を相互で受け入れるスキームである「民鉄キャリアトレイン」を立ち上げた。配偶者の転勤や家族の介護などにより会社を退職し、他地域に移動する社員に対して、本人の希望と受入会社の事情に合わせて、活躍の場を提供する制度である。各社社員が経験したノウハウを「共有財産」としてとらえ、相互に即戦力として活かすことで優秀な人材の確保につなげることを狙っている。また、会社と社員の双方がメリットを享受し、ダイバーシティ・マネジメントの一助とすることを目指すという。

このような、個人的な事情に合わせて、就業を継続できる制度があれば、労働者はそれまでの経験を活用し就業を継続でき、また、企業にとっては、貴重な人材を活用できる。双方にとって有益なこういった仕組みが、企業の枠を越えて広がることは、社会的・経済的にも望ましい効果が現れると考えられる。


脚注1 2002年第1四半期から2008年第1四半期までの景気回復期に、GDPは10.2%増加し、輸出はこれに3.7%寄与しているので、寄与率(寄与度/増加率)は36.3%となる。同様に2009年第1四半期から2012年第1四半期までの景気回復期における輸出の寄与率は34.0%である。これに対し2012年第4四半期から足下の2018年第2四半期までの輸出の寄与率は18.6%に過ぎない。なお、ここでの輸出は財の輸出だけでなく、サービスの輸出も含む。
脚注2 有効求人数については地域別の計数が公表されていないため、ここでは新規求人数を用いた。
脚注3 2012年以前は9分類。
脚注4 Jackman and Roper(1987)による。
脚注5 日本学生支援機構「平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果」による。
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